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第119話 オーク大戦 〜 休戦2 〜

続きです。

 オーク軍が一体何万人いたのかわからない。

 ただ、それら全てを一瞬とも言える時間で蹴散らしたのは、自分達が追い出したはずの少年だった。

 その少年は信奉する全能神様と同じ魔力を纏い、その力で自分達を助けてくれた。


 兵士達、冒険者達は思う。


 なぜだ? と。



「エーリ……なぜ(・・)ここにいる?」



 皇帝は問う。

 自分が追放を命じたエーリに。

 エーリは答える。


「あのままにしておきたくなかったので、個人的に参加しているだけですよ。オークを倒さないと、俺の大切な人達に危険が及びますから」

「……その大切な人達から拒絶されても、か?」



 その問いに少し考えたが、一つ頷くと口を開いた。



「はい。どの道中途半端な状態なので、この後ちゃんと話をしたいんです。だから、終わらせにきました」



 その顔はすっきりとして迷いがなかった。

 ほんの数時間前に色のない顔をしていた人間とは思えない。

 だが、その身に纏う虹の光には淀みがなく、どこか吹っ切れた印象も受ける。


 きっと何かがあったのだ。

 誰かに背中を押されたのかもしれない。

 そしてその押された勢いそのままに、自分で決めてここまで来たのだろう。


 皇帝である自分は知っている。

 彼が生まれながらに全属性魔力保持者だということを。

 永遠の憧れ(ミルク様)に愛された男だということを。

 その力を隠して生きてきたことを。


 自暴自棄になってやったのではない。

 自分の意思でその力を解放したのだ。


「そうか。だが今お前を我が軍の一員として認めるわけにはいかん」

「はい。俺は個人的に参加しているだけですから」


 その目を見て、拒絶は不可能だと感じた。


「わかった。好きにせよ」

「陛下、よろしいので?」


 持ち場から戻ってきた【雷帝】が少し楽しそうに聞いてくる。


「ああ、どの道負傷者の手当てもせねばなるまい。陣を築き、結界を張らせよ」

「仰せのままに」


【雷帝】はエーリにウインクしてその場を後にした。


「さて。エーリ、こちらへ来い。話がある」

「え、と。いいんですか?」


 軍の一員として認めないと言った直後なので、疑問に思うのも当然だ。


「軍には迎えずとも助けてくれた恩人に礼の一つも出来なくては皇帝の名折れだ。いいから来い」

「わかりました。ではお邪魔します」


 エーリは皇帝用に用意された天幕の中に入っていったのであった。




 〜〜 帝都東地区『クリザリス香油店』店内 〜〜


 そこには3人の女と1人の男がいた。


 女の内、ある者はベッドで眠り、ある者は外をボーッと見るだけで微動だにせず、ある者は机に突っ伏し泣いている。


 男は1人お茶を飲んでは、たまに女達を見て悲しそうな目をするばかりであった。


 アンジーは助かった後、オードリーがこの店に連れてきた。

 魔法鞄達にもどうすることも出来ず、それを見かねたノーマンがオードリーに連絡したのだ。

『仲間と一緒の方がいいだろう』そういう考えだった。


 だが、効果はなかった。


 アンジーの無事を喜ぶオードリーとは対照的に、アンジーは無表情のまま戻らなかったのだ。


「エーリ様は?」


 そう聞いたアンジーに、オードリーはエーリを叱り飛ばしてしまったこと、エーリが追放処分にあい『虹の絆』が解散となったこと、後のことを頼まれたことを伝えた。


 全てを聞いたアンジーは一筋の涙を流し、それ以降何の反応も示さなくなった。

 以来、オードリーも声を殺して泣き続け、今に至る。


 この数時間で色々な人が見舞いに来てくれた。

 戦いに赴く前のアルベルトやマルス伯。

 忙しい中時間を作って来てくれたジャンヌ、マチルダ。


 彼らの言葉ですら、今の3人には届かなかった。

 それほどまでにショックは大きかったのだ。



 女性陣がそんな状態になっている頃、エクレールだけは上空にいて、エーリから言われた通り帝都の防衛に尽力していた。


 そして彼は見た。

 虹色の光が帝都に近づいて来るのを。


 言いようのない喜びが溢れ、すぐにそこへ向かった。


「クルァ!」

「エクレール!」


 父であり母であるエーリのそばまで降り立ち、その身を擦り付ける。

 名を呼ばれたことが何より嬉しかった。


「ごめんな、心配かけて。皆は……どうしてる?」


 泣き笑い、という言葉が当てはまる顔をして、エーリは尋ねた。

 エクレールは首を下げて頭を振る。


「そう、か。そうだよな。うん。終わらせたらちゃんと話すよ」


 ポンポンとその首を叩き、慰める。

 本当は今すぐ会いたいが、そもそも帝都には入れないだろうし、オークのことも気になった。


「それで、オーク達がどうなっているかわかるか?」

「クルァ!」


 バサっと羽を広げ、西を向いた。


「あっちにいるんだな?」


 その問いに頷くエクレール。

 何となく城壁を見ると、兵士が巡回をしていた。

 数はそこそこいるようだが、違和感がある。

 装備が違う。あれは予備兵か?

 それに、今まで城壁外にもいた兵士達が、誰もいない。

 西にいるオーク、数が減った兵士。


「もしかして、進軍したのか?」

「クル」


 一つ頷いた。

 今までこの帝都で戦っていたのに、援軍が来る前に進軍を開始する理由。

 その理由は一つしか思い浮かばなかった。

 同時にミルク村に行く途中で感じた違和感が呼び起こされる。


 最悪のシナリオが頭をよぎった。


「ふぅー……。エクレール。俺はこれから帝国軍の所に向かう。そして全部終わらせて来るよ。お前はこのままここを守ってやってくれ。出来るか?」

「グルァ!」


 力強く鳴くエクレール。

 数時間前に頼まれた時とは心持ちが全然違っていた。

 心から信頼してくれているのが伝わってきたからだ。


 その様子を見てエーリは笑い、


「じゃあ行ってくる」


 そう言って西に向かって走っていった。

 虹の光を残しながら。


 エーリを見送ったエクレールは再び帝都の上空目指して羽ばたく。

 既に遠く豆粒ほどになったエーリを見送り、一鳴きしてその武運を祈った。



 1時間後、西の空が急に暗くなり、虹色の雷が落ちた。


 その光は帝都からも虹色のオーロラとなって確認でき、兵士や国民達もなんだなんだと空を見上げた。

『クリザリス香油店』からも、虹色のオーロラは確認できた。


 復活してからこっち無反応だったアンジーの目に光が戻る。


「エーリ様!!」


 叫びながら立ち上がった。

 その声に泣くのをやめ顔を上げたオードリーは、アンジーが反応してることに驚き、空に広がるオーロラに心臓が跳ねた。


「アンジー、あれは……」


 ガクガクと膝が笑い、上手く歩けない。

 もうこの先会えないと思っていた愛しい人の魔力を感じ、感情が溢れて涙となって頬を伝う。


「エーリ様です。エーリ様があっちにいます」


 その顔は今まで見たどの顔よりも嬉しそうだった。


「オードリー、行きましょう」

「え?」

「え? じゃありません! エーリ様の元へ行きましょう!」

「でも、私達はもう」

「分かっています。私達ではエーリ様の足手纏いになるかもしれません。でも、このままここにいたって、何も変わらないじゃないですか。このオーロラはきっと、エーリ様からのメッセージです。やり直しましょうよ。このまま会えなくていいんですか?! 私は、私は嫌です!! 魔法鞄としてその仕事を全うできないまま生きていくなんて出来ません。愛する人(・・・・)と離れ離れになったままなんて耐えられません!! ……あなたはどうなんですか? オードリー」


 いつもはおっとりマイペースなアンジーから力のこもった言葉を叩きつけられる。

 言われなくてもわかっている。

 自分の心はいつだって、


「エーリの側にいたいですよ! でも、私はいつも足手纏いで、迷惑かけて! エーリを叱る資格なんてないのに突き放して!! 後悔でいっぱいなんです!! でも……愛してるの。エーリがいない世界なんて、私には何の価値もないのよ」


「ルイーズだって、同じ気持ちのはずです。オークとルイーズの間に何があったのか私にはわかりません。ですが、少なくともルイーズがエーリ様を愛しているのだけは確かです。彼女も連れていきます」

「ルイーズは!」


 事情を知るオードリーは、ルイーズをオークのいる戦場に連れて行きたくはなかった。

 だが、同時にルイーズだけを置いていくことにも抵抗を感じていた。


「私も最初はルイーズが眼を覚ますまでにこの戦いを終わらせておけばいいと思っていました。でも、それだときっと、彼女の中で何も終わらない。他人任せで解決なんかしないんですよ。私は、連れて行きます」


 そう言うが早いか、ベッドで眠るルイーズを収納するアンジー。

 その決意は固いようだった。


「……わかりました。行きましょうアンジー」

「はい」


 2人の意見がまとまり、いざ部屋を出ようとした時、立ちはだかる男がいた。


「どいてください、アーノルド」

「ちょっと落ち着きなさい」

「私達は落ち着いています。そこをどいてください」


 魔力を全身に漲らせ、アーノルドを睨むオードリー。

 アンジーもまた、睨むように見つめている。


「行くのを止める気はないんだ」

「ではなぜ?」


「ご飯くらいは食べて行ったらどうかな? 2人ともずっと何も食べてないだろう? 腹が減っては何とやらと言うじゃないか。特にアンジーなんか、このまま行ったら戦場で倒れちゃうんじゃないか?」


 ハッとする2人。


 ググゥウウウウゥウウウゥウ〜〜〜〜!!


 直後鳴るお腹。

 赤面する2人。


「お腹が減るのは生きてる証拠さ。まずは食べて、お茶を一杯飲んでから行きなさい。あの光がエーリの物であるなら、簡単に負けるとは思えない。あれは全ての神の頂点。全能神ミルク様と同じ魔力なんだ。だろう?」


 言い含める様に話すアーノルド。

 2人は赤い顔を見合わせ、リビングにあるテーブルセットの方へと向かうのであった。


 30分後、西門前から紫の雷が西へと伸びていった。




 〜〜 帝国軍臨時作戦本部、皇帝専用天幕内 〜〜


「好きな所に座れ」

「はい……お話とは一体なんでしょう?」


 戦場にあってなお豪華な天幕の中、椅子を勧められる。

 エーリは適当に座った。


「その姿(・・・)についてはこの場で聞かぬ。吹っ切れたことだけはわかるからな。そなたに聞きたいのはミルク様のことだ」

「ミルク様、ですか?」


 最上座に座る皇帝は難しい顔をしてエーリに尋ねた。


「そなたはミルク様と連絡を取れるのだろう? 今どちらにいるか知らぬか?」

「ミルク様、ですか? いいえ、今何をなさっているのかは」


 夜戦の前、人知れずいなくなってそのままだ。

 知覚を乗っ取られたことにショックを受けていた様子だった。


「普段は何かにつけ神託をくださるようなお方なのだ。国の一大事にここまで無干渉と言うのが気になってな」

「……他言無用でお願いしたいのですが」

「ん? わかった」


 俺はミルクから聞いたことを話した。


「全能神様の知覚を……その様な存在がいるのか?」

「ミルク様もかなり動揺していらっしゃいました。もしかしたら今も」

「……」


 皇帝もかなりショックを受けている。

 全能神は絶対の存在のはずだからな。

 それが他者に影響を受けるというのは、信仰にも影響が出るかもしれない事態だ。

 本来なら皇帝も知らない方が良かったのかもしれないが。


「ちょっと呼んでみます。魔力を練ることをお許しください」

「構わぬがちょっと待て」


 皇帝が天幕の外に出て戻ってくる。


「急に魔力を練ると護衛が入ってきてしまうのでな」

「そうですね。では始めます」


 全属性魔力を練る。

 その状態のまま呼びかける。


 ミルク……ミルク……ミルク!!


「ちょっと何よ! 大きい声を出して! 聞こえたわよ!」


 そこには耳を押さえてしかめっ面をした全能神様がいた。


「ほっ……良かった。通じた様です」

「エーリ、感謝する」

「えっ? 何? なんなの?」


 全く事情が分からないと言った様子のミルクを見て、俺と皇帝は顔を見合わせた。


「そなたの言っていたこと、本当やもしれぬな」

「はい、恐らく」

「え? なになになになに?」


 俺は昨昼の戦い以降の話を掻い摘んで説明した。


「てことがあって今に至るんだけど、その様子だと知らなかったんですね」


 ミルクは青い顔で放心状態と言った所だ。


「今回は昨日の昼からの記憶が、ないの。私、何をしていたのかしら……」


 今回は視覚の乗っ取りじゃなく、記憶改竄、もしくは完全な乗っ取りか?


「ミルク様、動揺は分かりますが、今私達の目の前にいらっしゃるミルク様は、私達の知るミルク様です。気をしっかりとお持ちください」

「ありがとう、ジョージ」


 慰められ、少し笑顔を取り戻すミルク。

 だが少し考えた後、真剣な顔になる。


「私が不安定な以上、この先の戦いについても感知出来ない可能性があるわ。だから……貴方達2人にはオークの真実を話します」


 オークの真実?

 皇帝も良く分かっていない様子だ。


「ミルク様、その、オークについて、私達が知らない情報がまだある、と言うことですか?」

「そうよ」

「……聞かせてください」


 恐らくとんでもない情報なのだろうが、俺には少し心当たりがあった。

 心臓がドクドクと鼓動を伝えてくる。



















「オークは……元(・)転生者なの」
















「え?」


 皇帝の目が見開かれる。


 やはり、か。


「驚かないのね、エーリ」

「気絶する前に、オークの1人に話しかけられたんだ。『お前の全てを奪いに来る』ってさ。あっちの世界の言葉(・・・・・・・・・)で」

「そう……まだまだ恨んで、妬んでいるのね」


 一つため息をつき、前を向いた。


「これから話すのは遥か昔の話よ。オークが今の様な存在になる原因となった事件」



 そうして、ミルクはポツポツと話し始めた。

間に合った?


いつも見て下さってありがとうございます。


お気に召しましたらブクマ、最新話下の評価をよろしくお願いいたします。

感想もお気軽にどうぞ。

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