第123話 オーク大戦 〜 決戦1 〜
続きです。
精神世界から戻ってきた俺達は、ルイーズが目を覚ますのを待った。
「ん……」
ゆっくりと目を開けたルイーズは、俺達を見て微笑む。
「ただいまぁ」
「「「おかえりなさい」」」
起き上がろうとするルイーズに手を貸す。
ずっと寝たままだったのだから、身体を動かすにも最初はゆっくりの方がいいだろう。
「流石に、身体が少し重く感じるわねぇ」
「寝たきりでしたから。無理はいけませんよ?」
「とは言ってもこれから戦いでしょう? 魔法で回復すれば大丈夫よぉ」
そう言うとアーノルドにもかけた【女神の口づけ】を発動し、回復を始めた。
「どうやらルイーズの方も終わったみたいね」
「ミルク様、ありがとうございました」
「迷惑をおかけしたようで、申し訳ないですわぁ」
皆で頭を下げる。
「やめてよ。大したことしてないんだし。それよりも早く準備なさい。帝国軍はもう出発するわよ?」
「あ、ホントだ。ルイーズ、どうだ?」
「体力は大丈夫だけど、魔力は心元ないわねぇ」
「そこは私の中にある魔力を戻しますから大丈夫です」
「ああ、入れるばっかりで忘れていたわぁ。ありがとう、アンジー」
「いえいえ。たまには出さないと」
俺達は日頃魔力量の増加を目的として、アンジーの中に魔力を放出していた。
そのおかげで皆かなり魔力量が増えている。
放出した魔力はアンジーに貯蔵されているので、必要な時に戻してもらうことが可能なのだ。
魔力も満タンになったルイーズは、俺達を見て頷いた。
これで準備は万端だ。
「よし、行こう」
「「「はい!」」」
再結成された『虹の絆』は、帝国軍と共にオークの巣に向かった。
〜〜 30分後 〜〜
「これ、か……」
オークの巣を取り囲んだ帝国軍、そして俺達は、その光景に息を飲んだ。
数えきれないほどのオーク。
それらは皆、中央に据えられた祭壇に向かって何事か呟きながら祈りを捧げていた。
最も外側にはオークメイジがいて、禍々しさを感じさせる結界を作り出していた。
オーク達が祈る祭壇は、ピラミッドのように積み上げられた死体や骨の上に作られており、そこには大きな腹を抱えた女性と、オークプリンスの姿があった。
オークプリンスはミルクと俺を見てニコリと笑う。
待っていろよ、フータ。
俺が気合を入れる中、横にいた帝国軍トップ達がざわついていた。
「陛下! あの者の顔……!」
「ああ、どうやらそういうことらしい」
皇帝は女性の方を見ているようだった。
あの女性が、どうかしたのだろうか?
「皇帝陛下、あの女性を知っているのですか?」
俺の問いに女性を見ながら答えてくれる。
「あの者自身は知らぬ。……だが、あの顔。恐らくレイディバロス王家の血を引いていることは疑いようがない」
「え?」
言われて女性の顔を見る。
額に……菱形の、アザ? がある。
「どういった経緯かは分からぬが、王族に関わりのあった者が野に下ったのだろう。その子どもか、孫か、何代か後で血が覚醒したのか……。ともあれあの者は、王族の代わりにオークキングの母体を務められる程の能力を有していることだけは確かだ」
女性の腹からは禍々しい波動を感じる。
見ているだけで怖気が襲ってくるようだ。
「ジョージ、あなたはどうするつもり? この結界を壊して周囲のオークを殲滅し、オークプリンスを倒して儀式を中断させる? それとも、オークキングが誕生するのを待って、産まれた瞬間に倒す? どちらにせよ私は手伝えないわよ?」
ミルクの問いに、皇帝は暫く前を見つめた後、
「オークキング誕生と同時に一斉攻撃します。流石にこの数を相手にしながら、オークプリンスを倒すのは現実的ではありません」
そう答えた。
「そう。なら準備なさい。人族の力、見せてもらうわよ」
「はっ!」
皇帝は即座に動いた。祭壇を取り囲んでいる各軍に通達。
攻撃用の陣を築いて行く。
先頭には将軍達。
北に【地帝】ゴルドン
東に【雷帝】ジェフリー・アーヴァンスレイン
西に【風姫】カミラ・ジェイル
南に【皇帝】ジョージ・M・ミルキスタ
帝国軍最強戦力が先頭に立ち、その後ろに精鋭の魔術師達、更にその後ろに兵士達が控える。
兵士達は皇帝達の魔力タンクの役割を果たし、魔術師達はその魔力をそれぞれの属性魔力に変換する。
高ランク冒険者達は北東など間を埋めるように配置され、魔力を練りながらその時を待つ。
そしてその時がやって来た。
女性の腹が光りだす。
それを合図に、なんとオーク達が自らの首を掻き切り、真っ黒な血を吹き出していく。
流れ出た血、そして瘴気が光に吸収されていき、最後にオークプリンスが自分の首を切り落とした。
溢れ出た濃密な魔力も全て吸収され、光が収まりかけた時、人族は行動を開始する。
「「「決戦魔法」」」
3人の将軍の魔力が跳ね上がる。
後ろに控える兵士からバタバタと倒れていく。
魔力欠乏で倒れたのだ。
ギリギリまで魔力を捧げ、全てを託す。
絶望を倒す、そのために。
ドン、ドン、と魔力が注ぎ込まれ、それが圧縮されて魔法となった。
「【地帝ゴルドン】」
「解き放て、【雷獣】」
「纏え、【風絶】」
【地帝】の周りにはあの硬い土が張り付いていき、【雷帝】の纏うオーラは毛並みの様に変化していく。
【風姫】の周囲には空気の歪みが見え、その身体はゆっくりと浮いていく。
対して皇帝の周りには避けられているかのように人が離れていく。
取り囲むようにした兵士達は、祈りを捧げているように見えた。
皇帝が腰に下げた剣を引き抜く。
だが、その剣は鍔から先がない。
「我らが歴史、我らが想い。捧げた血肉と魂よ。我らを滅ぼさんとする怨敵を打ち倒す力を与えたまえ。ミルク帝国皇帝、ジョージ・M・ミルキスタが命じる。その身を晒せ、【皇剣】ミルキスタ」
名を呼んだ瞬間、皇帝の身を虹の光が包む。
兵士の祈りはその光を皇帝に集める役割があったのか、溢れそうになる光を皇帝に返していく。
ゆっくりと光が収まったかと思えば、皇帝の持つ剣が真実の姿を現した。
それはシンプルなロングソード。
ただ一つ違うのは、刀身が虹の光で出来ていること。
リィン、と鈴のような音が鳴る。
その姿は神々しく、目を奪われるほど美しかった。
他の冒険者達も準備が整っている。
俺達も準備を終え、その時を待った。
遠くでボトリ、と音がし、結界が溶けていく。
その瞬間、後にオーク大戦と呼ばれたこの戦い、最大にして最後の、決戦が始まった。
最初に仕掛けたのは一点突破型、速度に勝るあの男。
【地帝】ゴルドン。
産まれたばかりのオークキングに突っ込む。
ギィン!
凡そ生き物同士がぶつかったとは思えない音が響く。
何と何がぶつかったのか、それはすぐにわかった。
ゴルドンの土の鎧と、オークキングの結界。
練りに練った、部下からも巻き上げた魔力を固め、これまでで一番と思える硬度、速度でぶつかったはずのその攻撃。
それを、生まれたての赤ん坊に阻まれる。
これまでであれば怒りを覚えていただろう。
だが、今回は違った。
オークキングを結界ごと掴むと、自らの手と足をガチガチに固める。
「殺れ!」
その言葉に動いたのは【雷帝】、【風姫】。
まずは【雷帝】。
【雷獣】と呼んだ決戦魔法。
溢れ出た魔力が象ったのは、虎。
バリバリと流れる雷が、縞模様に見えている。
手を地に着き、四つ足となったその姿。
そういえば、彼の二つ名にこんなものがあった。
【人外】
人間族でありながら、獣の姿になる。
人を辞めたその姿は、自身が思い描く最強。
唸り声をあげ、その爪で大地をかく。
ゴルドンの言葉に反応した獣は、獲物めがけて飛びかかる。
シャリン
爪で切り裂いたとは思えない静かな音。
その渾身の一撃は、オークキングの結界を切り裂いた。
パックリと開いたその先に、生身のオークキングが見える。
【雷獣】はその場を離脱する。
なぜなら、その後ろに死が迫っていたのだから。
その死の名前は【風絶】。
一言で言うなら真空を作り出す魔法だ。
だが、鎌鼬に代表される一瞬の真空ではない。
宇宙のように、一定の空間全てを真空状態にする魔法なのだ。
その空間に入った者は、息ができず、血が沸騰して苦しみながら死に絶える。
【地帝】が止め、【雷帝】が結界を切り裂き、【風姫】が仕留める。
特に打ち合わせしたわけではない。
武を、魔を極めた者が到達する極地。
死の空間にある産まれたてのオークキングは、
ゆっくりと目を瞑り、
そして、
ニタリと笑った。
それを感じ取った皇帝が動く。
オークキングが何かする前に、その手に持った【皇剣】を振り下ろした。
一瞬で伸びた虹色の刃が届く瞬間、ゴルドンが離脱。
【風絶】で動きが遅くなっているオークキングに、ミルク帝国の全てが詰まった刃が落ちた。
流れるような連携と、最高の攻撃。
これで倒せない生物などいない。
だが、
この相手は、
生物ではない。
絶望、そのもの。
手応えを感じない皇帝の顎から汗が落ちた時、その場にいた者全てに声が届いた。
「たかが一国の攻撃としては、かなり良かったよ。見事だった」
【皇剣】の刃を2本の指で摘みながら話す、災厄の王。
その姿はいつのまにか、大きくなっていた。
「はははははははははははははははは!! やあ皆、気分はどうだい?」
災厄の王、オークキング。
歴史上始めて、成体となったレベル10。
成体となったオークキングの説明を思い出す。
『世界が終わる』
その世界の終わりが、動き出した。
ようやく出番だよ、オークキング。
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