第56話 初仕事
続きです。
『虹の絆』の初仕事です。
2018/02/06 読みにくい箇所を修正しました。
「う……」
明け方。
ふと目を覚ます。
とても嫌な夢を見た気がするが……ダメだ、思い出せない。
ドス黒い、邪悪な何かがいた。
「……汗が凄いな」
ベッドを見ると、自分の身体の形にくっきりと汗染みが出来ていた。
恐らくうなされていたのだろう。
「風呂に入るか」
トプン
「ふぅ……何だったんだろうな」
どうにも心がざわつく。
何か、とてつもなく嫌な予感しかしない。
考えてもしょうがないけど。
『想定できる全て、想定できない全てに備えるんだ』
アルベルトさんもそう言っていた。
「備えるしかない、か」
気合を入れ、風呂を出た。
ガチャ
「あ、お兄ちゃん……」
ステフの表情が険しい。
もしかして、ステフも同じ夢を?
「もしかして、漏らした?」
……は?
「何、言ってるんだ?」
「え、だって、これ……」
ステフが指差す先には、汗染みが。
「いや、それ汗だから」
「あ……そう、だよね。漏らすはず……ないよね。ごめんね! 勘違いしちゃった! あははははは、は……」
目を逸らされた。
「絶対信じてないだろ!?」
「ステフ、これはお漏らしではありませんよ」
「オードリー……」
お前ならわかってくれると思ってたよ。
すんすん
「以前嗅いだ匂いと違います。特級鑑定士の名にかけて、これはお漏らしではありません!」
「変なものに名をかけるな!! あと声がデカい!」
何故だ……何故朝からお漏らしの話をせにゃならんのだ。
「まあまあそのくらいにしてぇ、朝ごはんにしましょう?」
「そうです。それよりも朝ご飯です」
「いや、なんかお漏らしした子を傷つけないように話題を変える感じにしないで? ねぇ……」
俺の言葉を無視して女性陣はシーツを片付け、朝食の準備に取り掛かる。
夢でうなされたことといい、今日は厄日か?!
「「「「「ごちそうさまでした!」」」」」
「それで、今日はどうする?」
「なんだかんだで全っ然冒険者らしいことしていなかったから、今日から数日は依頼をこなしていこうと思う」
「そういえばそうですね。ここ数日って……」
皆で上を見る。
「観光してぇ」
「夕食会で襲われて」
「お菓子食べて」
「おねしょして?」
「最後のだけ違うからな?」
「とりあえず冒険者っぽくはなかったですね」
「だろ?」
「じゃあ私はお留守番?」
「まあそうなる。この部屋とステフには新型のゲムを施してあるから、そうそう危険が及んだりはしないと思うぞ」
「うーん、退屈だなぁ……そうだ、アルおじ様の所に行っててもいい?」
名案とばかりに人差し指を立てるステフ。
「そりゃいいけど、ご迷惑じゃないか?」
「とりあえず行ってみて、ダメだったら大人しく待ってるよ」
「じゃあ、ギルドに行く前に挨拶していこう」
「うん!」
戸締りをしてアルベルトさんのお宅に向かう。
コンコンコン
「すみません、アルベルトさん。いらっしゃいますか?」
ガチャ
「はいはい、どなた様で……エーリくん達じゃないか。おはよう」
「「「「「おはようございます」」」」」
「どうしたんだい?」
「これから依頼を受けにギルドへ向かうので、その間ステフに留守番を頼んだのですが、アルベルトさんのところに行きたいと申しまして」
「アルおじ様、今日何かご予定はありますか?」
ぴょこんと前に出たステフが、アルベルトさんに問いかける。
「おやおや、そうだったのかい? 今日は特に何もないよ。ステフこそ、こんなおじさんと一緒で退屈じゃないかな?」
「そんなことはありません。おじ様のお話大好きです」
皆で頷く。
「はははは。そう言ってくれるのは君達だけだよ。わかった。ステフは私が、いや、ステフに私の面倒を頼むとしよう」
「ご無理を言って申し訳ありません。よろしくお願いいたします。ステフ、良い子でな」
「は〜〜い!」
ステフをアルベルトさんに預け、俺達『虹の絆』は、初めての依頼を受けるためにギルドへ向かった。
「おはようございます、ジャンヌさん」
「「「おはようございます」」」
「おはようございます。『虹の絆』の皆様。本日はどのようなご用件でしょうか?」
仕事モードのジャンヌさんだ。
うん、こっちもやはり良い。
「依頼を受けに来たのですが、いくつか見繕っていただけませんか?」
「かしこまりました。皆様に相応しい依頼をお探しします」
パラパラとファイルを見ていくジャンヌさん。
「……この辺でどうでしょうか?」
「どれどれ……」
【討伐依頼】:隻眼のヴォルテックウルフ
出没場所:リヨン砦跡地
期限:2ヶ月以内
報酬:金貨300枚
条件:Cランク以上。毛皮は極力傷つけないこと。毛皮の状態により、報酬上乗せ。
依頼主:スレイン商会
【採取依頼】:バリスティックローズ50本 + α
採取場所:ガイノスの丘
期限:1週間
報酬:金貨100枚 + バリスティックローズオイル(瓶10本)
条件:ランク不問(自己責任)。棘が生えた完全体であること。
依頼主:アーノルド・クリザリス
【捜索依頼】:インビジブルキャット[ジュリアンヌ]
捜索場所:帝都中央区
期限:今日中 ※緊急!!
報酬:金貨1000枚 + 応相談
条件:捕獲時傷をつけないこと。
依頼主:ダニエル・マルス
チラッとジャンヌさんを見る。
少し、頷いたように見えた。
「じゃあ全部受けます」
「良いんですかエーリ? 3つありますけど」
「受けた方が、良いんじゃないかな?」
ウインクしてみせる。
「……そうですね。私達ならすぐです。受けましょう」
「「意義なーし」」
「ではこちら3件、『虹の絆』に依頼いたします。依頼主には伝えておきますので、よろしくお願いいたします」
「はい」
よーし、チーム初依頼だ。
その後細かな情報を教えてもらい、まずは【捜索依頼】から行うことにした。
「不可視の猫か」
お名前を[ジュリアンヌ]ちゃんというその猫は、光学迷彩のように周囲の光景に溶け込み、殆ど見えなくすることで生存確率を上げた動物だ。
どうやら飼い主の所から逃げ出したらしい。
今まで色々な冒険者に頼んだらしいが見つめられず、報酬が上がっていったそうだ。
ジュリアンヌちゃんには魔導具の首輪がつけられており、大体の位置が把握出来るそうで、とりあえず中央区にはいるようだとわかったということだったのだが。
「依頼主は貴族なんだっけ?」
「はい。マルス伯爵家の当主ですね。中々面白い方ですよ」
「知っているのぉ?」
「一度鑑定させていただきました」
オードリーが知り合いということは、話は任せても大丈夫かな?
「さて、どう探すか」
「探知系の魔法は防衛上使用禁止ですから、地道に探すしかないでしょうか?」
「それだと日が暮れるよ」
「エーリ様。私が何とかしてみます」
アンジーがずずいと前に出て、自信満々に言う。
「アンジー、何か良い案でもあるのか?」
「私、動物とはお話ができます」
「あらぁ、あの噂、本当だったのねぇ」
「『魔法鞄は人ならざる者と話ができる』ですか」
アンジーさん、パネぇっす。
「アンジー、凄いじゃないか!」
「えっへん。もっと褒めてもバチは当たりませんよ?」
「流石ですね、アンジー」
「アンジーは出来る子ねぇ」
にへら
よし。
「じゃあアンジー、早速だがお願いできるか?」
「はい」
てこてこと近くの猫に近づいたアンジーは、しゃがんで何事か話しているようだった。
その後、他の猫や鳥なども集まってきて、ちょっとした触れ合い動物園状態になった。
俺の頭の上にも鳥が留まっている。
「エーリ様、大体の居場所が分かりました」
「もうわかったのか!?」
「むふふ。ジュリアンヌちゃんらしき猫は、東地区にいます」
「「「え?」」」
「どうやら『へべれけ』近辺に居たらしいです。グルメなんですかね?」
「首輪は?」
「これですか?」
チリン
魔石が嵌っている首輪が渡された。
「伯爵家の屋根に落ちていたそうですよ。鳥さんが拾ったそうです」
どーりで見つからないわけだよ。
「普通に探していたら危なかったわねぇ」
「中央区にいないんですから」
「あっぶな! アンジー、ありがとな。あと動物さん達にもお礼を言ってくれ。今度礼はするって」
「えっへん。ちょっと待っててくださいね」
また動物に何事か話すアンジー。
動物達は一瞬こちらを見て、それから散っていった。
「よし、じゃあ『へべれけ』に行こう! ついでにご飯も食べてしまおう!」
「「「さんせーい!!」」」
〜〜 帝都東地区 『へべれけ』前 〜〜
「ん〜〜。相変わらず良い香り」
「そして相変わらずの行列だな」
ランチもやっている『へべれけ』は、近隣のみならず他地区の人間も通う超人気店だ。
超美味いランチが銅貨5枚(500円)とか、そりゃ通うわ。
客層も多様で、かつ客質もいい。
食べたらすぐ出て行く。
会計も楽だしな。
「っと。まずはジュリアンヌちゃんを探そう!」
「居ました」
ズザァー
思いっきりこけた。
「早くない!?」
「梁の上です」
ジッと見てみると、確かに梁の上に淀みのようなものがあり、何となく猫が寝そべっているように見える。
「あれ、か。……」
お腹が空いた。
猫は店の中にいる。
「……なあ。ジュリアンヌちゃんを捕まえるためには、店に入らなきゃダメだよな?」
「……そうですね。まさか乱入するわけにもいかないですし」
「……そうなるとごく自然な形で店に入る必要があるわねぇ?」
「……この場合、ランチをしながら、がごくごく自然」
「じゃあしょうがない、並ぼう」
「「「はーい」」」
決して空腹に耐えかねて、依頼にかこつけたランチを取ろうとしているのではない。
断じてない!!
俺達はいそいそと行列に並んだ。
さあ、依頼をこなそう!!
やっと冒険者らしいことが出来ます。
見てくださっている皆さんに感謝を!




