第129話 オーク大戦 〜 終戦 〜
続きです。
人間に戻ったフータの胸を貫いたのは、全能神ミルク。
その姿を見て動けたのは、俺、フータ、皇帝の3人のみ。
全属性を操ったことがある者以外、身じろぎすら出来ない。
それほどの圧倒的な存在感。
「ぐっ! お、まえ……」
「何がお前よ。少しは全能神様を敬いなさいよ、ブータ君。……そんだけガリガリならチキン君に改名する?」
シュッと腕を引き抜き、汚いものを触ったかの様にパッパッと払う。
フータの身体は朽ちる寸前であったため、血が吹き出すことはなかったが……。
ヒビが入り始めたフータを支える。
「なぜこんなことをした」
「ん? 産廃処理よ。はぁ……。せっかくなっがぁ〜〜〜〜〜〜〜〜い時間かけてトラちゃんに仕込んでもらったのになぁ。最後の最後にしくじっちゃうなんて、流石鈍臭いブータ君だわ」
ジト目でフータを見つめる。
「そもそも、お前は本当にミルクなのか?」
俺は赤い目をしたミルクに聞く。
「ひどぉ〜い! 正真証明、エーリを愛する全能神ミルク様だよ?」
両手を頬に当て、オー、と言う顔をする。
こんな状況じゃなきゃ、可愛いんだが。
「エーリを愛する? それは、どういうことですか? ミルク様」
皇帝が眉根を寄せながら、問いただす。
全能神ミルクは、誰か個人を愛さない。
生命全てを愛する存在だ。
それが、公然と『エーリを愛する』などと宣う。
少なくとも、自分達が知るミルクではない。
「えー、と……確か、皇帝よね? ミルク帝国とか言う気持ち悪い国の。あそこ、国民も凄いけど、皇帝達が特に気持ち悪いのよね。いつだったか私を抱きたいとか言ってきた奴もいたし……。まあそんなことはいいんだけど、私今エーリと話してるのよ。だからさぁ、『黙ってろ』」
「ガッ! ググ……ガハ」
「「「陛下!!」」」
皇帝が喉を抑えうずくまる。
喉に何か揺らぎの様なものが現れ、皇帝の喉を締めていく。
口の端に泡が立つほど苦しんだが、突如ミルキスタから虹の魔力が立ち上り、その揺らぎを打ち消した。
「ヒュー! ゲホォ! ゴホッ!! カハッ……だ、大丈夫、だ」
何とか息が戻り、ここまでの戦いでも見せなかった苦しそうな姿から回復していく。
油汗と涙、涎にまみれた皇帝が、下からミルクを見上げる。
「気持ち悪い顔で見ないでよ。私をそう言う目で見ているの、知ってるんだからね」
「私は……」
皇帝が見つめるが、ミルクは俺の影に隠れながら見ようとしない。
「久しぶりに出て来たのに楽しくないなぁ。私のエーリなのに……余計な女達がいるし、その内1人は物理的に纏わりつくんだから腹が立つわね」
一気に冷酷な目に変わった。
周囲の温度が数度は下がったのではないかと思うほど、空気が変わる。
「私がこれだけ出てこれるんだから、今日ならいけるかな? えー、と。確かこうだったよね? 【死音】」
「「「「「?!」」」」」
その場にいる全員が死を覚悟するほどの声音。
俺以外の動きが止まる。
ミルクが声を発する瞬間、ゲムで周囲を包んだが、この感じ……。
声の恐ろしさと裏腹に、誰も死んでいない。
やはり、失敗していたか。
「あれ? 死んでない。……あ〜〜、まだ無理かぁ。しぶといなぁ、ミルク」
「……ミルクはどうした?」
「私もミルク、だよ?」
「もう1人の方だ」
自分でも、目が座っているのがわかる。
「怒った顔も素敵ね。でも、こんなに良い女が側にいるのに、同じ顔とはいえ、別の女の話をするのは感心しないなぁ」
首を傾げてこちらを見つめるその瞳は、爛々と輝く血の赤。
だが、俺に引く気はない。
暫し見つめ合う。
「ふぅ……寝てるわよ。ちょっとショックなことがあったみたいでね。ま、もう起こす気は無いんだけど」
「お前、だな……。僕をオークに転生させ……転生者達をけしかけ、間違った記憶を植え付けた張本人は……!!」
俺の腕の中で、下半身が崩れ、上半身だけとなったフータが怒りの声をあげる。
一言発するたびに、ボロボロと崩れていく。
フータに残された時間は少ない。
「あんたみたいな日陰者、絶望に落とすとよく踊ってくれるからね。私の思惑通りに、楽しく踊ってくれたわね。惚れた女を食べた気分はどうだった? 惚れた女がいるのに、他の女を犯す気分はどうだったのかしら? 結局その女が近くにいて、沢山の生命に迷惑をかけた気持ちは、どんななの? 聞かせてくれると嬉しいなぁ!」
「この……! 外道が!!」
伸ばした腕がミルクの首を絞める。
が、力を込めた瞬間、その腕がボトリと落ちた。
「あははははははは! 何それぇ!! 憎い相手に一矢報いることも出来ないのぉ? らしいわねぇ! ねぇ、ブータ君!」
フータを指差して大笑いする赤い目のミルク。
怒りが満ちていく。
だが、
「エーリ君、大丈夫……先輩に、任せなさい」
顔の半分までも崩れ落ちたフータがニヤリと笑った。
「何気持ち悪い笑g ?! なんで……?! 嫌! まだここに居たい! お前ぇ!! 私に何をしたぁ?!」
グラグラと身体を揺らしながら、フータを睨む赤いミルク。
目の焦点も合っていない。
「僕はオークキング。生命を喰らい、犯し、魂さえ自分の物とする。お前の中に、小さな僕を送り込んだ。そして見つけたんだよ。もう1人のお前をな。後はエーリ君がやったように、語りかけただけだ。教えてくれよ。どうでもいい存在から、一矢報いられた気持ちはどうだ?」
フータの挑発に怒りに満ちた表情をするが、それどころではないようだ。
「嫌、まだ消えたくない。せっかく出てこれたのに! あああああああああああああああああああ!」
「ざまぁみろ」
楽しそうに笑うフータと、自分の中の自分に必死に抗うミルク。
ガクッと崩折れ、意識を失って溶ける様に消えていく。
その赤い目が俺を捉え、何かを言ったように見えたが、それが声となることはなかった。
赤いミルクが消えると、周囲の皆が動けるようになった。
「エーリ!」「エーリくん!」「エーリ様!!」
3人が俺の側までかけてくる。
「俺は大丈夫。それよりも……フータが」
「あ……」
もう胸の辺りまで崩れ、最後の時が来たことを告げる。
「謝罪してると時間が足りないなぁ……。そうか、こういう時にぴったりなのは、感謝なんだな。……ありがとう」
「いいや、フータがいてくれて助かった。こちらこそ、ありがとう」
「これから、いっぱい謝って……いつかちゃんとした人間に生まれ変わってみせる。もう会えないかもしれないけど」
「俺は神と同じくらい長命らしいから、生まれ変わったら、酒でも飲もうぜ」
「ああ……高校生だったから結局飲んでなかったもんなぁ。楽しみに、してる……よ……」
フータの最後は、笑顔だった。
俺の涙がフータの頬に落ち、染み込んだ。
次はどうか、マナミさんと幸せな人生を歩めますように。
沢山の生命が傷つき、消えた。
国も滅んだ。
だが1人、いや2人の人間が救われた。
最悪の災厄、オークキングはもういない。
悲劇の歴史は、今日終わった。
今度こそ本当に、オーク大戦が終戦を迎えたのだった。
長らく続いたオーク大戦がようやく終わりました。
次回は大戦のエピローグ的なお話です。
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