第108話 決戦準備、決戦前夜
続きです。
「辺境軍の再編はどうだ?」
「滞りなく進んでおります。帝都へ向け、後詰めが進軍を開始しました。早い部隊は3日、遅くとも5日で到着いたします」
「よし。遠方の村、町に住む国民の、地方都市への避難は?」
「西側を最優先に各自治体の長、ギルドの支部と連携し進めておりますが、こちらは中々進みません。生活基盤が失われるため、二の足を踏む者が多いようです。特にご老人方に多いと聞いております。また、受け入れ地の地方都市の準備も遅延しております。こちらは単純に容量の問題です」
「避難を渋る者には映像を見せよ。地方都市にて収容出来ぬものは帝都で受け入れる」
「はっ。ですが、移動にかかる時間と物資はいかがいたしましょう?」
「それについては大丈夫だ。エーリ!!」
「はい!」
「国民の避難が間に合わぬ可能性が高い。指定した都市まで行き、あぶれた住民達をアンジェリーナに収納して帝都まで運んでくれぬか? 大規模輸送の許可は出す」
「恐らく可能ですが、アンジーにも聞いてみてよろしいでしょうか?」
「もちろんだ。人が運べぬ場合は物資を運ぶ手伝いをしてもらいたい」
「わかりました」
「魔術師長! 【炎帝】! 結界の……」
バタバタと戦の準備が開始されている。
誰の目にも決意と覚悟、両方が備わっているように感じた。
この皇帝、本当にやってくれた。
もし中途半端な演説をすればそれが兵士にも伝わって、全てが半端なまま戦争になっていただろう。
そうなっていたら、恐らくミルク帝国は滅んでいたと思う。
将軍他強い者が奮闘する中、兵士達は最初こそ良くても仲間が殺される姿を見て腰が引け、さらに多くが死んでいく。
そして戦況は決定的となり、疲弊した将軍や高ランク冒険者が喰われ、敵の力が増し……。
うん、ダメだったな。
だが、今の士気があれば、冒険者も兵士もほぼ100%の力が出せるだろうし、大抵のことでは心も折れない。
流石は歴史ある国の皇帝と言ったところか。
兵士達が忙しく準備する中、俺達は歩いて『クリザリス香油店』に向かう。
空を見上げれば、虹色のオーロラが揺らめいている。
俺達の『心』が乗った、オークに対する宣戦布告だ。
来るなら来い。
『心』在る者の力を見せてやる。
そう言っているようだった。
「私達の魔力も入っているんですよね」
オードリーがオーロラを見つめて言う。
「ああ、しっかり吹き出していたからな」
「エーリはちゃんと制御出来ていましたね」
俺から吹き出した魔力は公式に登録されたものだけだ。
「まあ、いっぱい練習してるからな。それに、皇帝の伝えたいことはわかっていたし」
「そうなんですか?」
「俺も同じことを考えていたからさ。大切なものが傷つけられるのをただ見ているだけなんて、嫌だからな」
守れるように強くなってきたんだ。
今さら逃げ出してたまるか。
「そうですね。その通りです」
「?」
オードリーの言葉はいつもと同じようで、どことなく変な気がしたが、この時はそこまで気にしていなかった。
程なくして店に着く、
ガチャ
「ただ今。アーノルド、アンジー、いるか?」
「……リ様ですか? 今行きます」
てててっと軽い音がして、アンジーが姿を現した。
「2人ともおかえりなさい」
「ごめん、ちょっとうるさかったかな?」
「いえいえ。ルイーズはぐっすり眠ってますから、大丈夫ですよ」
ルイーズの眠る部屋に向かう。
そこには静かな寝息を立てるルイーズの姿があった。
「うん、落ち着いてる」
「安心しました」
自然と笑みがこぼれる。
皆でルイーズの髪を撫で、早く良くなることを祈った。
「ああ、おかえり。疲れたろう? お茶を入れるからリビングに来てくれ」
俺達を見つけたアーノルドが茶菓子も用意してくれた。
食べながら帝城であったことを話す。
「オーク……ここに、来るんですね」
「ああ、そうだ。だから、アンジーの力が借りたい、と皇帝に言われた。アンジーは、どうしたい?」
主人である俺が命令すれば、恐らくアンジーはやってくれる。
だけど、俺はアンジーの主人である前に1人の人間だ。
大切な存在であるアンジーに強要などしたくない。
もし嫌だというならキッパリとことわr「やります」
「……いいのか?」
「魔法鞄として生まれて、これまで多少なりと役に立って来たという自負があります。困っている人がいるならば、手伝うのは当然です。… …と言うのは建前で、本当は収納願望によるものです。エーリ様にも言ったじゃないですか。いーっぱいいろんなものを出し入れしてくださいって」
多分に誤解を招く表現だが、ここにいる全員がアンジーが魔法鞄であることを知っているから、誤解するなんてことは……え? 引いてる?
「あの、ちょ……別に俺が直接的に出し入れするわけじゃないよな?」
「でも……ねぇ?」
「エーリ、流石にそれは……」
「……ぽっ」
こ、この野郎どもめ……!
「ふふ」
「ふふふふふ」
「はっはっはっは!」
皆で笑い合う。
「守りましょう、エーリ様」
「ああ、やろう。力を貸してくれ」
「もちろんです。ね? オードリー、アーノルド」
「ええ」「もちろんだとも」
この場にルイーズがいないことを寂しく感じながら、3人の優しさを嬉しく思った。
「じゃあ、今度は私がお留守番ですね」
「ああ、だけどオードリーには帝都の知り合いの無事を確認してもらいたい。それからエクレールの迎えも。きっと寂しがってる。俺達も行く前に見にいくから、家まで頼む」
「わかりました。お任せください。エーリ達も頑張って」
「ああ」「ええ」
「ルイーズは私が見てるから、安心してくれ」
「頼む」
後顧の憂いを絶って、やるべき仕事をやりに行く。
俺とアンジーは帝城で仕事の詳細を聞いた後、エクレールに会いに行った。
「エクレール、よく頑張ったな、えらいぞ」
「クルルル」
雷属性魔力を与えながら撫でると、気持ち良さそうに目を細めて鳴いた。
エクレールにたっぷりと魔力を与えた後、オードリーに後を託し、俺達は避難民を迎えに走った。
そこから3日間、何度も何度も帝都と地方都市を走り続けた。
時にはエクレールに乗せてもらいながら。
そうして俺とアンジーは3日間で約200万人もの避難民を帝都に移送し終えた。
最後の1人を帝国軍に預けた後、俺達はオードリーに風呂に入れてもらい、泥のように眠った。
この3日間、ルイーズは眠ったままだ。
静かな寝顔で苦しんでいないことはわかるが、やはり寂しい。
寝ているルイーズの頭を撫でながら、早く良くなるようにとミルクに祈った。
4日目。
帝都には合流した辺境軍も含めて約300万の兵士が集結していた。
その大軍を前に皇帝が演説を行う。
明日の明け方には、オークの大軍がこの帝都からも見える距離までやって来るそうだ。
その時点で本格的に戦闘に入るとのこと。
冒険者は遊軍扱いではあるが、高ランク冒険者達には持ち場が設けられ、指定された場所で戦うようにとの通達があった。
闘技場で鎬を削った奴らの名前もあったし、ゾラの所属するチームの名前もある。
俺達『虹の絆』の持ち場も、あった。
ルイーズ抜きの大規模戦闘。
彼女が起きた時、全てが終わっているように頑張ろうと話し合う。
その夜の帝都には緊張感が満ちていて、どこか落ち着かない。
俺達はルイーズの横で、手を繋ぎながら横たわる。
「絶対にこの戦いに勝とう」
「強く、なりましたから」
「きっと大丈夫です」
「……」
いつものあの声は聞こえてこない。
心だけ寄り添い、ルイーズの手をしっかりと握って、眠った。
朝が来て、1日が始まる。
これまでの人生で1番の、長い長い1日が。
戦いの、1日が。
後で修正予定です。
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