第112話 オーク大戦 〜 転戦 〜
続きです。
戦場は西から全方位へ。
新たな絶望の数は300万。
レベルも上がり、やって来るのはオークの上位種達。
必死で戦う戦士達に焦りが募る。
ここだけでも相当の数が次から次へとやってきている。
今まで何体倒したのか数えきれない。
そこらに転がる兵士やオークの死体がいくつあるのか、数えたくもない。
わかっているのは『途轍もなくヤバい』ということだけ。
焦りから連携にもミスが出始め、そこから犠牲が増えていく。
戦局がカタカタとオークに傾きかけるが、
「狼狽えるな!! 帝都にはまだ100万の予備兵がいる! 更に今現在周辺諸国から救援の軍がこの帝都に向かって進軍中だ! この1日、この1日を乗り越えよ! 確実にオークの数は減っている。オークの巣も片端から潰している! ならばここから先は奴らとの我慢比べだ! 『亜人』、人ならざる者と呼ばれた人間族が、ここまで増えることが出来たのはなぜだ?! それは、我らの先祖が諦めなかったからだ! この程度の苦難など、我らの歴史から見れば些事である! 奴らの数など鼻で笑え! 最後に生き残るのは、我らだ!」
皇帝の檄に、兵士達の攻撃が目に見えて強力になる。
奴らがこちらを1人殺す前に、こちらはその10倍殺している。
ならば、このまま続ければ、最初に滅ぶのは奴らだ。
単純で、短絡的な思考。
だが、人を集中させるにはよりシンプルな思考こそが望ましい。
敵を倒す。
そのシンプルな考えに、ミルク帝国の兵士達は没頭していった。
「獣人よ! 雄々しく気高い獣人族の戦士達よ! そなたらは我ら人間族の憧れだ。恵まれた体躯に溢れる魔力! 素早く走るに魔法はいらず、敵を切り裂くに武器もいらぬ! 人間が持ち得ないものを、生まれながらに与えられた選ばれし種族よ! その強さを我らに見せつけ、この難局を打破して見せよ! 眼前の敵は姿こそ獣人。だがその実、似ても似つかぬ存在であることは明白だ! 獣人族にあってオークにないもの、それは『誇り』! その矜持を! その覚悟を! 今この戦場で示せ!!」
プライドの高い獣人族は、己の種族に少なからぬ『誇り』を持っている。
その『誇り』をくすぐられ、獣人族の戦士達はその攻撃に繊細さを足していった。
力任せの攻撃はより効率的に、個の力から群れの力へと、方向性がガラリと変わっていく。
崩壊の危険さえあった西の戦場は、決定的と言えるほどに人族が優勢を堅持していった。
そして現在、俺は東門から400mほど離れた場所にいる。
皇帝からの命令だ。
【地帝】は北、【雷帝】は東、【炎帝】は南。
直属部隊10万の他に予備兵をそれぞれ25万ずつ与えられ、高ランク冒険者も分配された。
西には皇帝と【風姫】が残り、獣人族と共に戦場を維持している。
【雷帝】率いる部隊とともに東門に行き、オークの軍勢を迎え撃つ。
俺の他に配備された冒険者は、東地区に縁のある者達ばかり。
メイガード家のSランク親子に、[阿吽]の2人。
そして、『へべれけ』の従業員達。
他にもBランク以上の東地区の冒険者達が集まっている。
こちらへ向かって来るオークの数、およそ100万。
遠目に見て西に押し寄せているオークよりも大きく、姿も異なる。
力だけではない、技も、魔法も使いこなす強敵達。
それを統べるオークジェネラル。
激戦となることは考えずともわかった。
「エーリ! お前の成長、見せてもらうぜ」
横に来た【雷帝】、ジェフリー・アーヴァンスレインが俺の肩に触れ言ってきた。
「あれから10年、ですか。多少は成長しましたよ。歩けるようになりましたし」
「ははは! そりゃスゲーな!」
楽しそうに笑うその姿は、少年のような印象を受ける。
この人が【挽肉製造機】なんて呼ばれるんだから、人は怖い。
そんなことを考えていると、イタズラを思いついた顔になる。
嫌な予感。
「ほんじゃ将軍様の俺が命じる。最初はエーリ、お前がかませ」
「……いいんですか? 俺で」
「ああ、構わない。お前なら俺達よりも大規模魔法を早く発動できるしな。その間に俺達は準備を整えることが出来る。いい考えだろ?」
まあ、確かに。
時間稼ぎと敵の実力を見極める魔法か。
……ちょっと癪だけどあの魔法が最適だな。
気落ちしていると、見知った人達が話しかけてくれた。
「エーリくん、強くなったね」
「アルベルトさん。褒めて頂いて恐縮です。ただ、アルベルトさんやライアンさんに俺の魔法が絶対じゃないことを教えてもらって、闘技場で完敗して鼻っ柱折られて……。ルイーズの苦しみもわかってやれなくて。強くなってるとは、まだ」
「ふん。最初からそれだけ小さくなっていれば可愛げもあったんだがな」
「こらライアン。お前だって最初からそんな強さを持っていたわけでもないだろう。小さい頃はよくおねしょをしt「父さん!!!!」」
Sクラス2人がはしゃいでいる。
遠くからオークが迫っているんだが……。
何だかんだライアンさんも気にかけてくれているのか。
『嫌な人だと思いますが、冷酷な人ではないようですね』
ああ、そうらしい。
「何か悩んでいるのか?」
「人生には悩みがつきものであるぞ。我らなど近所の子どもに双子のおっさんと呼ばれておるのが悩みだ」
「双子ではないし、親も年も違うというのにな」
はぁ、とシンクロしてため息をつく[阿吽]の2人。
『もう双子でいいじゃないですか』
『双子で』
「はははは。あ、すみません」
「よいよい。ふむ、ようやく笑ったな」
「お主には笑顔が似合う。そう思うであろう?」
そう言って、纏っているアンジーと飛んでいるオードリーを見る[阿吽]。
この人達も良い人だよな。
『結構抜けてる所もあるみたいですけどね』
『強いだけの人よりも何倍も良いですよ』
うん、そう思う。
「おう、元気か」
『ゴクリ』
アンジー……。
「はい。皆さんのお陰で」
「そっか。んじゃ、今夜は俺らが飯を作るから、それまで頑張れ」
『『「え?! いいんですか?!!」』』
「おう。元々皇帝陛下からも頼まれてたしよ」
そう言うのは元Sランク冒険者、『へべれけ』店主。
名前は未だに謎だ。
これは楽しみが出来た。
気合いが入る。
特にアンジーが凄い。
皆さんの優しさで緊張も気負いも消え去った。
後はやるだけだ。
これまでの縁に感謝しよう。
きっとこの魔法も、その縁の一つ。
恐らく北門でもあいつが同じように叫んでいるはずだ。
自分の中の魔力をゲム魔法で圧縮。
それを取り込んで更に圧縮。
何度もこの工程を繰り返し、全身に巡る魔力を全て圧縮魔力に変換する。
流石に5分ほど時間がかかった。
今にも爆発しそうなそれを、イメージにより魔法へと昇華。
あとは解き放つだけ。
さあ、出でよ。
「「大軍創造!!」」
北と東で土属性の魔力が迸り、大地から土色の兵士が産声をあげる。
その数、北は30万、東は、
100万。
この戦いで初めて数の優位を持てた。
さあ来い。
お前らの戦力、丸裸にしてやる。
「流石のお前もビックリしたか?」
「……ふん、戦いは数じゃないよ」
「数が必要な時もある。5分であの数と質なら十分じゃないか。今この国であんなことが出来る人間はエーリくん以外にはいないぞ」
メイガード家の親子が見守るその背中は、10歳とは思えないほどに頼もしかった。
オークが迫る。
今までの戦いを思い起こし、土兵に平均的な兵士の実力をインプット。
「さあ行ってこい!」
第1陣として送り込んだ。
1体に対して5人であたり、連携攻撃を繰り出す。
攻撃は当たっている、が。
『効果なさそうですね』
ああ。
ハイオーク。
巨体で、力も防御力も普通のそれとは比べものにならないか。
更にオークソルジャーの攻撃は文献通り達人級。
普通の兵士程度では瞬殺。
弓や投げ槍なども飛んで来る。
オークメイジの魔法攻撃も、土兵を木っ端微塵にしているところから障壁は必須か。
それもどこまで通用するかだな。
この戦場にギガントオークはいない。
その後気づかれないように強さをあげたり下げたりして情報を収集。
5分で10万近くやられたが、十分な情報を仕入れることが出来た。
【以震伝心】で情報を共有。
他の戦場へは足の速い兵士の人に伝えてもらう。
「じゃあメインで突っ込むのは俺の直属部隊と高ランク冒険者達だな。予備兵とBランク冒険者は後方からの援護射撃と、倒れたり部位欠損した敵に最大威力で攻撃して即離脱。後は怪我した兵士の後方退去の補助もだ。エーリの土兵を1部隊に5人、つまり1人に1体護衛をつけてくれ」
「わかりました」
「お前達も、ヤバいと思ったら後ろへ下がれ! 死ななきゃ何とかなる!」
「「「「「はっ!」」」」」
これなら予備兵達も精神的に楽になる。
予備兵達に見えていた恐怖が少し和らいだ。
「じゃあ行くぞ! 仕事の時間だ!!」
俺達はオーク軍との戦闘に向け、走り出した。
何とか間に合いました。
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