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第102話 王家の誇り

続きです。

 西で立ち上る光の柱。


 その音、衝撃は元より、荘厳ながらもなぜか哀しみが感じられる光を前に、俺達は呆然と立ち尽くしていた。


「オードリー、あれ(・・)はなんだ?」

「大規模な魔力の奔流、としか。ただ、何故だか凄く悲しくなります」

「ああ」


 オードリーにも分からない何か。

 だが、とてつもないことが起きていることだけは確かだった。


「ぅうう! ん! ぅあ!」

「エーリ様! ルイーズが!」

「ルイーズ?!」


 ルイーズを見ると寝てはいるようだが、玉のような汗を浮かべながら苦しそうにしている。

 触れている部分から魔力の流れが悪いことは明らかで、このままだとまた魔力暴走を引き起こしかねない。

 事態は一刻を争っていた。


「オードリー! エクレールに乗って帝都に先に行け! 見たこと全て皇帝に伝えるんだ!」

「分かりました! ルイーズを頼みます!」


 オードリーは力強く頷く。

 元々帝城の人間達と面識があるオードリーが行った方が色々と面倒ごとがない気がした。

 恐らく対処を早めないと取り返しのつかないことになりかねない。


「エクレール! 来い!!」

「クルァアア!!」


 上空に待機していたエクレールが急降下して俺の元までやってくる。


「エクレール、オードリーを帝都まで運べ。最速で行くんだ。出来るな?」

「クルァ!」


 バチバチと帯電をして、気合十分といった様子で鳴く。


「オードリー、ゲムを纏わせておくから感電はしない。振り落とされないようにだけ気をつけてくれ」

「はい!」

「あと、最速で飛ぶとエクレールの魔力が持たない可能性がある。アンジー、雷属性魔石をいくつかオードリーに」

「はい。オードリー、頼みます」

「任せてください。エーリ達も気をつけて」


 お互いに頷く。

 オードリーはエクレールにしがみ付き、準備は出来た。


「エクレール、頼みます!」

「クルルルァア!」


 紫の雷鳥は、その名に恥じない速度で空に向かって羽ばたき、すぐにその姿は見えなくなった。


「あっちは大丈夫だ。アンジー、ルイーズを収納してくれ。こっちは走っていく」

「はい!」


 苦しむルイーズに手を当て、収納するアンジー。

 ルイーズの姿は消え、彼女がいた場所に匂いだけが残った。


「出来ました……とても、とても苦しんでいます。エーリ様、早く何とかしましょう」


 収納したルイーズの内面を感じ取ったのか、アンジーが苦しそうに胸を押さえて訴えてくる。


「ああ、急ごう。アンジー、おいで」


 アンジーを纏い、魔力を練り上げる。

 一刻も早く、何よりも早く。


 ゲム魔法と雷属性の混ぜ合わせ、圧縮に圧縮を重ねる。

 自分の周りに金属製魔法でレールを作り、イメージする。


「目指すは光の速さだ。無雷金混合魔法【魔力式電磁加速人間大砲】……長いな。略して【魔電砲(までんほう)】」


 キュン!


 今までにない速度で大地を駆ける。

 俺達は地を流れる雷となって帝都を目指した。





 〜〜 帝都:1時間前 〜〜



 ミルク帝国皇帝、ジョージ・M・ミルキスタは皇帝の執務に追われていた。


「皇帝陛下、次はこちらの書類にサインをお願いいたします。この後定期国防会議もございますので、お早く」


 丁寧な言葉で急かすのは、いつもエーリを案内してくれる老紳士である。

 目を瞑っているように見えて、その実しっかりと監視している。


「(くっそぉおおお! なんでこの時期はこんなに忙しいのだ!! 少しくらい休ませてくれてもいいだろう?!)」

「皇帝陛下、ミルク様との会食等光栄ながらも予定外のことも起こりましたため、執務が溜まっておいでです。諦めて集中を」

「うぐっ!」


 心を見透かされ、思わず歯噛みする。

 恨みがましい目をしながらも、頭をかきながら必死に書類に目を通してサインしていく。


「(こんなことなら戦争でも起きてくれた方がよっぽどマシだな)」


 自分の治世も含めてここ数代、大規模な戦争は起きていない。

 なるべく他国との友好関係を築くようにしてきた成果と言えるが、今だけはそれを恨めしく思った。

 不謹慎だとわかっているため、言葉には出さないが。


 そんな時だった。


 ダッダッダッダッ!


 皇帝の執務室に向かって走ってくる音がする。

 防衛機能も作動しないため、敵ではないことがわかる。


 扉の前で押し問答する声が聞こえ、

「ええい、邪魔だ!!」


 バン!


「うわぁああ!!」


 扉の前の衛士を跳ね飛ばしながら入ってきたのは、いつもは冷静な【風姫】だった。


「皇帝陛下!!」

「【風姫】様。何事です? あなたらしくもない」


 老紳士が嗜めるように片眉を上げて【風姫】に尋ねる。


「無礼なのは重々承知しております。事(・)は一刻を争うのです!」


 一瞬仕事から解放される、と喜びそうになった皇帝は、その一言で皇帝の顔に戻る。


「【風姫】、申せ」

「はっ! 先ほど友好国、レイディバロス王国から緊急通信が入りました」

「緊急? 種類は?」

「……文字による、『王国存亡の危機』の報です」

「文字(・・)だと?!!」


 ガタッ! っと座っていた椅子を倒しながら立ち上がる。


 ミルク帝国に限ったことではないが、各国は敵方であろうと何らかの方法で直ぐに連絡を取る手段を持っている。

 帝国においては魔導具による映像、音声、文字の通信である。

 それらは首脳同士の会談であったり、援助の要請や魔物含めた敵の侵攻を知らせる場合などに使用される。

 本来『王国存亡の危機』などという滅多にない緊急事態なら、映像による首脳同士の話し合いで詳細を知らせ、友好国同士で防衛に当たるのが普通であった。


 それが文字のみ。


 つまり、映像での首脳会談などしている暇がないほどの緊急事態ということになる。

 事の重大さに、老紳士も目を見開き、言葉を発せずにいた。


「……他に、情報は?」


 文字だけだったとしても他の情報も入っているはずである。

 皇帝は続きを求めた。


 だが、


「……【風姫】? どうした、まさか情報がそれだけという事はあるまい?」


 訪ねられた【風姫】は、何か迷っているようだった。


「はい……あの、何分信じがたい内容でして……私も動揺しております」


 皇帝は苛立っていた。

【風姫】の態度にではない。


 言い淀んでいるという事実そのものに苛立っていた。


【風姫】ことカミラ・ジェイルは思ったことをハッキリと言う性格である。

 簡潔に、迷いなく言ってくるため、情報の伝達が早い。

 その性格や仕事の早さを評価され、将軍ながら情報系機関の長を務めている。


 その【風姫】が言い淀むほどの内容。

 沈黙が不安を否応無く増やしていく。


「良い。どんなに信じがたい情報でも、今は必要だ。むしろ言いにくい情報の方が初動には重要だと、お前もわかっているだろう?」


 皇帝は先を促す。

 言いにくい事は後ではなく、最速で話した方が被害が少なくてすむ。

 それが出来るから、【風姫】は情報系の長になっているのだ。


 皇帝のその言葉に、【風姫】は皇帝の目を見つめ、一度目を瞑った。

 覚悟を決めて目を開け、口を開く。


「皇帝陛下、我々に伝えられた言葉を違わずお伝えします。『レイディバロス王国からミルク帝国へ王国存亡の危機を知らせる。『あれ』が発生した。自国の守りを固められたし』」


 言い終わる頃には、【風姫】の顎から汗が滴っていた。

 その場にいた人間全ての動きが止まる。

 ハッキリとした言葉で伝えられた、信じがたい情報。


「なん、だと?」


 耳には入った。

 頭でも理解できる。


 だが、聞き返さずにはいられなかった。


「『あれ』が発生しています。そして文章から察するに、レイディバロス王国はもう、手遅れです」


 再度【風姫】から聞かされ、皇帝は目眩にも似たものを感じ、よろめいた。

 辛うじて立っているのがやっとな状態だ。


「情報の……確度は?」

「通信士含めて何度も確認しましたが、あの魔力波長はレイディバロス王の物に違いありませんでした。あの方はご冗談がお好きですが、王国としての通信で冗談を言うとは考えられません」

「そう、か……」


 意識が遠のきそうになるのを必死で堪える。

 呆けている場合ではないのだ。


「【風姫】、情報を集めろ。より詳細なものをだ。今動かせる最高の諜報部員を動かせ。だが決して単独行動はさせるな」

「はい。既に人員の手配を支持しております。皇帝陛下、各部門へ勅命にて支持をお願いいたします」

「ああ、わかっている。何かわかったらすぐに知らせろ」

「御意!」


 互いに冷静さを取り戻すべく、皇帝と臣の会話を行う。

 話しているうちに何とか、落ち着く事は出来た。

【風姫】は執務室を出て行き、皇帝は倒した椅子を直して座る。


「皇帝陛下、将軍、長官を招集いたします。それまで今後の動きについて少々話しましょう」

「ああ。これから忙しくなる。心せよ」

「はっ!」




 〜〜 約1時間後 〜〜



 謁見の間に将軍以下各部門の長官も合わせ、ミルク帝国の重臣達が勢揃いしていた。

 窓から差し込む光は明るいが、室内に漂う空気はただただ重く、暗い。


 皇帝は戦鎧に身を包み、重臣達を見下ろす。

 その瞳には覚悟の炎が灯っていた。


「皆、よく集まってくれた。1時間前、情報部に友好国レイディバロス王国から緊急通信が入った。内容は既に【風姫】から伝えれられた通りだ。約5,000年ぶりに、この大陸で『あれ』が発生している」


 事前に知っていたからか、集まった重臣達で取り乱す人間はいない。


「【風姫】あの後わかったことがあれば報告せよ」

「はっ! 諜報部員からの報告によれば、レイディバロス王国の首都を取り囲む、黒い集団を目撃しております。また、首都をレイディバロス王国が誇る聖属性結界、【絶界:聖】が囲っており、現状何とか持ちこたえているという状況です」

「その黒いのが『あれ』、という確証は? 目撃というが、間近で見たわけじゃないだろう。別の魔物という可能性もあるのではないか?」


 声を発したのは、ミルク帝国軍団長を務める男。

 厳格そうな顔立ちで、性格も見た目通りである。


「……陛下。映像もございますので、あちらに出します」

「ああ、出せ」


 ブン、と光の板が出現し、やがて映像が映し出される。


 諜報部員が崖の上から遠くのレイディバロス王国の首都を見ている。

 首都の周りには黒い何かが蠢いている。


 距離は遠く、黒い何かもただの点にしか見えない。


 だが、それで十分だった。


 ゴウ!!


 映像を見ていた重臣達から、魔力光が溢れ出す。

 表情も、先程までのどこか懐疑的なものではなくなった。

 ただの点。

 ただの点ですら頂点に立つ者達にこれほどの感情の揺れをもたらす。

 そんな存在は、『あれ』以外あり得ない。


「【風姫】、もう良い」

「はい」


 映像が切られ、重臣達が魔力光が溢れていることに気づいて慌てて抑える。


「……疑ってすまぬ」

「いえ、疑問は当然のことです」


 再び重苦しい空気が場を満たす。

 その空気を切り裂く様に、皇帝のよく通る声が重臣達に向けて発せられる。


「皆わかってもらえたと思う。今回は(・・・)人間族が標的らしい。レイディバロス王は我らに言った。『守りを固めろ』と。その忠告に従う。【神域】を外壁外まで広げる準備を!!」

「「「はっ!」」」


 魔術師長以下魔術部門が一斉に返答する。


「軍団長、将軍は各々軍を纏めよ。『あれ』の特性は知っておるな? 勝手な行動は慎む様厳命せよ!!」

「「「「「「仰せのままに!!」」」」」」


 軍団長、将軍達が右手で剣の鞘の先端を地面に打ち付け、左拳で胸当てを叩く。

 先程までの重苦しいを吹き飛ばす様に、それぞれが自らに気合を入れていた。


 重臣達の士気が十分に高まり、さあこれからという時だった。



「急報!!! 急報!!!!」


 謁見の間に兵士が駆け込んでくる。


「何事か?!」


 軍団長が駆け込んできた兵士を一喝する。


「も、申し訳……ございません。しかし、レイディバロス王国からの緊急通信でございます」

「何?! 王は何と?!」


 皇帝が身を乗り出し、先を促す。

 兵士は一度唾を飲み込み、意を決して口を開く。


「『友よ。我らはこれより最後の手段を講じる。我らで全てが終われば良いが、もし叶わぬ時は、人間族を頼む』」




 兵士が、レイディバロス王の言葉を言い終わった直後だった。




 ーーーーィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!!




 西の空に、光の柱が立ち上る。




 その光景に、全員が釘付けとなる。


「へ、陛下……あれはもしや……?」


 魔術師長が震えた声で皇帝に問う。


「レイディバロス王家に伝わる最終魔法、【王家の誇り】だ。敵を首都に引き込み、王国毎自爆する……。レイディバロスは、滅んだ…………」






 エーリ達も見た光の柱は、国毎消滅させる魔法であった。

 あの時感じた哀しみは、誰のものだったのだろうか。



 その日、アミルヴェルデから、1つの国が跡形もなく消滅した。

いつも見て下さってありがとうございます。


お気に召しましたらブクマ、最新話下の評価をよろしくお願いいたします。

感想もお気軽にどうぞ。

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