第114話 オーク大戦 〜 休戦 〜
続きです。
東地区の戦闘が終わり、程なくして全地区の戦闘が終わったことが告げられた。
被害はそれなりに出た。
ミルク経由で聞いたところによると、この戦場にいたミルク帝国軍兵士は300万人。
冒険者は4万人。
これらには後方支援の人数も含まれる。
その内生き残ったのがミルク帝国軍兵士208万人。
冒険者3万5千人。
対するオーク軍の総数は報告によると約800万体。
その内生き残ったのが約500万体。
倒した300万の内、レベル1のオークが200万。
それ以外は高レベルのオーク達だった。
結果だけ見れば人族側の勝ち。
だが、損耗率で言うと大差はない。
ミルク帝国軍約3割、オーク軍約3割7分が削れた。
あのまま戦いが続いていたら、数の差で負けていただろう。
よくて相打ちだが、それはこの戦場に全オークがいた場合である。
恐らく予備兵や増殖用のオークも多数残っているだろう。
それを考えると、たとえ刺し違えてここにきたオークを倒し切ったとしても、皇帝、将軍、高ランク冒険者が食われ、結局オークの強化に手を貸すことになる。
そうなれば恐らく【神域】は消え去り……やがてオークキングが誕生するだろう。
それに、今日だけで92万5千人、亡くなったのだ。
1つの都市の人口に匹敵する数がこの数時間で消えた。
生まれ、育ち、愛し愛され、今日まで紡がれた短くないそれぞれの歴史が、この数時間で。
【神域】内、帝都グランドミルキスタ。
各地区のギルドや帝城地下の闘技場には即席の救護所が出来ている。
死んではいないものの、怪我人も多く、その程度は人それぞれだ。
かすり傷で済んだ者もいれば、部位欠損や瘴気に侵されて精神を病んでしまった者など、様々な傷病者が数多く出た。
この世界の魔法は、部位欠損も『ある程度』修復出来る。
『ある程度』というのには理由がある。
例えば指程度であるなら、健康な部位の肉や骨などを自分で補ったり出来るため、自分の回復能力を極限まで高めることによって修復が可能だ。
だが、これが腕、足などになってくると話が変わってくる。
ここまでいってしまうと、もはや自分の回復力を持ってしても修復が不可能になる。
切り落とされただけなど、綺麗な状態であるならば細胞を繋げて修復することは可能だが、傷口部分がかなり傷ついてくると、途端に成功率も変わるらしい。
ここら辺は地球の医療レベルにも近いものがあったな。
この世界の魔法も、万能ではないらしい。
そんなことを考えながら歩いていると、兵士達の姿が見えた。
勝利の余韻に浸る者、死んだ仲間を悼む者。
各々が自分のなかで今日の戦いを振り返っている。
俺達も今日の出来事を振り返り、互いの無事を喜ぶとともに、今後について考えていた。
「今日の戦い、どう思う?」
「……不可解なことが多かったように思います」
「ああ、俺もそう思う」
オードリーも感じていた違和感。
「なんで西側はオークだけだったのか」
「なぜ最後まで戦わなかったのでしょう?」
「全方位での戦いになった時、数で優っているのに回り込んだり、【神域】への攻撃をしなかったのも気になります」
「うん、何かとても嫌な予感がする」
乗り切った達成感も、勝利の余韻も、戦闘が終わった直後からどんどん減っていっている。
身体を休めていても心が全く休まらない。
それは、実際に戦ったからだろうか?
文献や映像、事前に得た知識とは明らかに違う何かを感じ取った。
生ある者への憎しみ、本能だけではない何か。
「なんだろう。あの感じ、俺も知っているような?」
共感できる部分もあった気がする。
なぜだ?
どこが理解できたんだ?
「……ダメだ、わからない」
「エーリ様、やはり疲れていると思います。一刻も早くご飯を食べて休みましょう」
「アンジー……要は食べたいんだね?」
「じゅるり……はい」
鼻腔をくすぐるいい香り。
それはとある場所から流れてくる。
今夜の炊き出しは東地区が誇る超有名店『へべれけ』の提供だ。
あの激戦にあって参加した店主以下店員全て無傷。
今も元気に料理を作り、提供している。
しかも戦いの後「仕込みがあるから」と言って休むことなくこの炊き出しの仕込みを行い、現在に至るのだから正真正銘の化け物チームだ。
ある意味オークより凄い。
その店主達が作った炊き出しメニューは、『ダイヤモンドブルの牛カツサンドイッチ』『季節の野菜のポトフ』。
外皮がダイヤモンドで覆われたダイヤモンドブル。
硬い外皮と裏腹に、中の肉はどこを食べても柔らかい一級品の旨さの牛だ。
この牛を討伐するにはその外皮をなんとかしなければならないが、これがかなり難しい。
ハンマーで叩き壊せば肉が潰れて台無し。
刃物で切りつけようにも硬い外皮が邪魔をする。
更に突進のスピードと威力もかなりのものなので、そもそも倒すのさえ難しい。
それをこの店の店主は包丁一本で群れごと狩って来ていたそうだ。
普通の皮を剥ぐようにダイヤモンドの外皮を剥がしていたらしい。
絶対にうまいことはわかっている。
先程から口の中に次から次へと唾が溢れ、何度嚥下したかわからない。
昼間にまともなものを食べられなかったからな。
ぐぅうううう!
一気に生きていることを感じさせられる音が腹からなった。
包み紙を取り除いてその姿を目にする。
我慢することは……無理だ。
「「「いただきます!」」」
ガブリと一口。
「……んまい」
パタパタと頬から涙が溢れた。
「美味しいですね」
「ああ、生きてて良かったな」
「もう食べてしまいました……悲しいです」
3人ともすぐに食べ終わったが、まだ食べ足りなかったためアンジーに貯蔵している料理もこっそり食べた。
「はぁ。ようやく人心地ついたって感じだな」
「そうですね。巡回のローテーションまで時間がありますから、『クリザリス香油店』でルイーズの様子も確認しつつ、お風呂に入らせてもらいましょう」
「賛成です。身体がベタベタしています」
「あー、確かに」
数時間動きっぱなしで汗はかなりかいたし、土埃も付いた。
魔法で綺麗にしてもいいのだが、お風呂は心身ともに癒してくれる。
俺達は一路『クリザリス香油店』に向かった。
店ではアーノルドがお風呂を沸かしてくれていた。
なぜわかったんだ? と聞いたら
「何となくそんな気がしてね」
そんな答えが返ってきた。
この数ヶ月で長年連れ添った夫婦みたいになったな……。
お風呂に入り綺麗になった後、ルイーズの様子を確認した。
戦闘が行われていた時も特に変わった様子はなかったらしい。
そのことにホッとしながら、アーノルドと他愛ない話をして時間を潰した。
心と身体が休まり、そろそろ自分達の見回りの時間が迫った頃。
「敵襲!!! 」
「オークの大部隊が西地区に出現!! 動ける兵士、冒険者は西門前に集合せよ!!」
伝令の兵士が叫びながら通りを走っていく。
「エーリ……」
「ああ、行こう!」
「「はい!」」
辺りは暗く、空を見上げれば満天の星空が広がっている。
このままベッドで眠れていたらどれだけ幸せだったか。
そんなことを考えながら、西門へと走った。
長い長い1日は、まだ続く。
8時台……という言い訳。
そういえばいつのまにか100,000PV達成してました!
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