幕間 エーリ気絶中の出来事
本日ラストです。
エーリ気絶中の女性陣の戦いです。
エーリが気絶した。
自分の行いがミリアへ知られることに対する恐怖によって。
気絶したエーリを放置し、3人の女は対峙していた。
「さあ、ルイーズさん、鑑定、しましょうか」
にっこりと笑ったオードリーが、新参者に先制攻撃を仕掛ける。
鑑定されれば、ステータス、過去が明らかになる。
恥ずかしい過去でも握れれば、圧倒的なアドバンテージが得られるのだ。
「良いわよぉ〜。どうぞ」
余裕という表情でルイーズが答える。
それに対してピクっと眉毛が上がるオードリー。
「(特級鑑定士も舐められたものね。)」
帝国内に5人しかいない『特級』。
夢のために取得したが、少なからずプライドはある。
その余裕、すぐになくしてあげる。
「我、オードリーの名において、ルイーズ・キングリッジの鑑定を行う。我が問いに答え、汝が全てを我に見せよ。我は神が汝に与えし進物の名を汝に問う。汝に後ろ暗い所なくば、魂の扉を開き迎え入れよ。【鑑定】」
「どうぞぉ、いらっしゃいぁ〜い」
「ステフ、後は頼みます」
「ええ、任せて」
ステフを残し、二人は精神世界に入っていった。
〜〜 精神世界 〜〜
「ここは……なんなの?」
オードリーは動揺していた。
普通、精神世界というのは、無防備で、無機質なものである。
何もない空間が広がり、そこにポツンと対象者がいるだけ、のはずであった。
例外的に、皇帝や上流貴族などはその歴史の重みから、象徴的なもの、例えば城、領地などが広がっていることはある。
だが、目の前に広がっているものは、そのどれにも当てはまらない異質なものであった。
豪華な屋敷、後ろに広がる街、城、山。
そして……人。
屋敷やその他風景などはあってもおかしくはない。
人も、皇帝程の人物ともなれば、家臣であったものの精神体(薄い青のオーラのようなもので作られている)が控えていることがあり、鑑定士が余計な物を見ようとすれば、攻撃してくることもある。
だが、ここにいる人間達は色があり、本当に生きているようだ。
信じられないことに、話をしている。
まるで、別の国に転移してきたような錯覚すら覚える。
「いらっしゃぁい」
目の前の屋敷、その庭園で執事にお茶を入れてもらいながら、鑑定の対象者、ルイーズ・キングリッジはオードリーを招き入れている。
「ここは、なんなの?」
この精神世界に来た時に発した言葉を、ルイーズに投げかける。
「何って、私の精神世界よぉ? あなたはよ〜くわかっているのではなくて?」
にっこりと微笑むルイーズのその顔は、明らかにオードリーを馬鹿にしていた。
「! ……吠え面かきなさい。【強制鑑定】!」
【強制鑑定】。対象者の同意を得ずに、ステータスや過去の映像を暴くことが出来る高度魔法である。
本来重罪人や、こういった精神系の魔法に耐性がある者に対して行われるもので、基本的には行わない方法。
というより行ってはいけない類の魔法だ。
だが。
「?! 効か……ない?! まさか! ありえない!!」
「今まさにあり得てるわよぉ? 冷静になってごらんなさいな。こういう状態になるのは、何故だったかしらぁ?」
魔法が効かない。
その理由は明白。
「私の魔力が、負けた?」
そう、単純な力負け。
特に無理やり対象に干渉する魔法は、相手の抵抗力が強いとその効果を全く発揮することなく無効化されてしまう。
「正解よぉ! よくわかったわねぇ。えらいえらい」
パンパン、と手を叩くルイーズ。
完全に歯牙にも掛けていない。
「それにしても【強制鑑定】なんて、初対面の人にすることじゃあないわよねぇ? 悪い子だわぁ。そんな悪い子にはぁ、お返ししなきゃねぇ。【強制鑑定】」
「え!? キャァ!」
ルイーズの魔力がオードリーを飲み込む。
オードリーのステータス、過去の映像が空いっぱいに映し出される。
「あらあら。随分と厳しい家庭環境だったのねぇ。へぇ、だから冒険者に。まぁ! 人の弱みを握るためだなんて、ちょっと動機が不純ね。……あらまぁ! みんなぁー! 見てごらんなさぁい! 小さな赤ん坊に対して、変態行為に耽る特級鑑定士様がいらっしゃるわよぉ〜!? あら、ここだけノイズがあるわね。……まぁ良いわぁ。どう? これでわかったかしら?」
街の至る所から、嘲笑が聞こえてくる。
弱みを握るどころか、握られてしまった。
だが、エーリが転生者である事実は何とか隠し通した。
それで余計に力を使ったせいか、膝から崩れ落ちる。
「クッ! ……あなた、何者?」
目に涙を浮かべながら、それでもキッとルイーズを睨む。
「ルイーズ・キングリッジよ?」
「そんなことを聞いているんじゃない!!」
バッと立ち上がり、震える膝をなんとか抑え質問する。
「自惚れるつもりはないけど、私だって特級鑑定士よ! 魔法の知識や扱いには人一倍詳しく、長けている自負があるわ! その私が手も足も出ないだなんて……。しかも鑑定の魔法まで……。もう一度聞くわ! あなたは、何者なの?!」
ルイーズを指差しながら、ありったけの魔力をぶち当てた。
それをそよ風のように受け流して、ルイーズは笑う。
「……『悠久の魔女』。そう呼ばれたこともあったかしらね。私の過去、そんなに覗きたいなら見せてあげるわ。そうね、壊れちゃうだろうから、ほんの、少しだけ」
そう言うと、光の粒をオードリーに飛ばした。
「『悠久の魔女』? ……それって、お伽話の? ぐっ! あぁああああ!」
光の粒が頭に触れた時、膨大な映像と感情がオードリーの脳内を支配した。
喜びや愛しさ、優しい気持ちも大量にあったが、その数十倍の怒り、悲しみ、絶望、妬み、恨みの感情が暴れまわる。
自分の何倍になるのか見当もつかない程の情報量。
それですら、あの光の『粒』でしかないと言う。
情報の嵐が過ぎ去った後には、涙や涎を垂れ流して倒れているオードリーがいるだけだった。
「少しはわかったかしらぁ? お嬢ちゃん?」
「……う。 わ、わかったわ。今の私、では……あなたには、敵わない。でも……だけ、ど! エーリきゅんに、仇なす存在なら、絶対に近づけたくない……!」
フラフラになりながらも、何とか立ち上がり、そう宣言する。
自分が大好きなエーリをただ利用するだけの存在など、絶対に許容できない。
覚悟と意思を持った目で、ルイーズを見つめる。
「ふぅん……。でもね、あなたまぁだ勘違いしてるわよ? ほら」
また光の粒を飛ばすルイーズ。
正直あれをまた食らったら、恐らく精神崩壊して廃人化するだろう。
その時は自爆してでもこの世界を壊そうと心に決めるオードリー。
だが……
「?!」
自分の中を満たしたのは、感謝と愛。
先程のものとは一線を画す、圧倒的な感情だった。
それは、エーリを大切に思う自分ならば理解できるもので、そこには淀んだ感情が一点も含まれていなかった。
もちろん、これが嘘である可能性も存在する。
しかし、女の勘だろうか。
これは信じるに値すると、何故か思った。
「わかってくれたかしら? エーリくんは、私の大切な人よぉ」
「……ええ。とりあえず、敵ではないようですね」
「むしろ、同士だと思うけどぉ?」
「そうかもしれませんが、後から来た人に負けるつもりはありません」
「ふふふ。それで良いわぁ。女は度胸よ。よろしく、オードリー」
「ええ。ルイーズ」
お互いライバルと認め合って、鑑定を解除した。
意識が現実世界へと戻る。
〜〜 再び現実世界 〜〜
「うっ! ……はぁ、はぁ」
先に目が覚めたのは、オードリーだった。
精神世界でのダメージは思ったよりも深刻で、オードリーは立ち上がれずにいた。
「大丈夫?! 大分うなされていたけど……」
ステフは心配そうにオードリーの額に浮かんでいる汗を拭う。
「はい……。とりあえず敵ではないよう、です」
「それにしては、戦った後みたいになってるよ?」
「まあ、戦いましたが……結果としては惨敗、ですね」
「オードリーが?」
正直エーリを除いて、これほど魔法に精通している人間にはまだ会っていない。
オードリーの言葉は信じられないものだったが、そう言う人間なのだと、考えを改める。
「首尾、は?」
「上々!」
不安そうなオードリーに対して、ニッっと笑顔を見せるステフ。
その時、遅れてルイーズも戻って来た。
「ただいまぁ……てあら? 大丈夫ぅ?」
ルイーズが微笑みながらオードリーを見下ろす。
こちらは余裕の表情だ。
「ええ、何とか。あなたこそ、大丈夫ですか?」
「え?」
グッタリしているオードリーから発せられた言葉に、ルイーズは初めて自分の姿を確認する。
「?! 何よコレェ?!」
そこには、亀○縛りで椅子に縛り付けられているルイーズの姿があった。
「鑑定中は無防備になるけどぉ! これは流石に酷いんじゃなぁい?!」
「でも、敵かもしれない人間が無防備な格好していたら、これくらいしますよね?」
「方向性が違うでしょう?! プレイとしては好きだけどぉ、これはただのイタズラよぉ!」
プレイならいいのか?
いや、論点はそこではない。
「……まぁいいわぁ。自分で取るからぁ。……? ……えぇ?!」
「「どうかしましたか?」」
ステフ、オードリーの目が細められる。
「何したのぉ? 魔力が練れないんだけどぉ!」
ルイーズの目に、明らかに焦りが見えていた。
「ルイーズさんを縛っている縄ですけど、【神域】内で湧き出ている水に浸けておいたものです。これ、強力な魔法耐性があって。しかも対象者の魔力を吸い取ってより強力になっていきます。それで縛られたら最後、どんな魔法使いでも、逃げ出すことは叶いませんよ?」
してやったりの顔をする二人。
再度モゾモゾ動いて、試そうとするルイーズ。
やがて
「ふふ。ふふふふふふふふふ。あはははははははははははははは!」
ルイーズが笑い始めた。
「面白い! 貴方達面白いわぁ! 鑑定前に言ってたことはこれだったのね?! 大した連携プレイだわぁ。……降参! お姉さんの負けよぉ! お願いだから、これほどいてぇ?」
ついに負けを引き出すことに成功したのであった。
その後、縄を解いてやり、ようやく自由の身となったルイーズは、二人に近づき手を出して来た。
「改めて自己紹介するわねぇ。私はルイーズ・キングリッジ。エーリくんには命を助けられたのよぉ。その時の彼の凄さに骨抜きにされてぇ、パーティメンバーに入れてもらえるようにお願いしたのぉ。敵意はないわぁ。宜しくねぇ」
「オードリーです。エーリきゅんは私の好みにどストライクなので、いつか結婚して子どもを作りたいと思っています。恥ずかしいところを見られて、正直もうお嫁に行けないので、その責任を取ってもらう、と言う口実で迫ろうかと思っています」
「オードリー、貴方ねぇ……。はぁ。私はステファニー。昔からお兄ちゃんがエッチなのは知ってるから、何となくそう言う方面で釣られて色々な人がこれからも増える気がして気が滅入っている、エーリの妹よ。私は家族が一番大切なの。貴方達二人がそれを脅かすなら、最適な力で潰すから覚悟しておいてね。味方なら問題ないわ。お兄ちゃんを宜しくお願いします」
三者三様の挨拶を終え、心なしかスッキリした表情の3人。
エーリの寝ている最中には、壮絶な女の戦いが繰り広げられていたのであった。
明日は20時頃投稿します。
見てくださっている方全てに感謝を!




