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第116話 離別

続きです。

 ……?


 なんだ?


 周りが騒がしい。


「…………!」


 オードリー?


 ? あれ?


 どうなったんだっけ?


「……ーリ!」


 そうだ、オーク。

 オークを倒さなきゃ。


 どこだ?




 ガバッと起き上がる。


「エーリ! ああ……良かった! あぁ……」

「オードリー?」


 オードリーは両手で顔を覆い、その隙間からはポタポタと涙が流れている。

 周りには俺と縁が深い【雷帝】やらアルベルトさんやら、他にも沢山の人達が沢山いた。


 皆何とも言えない顔をしている。


「あれ? オークは?」


「……お前がぜんぶ倒したよ」


 そう答えてくれたのは【雷帝】だった。

 寂しそうな笑顔を向けている。


「あ……良かった。倒せたんですね」


 俺がホッとしていると



 パンッ!



 乾いた音が響いた。


「え?」


 頬がジンジンと生きていることを主張してくる。

 叩かれた? 誰に?


 曲がった首を前に戻すと、そこには目を見開き、歯を食いしばって泣きながら俺を見つめるオードリーの姿があった。


「オー……ドリー?」


「何が……何が『良かった』ですか!! エーリがやったのはただの『魔力暴走』です!! あんなに魔力を放出して! 味方に当たらなかったから良かったものの! あの密度なら掠っただけで即死ですよ?!!」


「いや、あの……でもオークは倒せたんだよな?」


 パンッ!!


「確かに倒せましたよ?! ええ、ええ!! 全部エーリのおかげですとも!! だからなんです?! 味方も巻き込みそうな魔法を躊躇なく使って倒して、褒めてもらいたいんですか?! あれ(・・)を見なさい!!」


 ビッと指差す方向を見る。

 そこには何もない。

 黒焦げとなった平野が広がっているだけだ。

 あれ?


「10km四方」


 ?


「それがあなたが消し炭にした森の大きさです!」

「あ……え?」


「オークは死にました。でも、もしかしたらあそこに助けを求めていた人がいたかもしれないんですよ?!」

「!!」


「考えなかったんですか? 考えなかったんでしょうね。確かに、オークの卑劣な策は助けを求める人と味方の兵士の命を奪いました。でも、あれで最後かわからないでしょう?! もしかしたらまだ間に合う、助けられる人達がいたかもしれないじゃないですか!! それをあなたは……!!」


 両膝に置いた手を力一杯握りしめ、下を向いて涙を流すオードリー。

 言葉が出てこない。


「それに……」


 顔を上げたオードリーの顔は、引きつった笑みを浮かべていた。


「エーリ、あなた。誰と一緒なんでしたっ《・・・・・・・・・・・》け(・)?」




 え?



「誰? ……あれ?」



 身体にいつもの感覚がない。

 食いしん坊で、いつも明るいあの子の感覚が、ない。



「アンジー……は?」



 自分の周りをキョロキョロと見回すが、姿が見えない。


 その時、俺を囲っていた一部が開いた。

 遠くに人影が見える。

 倒れた誰かに魔法をかける人の姿があった。


 あれは


「ノーマンさん?」


 遠くにあってなおわかる必死な顔。

 周りにいるのは魔法鞄の皆か。


 祈るように目を瞑る彼女達から、ノーマンさんに向かって魔力が流れ込んでいるのがわかる。

 かなり大量の魔力を流し込んでいるようだが、焦りを孕んだ顔は一向に晴れない。


「アンジーはエーリの魔力を間近で受けながら、周りに被害が出ないように自分に収納し続けていたそうです。容量自体は問題なかったようですが、エーリから溢れ出る魔力の出力が高すぎて、収納が追いつかなかった分がアンジーの身体を焼きました。私達が見つけた時、アンジーの身体は黒焦げて、息も絶え絶えだったんです」

「そん、な……」


「一瞬だけ意識が戻ったアンジーが、最初に口にした言葉が何かわかりますか?」
















「『エーリ様は無事ですか?』だったんですよ? 自分が死ぬかもしれない時に、エーリのことを心配していたんです!! あの子は!!」


「あ、ああ……」


 俺は、俺は。


「それなのにあなたは! 自分を、味方を守ってくれていた仲間を忘れて敵のことだけ考えていたんですか?! 自分一人で戦っているとでも思っていたんですか?! その結果がこれ(・・)です!!」


 両手を広げたオードリーの周りは、死屍累々。

 黒焦げになったオークの死骸、森だった場所。


 遠巻きにこちらを見る兵士達の顔は、一緒に戦っていた時のような仲間を見るものではなく。

 いつ暴走するかわからない危険物を見る目に変わっていた。


「……アンジー達魔力鞄はどんな怪我を負っても、適合する魔力と設備があれば復活出来るそうです。行きなさい……。行ってアンジーを救ってきなさい!!」


 首をしゃくり、アンジーの方へと促された。

 無言で立ち上がり、ノロノロとアンジーの元へ向かう。

 その一歩は果てしなく重く、彼女までの距離は無限と思えるほど遠かった。


 それでも歩いていれば前へと進んだ。


 自分では永遠に感じられる時間をかけ、ようやくアンジーが見える所まで来た。


「あんた……」


 俺に最初に気づいたのは、昔指を噛まれたエリザベータだ。

 魔法鞄達に話しかけて道を開けてくれる。


 開いて出来た道の先にいたのは……


「アンジー」


 全身黒焦げ、四肢は炭化して崩れているアンジーの姿だった。


 ノーマンさんが俺を見上げ、悲しそうに呟く。


「魔力がね、合わないんだ……。誰の魔力も、属性も。君のじゃなきゃ、ダメなんだ。頼む、アンジェリーナを、救ってくれ!」


 ビシッとキメていた髪は乱れ、ピンと伸びていたヒゲも曲がっている。

 スーツは泥だらけで、手袋も茶色くなってしまっている。

 必死になってアンジーを助けようとしてくれていたのだ。

 俺が寝ている間、ずっと。


 アンジーの横に膝をつき、その髪を撫でる。

 触った所が崩れた。


 あの柔らかなピンクの髪の毛。

 ふわふわで、いつも煌めいていた。

 それが、ボロボロと崩れる。


 彼女に適合する魔力。

 それはこの世界で2人しか持ち得ない色の魔力。


 全てを表す、虹の魔力。

 願いが叶う、幸せの魔力。


 隠す意味などもうない。

 大切な存在を、大好きな女の子を救えるなら、人体実験の材料にでもなんでもなろう。


 俺は自分の全ての細胞に命じた。


『彼女(アンジー)を救え』


 と。


 出来たのは虹の玉。

 俺の全魔力と生命力を注ぎ込んだ魔力の塊。


 魔力欠乏とそれを超えて魔力生成を行った反動で、生命活動にも支障が出ているがそんなことはどうでもいい。

 ボヤけて見えずらくなった視界に映るノーマンさんに差し出す。


「これ、を……」

「エーリ君、君は……。わかった」


 ノーマンさんがアンジーに魔力をゆっくりと沈めていく。


 ……


 ……


 ……


 パキ


 黒焦げだった身体にヒビが入り、中から虹色の光が見え始める。


「お父様!! アンジーが!」

「?! ああ、何と……! 皆、店へ急ぎますよ!」

「「「「「はい!!」」」」」


 ノーマンさんがアンジーを抱っこし、帝都へ走る。


「邪魔よ!!」


 ドン!

 バシャ!


 突き飛ばされ、泥水に尻餅をついた。

 ボンヤリとノーマンさん達を見送る。


 アンジーは、助かるのだろうか?


 なら、いいな。




 しばらくして、【雷帝】が近づいて来た。



「エーリ、こんな時に悪いんだが」


 そう言うとポリポリと頬をかく。


「お前に対するミルク帝国の決定を伝える。冒険者の資格剥奪と、ミルク帝国民としての戸籍を除籍とする。本当はお前を殺したり、牢に入れろと言ってきた奴らもいたんだが、あんな魔法を使うやつを殺したら、今度はどんな魔力暴走を引き起こすかわからないってのと、お前を帝都内に入れたくない、と言う理由やそもそもお前を入れておける牢屋があるのか? って理由からこの決定になった」


「そう、ですか」


 決定に大した意味はない。

 今となっては、もう。


「俺や他の将軍含め、皇帝や高ランク冒険者達からは反対意見も出たんだが、直接見た兵士達やお前を知らない冒険者、国民から色々あってな。……すまん」


「いえ、いいんです。それよりも、アンジーを、ウチのメンバーをよろしくお願いします」


「……わかった」


 よろめきながらも立ち上がる。

 チートなスペックのおかげか、もう魔力欠乏は終わったようだ。


 遠くにいるオードリーと目が合う。

 悲しそうな目。

 彼女にあんな目をさせてしまう日が来るなんて。


「オードリー、皆を、頼む」


 きっと声は聞こえていない。

 でも、俺の唇を読んだのだろうか、泣き崩れる姿が見えた。


 背中を向けて歩き出す。


 上空からエクレールが降りて来た。


「クルゥ」

「エクレール。ごめんな、怖かったろう?」

「クルルル」


 俺に擦り寄り、顔を近づけてくる。

 優しく撫でてやり、そっと押し返す。


「エクレール、頼みがある。皆を、守ってやってくれ。出来るか?」

「クルゥ」


 悲しそうな表情で俯く。


「お前にしか頼めない。俺の最後の願いだ」

「……クルァ!!」


 少し考え込んだ後、翼を大きく広げて雷を纏う。

 任せて! と言っているように感じた。


「ありがとう。……じゃあ、俺は行くよ」


 一歩、二歩。


 重い足に魔力を通し、無理やり前に進める。


 引きずるような歩き方が変わっていき、やがて走り出す。

 逃げるように。


 いや、逃げていた。

 己を信じていた者達を裏切り、その事後処理も全て押し付けて逃げ出していた。


 何の進歩もない。


 転生する前と何も変わらない。

 結局は他人の力を借りて自分は逃げ出しただけだ。


 抑えきれない心の叫びは、そのまま魔力となって身体を前へと動かしていく。


「あ゛ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 泣きながら、叫びながら走る。

 ひたすら前に。




 朝日が眩しく、雲ひとつない青空が広がるこの日、『虹の絆』は解散した。

 冒険者でもなく、ミルク帝国民でもなくなったただのエーリは、無意識にある方向に走っていた。


 生まれ育った、我が家へ。

年内最後のお話が悲しいものになりましたが、必要なお話なのでご容赦ください。


そして皆様、良いお年をお過ごしください。


いつも見て下さってありがとうございます。


お気に召しましたらブクマ、最新話下の評価をよろしくお願いいたします。

感想もお気軽にどうぞ。

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