第109話 オーク大戦 〜 開戦 〜
続きです。
遅れて申し訳ありませんでした。
朝。
と言っても午前5時頃、空が白んでくる時間帯。
いつもより少しだけ早く目が覚めた。
緊張、したからではない。
昨夜ぐっすり眠れたからだろうか。
久しぶりにアンジーも人型で寝た。
油断ではない。
ゲム他探知系魔法を家の中に巡らせたから、入って来た瞬間わかるようになっているのだ。
横に眠るルイーズを見る。
ここ数日何も食べていないが、時が止まったかのように何も変わっていない。
頰を撫でてベッドを出る。
顔を洗って台所へ向かう。
お湯を沸かしてお茶を入れた。
暫くするとオードリーが起きてくる。
「おはようございます、エーリ。早いですね」
「おはよう。よく眠れたからかな。朝ごはんの準備?」
「ええ。手伝ってもらえますか?」
「もちろん」
台所で男女2人、食事の準備をする。
トントントン
「いよいよですね」
グツグツ
「そうだな。緊張してるか?」
パラパラ
「んー、多分。あ、お皿お願いします」
「はいよ」
カチャカチャ
「いっぱい、死ぬんだろうな」
「……でしょうね。相手は世界を滅ぼしかねない災厄ですから」
「だよな」
重い話をしながら、美味しそうな朝食が出来上がる。
その匂いに釣られたのか、アンジーも起きて来た。
「おあようございまふ」
「「おはよう、アンジー」」
3人でい朝ごはんを食べる。
うん、いつも通り美味しい。
「集合時間は何時だっけ?」
「8時ですね。西門前が集合場所になってます」
「いよいよですね」
「うん、頑張ろう」
「はい」
何かの発表会を前にした家族の会話をしながら食事を終える。
いつもよりも落ち着いた気さえする。
「「「ごちそうさまでした」」」
2人に後片付けを頼み、俺は肉を持ってエクレールの元へ向かう。
「おはようエクレール。よく眠れたか?」
「クルァ」
持ってきた肉を食べさせ、雷属性で撫でながら魔力補給をしてやる。
俺の魔力とエクレールの魔力が混ざり合い、パチパチと溢れる程になったのでやめる。
「今日はお前にも働いてもらわないといけないけど、頑張ってくれるか?」
「グルァ!」
エクレールの気合は十分なようだ。
これなら大丈夫だろう。
家の戸締りをする。
ルイーズとエクレールは一時的にアンジーの中へ。
ルイーズはアーノルドの所で預かってもらう。
流石に戦場へ大切な人を連れて行くわけにはいかないからな。
兵士達や冒険者達が門に向かうのとは逆に、東地区へ走る。
時間があればギルドにも顔を出したかったが、あっちはあっちで忙しいだろうからいいだろう。
死ぬ気でなどさらさら無い。
後で会えるから急ぐ必要などないのだ。
『クリザリス香油店』では、いつも通りの笑顔でアーノルドが迎えてくれた。
「やあ皆、おはよう」
「「おはようございます」
「おはよう、アーノルド。悪いけど、今日も頼めるか?」
「もちろん大丈夫だよ。任せてくれ」
「助かる。流石に戦場までは連れて行きたくない。アンジー、ルイーズを頼む」
「はい。じゃあ失礼しますね」
いつもの客間のベッドにルイーズを寝かせる。
ルイーズは変わらず、穏やかな表情で眠っていた。
食事に関しては、アンジーの中にいる時に胃に直接送りこんでいるから、栄養失調で死ぬことはない。
「行って来るよ、ルイーズ」
「次に起きたら全部終わってますから、安心して寝ててくださいね、相棒」
「起きたら皆でご飯を食べましょう。もちろん食べ放題ですよ」
各々ルイーズに話しかけ、顔や身体を撫でる。
早く良くなるように、ミルクに祈った。
「じゃあ、行ってきます」
「ルイーズをお願いします」
「お願いします」
「皆も気をつけて。ルイーズと待っているよ」
頷いて店を後にする。
時間がないため、急いで西門に向かう。
走ることになったが、ちょうどいい準備運動だと思おう。
相変わらず通りには兵士ばかり。
だがチラッと見上げれば時々こちらを見る子どもの姿が時々見える。
無邪気に笑って手を振る子もいれば、目があった途端怖くなったのか、カーテンを閉める子もいた。
警報も出たし、外には出れないし、ストレスも溜まるよな。
どの道この戦いはスピード勝負だ。
すぐに終わらせてやるから待ってろよ。
西門前に到着した。
「うわぁ、これは凄いな……」
「圧巻、ですね」
「端が見えません」
そこには兵士、冒険者が埋め尽くし、見渡す限りの人、人、人。
ゴーレムや従魔の姿もあるが、基本は白、銀、白金?の鎧達が占める。
中には属性がわかる赤や紫と言った鎧の兵士もいる。
【炎帝】や【雷帝】の直属部隊か?
「エーリ、早く行かないとマズいですよ。東地区は端っこですし」
「了解、走ろう」
「「はい」」
急いで東地区の列まで走る。
時々見知った人達を見つけることができた。
初めての闘技場で衝撃を与えてくれた[双竜]、[砲撃中毒]。
俺達に敗北を教えてくれた[電電降雨]。
……何故かいるバルバルさん。
白い歯がきらめいて、そこだけ明るく見えるから目立つな。
あ、ゾラもいる。
目が合ったが逸らされてしまった。
まあ、元気そうで何よりだ。
マルス伯、一際デカい鎧を着て1番前に立っている。
やはりこの人は戦場が好きなのだろう。
いい笑顔で手を振ってくれた。
東地区の列に来ると、[阿吽]の2人が見える。
人間族だから当たり前なのだが、東地区の冒険者になってたのか。
ルイーズがいないのを見て、同じように首を傾げていた。
「エーリ様! あれ!」
「どうした?!」
アンジーが慌てた様子で指差すので、その方向を見る。
そこには、『へべれけ』の店主以下従業員達が勢揃いしていた。
「あれが、どうかしたか?」
「あの人達がここにいるという事は、今夜の夕食は期待できます!」
「……そうか、良かったな」
「はい!」
「アンジーはブレませんね」
ちょっと焦った自分が恥ずかしい。
周りも何だ? って目で見て来るし……。
俺達はチラチラ見られながら列の最後尾に並ぶ。
すると、意外な人物がそこにはいた。
「やあ、久しぶりだね!」
「君か……」
「アルベルトさん?! それにライアンさんも!」
メイガード家の男性陣だ。
ライアンさんは冒険者だからわかるけど、アルベルトさんは引退したはずなのに。
「なんでアルベルトさんがここに?」
「いやー、君達と皇帝陛下の演説にやられちゃってね」
「え?」
「実は……」
アルベルトさんに話を聞くと、おおよそ次のような感じだった。
俺達との夕食会の後、将来が楽しみな冒険者に当てられて久しぶりに冒険者の血が騒いだんだそう。
そこから人知れず鍛錬を再開していた。
そんな中オークの復活を知る。
ギルドにて皇帝の演説を聞いて魂に火がついた。
その場で冒険者の再登録をしてもらって今に至る、と。
「なんか……すみません。ライアンさん」
「全く。それだけならまだ良かったんだ。どうせ冒険者は死ぬまで冒険者だからな。だが……はぁ」
「?」
「理由はそこの雄猿に聞いてくれ」
そう言うとプイッとそっぽを向いてしまった。
なんなんだ?
理由を尋ねようとアルベルトさんを見ると、それはもうニッコニコで、ちょっと引くぐらい機嫌が良さそうだった。
正直理由を聞くのが怖い。
理由を聞こうか迷っていると、アルベルトさんが自分で爆弾を落としてくれた。
「雄猿とは酷いな。両親が愛し合っていて何が不満何だ? 来年にはお前達の弟か妹が生まれるというのに」
……
……は?
ギギギギ、という効果音が聞こえてきそうな感じでアルベルトさんに顔を向ける。
「あ、アルベルトさん。え、と、誰が、産むん、でしたっけ?」
「ん? マチルダに決まってるじゃないか!! ははは! エーリくんも面白いことを言う」
「これは完全に君達のせいだからな。人の親にあんな贈り物をして……!」
苦虫を嚙み潰しまくった顔でライアンさんからお叱りの言葉を受ける。
あんな贈り物 = ネグリジェ + 香油(若いエイミー)⇨ BABY!!
「えええええええええええええええええええええええええ?!!」
「やりましたよ、相棒!」
「……計画通り」
女性陣の不穏な言葉は後で問い詰めよう。
「あの子の存在も後押ししてくれたんだ。大切なものは守り抜かなきゃ、と思ってね」
パクパクと開いた口が一向に閉じない。
余りの現実に思考が停止してしまったその時、
ドン! ドン! と大きな太鼓の音と勇壮な音楽が鳴り始めた。
「おっと、ウチの子どもの話はこれくらいにして、そろそろ気持ちを切り替えよう。皇帝陛下がお見えだ」
「この話は後できっちりケリをつけるからね、父さん」
「ああ、わかった」
目の前の親子喧嘩を聞き流し、何とか意識を戻すことに成功した。
気持ちをリセットして西門を見ると、遠くに皇帝らしき姿と将軍達と思しき姿が豆粒大で見えた。
声が届くのかと思っていたら、城壁に皇帝の顔を写した光の板が出現する。
闘技場で見たやつと同じものだ。
場が静かになると、皇帝がゆっくりと口を開いた。
「ここに集まった兵士、冒険者の諸君。今日、いよいよ我らは世界を滅ぼしかねん災厄、オークとの決戦に臨む。諸君も知っての通り、奴らは我らが友の国、レイディバロス王国を飲み込んだ。周辺諸国と連携して国民の救助を行なっているが、思ったよりもオークの侵食が進んでいて、助け出せた者は少ない。恐らく今のオークの数は調査開始時点の数倍に引き上がっている可能性がある」
「だが!! 我らは立ち上がった! 心なきオークを野放しに出来ないと! 我らは誓った!! 大切なものをこの手で守ると!! そして我らは戦うのだ!! 『心』ある者として、恐怖と共に、臆病を抱きしめ、怒りを力に変えて! これまでの訓練と、鍛錬の成果を奴らに見せつけよう! 奴らが何度でも復活するのならば、我らは何度でもそれを討ち倒し続けようではないか!! よりしぶとく、より執念深いのは誰なのか、奴らに分からせてやれ!! この戦い、絶対に勝つ! 皆の者、準備は良いか?!」
全員が左拳を自分の胸に叩きつける。
ドン! と一際大きな音が、雲ひとつない青空に響いた。
その姿を満足そうに見つめ、大きく頷いた皇帝は、【炎帝】から何か耳打ちされて、俺達の背後をジッと見つめていた。
その姿に疑問を持つと同時に、あることに気づいた。
「……地震?」
微かに、だが確実にわかるくらいに感じる振動。
その答えは、皇帝の口からもたらされる。
「皆、後ろを見よ。……オークだ」
ザッと全員が後ろを見る。
朝日に照らされた西の山脈に、何かがいる。
それは黒い黒い、瘴気を纏った波。
それは雪が積もる山頂から、ゆっくりと黒に塗りつぶしていく。
見渡す限りのオークの軍勢。
全ての生命を蹂躪せんとする悪意の大波。
だが、それに臆する者はこの場にいない。
「奴らが、オークが来る! 殺し、犯し、増えるしか能のない連中が、我らを侮ってやって来る!! 『心』ある我らは見せつけねばならん! 守るべきものがある人族のしぶとさを! 恐ろしさを! 何よりもその強さを! この戦いに己の全てをぶつけよ!! 全軍、戦闘準備!! 奴らの全てを駆逐せよ!!」
後の世に伝えられるオーク大戦。
その長い長い1日目は、こうして始まったのだった。
年末につき、色々とやることがあって書き直しがこんな時間までかかってしまいました。
朝に待って下さっていた方々、本当に申し訳ございませんでした。
いつも見て下さってありがとうございます。
こんな作者が書く素人小説ですが、これからも見てくださると幸いです。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。




