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第122話 和解 〜 ルイーズ 〜

続きです。

 アンジーを呼び、テントと寝具を出した後、そこにルイーズを出してもらう。


 変わらず眠るルイーズの姿があった。


「起きない、か」

「ルイーズ……」


 オークキングを産む儀式が近くで行われているから、もしかしたらと思ったが。

 そう思っていると、アンジーがひょこっと首を出し、何か考えている。


「アンジー、どうした?」

「色々あったので頭に出てこなかったんですけど、【鑑定】出来ませんか?」

「え?」

「精神世界ならもしかしたら起きているかもしれませんし、何かしら働きかけることも出来るんじゃないかな、と」


 バッとオードリーと顔を合わせる。


「いけるか?」

「いけると思います。エーリ、補助してくれませんか? 全属性魔力で包む感じにしてくれればいいです」

「わかった」


 ミルク、ちょっといいか?


『何よ。イチャイチャはもういいのかしら?』


 怒るなよ。

 ミルクとだってそうしたいけど、ミルク帝国軍の真っ只中でそんなことしたら、オークと戦う前に殺されかねないだろ。


『どど、どんなことをするつもりよ?! ま、全くもう! ……で? 何?』


 これからルイーズを【集団鑑定】するつもりだ。

 何もなければいいけど、何かあったら困る。

 もしもの時は引っ張り出してもらえるか? あと鑑定中の護衛も頼みたい。


『はぁ。全能神使いが荒いわね。いいわよ、こっちは任せなさい』


 ありがとう。

 後顧の憂いは絶った。


「よし、じゃあやろう。オードリー、頼む」

「はい。じゃあ手を繋いで、エーリ、魔力を巡らせてください」

「おう」


 手を繋ぎ、全属性魔力を通していく。

 闘技場で闘う前の儀式と同じように。


 そして俺達はルイーズの中へと入っていった。






 〜〜 精神世界 〜〜


「これは……」


 ルイーズの精神世界。

 街並みが広がり、国を思い起こさせる景色、だったはずが。


「何も、ない?」


 そこにあるのは白い空間、ではなくどこまでも広がる荒野。

 遠くにポツンと、黒い点が見える。


「行ってみましょう」


 オードリーの言葉に頷き、3人で近づいていった。


 近づいてみると、点に見えたそれは玉座だった。

 ルイーズは座って、空を見上げている。


「ルイーズ……」


 俺の呼びかけに、すっと顔を下げてこちらを見てくれた。


「皆、来たのね」


 思いのほかスッキリした笑顔だった。

 何もない場所に置かれた玉座。

 全てを失った女王。


 だけど、その顔に憂いはなかった。


「……」


 皆待つ。

 ルイーズが話すのを。

 最初の一言を。


「……オードリーは知っているけど、昔話、聞いてくれる?」

「ああ」「はい」「いいですとも」


 ルイーズが指を回すと、俺達用の椅子が出てきた。

 促され、それに座る。



「むかーし昔、ある所に、それはそれは素晴らしい国がありました……」




 〜〜 独白開始 〜〜


 その国の名はアンドレイク。


 豊かな森と清らかな水。

 国土は富み、国民もまた、心優しい者ばかり。


 そんな誰もが羨む国を統べるのは、才知に長けた女王でした。


 女王は転生者を夫とし、子も設けていました。

 国も安泰、国民の支持も厚く、何もかもがうまくいっていました。


 天性の魔法の才を持つ女王は、愛する夫と長く生きていきたいと願い、寿命を延ばすための研究をしていました。

 そうしてついに、魔力を寿命に変換できる装置を開発することに成功したのです。


『これでずっと一緒よ』


 そう笑う女王の幸せは、絶頂を迎えました。

 でも、そんな幸せが長く続くはずは、なかったのです。



 ある日、兵士達の間で変な獣人がいるという噂が流れるようになりました。

 体が大きく、鼻が特徴的で、でも動きは遅い。

 話しかけたが無視され、スッと森に消えて行く。


 でも、その目はギョロっとしていて、ニタリと笑うその顔は怖かった、と。


 特に何かあるわけでもなかったので、そう長く話題に上ることはなかったのですが、それが災いしました。


 しばらくすると、国境付近の村や町が何者かに襲われるようになりました。

 住民が食い殺されるという痛ましい事件でした。

 でもおかしかったのです。


 食い散らかされていたのは全て男、子ども、老人達。

 女の姿はありませんでした。


 女だけ連れ去る魔物など聞いたことがありませんし、獣人や人間で、人を食べる種族というのは聞いたことがありません。


 女王は調査を開始しました。

 でも、既に遅すぎたのです。


 ある時、血だらけの兵士が情報を持ち帰りました。

 いつだったか噂されていた見慣れない獣人達が人々を襲っている、と。

 女は犯され、それ以外は食われている、と。


 女王は怒りました。

 自分の国で好き勝手するその獣人に。

 すぐに軍を派遣し、討伐に乗り出しました。


 最初はすぐに終わると思っていましたが、その獣人は強かったのです。

 数も多く、いつのまにか大軍となっていました。


 ジリジリと兵士が減っていき、それにより他の町や都市の防衛に手が回らなくなり、やがてそれらの町や都市もその獣人に蹂躙されていきました。


 女王も戦ったのです。大好きな夫と共に。

 でも、圧倒的だったはずの力も、数に押し負けました。


 這々の体で首都に逃げ帰り、防御結界を展開。

 周辺諸国に助けを求めました。


 その時、その獣人が『オーク』という災厄であることを知りました。

 放っておくとどんどん数を増し、強くなるといいます。


 全てが遅すぎたのだと、女王は悟りました。


 でも、希望は捨てていませんでした。

 魔法を熟知した自分が作り上げた結界が破られることはない。

 そう思っていました。

 貯蔵魔力も豊富にあります。


 このまま何年だって篭っていられる。

 そうすれば周りから助けが来る。


 ですが、そう思った次の瞬間。


 結界が音を立てて崩れ去りました。


 オークメイジ、オークワイズによる魔法干渉。

 結界を失った首都は、阿鼻叫喚の地獄となりました。


 逃げ惑う人々を容赦なく殺し、喰らい、犯し、増えていくオーク達。

 結界があることで油断していた兵士達も次々と殺され、やがて王城にまでオークはやってきました。


 女王も戦いました。

 夫もです。

 大きくなった子どもも、必死に戦いました。


 でも、大地を埋め尽くすオークの数には敵いませんでした。

 まず子どもが喰われました。


 目の前で引き裂かれ、笑いながら喰われたのです。

 その時の断末魔は、女王の耳にいつまでも残りました。


 王は女王を連れ、逃げました。

 せめて愛する女性くらいは守ろうとしたのでしょう。


 でも、女王も同じことを考えていました。

 王を掴むと、魔法で彼方まで飛ばしたのです。


 女王はオークに捕まり、そこで意識が途切れました。



 次に目覚めた時、女王は祭壇で犯されていました。

 夥しい数のオークが祈りのような呪文を唱える中で。


 夫以外を受け入れることに激しい嫌悪を覚えましたが、暴れることは出来ませんでした。


 次第に、快楽が襲ってきました。

 堪え難い屈辱でしたが、自分の精神がどんどん侵されていくのを感じました。


 並の人間であればそのまま自我が崩壊する所でしたが、女王は誰よりも魔法に長けていました。

 自分自身へプロテクトをかけ、精神、肉体共に変質させないように必死に抵抗しました。


 抵抗により進行は遅くなりましたが、自分の中で何かが大きくなっていくのを感じ、歯を食いしばりながら抵抗を続けました。

 女王が抵抗したおかげで、数日後、近隣諸国の兵士達がやってきてオークを攻撃してくれているのがわかりました。


 遠くへ飛ばした夫が引き連れてきたのです。

 それにホッとしたことが悪かったのでしょう。

 お腹の中のそれは、一気に大きくなっていきました。


 最後の抵抗で自分の魔力を持っていかれることだけは防ぎました。


 それを産み落す時、どこかから声が聞こえたような気がしました。


『くそ、今回は失敗だ』


 女王が産み落としたそれは、災厄の王、オークキングでした。


 力を削いだとはいえ、オークキングの力は強大でした。

 鳴き声を聞いた兵士は全身から血を吹き出して絶命し、睨まれた者は笑いながら仲間を斬り殺しました。


 オークキングが何かをするたびに、大勢の兵士が死んでいきます。


 でも、それを止める者達がいました。

 転生者達です。


 彼らはその能力を遺憾なく発揮し、オークキングを少しずつ追い詰めていきました。

 そして最後のトドメを刺そうという時、オークキングの腹が一気に膨らみ、爆発したのです。


『道連れだ。恵まれた者は全て死ね。次はうまくやるさ』


 オークキングはそう言っていました。


 爆発の瞬間、夫が自分を庇うのが見えましたが、女王は力を出せず、何も出来ないまま光に飲まれていきました。

 夫は笑っていたような気がしました。




 女王が気づくと、そこは一面何もない荒野となっていました。

 まるで最初から何もなかったかのように。


 オークキングを産んだ反動か、女王の体力、魔力はかなり弱っていました。

 女王は咄嗟に自分を老婆に変え、その消耗を最小限にしました。


 愛する者達が死に、国が無くなってもなお、生に執着する自分を呪いました。

 三日三晩泣き、心が擦り切れた頃、女王は立ち上がり、どこともなく歩き出しました。


 老婆となった女王は、誰からも見向きもされなくなりました。

 時々転生者を見つけては魔力をねだり、生きながらえていきました。


 アンドレイクという国があったことすら、人々から忘れ去られるほど長い時間を生きた女王は、集めた魔力を魔石に変え、ルイーズ・キングリッジと名を変え、ミルク帝国で冒険者や魔石士として活動しました。


 そこで富も名声もほしいままにした女王でしたが、ミルク帝国が大きくなるにつれて、心に穴があいていきました。

 周りの人間達の幸せそうな顔。

 豊かになっていく国土。

 それは昔のアンドレイクを思い起こさせるものだったのです。


 女王はひっそりと帝国を去りました。

 都市や町や村、色々な所を点々とし、最後にテンダリールという町に行き着きました。


 疲れ果てた女王は、そこで死ぬことを決めたのです。


 ですが、女王はそこで運命の出会いをしてしまいました。


 それは魔石が欲しいと言ってきた、可愛らしい男の子でした。


 その男の子はとんでもない魔力の持ち主でした。

 普通は出せない無属性魔力も湯水のように出せるのです。


 男の子には言いませんでしたが、女王は男の子が転生者だとわかっていました。

 エッチな所、話し方、知識不足、豊富な魔力。

 全て夫と知り合った時と同じだったのです。

 女王の心に、色が戻ってきました。


 男の子に惹かれたのです。


 朗らかに笑うその笑顔に。

 自分を女として見るその眼差しに。

 心で接してくれる、その姿勢に。


 女王は、生きることにしました。


 パーティメンバーになった後はとても楽しく過ごせました。

 見るもの、聞く音、全てが色づきました。


 辛いことや悲しいことにすら色があり、心が潤っていくのを感じました。

 相棒と呼べる存在が出来ました。

 妹と思える存在も出来ました。


 夫以外で全てを捧げたいと思う存在も出来ました。


 全て全て、うまくいっていました。


 あの時のように(・・・・・・・)。


 ある日女王は出会ってしまいました。

 自分から全てを奪った存在に。


 そいつは笑っていました。

 昔のように、醜悪な顔で。


 喜びに満ちた心は怒りや憎しみに変わり、湧き出す魔力は全て攻撃に費やしました。

 それを殺しても黒い心は元に戻らず、悔しさだけが残りました。

 なぜもっといないのか、なぜもっと殺せないのか、自分はたくさん奪われたのに、皆もたくさん苦しんだのに、それが命一つと引き換えなんて割りに合わない。


 ささくれだらけになった心は、何をしても、何を言われても痛んだのです。


 何もかももう終わり、これからはあいつらを殺す旅に出よう。

 自分に幸せは似合わないのだ。


 そう思っていたのです。


 でも、男の子は違いました。

 傷つく女王を止めようとしてくれました。

 そんな男の子に、女王は酷い言葉を投げつけました。


 でも男の子は諦めませんでした。

 女王を好きだと言ってくれました。

 いつまでもそばにいて、いつか惚れさせてみせると言ってくれました。


 憎しみだらけの心に、愛が入り込んできました。

 女王は悩みました。

 このまま愛が増えて憎しみがなくなれば、女王の気持ちは楽になります。

 ですが、死んでいった国民、子ども、夫の無念は誰が晴らすのでしょう?


 自分だけ幸せになっていいのでしょうか?

 自分は幸せになってはいけないのでしょうか?


 どちらも自分の感情で、どちらにも傾けないもどかしさ。


 女王は分からなくなってしまいました。

 溢れ出た魔力は行き場を失い、もう自分でも制御できなくなってしまいました。

 いっそこのまま消えてしまえば……


 そう思った時、誰かが意識を刈り取ってくれました。


 女王は精神世界で目を覚ましました。

 そこにはアンドレイクの街並みと、死んでいった国民達がこちらを見ていました。

 今まで共にあった皆。

 無念を共にしていた皆。


 私はどうしたらいい?

 女王は尋ねましたが、誰一人答えをくれませんでした。

 街も、皆も、すーっとかき消えて見えなくなりました。


 そこにあったのは果てしない荒野と、寂しく置かれた玉座。


 1人になることへの恐怖。

 全てを失った忌まわしい記憶が蘇りました。


 そんな時、誰かが寄り添ってくれたような気がしました。

 優しい気持ちが心に入ってきました。

 大人の女性と、その娘達。

 姿は見えなくても、そばにいるのだとわかり、気持ちが落ち着いていくのを感じました。


 女王は玉座に座り、一人考えていました。

 これまでと、これからを。


 長い間考えた女王が答えを出した時、自分の世界に誰かが入ってきたのを感じました。

 そこにいたのは、大好きな相棒と妹、そして、愛する男の子でした。



 〜〜 独白終了 〜〜



「お話はこれでおしまい」


「……その女王が出した答えは、なんだったんだ?」


 それが、どんな答えになっても、ルイーズを手放す選択肢はないけどな。


「それは、これ(・・)よ」


 チュ


 すこしかがんでくれたルイーズの唇が重なる。


「私、両方取るわ」

「両方?」


 俺の問いに一度目を瞑り、目を開けると微笑みながら俺を見つめた。


「無念を晴らして、愛する人とも一緒にいるわ。まだオーク、残ってるんでしょ?」


 今までで一番晴れやかな笑顔だった。


「ああ、そろそろオークキングが生まれるかもしれないそうだ」

「そう。……じゃあ行きましょうか」

「頼みますよ、相棒」

「ルイーズが戻ってきてくれて嬉しいです。でも、やっぱり違和感がありますね」


 ?


「ルイーズが普通に喋っていると、もはや別人ですよ」


 ……ああ、確かに。


「ふふふ。確かにそうねぇ。こ・れ・で、いいかしらぁ?」


 前かがみ担って胸元がガッツリ開くように指で広げてくれる。

 うん、いい。


「ルイーズらしくはあるのですが、ほどほどにお願いしますね。現実世界で全能神様が待ってますので」

「はぁ〜い」


 ようやく、ようやく全員揃った。


 俺達は皆、晴れやかな顔で精神世界を後にした。


やっぱり仕事がある日の方が筆が進みますね。

不思議です。


いつも見て下さってありがとうございます。


お気に召しましたらブクマ、最新話下の評価をよろしくお願いいたします。

感想もお気軽にどうぞ。

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