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第120話 独白 〜 オーク誕生 〜

続きです。

「この話は私が神になってまだまだひよっこだった頃の話なの」



 〜〜 ミルク、独白開始 〜〜


 その頃はこの世界も混乱を極めていてね。

 今の人間族と獣人族との間に諍いが絶えなかった。


 その頃の瘴気は魔物をより強くする作用になっていて、どちらの種族も手を焼いていたわ。

 世界は争いに満ちていて、この世界も疲弊していた。


 転生者や転移者達はこの世界のバランスを整えたり、その有り余るエネルギーを世界に還元してくれる存在だった。

 だから結構沢山異世界からの住人がいたのよ。


 彼ら彼女らはもともと恵まれたステータスを持っていて、こちらへ来てくれたお礼に、私達神から色々な特殊能力もつけてあげていた。


 エーリなら『チート能力』で通じるわね。

 ジョージも歴代皇帝の記憶で知ってると思うわ。


 それによって何とか世界の均衡を保っていたのだけど、ちょっと数が多すぎたのね。

 こっちに来る転生者、転移者がその順番待ちを起こすくらい来ちゃったのよ。


 そもそも転生や転移には膨大な神力が必要になるから、私もかなり疲弊していて、その、おざなりというか、適当になっていたの。

 彼らの望む物をホイホイあげているような感じね。

 その内それも面倒になって、適当に転生先を選んだり、転移先をとんでもない所にしてしまったりだとか、もあったわ。

 じいちゃんにはその後こってり絞られたんだけど…………。


 その中に、彼がいたのよ。


『風太(フータ)』が。


 フータは転生者だった。

 前世では太っていることや顔、話し方とか色々な物をバカにされて、それを苦に自ら命を絶ってこっちに来た人よ。

 本当ならそういう暗い気を持った人はこちらに来ないようにしていたんだけど、適当になっていた時だったから、選別せずに転生を許可してしまっていたの。


 彼は喜んでいたわ。

 空想の中だけだと思っていた異世界転生が出来たんだって。


 熱心に話しかけて来る彼の話を最初は聞いていたんだけど、同じような話をずっとして来るものだから、途中からほとんど聞いていなかったの。

 それでね、自分でもなぜそうしたかわからないんだけど、フータの記憶を探って彼が一番嫌がる転生先に決めてしまったのよ。


 その時の彼の絶望した顔と叫びは今も耳に残っているわ。


『嫌だ! 絶対に嫌だ!! 何でオークなんかにするんだ!! やめろぉおおおおおおおお!!』


 その声を聞きながら、私は彼がいなくなったことにホッとしていた。

 これで仕事を続けられる。

 その程度にしか考えてなかった。


 彼が生まれ落ちたのは獣人族が住む大陸。

 誰かの子として生まれたのではなく、最初から成体だったの。

 その時点でおかしかった。

 普通、転生なら誰かのお腹から生まれ落ちるものだもの。

 転移なら成体だけど、前の世界と同じ容姿のはずだしね。


 フータは彼の頭の中にあったオークという豚の魔物と同じ容姿をしていたの。

 醜い顔、醜い体。

 声もくぐもっていて、この世界では見ない醜さだった。

 力は強かったけど、それ以外は魔法も使えず、攻撃に使える種族特性も持っていなかった。


 自分の顔を触り、身体を確認したフータは叫んだわ。

 怨嗟の言葉を。

 血の涙を流すまで。


 ひとしきりそうした後、諦めたのか歩き始めた。

 いつしか町に辿り着いた彼は、自分と同じような獣人族を見つけて喜んだわ。

 彼からしたらファンタジー、空想した世界そのものだったんですもの。


 幸い言葉は通じていたから色々と話を聞いて回って、ギルドに登録もしたの。

 でも彼は舞い上がっていて気づいていなかったのね。

 自分と話した獣人達が、その容姿に眉をひそめていたのを。


 この世界に豚の獣人はいない。

 この世界にあんな醜い獣人はいない。

 彼は知らないうちに警戒されていたのよ。


 冒険者となった彼は出来る仕事をして何とか生計を立てていたわ。

 力は強かったから荷運びや開墾作業、動きが遅い魔物の討伐なんかでね。


 異世界に来れたという事実だけが彼のモチベーションを上げていた。

 でも周りが自分のことを良く思っていないということは、その頃には気づいていたわ。

 前世でも同じ感じだったんだもの。


 ただ、ここには自分をいじめた奴らはいない。

 それだけでも大分心が落ち着いて、穏やかな生活を送ることが出来ていたのよ。

 でも、それも長く続かなかった。


 数年が経ったある日、フータは人間族に襲われたの。


 獣人族だからじゃないわ。


 魔物だって言われたのよ。


 彼は必死に逃げた。

 泣きながら。


 『俺は獣人だ! 魔物じゃない!』


 そう言った彼の言葉を信じる人間族はいなかった。

 だって彼らの勇者がそう言ったんだもの。



 人間族の勇者、それは転生者達だった。



 彼らの知識の中にある豚の魔物、それはオーク。

 ゲーム、まあ遊びの一種よ。

 その遊びの中では弱い魔物に分類されているわ。

 違うゲームでは女性を襲って無理やり交配し、子を孕ませる醜悪な魔物として描かれていたの。


 彼らからしたら何を言おうとただの魔物よね。


 攻撃され、追い詰められ、ついに捕まってしまった。

 勇者達は自分達の手柄をひけらかす為に公開処刑をしようと思ったの。


 鉄格子の牢屋に入れて、広場に晒された。

 フータは必死に無実だと訴えた。


 人々は耳を貸さず、石を投げつけた。

 でもね、その中で1人だけ、話しかけてくれた女性がいたのよ。


 マナミ。

 転移者の女性だった。


 これも巡り合わせだったのか、マナミはフータと同じ学校に通っていたの。

 フータのことも知っていたわ。

 彼女もまた、おっとりした性格からイジメを受けていた1人だった。


 彼女の取り成しで、勇者と言われていた転生者達に話がついて、何とか解放されることになった。

 でも、手柄がなくなるようなものだから、追放という形になったのよ。


 マナミはフータについて来てくれた。

 同じ境遇の人間に会えたのが嬉しかったんだと思うわ。


 フータもマナミに感謝していた。

 だって、前世も含めて人にこんなに優しくされたのは初めてだったんだもの。

 醜い姿にも嫌な顔することなく接してくれるマナミに、フータが恋をするのは遅くなかった。


 マナミもフータといることを望んでいたし、2人きりの生活も楽しかったから、お互いに人生初めての恋人になったのよ。


 どうしたらいいか2人ともわからなかったから、その恋路はかなりゆっくりとしたものだったけど、2年くらい経ってようやく結婚を決めたの。

 貯めたお金で新居を買って、指輪も作って、教会で慎ましく結婚式もあげたわ。


 新婚初夜、2人は愛し合った。

 ここでフータはあることに気づくの。


 自分の性技が凄いってことに。

 転生時のイメージが特性として現れたんだと思うんだけど、マナミがどうすれば悦んでくれるのか手に取るようにわかった。

 フータは泣いて喜んだわ。

 自分が愛した女性に悦んでもらえるなら、この身体に転生して良かったかもしれないって。


 でも、でもね。


 悲劇はそこから始まったの。


 フータが果てた後、マナミに異変が起きた。

 ボコボコと身体の内側から何かが変わっていき、マナミの身体はどんどん変化していったわ。

 お腹はあり得ないほど大きくなって、得体の知れない何かがお腹の中で暴れまわっていた。


 そして、それ以上にフータを混乱させたことがあったのよ。


 お腹の中にいる何かの感覚が、自分にもわかったの。


 その数は全部で10。


 混乱していると、遂にその時がやってきた。

 出産よ。


 マナミの股から出てきたそれ(・・)は、フータと同じ容姿をしていた。

 そして、フータはそれの知覚を全て共有していた。


 フータの混乱をよそに、マナミの精神は壊れてしまっていた。

 もっと、もっとと言いながらフータを求めたわ。

 吸い寄せられるようにフータも重なっていった。

 自分ではどうしようもなかったの。


 そうしてそれが増えること数回。


 遂にマナミに限界が来た。

 フータにはなぜかそれがわかった。


 理性ではダメだと思いながら、圧倒的な本能がこう告げていたわ。



 食べろ、って。



 フータは泣きながら笑って、それと一緒にマナミを食べたの。

 それは大きくなったし、フータ自身も強くなっていた。


 望んでいた容姿やチート能力はなかったけど、念願の異世界転生を果たした。

 同じ転生者達に殺されかけたけど、助けてくれる女性がいた。

 時間はかかったけど、こんな醜い容姿だったけど、愛してくれる女性がいた。

 何も特殊能力がないと思っていたけど、妻を悦ばせる素晴らしい能力があった。


 そう思っていた。

 そう思っていたのに……。


 フータは、壊れた。



 理性を手放し、本能の赴くまま、近くにいた獣人族、人間族構わず襲い続けた。

 男は食べ、女は犯した。

 増えたそれも、どんどん数を増やして、かつ強くなっていった。

 その全ての知覚を共有できた。

 右を見ながら左を見ることができた。

 そうしてどんどんどんどん増え、強くなっていったの。


 どれくらい経った時か、フータは討伐指定されたわ。

 討伐名、『オーク』。

 命名者はもちろん転生者よ。


 それによって獣人族、人間族関わらず襲われるようになった。

 フータも襲い返した。


 でも、その頃の転生者、転移者は数も多かったし、今とは比べ物にならないくらい強力な能力も持っていたから、遂に全てのオークが倒される日が来たの。


 公開処刑が行われたのは、奇しくもマナミと出会ったあの町。


 首を刎ねられる直前、フータは叫んだ。



『よくも、よくも転生してまでこんな仕打ちをしてくれたな! 全能神ミルク! 俺はお前を呪い続ける! 何度でも蘇って、お前の世界をめちゃくちゃにしてやる!! そしていつか、お前を犯して食ってやるからな!! 今存在し、この先も生まれる転生者、転移者も同じだ!! 全部、全部奪ってやる! 恵まれた奴らは全員殺す! 喰らう!! 犯す!! 絶対に! 絶対にだ!!』



 笑ったまま首を刎ねられたフータは、死んだわ。


 その時は(・・・・)ね。



 そこから世界に干渉が起こった。

 瘴気が魔物に吸収されなくなったの。


 常に漂い、溜まっていくようになった。

 そして、長い時間をかけて溜まった瘴気が動物に吸収されると、ある形になったの。


 オークの姿に。


 それを見た時は叫んだわ。

 どうして?! って。


 死んだら魂は私の所に戻ってきて、また別の生き物になったり、世界のエネルギーになったりするの。

 フータの魂も戻ってきて、エネルギーになったのよ。

 確かにね。


 でも、オークは生まれた。


 自我は無くて、本能の赴くまま人族を襲っていったわ。

 数が増え、強くなると知能も発達していった。

 そして、オークプリンスまでになると、出てきたのよ。


 フータが。


『宣言通り戻ってきたぞ。覚悟しろよ。次で最後だからな』


 ニタァっと笑ってそう言ったの。

 完全に記憶を持った状態だった。


 私はやってはいけないことだと知りながら、その時代にいた転生者、転移者、人族の王達に神託を授けてオーク討伐を命じたわ。


 時代が変わるごとに何度も。


 オークからオークプリンスの間の時に討伐できることもあったけれど、その後何度かオークキングまで生まれる事態になった。

 でも、生まれた直後に討伐出来ていたから、成体になったオークキングは今のところ1体もいない。

 だけど、今回はどうなるかわからない。



 〜〜 独白終了 〜〜


「これがオーク誕生から今までの大まかな歴史よ。元はと言えば私のせいなの」


 そう話すミルクは唇を噛み、涙を浮かべていた。


「……話はわかりました。本当の意味での討伐は出来ないかもしれませんが、今回も世界を守りましょう」


 皇帝が力強く言い切る。


 俺はフータについて考えていた。

 俺が感じていた理解できる何か、それがわかった。


『リア充爆発しろ』


 だったんだな。

 フータが感じた程のものではなかったが、理解出来る感情。

 優れたものに対する妬み。


 自分は全て奪われたのに、同じ条件だったはずなのに、なぜこんなにも差が生まれるのか。

 相当な恨みがこもったに違いない。


 俺は奴じゃないから、どこまでいっても本当に理解は出来ない。

 だが、


「終わりにしましょう」

「エーリ?」


「少しですが、俺にはフータの気持ちがわかります」

「そなた何を!!」

「ですがこんなこと、この先ずっとやらせる訳にはいきません。この連鎖、俺が断ち切ります」

「エーリ……。ジョージ、お願い、エーリに協力してちょうだい。今の私じゃ、何も出来ないまま時間が過ぎそうなの。知らない内に世界が滅んでいるなんて、絶対に嫌。お願い……」


 ミルクが皇帝に頭を下げる。


「頭をお上げください。私は、私達はいつだって、あなたの味方です。わかりました。エーリに協力するよう、全軍に伝えます」

「ありがとう、ジョージ」


 皇帝とミルクの話を尻目に、俺は気合が入っていた。

 オーク。いや、フータ。


 待っていろ、俺が解放するからな。


次回から戦闘に戻ります。


いつも見て下さってありがとうございます。


お気に召しましたら、ブクマ、最新話下の評価をよろしくお願いいたします。

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