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第115話 オーク大戦 〜 夜戦 〜

続きです。

 西門前に向かう。


「折角風呂入ったのにな」

「こればっかりはしょうがないですよ」

「ご飯が食べられて良かったです」


「「……確かに」」


 腹が減っては戦はできぬ、か。

 まだマシだと思おう。


 バタバタと兵士や冒険者も集まってきた。

 その顔には苛立ち、焦り、恐怖などの感情が見て取れる。


 西門前に到着すると、既に相当数の兵士達が集まっていて、陣を形成していた。

 城壁からは魔法の光が煌々と照らされ、遠くにいるオークが見て取れた。


 森の中を音もなく進軍してきたオーク軍。

 その身体には泥で汚した草などが付着していて、さながら迷彩服を纏った軍人の様である。

 今夜は新月。

 這い寄る様にここまで来たが、魔法の光でバレてしまったと言うことだろうか?

 こんなことも出来るとは、昼間でも森への探索が厳しくなるぞ。


 迷彩仕様のため数もとのくらいかわかりづらいが、オークからオークメイジくらいまでが揃っているのが見える。

 だが動かない。

 オークジェネラルの指示でも待っているのか?


 俺が考えていると、兵士が一人近づいて来た。


「『虹の絆』エーリ様とお見受けいたします」

「はい。何か?」

「皇帝陛下がお呼びです。申し訳ありませんが、お一人でお越しください」


 思わず2人と顔を見合わせてしまう。


「何でしょう?」

「余り良いお話ではなさそうですね」

「とにかく行ってみるよ。2人はここにいてくれ。基本【神域】からは出ないで、出る時はエクレールに乗って上空観察で」

「「はい」」


 2人に指示を出し、兵士について行く。

 城壁の上では皇帝、軍団長、魔術師長、【炎帝】が話をしていた。


「エーリ様をお連れしました」

「おお、ご苦労だった。下がって良い」

「はっ!」


 連れて来てくれた兵士が帰ると、皇帝は開口一番質問してきた。


「エーリ、お前あれ(・・)をどう見る?」


 親指でオーク軍を指差す。


「……多分誘っているんだろうな、と思いますが」

「だろうな」


 溜め息混じりに同意する皇帝。

 あれは罠なんだろう。


「あの格好で近づく所までは成功したのに、すぐに攻撃に移らない所。わざわざ広がってどんなオークがいるのか見せてくる所などが不自然です。数の優位があるから問題ないと思っているのかもしれませんが、それにしては展開が遅過ぎます」

「かといって不用意に近づくことも出来ぬ、か。忌々しい」


 眉間に皺を寄せ、苦々しい顔でオークを睨みつける。


「そこで、だ」


 ガシっと肩を掴まれる。


「ちょっと軽く遠距離攻撃を頼むことは出来ぬか? エーリよ」

「え?」


「そなたは並外れた魔力量を誇っておるのだったな?」

「……誇った記憶はありませんが、多少多いのは確かです」

「その魔力でもって、ちょっと一発かましてくれ」

「色々面子とかあるのでは?」

「そんな物に拘ってる余裕がもうないのだ」


 困った様な顔で言われる。

 皇帝のお墨付きを頂いたのだから、遠慮なく敵陣に向け攻撃出来るのだが……。


 俺の本能か、勘が警鐘を鳴らしている。


 やめておけ、と。


 何か得体の知れないものを感じ取っているのだろう。

 昼間、子どものオークがやってきたこと。

 あれと似たものを感じている。


 こちらから一方的に攻撃出来たとして、それを後悔させる様なことをしてくるのではないか?


「魔力的には問題ないのですが、今までの経験や勘が『やめておけ』と言っています」

「何かある、と?」

「恐らく。今夜は新月ですから、元々黒い体毛のオーク達は見えにくくなっています。そもそもここまで接近を許してしまっている時点で今戦うのはリスクが高いです。森に何が潜んでいるかもわかりませんから」

「ふむ……」


 今後について皇帝が考え始めたその時、


「陛下、オークが進軍を開始しました」


 軍団長の声でオークの方を向く。

 オーク達はゆっくりと、整列して進み始めた。

 上から見る限り、森から次々とオークが出てくる。

 その様は森が少しずつ迫っているかの様だった。


「いかがなさいますか?」

「……奴らとの距離が半分になった段階で長槍部隊に突撃をかけさせよ。オークがそれに反応したら引きつけた上で魔法による攻撃を行う。それまでは待機だ」

「はっ」


 相手の出方を待つ感じか。

 皇帝は俺の方を向いた。


「エーリよ。そなたは東地区の戦闘でゴルドンと同じく【大軍創造】を行なったそうだな?」

「はい」

「あれによって多くの兵が助けられたと聞いた。今回の長槍部隊にも付けてもらえぬか?」

「それであれば喜んで」

「頼むぞ。諸将には伝えておく」


 補助なら大丈夫そうだ。

 早速戻ろう。


 皇帝のそばを離れ、オードリーとアンジーの元へと戻った。

 話したことをそのまま伝える。


「確かに、不気味ですね。私はエクレールに乗って上から観察します」

「頼んだ。アンジー、エクレールを」

「はい」


「クル?」


 西門近くにエクレールが現れる。

 ここはどこだ? とキョロキョロしているのが可愛い。


「エクレール。ここは西門前だよ。これからまた戦闘が始まる。オードリーを乗せて上に行ってもらえるか?」

「クルァ!」

「お願いします」


 魔力を補充してやり、アンジーからも肉を食べさせてもらう。

 お腹も満たされ気合十分のエクレールは元気よく夜空へ飛び立って行った。

 上空に浮かぶ紫色の光が綺麗だ。


「じゃあアンジー、やろう」

「仰せのままに、ご主人様」


 こちらも戦闘準備は終わった。

 長槍部隊の所に行くと、部隊長が出迎えてくれた。

 俺が協力することの話は通っていて、10歳の俺に対しても馬鹿にすることなく寧ろ感謝してくれていた。

 どうやら東地区での話を部下から聞いていた様だ。


 これならやりやすい。

 事前の情報共有は大事だと痛感するな。


 友好的なムードの中俺は遠慮なく魔力を練り続け、


「【大軍創造】!」


 前回よりも数は少ないものの、より強さを増した土兵を作り上げた。

 攻撃補助と防御力の向上がなされている。


 程なくしてオーク軍がとの距離が当初の半分になった。


「奴らが予定線を越えた! これより突撃を開始する! 全隊私に続けぇ!!」


 部隊長が叫び、長槍部隊が突撃を開始した。

 槍衾が猛然とオークに向かって突っ込んで行く。

 兵士達の横にはピッタリと土兵が付き添う。


 こちらの突撃にも進軍速度が変わらないオーク軍だったが、残りの距離が50mを切ったところで俺の勘が当たる。


 矢が飛んできたのだ。

 真っ黒な、瘴気に侵された矢が。


 上からではなく、前(・)から。


 その矢は最前列にいるオーク達の身体の間から放たれていた。

 恐らく迷彩用の草などに紛れて見えていないオークソルジャーの弓兵が放ったのだろう。

 不用意に突っ込んでいけば、何が起きたかもわからないままやられていた可能性が高い。


 だが、土兵がその全てを防ぐ。

 普通この距離で放たれた矢の威力は、鎧を簡単に貫通する。

 しかし今回は俺が練り上げた魔力を使用した土兵が守ったのだ。


 長槍部隊は勢いそのままにオークへの攻撃を開始する。


 が、ここで予想外のことが起きた。


 オークが盾を構えたのだ。黒い盾を。

 今まで防御などしてこなかったオークが。


 そして予想外はこれだけではなかった。



「全隊止まれぇええええええええええ!!!」


 部隊長の絶叫が響く。


 オークに向けて突撃していた長槍部隊は、その槍先を突き立てることなく止まってしまった。

 相手の攻撃を防ぎ、こちらの攻撃が届こうとした瞬間、なぜこんなことになったか。


 部隊長含め兵士達は気づいたのだ。






 盾に、人が括り付けられてい(・・・・・・・・・・)る(・)のを。






「んん……ん……」


 顔には黒く塗られた麻袋の様なものが被せられ、服も同じく黒く塗られている。

 口には詰め物か何かが入っているのだろう。

 何か言っているようだがその言葉はわからない。

 何にせよ、もし知らずに突っ込めばこの人達に槍が突き刺さっていたことだろう。


 だが止まってしまった長槍など、相手にとっては格好のエサだ。

 槍は踏まれ、また掴まれて攻撃出来なくなり、逆にオークの攻撃がこちらにきた。


 そのほとんどは土兵が防いだが、槍を掴まれて放り投げられた兵士は上空高く舞い、後ろから放たれた矢に貫かれて絶命していた。


 長槍部隊は槍を捨てて抜剣。

 必死に応戦に入る。

 だが、オーク達は盾を前面に押し出したり逆に盾で攻撃するなどして兵士達の攻撃を悉く潰していく。


「クソが!!」

 土兵達もその攻撃から兵士を守るのがやっとで中々攻撃出来ない。

 盾の攻撃も、括り付けられた人を傷つけないように土を柔らかくするなどの作業が入る。

 その都度込めた魔力が減っていった。


 本陣も長槍部隊の異変を察知し、すぐさま他の部隊を投入。


 乱戦へと突入していった。


『エーリ! 盾を持っているのは最前列のオークだけのようです! まずそこを何とかしてください!』


 オードリーから情報が入る。


 了解!!


 俺も戦列に加わり、ゲム魔法でオークから盾を奪い取っていく。

 今は奪い取ることに集中!

 これさえなければ兵士達と土兵で何とかなるのだ。

 奪い取った盾はゲムで後方まで運び、即座に回収してしもらう。


 早く、早く。

 一刻も早く全ての人を救う!


 俺は無心で奪い続け、5分後ようやく全ての盾を奪い取ることに成功した。


 盾がなくなったことで憂いがなくなった兵士達は、昼と同じくオーク達と熾烈な戦いを繰り広げた。

 だが、オークソルジャーやオークメイジが混じっていることで被害は増加。

 少しずつ、少しずつ兵士達の数が減っていく。

 乱戦につき、大規模魔法は後方向けにしか使えない。


 後から後からやってくるオーク達を減らすことは出来ても、最前線のオークについては地道に倒すしかないのだ。

 遊軍である冒険者達も活躍しているが、そもそも冒険者の数が圧倒的に少ないため戦局は一進一退の様相を呈した。


 俺は戦場を駆け回り敵を倒し続けた。

 チラッと後方を見ると、盾に括り付けられた人達が解放されている。

 麻袋を外し、口に入った詰め物をとってもらっている。


 良かった、あっちは何とかなりそうだ。

『皆さん無事のようです。……良かった』

『後はオークだけです。頑張りましょう』


 俺達が気合を入れ直した、その時だった。







 ドカァアン!







 その後方で、爆発が起きたのは。




「?!! 何が起きた?!!」

「敵の攻撃か?!」

「隊長! 後方部隊に甚大な被害が!」

「! 何ということだ」



 俺達も思わず動きが止まる程の出来事。


 オードリー……何が起きたんだ?


「私にも何がなんだか……。ああ、そんな。…………なんてこと……!」

 どうしたんだ?!! 教えてくれ!!


 悲しみ、怒り。

 その他ないまぜになった感情がオードリーから流れ込んでくる。

 そして、その感情を作った原因が、オードリーからもたらされた。


『あの爆発を引き起こしたのは……盾に括り付けられた人達のようです』

 なん、だと……?!


『エクレールが見ていました。解放された人達が兵士を突き飛ばし、離れようとして……直後お腹の辺りから爆発。……助けようとしていた兵士諸共吹き飛びました』


 ぐらりと目眩がした。


 助け出せたと思った。

 これでオークに集中出来ると思った。


 なのに、なのに、なのに、なのに……!!!



 プチ



「……もういい」

『エーリ?』

『エーリ様?!』


 俺の中を怒りと憎しみが支配していく。

 奴らは絶対に許さない。

 全部全部殺してやる。


 俺が、この手で……!!


 腹の下から魔力が溢れていく。

 リミッターが解除され、全身の細胞が沸騰したようにボコボコと魔力を作っていく。

 溢れた魔力は雷撃となって周りに落ち始め、睨んだだけでオークに落ちていく。


 一歩踏み出すごとに100、200とオークが黒焦げになっていく。

 味方の兵士ですら後ずさり、遠巻きに見られるようになった。


『……ーリ!』

『……様!』


 何か聞こえてくるが、今はいい。

 オークを殺すことが先決だ。


 腕を振れば【千客万雷】が発動し、辺り一面雷の嵐が吹き荒れる。

 攻撃してきたオーク達は触れる前に感電して死んでいく。


 なんでこれをもっと早くやらなかったんだろう?

 俺が全部殺していれば、誰も死なずに済んだんじゃないか?


 ……また守れないのか?

 国軍のクソ野郎どもの時みたいに、また大切な人を傷つけてしまうのか?


 いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ!!


「……お前達なんか皆死ね。【塵雷(じんらい)】」


 俺の目の前に紫色の光の柱が落ちてきて、目の前の森ごと焼き払った。


 右を見て、左を見る。

 見渡す限りはオークの姿は見えない。

 良かった、倒せた。


 後ろを振り返る。

 兵士達は俺を見て止まっていた。

 全部倒したよ。

 もう安全だよ。


 そう言おうとしたが、言葉が出てこない。

 おかしいな、言葉って、どうやって話すんだっけ?


 首を捻っていると、兵士達が俺の後ろを指差している。

 その顔はどれも驚愕に彩られていて、よく見ると失禁している者もいるようだ。


 どうしたんだ?


 そう思って振り返った。


 そこには、俺と同じくらいの大きさのオークがいた。


 なんだ、まだいたのか。

 早く死ねよ。


 雷撃を落とした。

 そいつは右手を上にして、雷撃を弾いた。


 殴る。

 止められる。


 おかしいな、このオーク、死なない。


 不思議に思っていると、そいつがニコッと笑った気がした。

 オークに相応しくないほどの爽やかな笑顔。


 不意に抱きしめられた。


 耳元で囁かれた言葉に驚いて、そして、俺の意識はそこで途切れた。













 そいつはこう言っていた。















「また来るよ、エーリ。君の全てを奪いに」

深夜のテンションで書き上げたので、色々と変な所があると思いますが、生温い感じで見ていただければ……。


いつも見て下さってありがとうございます。


お気に召しましたらブクマ、最新話下の評価をよろしくお願いいたします。

感想もお気軽にどうぞ。

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