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第111話 オーク大戦 〜 善戦 〜

続きです。

 脳内に響くのは、皆が崇める全能神。


『何を呆けているの!! 守りたいものがあるのでしょう?! この私の信奉者なら、これくらいの難局乗り越えてみせなさい! それに、この程度で消え失せるほど、私の力は弱くないわ! 全能神の結界、舐めないでよね』


 自信に満ちたその声は、地に潜っていた士気が這い上がってくる。


『(エーリ、魔力貸して)』


 ……ちょっと今月厳しいんだ〜、とでも言うつもりか。

 アンジー、貯蔵している全属性魔力を差し上げて。


『えーと、いかほどご入用ですか?』

『(えー……と、これくらい)』


 頭の中に右手を広げるミルクが出てくる。

 5日分、か。

 やはり結構消費するんだな。


『無駄遣いしないでくださいね』

『(わかってるって!)』


 魔力をもらったらそそくさとその場を後にする感じかいたたまれない。

 この場にいる全てのミルク教信徒に謝れ。


 俺達が呆れていると空にミルクが顕現し、その手から虹色の魔力を城に向かって伸ばしていく。

 呪詛により溶けていた【神域】が、みるみる元どおりになり、あっという間に輝きを取り戻した。


「我らが思いを聞き届け、全能神ミルク様が顕現なされた!! 立て戦士達よ! 崇め奉る我らが神に、その強さをお見せするのだ!!」


 すかさず皇帝が煽る。

 流石だ。



 うなぎ登る士気と、微笑みかける全能神様。

 兵士、冒険者達の戦意は高く、刻一刻と近づく近距離戦闘に向け、兵士は陣を敷き、冒険者達は自分達の実力を存分に発揮するため忙しなく動いている。


 持ち直したことにホッとしていると、ミルクが脳内にやってきた。


 酷く不安に駆られた顔をしている。

 見上げると空には微笑みかける姿が見えるが……。


 どうしたんだ?


『エーリ、なんでこんなことになってい(・・・・・・・・・・)るの(・・)?』


 両腕で自分を抱きしめ、震えている。


 なんで?

 知らなかったとでも言うのか?


『私、ちゃんと見てたのよ? 最近瘴気が多くなっていて、もしかしたら良くないことが起こるんじゃないかって、人間族の大陸を重点的に。でも、平和だった(・・・・・)!! 何も起こっていなかっ(・・・・・・・・・・)たのよ(・・・)!』


 そう訴えかけるミルクの顔は不安、そのものだった。

 この世界を統べる存在であるはずのミルクが恐れる事態。


 全能神の知覚を騙し、人間族を滅ぼしにかかっているものは何か……。

 俺達には心当たりがありすぎた。


 なあ、ミルク。

 俺達の記憶を見てくれ。

 これまでのことがわかると思う。


『……わかった』


 目を瞑り、記憶を読み取る。

 時に驚き、時に眉間にシワを寄せ、最後に閉じた目から涙が零れ落ちた。


『【トラブルホイホイ】……本当にただの才能なの? ルイーズ、辛かったでしょうに。……レイディバロス。心優しくて少しエッチで、いつも冗談ばっかり言ってた子だった。国民からの支持も厚くて、良い王だった。まさか、自分の国を滅ぼすことになるだなんて』


 時折声を震わせ、傷ついた者たちに想いを馳せるミルク。


 なんで気付けたんだ?

 ずっと平和だと思っていたんだろ?


『声が、聞こえたのよ。多分レイディバロス王国の皆のね。何となくおかしいな? って思って、意識を集中したら、平和だったこの場所にノイズが走って、収まったと思ったらこの戦場が見えたの。【神域】が壊れていて、兵士の心が傷付いていた。大量のオークが迫っていてマズイと思って……エーリがいたからなんとかなるって思ったの』


 そうか。

 レイディバロスが救ってくれたんだな。


『そうね。皆ちゃんと私の元まで来れたのよ』


『お二人ともそのくらいで。オークが来ます!!』


 俺達が感慨に耽っていると、アンジーから警告が飛んでくる。


 ミルク、話は後だ。今は奴らを何とかする。


『わかったわ。【神域】の維持は任せなさい。オークは任せたわよ! 私が言いくるめるからゲムも使いなさいな』

 ああ!


 戦闘モードに戻る。

 ゲムが使えるなら負けてられない。

 ブニョン、と久しぶりに大きなゲムが滑らかに動く。

 この感じ、やはりしっくりくる。


 地に感じる振動は最早地震に近い。

 数百m先の森から、遂にオークが姿を現した。


「目標前方! 第1陣、突撃ぃ!!」


 軍団長の声が戦場に響き、ゴーレム騎兵や重装歩兵、長槍部隊などが突っ込んでいく。

 戦場はあっという間に乱戦の様相を呈している。


 1対1では圧倒的にオークが有利だ。

 一般兵の1.5倍程の体格に、素手で人を引きちぎる膂力。

 その毛並みは生半な刃物は通さず、魔法ですら軽減してしまう。


 だが、倒せない相手ではない。

 人間の部隊は5人1組で連携攻撃を繰り出し、着実に攻撃を届かせている。

 歩兵の陽動に引っかかったオークを、重装歩兵やゴーレム騎兵の攻撃が切り倒し、倒れて再生しようとするオークに属性魔法を付与した武器で八つ裂きにして仕留める。


 訓練の成果が存分に現れるものとなっていた。


 勿論被害が出ていないわけではない。

 あちこちで人間族の悲鳴も聞こえ、殴られて潰れたり、引き裂かれる兵士もいる。

 だが、それ以上に人間達はオークを仕留めることに成功していた。



 前線が進撃を止めている間に、遠距離攻撃部隊も次々とオークを仕留めていた。

 破界鎚のお返しとばかりに、投石用の石に魔術紋を施し、敵陣の中に投擲する。

 聖属性を付与された石が砕け、周りのオークを弱体化させることに成功していた。



 対して冒険者も一騎当千の活躍を見せる。


 遠くに見えるのは紫色の霧と雲。

 闘技場で見たものよりも規模が大きい。


 そこを通ったオーク達は軒並み動きが遅くなり、そこを滑る電鰻族の男の雷撃をモロにくらって兵士達の良いカモとなっていた。


 [電電降雨]の二人だ。

 フィールドの制限がない分、生き生きとしているように見える。


 遠くには敵陣へ向け砲撃を見舞う[砲撃中毒]の2人。

 固定砲台と化したブランクが巨大魔砲でオークを薙ぎ払えば、スティンガーも負けじと毛針をオークに突き刺している。

 その針は抜けず、すぐ折れて1度キズ付けたものに継続ダメージを与えていく。

 刺さった部位が変色しているから、毒でも仕込んでいるのだろうか?



 [双竜]の2人やゾラ達などの近接攻撃が得意な獣人族は、その実力を遺憾なく発揮しオーク達を切り裂き、引きちぎり、潰していた。

 中でもバルバルさんが恐ろしい程の強さを誇っている。

 黄金の毛並み、通常のオークの2倍の体躯。

 はち切れんばかりの筋肉は輝きを増し、腕の一振りで数十のオークがバラバラになって宙を舞う。

 倒した後のポージングが謎だが、そのタイミングでオークが爆発するのだから、何か意味があるのだろうか?


 人間族の冒険者も負けていない。

 [阿吽]の2人のコンビネーションはオークに何もさせない。

 奴らが1度攻撃する間に10回は攻撃を見舞っていた。


 ライアンさんが展開したドロドロの液体。

 その上を歩くオークは、徐々に小さくなっていく。


 足元から溶けているのだ。

 ライアンさん目掛けて突っ込んで来るが、誰も触れず、底なし沼に沈むが如く消えていった。

 更に俺のゲム魔法のように、その酸は大地に張られた蜘蛛の巣のようの広がりを見せ、触れたオークを酸の海に引きずりこんでいく。


 Sクラス【溶解】のライアン。


 その名に恥じぬ戦いぶりだった。



 違う場所ではオークが突然膝を折り、つんのめるようにして倒れたまま動かなくなっていく。

 よく見るとオークの間を何かが通り、その後でその現象が起きているようだった。


 オークを1撃で倒すその人は、穏やかな表情で歩く死神。


【確殺】のアルベルトと呼ばれた男。


 オークの身体をノックすると、ビクっとして倒れていく、

 滑る様にオークの間をすり抜け、踊る様に死を振りまいている。

 絶望にすら死を強制するその姿は、いつもの彼からは想像もつかないほど冷酷で、無感情だった。



 また別の場所ではとある伯爵がオークを一撃で膾(なます)切りにしていた。

 聖属性の魔力を身に纏い、剣の横には更に光の剣が浮いている。


 マルス伯。

 2つ名は【一撃千斬】。


 魔力で作り出した光の剣を様々なパターンで並び替え、一撃でその何倍もの攻撃とする。

 1対1、1対多数と、その能力はどんな戦場でも確実に戦果を挙げる。

 彼はこの技で伯爵にまで成り上がった。

 ここが彼の仕事場。

 本来の仕事に戻れた1人の戦士は、その腕を存分に振るっていた。



 人族が戦果を挙げる中、戦場に変化が起きる。


「ぐあぁあああ!」


 兵士が足や手を抑えて苦しみの声をあげる。

 見るとその足や手には真っ黒なオークの返り血。


 ジュウジュウと音を立てながら侵食していくのがわかる。

 その正体は瘴気。


 奴らは死してなお、災厄を残す存在なのだ。


 血で染まった大地はドス黒く染まり、兵士達の中にも瘴気に侵されて気が狂った者が出始めた。


 その時、



 戦場に音楽が流れ始める。


 穏やかな旋律。


 心に温かい気持ちが湧いてくる。


 その音を辿ると、城壁にたどり着いた。

 城壁に居並ぶは魚人族の男女。

 その前には巨大なスピーカーらしき物が置いてあり、歌はそこから広がっていた。


 その歌は瘴気を浄化し、人を、大地を元ある姿へと戻していく。


 兵士の士気も上がり、これならいけると思ったその時、ゾワっとした怖気が背中を走った。


 感じたのは違和感。


 なんだ? 何がおかしい?


 アンジーとルイーズにも違和感を伝え、よく観察してもらう。


 ……


 ……


 ……


 !!


 俺達がその答えに気づいたのは同時だった。



『『「オークしかいない!!」』』


 そう、この戦場で俺達が戦っているのは、レベル1のオークだけだった。

 嫌な予感ほど確実に的中するものだ。


 人族優勢の戦場に、急報が入る。



 城壁に浮かんでいる光の板には、こう書かれていた。




 [北、東、南方面にオークの軍勢出現。推定300万]

なんとか8時台……。

頑張ります。


いつも見て下さってありがとうございます。


お気に召しましたらブクマ、最新話下の評価をよろしくお願いいたします。

感想もお気軽にどうぞ。

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