第57話 初めての依頼達成
続きです。
2018/02/06 読みにくい箇所を修正しました。
行列に並んで20分。
ようやく俺たちの番になった。
「こちらへどうぞー!」
可愛い店員さんに案内されて店内へと入る。
ランチはメニューが一つだけ。
なので座った瞬間に料理が運ばれてくる。
「本日はハニーチキンとスパイスチキンの、食べ比べ唐揚げ定食でーす」
ゴクリ……
今すぐかぶりつきたい!
が……
「あの、すみません」
「はい? なんでしょう?」
店員さんが首を傾げている。
可愛いけど、超強いんだよなぁ、この人。
「猫ちゃんの事でご相談があるので、ランチタイムが終わったら店主の方にお時間を作っていただきたいのですが」
「はい、わかりました。では、1時間後にお越しください」
やっぱり気付いてるか。
普通にご飯とか食べさせてそうだな。
「ありがとうございます。では」
「「「「いただきます!」」」」
ガツガツ
ムグムグ
ゴクゴク
ジャクジャク
ホクホク
つるりん
ごくん!
「「「「ごちそうさまでした!」」」」
「お代はここに置きますね!」
ジャラ
「「「「「「あーりがとうございましたーーー!」」」」」
店を出る。
……
「ハニーチキンの甘めの肉に、ちょっと辛く下味が付いていて、噛むほどに旨味がミックスされて極上の味がしたよ」
「スパイスチキンの方は他の香辛料で下味を付けたのでしょう。独特の風味が纏まりのある味へと進化していました」
「付け合わせのフライオニオン(飛び玉ねぎ)のサラダも、歯切れが良くてぇ、他の野菜と合わせるとまるでテーマパークのように色々な食感が楽しめたわぁ」
「デザートの流れ竹ゼリーも喉越しが最高で、後味に爽やかな風味が残って食事が完成しました……」
つまりは。
「「「「美味しかったぁ!」」」」
さあ、帰ろう!
とはいかないんだよなぁ。
とりあえず待つか。
〜〜 1時間後 〜〜
「すみませーん」
『準備中』と書かれた店の中に入っていく。
「おう、待たせちまったな」
元Sランク、多分現役でもいけるであろう店主が迎えてくれた。
周りではAやらSやらの高ランク従業員が忙しなく働いている。
「お忙しい時間にすみません。お時間を作っていただいてありがとうございます。Cランク、『虹の絆』リーダーのエーリです」
「ああ、知ってるよ。依頼で来たんだろう?」
依頼ってのも知ってるのか。
なんか最近見透かされるのが多いなぁ。
「はい。それで、猫ちゃんは……そこですか」
店主の頭に乗っている。
1番安全だもんな。
「おお。こいつ、マルス家のペットだろ? なんで逃げ出したんだかしらねぇが、いつのまにか居着いちまってな」
「アンジー、話、聞いてみてくれ」
「はい」
もごもご
「お嬢ちゃん、何かわかったかい?」
「『あそこはご飯が美味しくなかった。ここはご飯が美味しい』だそうです」
「ははは。随分気に入ってもらえたようだ。どうだ、お前ウチの子になるか?」
ニャアン。
おいおい。
「冗談だよ。こいつも仲間の所に戻ったほうがいいだろう。ただまあ、たまには飯を食いに来いよ」
ゴロゴロ
ピョン、と今度は俺の頭に乗ってくる。
重い……。
「じゃあお預かりします。飼い主の方には食事に気をつけることと、たまには気分転換にここに連れて来てもらえるように頼んでみますよ」
「ああ、頼んだ。お前らもまた来いよ」
店主含め店員さん全員がこちらを見てくる。
皆優しい表情だ。
新人の俺達を応援してくれているのだろう。
「はい。こちらでの食事はここでの楽しみなので、また来ます!」
『へべれけ』を後にする。
道中ジュリアンヌちゃんに事情を聞かせてもらった。
今、本当の飼い主のマルス第一夫人は旅行中だそうで、使用人が面倒を見ていたそうだが、その時は食事はいつも通りだった。
ただ、いつからかジュリアンヌちゃんに興味を持ったマルス伯爵が、『俺が作る!』と言い張り、食事の用意は伯爵自ら行うようになったとのこと。
それがまあ、野生味溢れると言うか、ただの切った生肉だったり、生魚だったり。
普通の野良猫ならまだしも、一応ペットとして生まれてこの方育って来たジュリアンヌちゃんからすれば、『何これ?!』状態だったそうで……。
「隙をみて逃げ出した、と」
ニャアン
ジュリアンヌちゃんは大層ご立腹らしく、夫人が旅行から帰ってくるまでは帰る気がなかったそうだ。
マルス伯爵は武闘派でとても強いらしいのだが、ペットが絡んだ時の夫人には敵わないとのことで、自分を逃した責を問われてめちゃくちゃ怒られればいい、と言っていた。
「だから依頼が出てたんでしょうね。夫人に見つかると、事ですから」
ふむ。
「アンジー、食事の改善と『へべれけ』での食事を条件に、許してもらえないか交渉してくれ」
「了解です、エーリ様」
しばらくして。
俺の頭をてしてししてくるジュリアンヌちゃん。
「『しょうがないわね。坊やと料理に免じて許してあげるわ』だそうです」
そりゃ良かった。
「エーリ。そろそろ着きます。あそこです」
オードリーが指差す方向には、豪華な屋敷が建っていた。
ただ、敷地の四隅には物見矢倉が建っており、よく見ると柵も有刺鉄線のようなトゲトゲしたものが装飾っぽく巻きついており、ちょっとした要塞にも見える。
「戦働きでのし上がった貴族、か」
「エーリ、私が先触れとして伯爵への繋ぎをお願いしてきます。普通は最低でも数日前に知らせないといけないんですけどね。今回は伯爵からの依頼ですから」
オードリーが、門番にジュリアンヌちゃんの件を伝えに行った。
少しすると手招きされ、伯爵に取り次いでもらえるとのことで、豪華な客間? で伯爵を待つ。
ここの使用人、全員戦闘訓練受けてるな。
歩き方が一般人と違うし、多分武器を隠し持っている。
流石武闘派貴族の使用人といったところか。
ドカドカドカドカ!
騒がしい音が聞こえてくる。
多分、伯爵だろう。
バターーーーーーン!!
「ジュリアンヌ! 無事か?!」
扉を蹴破らんばかりに開け放って来たのは、この屋敷の主人、ダニエル・マルス伯爵その人である。
聞いたところ40代後半に差し掛かったところらしいが、身長は180以上、筋骨隆々、肌艶よろしく、普通に見たら30代にしか見えない。
そもそも所作からして貴族には絶対見えない。
服はそうなんだけど。
フウウウウウウウウウウ!
ジュリアンヌちゃんが俺の頭の上で威嚇を始める。
爪が立てられ、ゲムがなければ痛かっただろうな。
「伯爵、ご無沙汰しております」
「ん? ……オードリー、か? おお! あの【竜鱗】がこのように美しくなったか! ……? なぜお前がここにいる?」
「かくかくしかじかでして……」
「ほう、夢であった冒険者にな。そしてそこな少年がリーダーか」
ズオっと言う効果音が聞こえるくらい上から見下ろされる。
「ダニエル・マルスだ。まずは礼を言おう。よくぞジュリアンヌを見つけてくれた。今日中に見つからなかったら大変なことになっていたところだ」
「お初にお目にかかります、マルス伯爵。Cランク『虹の絆』リーダー、エーリと申します。まずはジュリアンヌ様をそちらへ」
フウウウウウウウウウウ!
おっとまだご立腹中か。
「ジュ、ジュリアンヌ。どうしたというのだ。お前の主人だぞ」
図体のでかい伯爵がオロオロしている。
これはこれで面白いな。
「伯爵。まずはこうなった経緯をご説明致します」
「む? ああ、頼む」
〜〜 オードリー説明中 〜〜
「私の、せいか……」
ニャアン
「ジュリアンヌ! すまん!! 許してくれ! これからは元の料理人に戻し、月に一度、かの店に行くことも約束する! だから、戻って来てくれ!」
伯爵が頭を下げて懇願している。
DVが原因で出てった妻に謝罪する夫の図、だな。
大抵は口先だけで1ヶ月もすれば元に戻るんだが……。
その時はリアル離婚もあり得るらしいから、大丈夫かな?
「アンジー、ジュリアンヌ様はなんと?」
もごもご
ニャア、ニャアン
「『戻ってあげてもいいけど、私以外にも同じことはしないように。次にあなたの都合で私達に迷惑がかかったら、どんな手段を使ってでも夫人に言いつけます』だそうです」
ガッ! と右手で顔を覆う伯爵。
脂汗が滲んでいる。
これは……恐怖?
「(エリーにこのことが知れたら……いや、絶対にダメだ! なんとしても守り通さねば!)」
「わ、わかった。今後私はお前達の世話はしない。約束する! だから、許してくれないか?」
デカい伯爵が、猫に猫なで声を出す図が展開されている。
使用人は目を逸らして見ないようにしているし、オードリーは残念なものを見る目になっている。
俺は俺で構図的に伯爵に迫られているようで居心地が悪い。
……ニャア
ジュリアンヌちゃんが俺の頭からピョンと降りて伯爵の隣に寝そべる。
「『はぁ……。今回はこの子達に免じて許してあげるわ。だからその情けない頭を出すのをやめて、ダニエル』だそうです」
代弁してる時のアンジーは、まるでジュリアンヌちゃんが乗り移ったかのような話し方だな。
これはこれでギャップ萌えだ。
ジュリアンヌちゃんも、口調がまるで奥さんだ。
「ジュリアンヌ、戻って来てくれてありがとう。お前はエリーの1番のお気に入りだからな……。もし、お前が居なくなっていたことがバレたらと思うと、夜も眠れなかったぞ」
ニャアン
「『だったらその状況を助けてくれたこの子達に、早く報いてあげれば?』と仰っています」
本当に猫か?
「おお、そうだな。アレを」
伯爵の言葉で執事の人が書状を持ってくる。
「これが依頼完了の証明書だ。これをギルドへ持っていけば、金貨1000枚が手に入る。そして、口止め料と、個人的な感謝の気持ちとして、私に出来ることならば一つだけ、望みを叶えてやろう。何がいい?」
右耳を触る。
なあ、悪いんだけど、この願い、俺の望みを叶えてもらっていいか?
『私は構いませんよ。特に望みもないですし』
『私もいいわぁ。伯爵程度に頼んでもねぇ』
『私も構いません。お話してただけですし』
アンジー、いいのか?
正直アンジーが居なかったら、今でも中央区を探してたかもしれないんだぞ?
『いいです。今度「へべれけ」でいっぱい食べさせてください』
ははは、了解。
じゃあ今度皆で夜の『へべれけ』で腹一杯食おう!
『『『は〜〜い!!』』』
じゃあオフ!
「では、私の妹へ色々と便宜を図っていただきたいのです」
「ほう。妹とな」
これは兄から妹へのプレゼントだ。
「はい。私の妹、ステファニーと言うのですが、このほど養成所入りが決まっております。ただ、妹は魔力を持っておらず、そもそも帝国の片田舎出身ですので、恐らく養成所内で面倒ごとに巻き込まれるでしょう。後ろ盾がない状態では碌な抵抗が出来ないかもしれません。そこで伯爵には、妹が困った時に助けていただきたいのです」
顎に手をやり、何かを考える伯爵。
部屋のあちこちを見やり、色々と考えているようだ。
「それは構わんが、養成所内には王族や公爵など私ではどうにもならない存在が多い。そこはどうする?」
「承知しています。勿論、伯爵が後ろ盾だ、などと言いふらすことは致しません。伝手がある、というだけでも抑止力になりますし、妹にも、妹と仲良くなってくれる人達にも心の余裕が生まれます。妹は家族の色眼鏡抜きにしても天才ですから、上手くやっていくと思います」
俺達がずっと見守ってやることは出来ない。
ステフなら大丈夫だろうが、味方は多い方がいい。
「わかった。そのうちかの店にジュリアンヌを連れて行く時にでも顔を店に来るがいい。その方が自然に知り合ったと周りに言えよう。いきなり私と知り合いになっていると不審がられるからな」
「痛み入ります」
これまで話していて、伯爵には悪い印象を受けない。
元平民だったらしいから、ステフとも仲良くしてくれるだろうと信じたい。
それから俺達はギルドへ戻り、依頼達成を報告した。
報酬の金貨1000枚は現物支給してもらい、アンジーに保管してもらうことにした。
「『虹の絆』の初仕事、無事達成だな」
「ええ、第一歩です」
「まだ依頼は残っているけどぉ、順調な滑り出しねぇ」
「これからも頑張りましょう」
俺達は笑って、ステフの待つメイガード家に歩いて行った。
見てくださってありがとうございます!
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