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第127話 オーク大戦 〜 決戦5 〜

続きです。

 皇帝は走りながらポーションを飲み干す。


「初めて飲んだが、中々美味い」


 残った数滴を指で掬って舐める。

 甘い。

 ……ああ、ポ◯リだな。


 数滴でも魔力、体力が少し回復した。

 これならいけそうだ。


 全属性魔力を最大展開。

 ゲム魔法との併用で、粘性、弾性に富むものにした。


 念のため皇帝にもくっつけておく。


「すまんな」

「いえ、お守りみたいな物です」


 話をしつつフータの元へ。


「お前達が死ねば、あいつらもきっと絶望するよ。惨たらしく殺してやる。手足をもいで人形遊びだ!」


 黒い大きな瘴気の腕。

 地中からは小さな物も出てくる。

 捕まるわけにはいかない。


「大の男が人形遊びか! 【千手感音(せんじゅかんのん)】」


 音属性寄りの全属性魔法。

 地面から生える小さな腕を魔法の腕で払い、移動する。

 皇帝も持って動いている。


 展開した手から、フータの悲しみや妬み、負の感情が流れ込んできた。

 もう少し、もう少しで解放するからな。


「エーリ、合わせてくれ」

「了解です」


【千手感音】を束ね、フータの瘴気の腕とがっちり組む。


「その大の男が作る人形は夢が詰まってるんだよ! それより男と手を繋ぐ趣味はないんだ。とりあえず死んでくれるかな、エーリ君?」

「俺の夢は詰めるもんじゃないんで! ああもう、指まで絡めて気持ち悪いんだよ! 大人しくしてくれますかね、先輩!」

「はははははははは!」

「はははははははは!」


 笑いながら殴り合う。

 ノーガード。

 魔力と瘴気の違いはあれど、全力を込める。


 ドガ!


 互いの右ストレートが交差し、クロスカウンター(相打ち)となる。

 飛びそうになる意識を何とか戻し、次の攻撃に移る。

 フータはまだよろけている。

 今だ!


 俺は右拳に全ての力を預け、振り抜こうとした。

 が、


「ふん……ぐっ!」


 振り抜くのを寸前で止めた。

 なぜなら、


「よく止めたね! 振り抜いても問題ないはずなのに、やっぱり愛する女は瘴気でも殴れないかい?」


 そこにはオードリー、ルイーズ、アンジー、ミルクの顔があったのだ。

 フータの言う通り、瘴気とはいえ愛する女達は殴れない。


「はははは! じゃあこっちからいくy ドゴッ! グハッ!!」


 俺の愛する女達を殴り飛ばしたのは、ギラギラとした目をして笑う、大帝国の皇帝だった。

 その手に剣はなく、光り輝く手甲が嵌められていた。


 フータは地の彼方に吹き飛んでいる。


 あれ?


「陛下、それ……」

「これか? ミルキスタだ」

「……剣じゃなかったでしたっけ?」

「ん? ああ、今は【皇拳】ミルキスタだな」


 ニカッと歯を見せて笑う姿が初代様と重なる。


 けん、は拳の方だよな?

 でもなんで?


「私も今日まで勘違いしていたのだがな。ミルキスタは別に剣じゃなくてもいいらしいのだ」

「え?」

「この武器はそれを使う皇帝が一番得意な武器になった時にその真価を発揮する。いわば、変化する武器だな。私より数代前まではロングソードが得意な方が偶然続いていたらしくてな。てっきりそういうものだと思っていたのだ」


 手をグーパーしたりかざしたりしながら、楽しそうに話す皇帝。


「最初の一撃を止められた時は絶望しかけたが、どうせ一刀の元に倒すなどということは、私の得意とするものではなかったからな。何度でも挑めばいいと思ったら、ミルキスタから話しかけられた気がしたのだ。『お前の一番得意なスタイルはなんだ?』と」

「それがその、得意なスタイル、なんですか?」


 皇帝と聞いてイメージしない、殴り合いの戦闘スタイル。


「ああ、自分でも皇帝らしくないとは思うが、私に剣士の才能はなかった。私にあったのは、『拳闘士:神』だった」

「神……」


 自分以外で初めて出会う、神の才能の持ち主。

 手甲を嵌めたその姿は、剣を持っていた時よりもしっくりときて、とても頼もしく見えた。


「皇帝という立場ゆえ、幼い頃より剣を習わされてはきたが、どこまでやっても強くはなれなかったな。だが、これ(・・)なら、世界で一番強いと自負している」


 自信に溢れる皇帝がそう言って笑った時、遠くから咆哮が聞こえ、それは急速に近づいてきた。


「てめぇーーーーーーー! 僕とエーリ君がいい感じに殺しあってる時に、何茶々入れてくれてんだ! お前みたいなただの人間が、転生者同士の戦いに首突っ込んでんじゃねぇよ!」


 ブン、と瘴気の腕を振りかぶり、フータが殴りかかる。


「ただの人間、か。まさかオークキングに言われて嬉しい言葉があるとは思わなん、だ!」


 すすすっとフータの攻撃を避け続け、最後に、左脇腹への渾身の一撃を叩き込む。


「グボァ! な、なんでこんな! ブッ! グハッ! ゲボ!!」


 ワン、ツー、スリー、と急所めがけて全属性の拳をめり込ませていく。

 得意な戦闘スタイルというだけある。


「皇帝になることを定められ、今まで生きてきた。常に威厳を保ち、言動には細心の注意を払う。誰の目にも触れないのは、あの部屋に居る時だけだった。ただの人間として見てくれて嬉しいぞオークキング」


 フータをボコりながら話している。

 神の才能は伊達ではない。

 しがらみから解放されるだけで、こうも違うのか。


「初代様に『お前は俺とそっくりだ』と言われたことがあった。どこが、と思っていたが、戦闘スタイルは確かに似ている。肉弾戦が好きなところはそっくりだと思うよ」


 もはやフータは物言わぬただのサンドバッグと化している。

 このまま倒せるんじゃなかろうか。


「がぁああ!!」

「む!」

「離れます!!」


 ……そうは上手くいかないか。

 フータは瘴気を爆発させ、俺達と距離を取った。


 ゴポゴポとフータの取り込んだ生命が削れていく。

 オークキングは1人でありながら、取り込んだ生命を全て消すまで再生が続く。

 一体どれほど取り込んだのか、伺い知ることは出来ないが、これまでの戦いでかなり削れたことは確かだ。


 吹き出す瘴気で泥の塊の様になったフータ。

 その中に一瞬光る物が見えた。

 あれは、なんだ?


【以震伝心】で俺の考えを伝える。


「わかった。やってみるか」

「はい」


 まずは吹き出す瘴気をどうにかするか。

 ……よし。


 ゲムに全属性魔力を取り込み、圧縮を繰り返す。

 その間の防御は皇帝に任せた。

 拳圧で瘴気を押し戻している。


 だがそれも限界はある。

 徐々に俺の方まで近づいて来るが、間に合った。


「行きます!」

「ふん! だぁっ!!」


 皇帝の溜めパンチにより、フータまでの道が開ける。

 俺は一気に加速しフータに肉薄、その間近で圧縮した全属性魔力を爆発させた。


 爆風により瘴気が吹き飛ばされる。

 下腹の位置に光る珠が見えた。


「今!」

「承知!」

「?!!」


 全属性のパンチをその珠目掛けて繰り出した。

 フータの戸惑いも感じたことから、重要な何かであることがわかる。

 だが、その珠に触れた瞬間、俺達の意識は現実を離れた。



 〜〜 ???? 〜〜



 気づけばそこは記憶の奔流。

 フータがこれまでに溜め込んだ記憶が近づいては消えていく。

 子どもの頃からイジメられ親からも罵倒され、見放されている。

 アニメや漫画、空想の世界に救いを見出し、何とか生きていた。


 中学、高校になるとイジメのレベルがグンと上がる。

 これは……酷い。

 よく、耐えていたと思う。

 結局、死んでしまったようだが。


 そんな中、異世界転生が彼を救った。

 これまでを顧み、『普通』を望むフータ。


 目の前にいるのは、ミルクだ。

 だが、急に態度が……?!

 これは!!


 そこから場面が飛び、ミルクが話してくれた内容の記憶が飛び込んできた。


 この人がマナミさんか。

 確かに美人という訳ではないが、人懐っこそうな顔をしている。

 フータと手を繋ぐ姿は微笑ましい。


 場面が変わった。

 フータがマナミさんを……。

 これは……痛ましい。

 魂が震えていく。

 自然と涙が零れ落ちる。


 それは、皇帝も同じだった。

 ジッと、記憶を見つめている。


 そこからは黒い、黒い記憶が続く。

 光を見つけては喰らい、黒に塗りつぶしていく。


 それがずっと、ゴールのない迷路のようにずっと続き、やがて巨大な太陽を思わせる光を見つけた。


 俺だ。


 ただ、おかしい。

 俺はこんな幸せ続き(・・・・)じゃなかった。


 フータの記憶の中にいる俺は、産まれてから今まで順風満帆。

 特に苦労することなく今に至っている。


 俺の前世の記憶もあるが、それも事実とは異なるリア充仕様になっている。


 なぜだ?


 俺はその記憶に触れた。

 違うぞフータ。

 これは違う。


 必死に話しかけ、今までを思い起こす。


 すると俺の記憶にノイズが走り始め、正しい物が映りだす。

 それに反応するように、この世界も歪みだした。


 苦しんでいるのか?


 記憶が捻れ、たわみ、歪んで、消えた。


 鑑定した時の精神世界のような真っ白な場所で、人間だった頃のフータが疼くまっている。

 不意にフータがこちらを見た。

 驚いて、手を伸ばしかけたその時、光に包まれ俺達は戻された。


 最後の瞬間、見えたあれは……。




 〜〜 現実世界 〜〜



「「「はっ!」」」


 どのくらいの時間が経っているのだろうか。


 3人が間近で意識を取り戻し、お互いに見つめ合う。


 この戦いが始まった頃に感じたオークへの感情は、生命としての怒り、憎しみ、恐怖が殆どだった。

 だが、今目の前にいるフータに関していえば、それだけではない悲しさも感じる。


 やってきたことは許されるものではないから、絶対に倒す。

 倒して、未来永劫オークが生まれないようにする。

 だけどそれと同時に、この1人の男を救いたいと、そう思っていた。


「エーリ君、皇帝。最後の、戦いを始めようか」

「……ああ」

「わかった」


 皇帝とポーションを分け合い、飲み干す。

 その間フータは待ってくれていた。


 全快した俺達とフータが相対する。


 ドン、と爆発させる魔力と瘴気。

 量で言えば皇帝のものは少ないが、気にした様子はない。



 お互いに頷き、魂と心で叫ぶ。


 ほぼ同時に仕掛け、決めていた訳でもないのに魔法は使わず、肉弾戦を繰り広げた。

 皇帝は相変わらず凄かったが、今回はフータの反撃も入る。

 取り込んだ技術を如何なくなく発揮し、俺はかなりイイのをもらったりもする。


 互いに全力で本気。


 それが暫く続き、そして限界がやって来る。

 真っ先に限界が来たのは、皇帝。


 1人の人間が相手をするには、フータの取り込んだ生命の数は些か多かった。


 腹に一発、背中が盛り上がるほどのパンチをもらい、血を吐いて倒れた。

 だが、付けていたゲムが緩衝材となり、貫通するには至っていない。


 そして、次は俺。


 皇帝よりも防御がなっていないため、戦闘経験のなさが災いした。

 避けるだけ、防御だけと決めていれば何とかなったかもしれないが、それではダメなのだ。

 ちゃんと戦わなければ。


 アッパーカットをもらい、吹き飛ばされる。


 空を仰ぎ見、地に落ちる。

 世界がグニャリと歪み、フータが何を言っているのかわからない、


 フータは皇帝に向き直ると、手を拳から手刀に変え、振り抜こうとしていた。

 動かない手足を必死に動かすが、遅々として進まない。


 それでも前に進む。

 歪む視界では、皇帝も立ち上がろうと必死にもがいているのが見えた。


 そこにフータの手刀が迫った時、あの音が聞こえた。



 ……ィィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイン!!!



 その音の方をフータが見て、手刀が止まる。


 間に合った。

 間に合わせて、くれた。


 俺達の目の前に降り立ったのは、雷鳥と1人の少女。


 その少女は地に降り立つと、俺と皇帝、フータを確認し、ツカツカとフータに向かって歩いていく。

 ぺこりとお辞儀をし、口を開く。


「我が主と皇帝陛下がお世話になりました。ごめんあそばせ」


 少女の目が黒に変化した瞬間、ありえない程の衝撃が飛び出し、フータを吹き飛ばした。


 遠くに吹き飛んだことを確認すると、俺達の元へとやってくる。



「アンジー……」

「よくぞ耐えて下さいました。準備万端、整いましたよ」

「クルァ!」



 バサリと羽を広げるエクレールと微笑むアンジー。


 オーク大戦の終わりが、近づいて来ていた。



フータとの戦いは次で最後です。


感想を初めていただきました!

とても、とても嬉しかったです。ありがとうございます!


いつも見て下さってありがとうございます。


お気に召しましたらブクマ、最新話下の評価をよろしくお願いいたします。

感想もお気軽にどうぞ。

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