第126話 オーク大戦 〜 決戦4 〜
続きです。
最強であるはずの自分がいいようにやられている。
まるであの時の教室、あの時のトイレ、あの時の体育倉庫、あの時の、あの時の、あの時のあの時のあの時のあの時のあの時のあの時の……。
フラッシュバックする遥か昔の記憶。
でもそれは鮮明に、生々しく思い出された。
あの時とは違う。
僕は強くなった。
幾億の時を彷徨い、数え切れぬほど殺し、殺されてきた。
力に振り回されてきた最初の頃とは違う。
魂はいつだって準備万端。
そこに恵まれた身体、魔力、技術も付いてきた。
もう虐められる弱々しい僕じゃない。
なのに、なぜいじめっ子達がここにいるんだ?
そんなに弱い僕を虐めて楽しいか?
泣くしか出来ない存在を殴って、蹴って、楽しいか?
……ならいい。
もう終わらせる。
お前らが、誰を相手にしているのかをわからせてやる。
信奉する力で死ぬがいい!!
言葉にならない叫び声を響かせフータが突っ込んでくる。
それは今までのどの攻撃よりも早かった。
その身に纏うのは見たこともない魔力光。
全属性 + 瘴気。
立ち上る虹色はどこかくすみ、虹と言うより斑ら模様という言葉が当てはまる。
伝わってくる魔力を感じ、自然と鳥肌が立った。
毒を持つ毛虫を背中に放り込まれたような、ゴキブリが全身を這い回るような、そんな感覚。
今すぐ暴れて逃げ出したくなる、それほどの怖気。
絶対に攻撃を食らってはならない。
その場にいる全員が、回避行動を優先した。
「一般兵は全速で下がれ! 他の者も絶対に攻撃を食らうな! 今は回避が最優先だ! それが出来ぬ者は障壁を張りながら徐々に下がれ!」
皇帝の声が戦場に響く。
その命令に背く者は誰もいなかった。
一目散に逃げる兵士。
オークキングを観察しながら、攻撃を避け続ける高ランク冒険者と帝国軍精鋭部隊。
俺は避け切れないであろう兵士達を全属性魔力で守る。
たまに触れるフータの魔力は、顔を舐められる様な気持ち悪さがあったが、何とか耐えた。
鳥肌は立ちっぱなしだ。
『エーリ様、これは、かなり……嫌です!!』
「ああ、俺もだ……ぅぅあ!」
こんな状況でも集中力を切らすわけにはいかない。
必死になって守り続けた。
その内、フータの動きが遅くなる。
疲れたわけではない。
震えて、泣いているのか?
「なんで当たらないんだよ。なんで避けるんだよ。お前達はいつも僕を取り囲んで、逃げられない様にしてから殴るんだ。前後左右、殴られて、突き飛ばされて、蹴られて、ぶつけられて、投げられて……切られて。脱がされて、撮られて……晒される。そのくせいつも幸せそうな顔して、友達に囲まれて、笑って、遊んで、褒められて、楽しんでる。不公平だろ? 同じ人間じゃないか。なんでこんなにも違うんだよ。なんで僕がこんなに不幸を背負わなくちゃならないんだ……? 異世界転生、嬉しかった。なんでオークになんかならなきゃいけなかった? 冒険者生活、楽しかった。なんで同じ転生者達に化物扱いされなくちゃならないんだ? 他にも獣人の転生者なんかいっぱいいたのに。……マナミ。ああ、マナミ。優しかった……。愛していた。愛されていた。人生で、最高の、最高の時間だった。なんで? なんで? なんでマナミを、オレは食べたんだ? なんで愛する人を食べなくちゃならなかったんだ? ……そうか、あいつのせいだ。全能神とか言ってた。なんでも出来るって。好きな能力くれるって。優しい顔して言ってきた。だから頼んだ。『普通でいい』って。普通の家族の元に、普通の子どもとして産まれたいって。どんな種族でもいいからって。でも、あいつは急におかしくなった。不機嫌になった。『それじゃダメなのよ、面白くない』って。僕の頭の中に入ってきて、一番嫌な転生先を選ばれた。『アンタにはこれがお似合いよ、ブータくん』。そう言っていた。あいつの、あいつのあいつのあいつのあいつのあいつのあいつのせいだ! 全能神、ミィイイイイイイイルゥウウウウウウクウウウウウウウウウ!!」
その言葉はまるで呪詛。
いや、呪文か。
ボコ、ボコ、と姿が見えなくなるほどの瘴気を発しながら、なお分かるほど地の底の様な黒い目玉。
それは、俺の横で困惑しているミルクに注がれていた。
「嘘……。え? だってフータ、あなたずっと長い間同じことを繰り返し繰り返し、まるでテープみたいに……あれ? なんで? どうして話し方もタイミングも同じなのよ!! どうして私も同じことしか聞かないのよ!! なんなの?! この記憶は誰のものなのよ!!」
自らの記憶のはず。
なのに明らかにおかしい。
さらにおかしいのは、それに今まで気づかなかった自分自身。
ミルクは突きつけられた現実に頭を抱え、ほぼ錯乱状態に陥っている。
その姿は人族の者達に大きな衝撃を与えた。
「ミ、ミルク様、落ち着いて下さい」
「ミルク様!!」
「ミルク様ぁ!」
「どうか正気に!」
「ミルク様!!」
次々と周囲からミルクへ言葉がかけられる。
その言葉に、追い詰められていく。
「やめて……今は呼ばないで!! …………私の名を呼ぶな!!!」
バシン! と周囲に雷が落ちる。
「あ……」
自分がしたことに動揺する。
心配してくれた人族を、払ってしまった。
「ごめん……なさい…………」
大好きな人の大切にしていた思い出の品を割ってしまった様な、そんな顔。
頭が真っ白で、反射的に出てくる謝罪の言葉。
何より自分にショックを受けた。
グラリと身体が大きく傾く。
とっさに受け止め、支える。
「……一度、神界に戻ってはいかがですか」
俺の言葉に、色のない目がフラフラと泳ぐ。
「ごめんなさい……私」
「今は戻って休め、ミルク」
「皆、ごめん」
フッと消える様にいなくなった。
場を重い空気が支配する。
心酔とも言えるほどに全能神ミルクを信奉する帝国軍。
だが、いつも見ている明るく朗らかで、厳しいことを言いながらも優しい全能神様の姿はそこになかった。
狼狽え、普通の人間の様に泣き、傷つく少女がそこにはいた。
その事実は、少なからぬ動揺を兵士達に与えている。
ゴポ
現実は待ってくれない。
動揺する兵士、冒険者達を無視し、オークキングの瘴気は濃度と量を増していく。
「また逃げた……都合悪くなるといつも逃げる。ずるいずるいずるいずるい。ははっ。あははは。だったらもういいんだよな? こいつらどうなってもいいんだよな?」
最悪の災厄が立ち上がる。
「お前達の神はお前達を見捨てた。この世界は、僕が壊す。恨むなら、無能神を恨めよな」
オークキングがそう言い終わると、身に纏った瘴気が拡散する。
大地に染み込み、天に昇り、大気を汚した。
やがて世界に異変が起こる。
大地が大きく揺れ、地が割れていく。
黒い雲が空を覆い、黒い雷雨が降り注ぐ。
炎は全てを焼き尽くさんと迫り、竜巻は全てを細切れにすべく襲いかかる。
ある者は避け、ある者は弾いていたが、大多数の兵士達は障壁を張り、耐えるしかなかった。
少し掠っただけなのに、精鋭が張った障壁に細かいヒビが入っている。
残り少ないであろうポーションを飲み、何とか耐えているといった状況か。
兵士達を収納しながら、皇帝の元に向かった。
大きく張った全属性の障壁を張る。
下にはゲムも張り、2段構えだ。
「陛下、ポーションの残りはどれほどあるのですか?」
「元々代々少しずつ貯めてきたものを全てこの戦いに投入している。手持ちの物がなくなれば終わりだ」
そんな貴重な物だったか。
兵士達は収納するとして、残りの高ランク冒険者や将軍達にどれほど分配できるか……。
もしくは代わりになる様な物はないのだろうか?
このままではジリ貧だ。
「そもそも、ポーションとは何から作るのです?」
疑問に思っていることをストレートに聞く。
機密だろうが、この際関係ない。
どの道この状況下では誰も聞いていない。
「ポーション、とは【聖泉】から出る万能の水のことだ」
「【聖泉】?」
「全属性の水が出る聖なる泉だ。昔は湧出量がかなりあったらしいが、最近ではもはやポタポタとしか出なくなった。その内出なくなるであろう」
何が原因かはわからないが、その【聖泉】とやらは枯渇寸前か……。
全属性の水。
そんな物が出る泉……。
……あったわ。
アンジー、オードリー、ルイーズ。
頼みがある。
『はい、何でしょう』
『エーリ?』
『何かしらぁ?』
俺は将軍含めた全兵士と冒険者達の一時避難、それとある場所に行くことを伝える。
『その間、エーリはどうするんですか?』
俺は皇帝と2人でこの場を抑える。
『出来るのぉ? 結構ヤバくなったわよぉ?』
むしろ今は、全属性魔力を扱えないと抑えられないんじゃないかと思ってる。
あの瘴気は属性魔法だと相性が悪い。
少しの間思案して、アンジーが口を開く。
『死んだら、私がオークキングになっちゃいますからね』
……アンジーなら全部飲み込めそうだしね。気をつけるよ。
アンジーの言葉を受けて、オードリー、ルイーズも了承した。
『恐らく2時間程度。大丈夫ですか?』
耐えてみせる。場所はオードリーしか知らないから、頼んだ。
『私もご挨拶してくるわぁ』
気があうだろうさ。待ってるよ。
チーム内の方針が決まった。
殆どの兵士、冒険者達は体力、魔力、精神力を削られ、このままだと被害が出るのは時間の問題だった。
俺はこの戦場にいる味方に向けて、【以震伝心】で考えを伝える。
冒険者達からは大体賛成の様に見えるが、兵士達や将軍などからは反対の声が上がった。
自分達の大将が死ぬかもしれないのだから、そりゃそうだろうけど。
だが当の皇帝から賛成の意思を感じた。
オークキングの攻撃を避けながら近づいてくる。
「エーリ、私の想いを伝えてくれるか?」
「はい。出来ます。俺に触ってください」
【以震伝心】で皇帝の想いを伝えた。
皇帝はやる気に満ちている。
1人の戦士として、国民として、何より男として戦いたい、と。
お前達には逃げてもらうのではない、役割があるのだと。
皇帝の強い想いに、渋っていた兵士達からも漸く了承を得た。
そこからは兵士達の収納、ポーションの回収、フータの相手と忙しかったが、10分程で何とか終えることができた。
その間も瘴気に触れるたびに怖気が走り、フータの攻撃がどんどん激しくなっていく。
「エーリ様、ご武運を」
『待っていてくださいね』
『行ってくるわぁ』
アンジー1人を残し、他の人族は全て収納済み。
エクレールに乗ったアンジーを見送る。
「魔力が足りなければ使っていい。頼んだぞ、エクレール」
「クルルルルルァ!!」
目に力が入ったエクレールから、気合いの入った返事が来た。
全てはこれがうまく行くかにかかっている。
バリバリと雷を纏うエクレールを守り、俺自身の圧縮魔力で加速させた。
飛んで行くエクレールは、音速を超えた時に出るソニックブームを発生させていた。
徐々に速度は落ちるだろうが、遂に音速を超えるほどの速さに達した様だ。
戦場に残るは男の子1人に大人の男が1人。
対するは瘴気を発する災厄の王。
「側からみたら結構絶望的な状況なんですけど、楽しそうですね」
「ああ、自分でも不思議だが……しがらみなく戦えるというのが影響しているのかもしれん」
「なるほど。じゃあ、気合い入れていきましょう!」
俺と皇帝は、迫り来る天変地異と、それを起こすフータに向かって走り出した。
結構長くなってますね。
後2〜3話で終了予定です。
いつも見て下さってありがとうございます。
お気に召しましたらブクマ、最新話下の評価をよろしくお願いいたします。
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