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第100話 邂逅

続きです。


本編連載100回目です。


※前日に幕間を投稿しております。よろしければそちらからご覧ください。

https://ncode.syosetu.com/n3704eg/115/

 黒い何かが蠢いている。


 ぎょろりとした目に真っ赤な口。


 ……ああ、『あれ』の大群だ。


 今ならわかる。


 こちらを見てニタニタと嫌な笑みを浮かべている。


 これは夢だ、わかっている。


 夢だとわかっていても、心が泡立つ。


 奴らは敵だ。


 それだけは確かだ。



 ?




『あれ』の中で1つだけ何かが違う。


 ……目だ。


『あれ』は黒いが、それは赤い。


 大きさも小さい。


 まるで人間みたいだ。


 目が合った。


 笑ったのか、目が細められる。


 口が開いて……



 耳元で声がした。



『ただいま』



 と。





 ガバッ!


「……また、か」


『あれ』の夢。

 だが今回は、違う誰かもいた……。


『んぅ……エーリ、さま?』


 勢いよく起きたせいで、アンジーも起こしてしまったようだ。


「起こしてごめん。まだ暗いから寝てていい。俺は起きてるから、密着は解除していいよ」

『はぁい。おやすみなふぁい』

「ああ、おやすみ」


 ネグリジェ姿のアンジーに布団をかける。

 すぐに寝息が聞こえてきた。


「……また、風呂に入るか」


 以前と同じく風呂を入れる。

 今回は『カレン』も垂らした。


 ザブン


「ふぅ〜〜。流石『カレン』だ、落ち着く」


 落ち着いた頭で夢のことを考える。


『あれ』の大群。

 以前よりもはっきりと意識できた。

 つまり、すぐそばまで来ているということなのか?


 そもそも『あれ』はなんだろう。

 普通に考えれば魔物、なんだろうな。

 人を食べ、生殖か卵などによって増える魔物。

 地球にも他の生物に卵を産みつける昆虫がいたから、こちらにそういうのがいてもおかしくはない、が。


「なぜあんなにも心が泡立つんだ?」


 人の様な身体をしているからだろうか?

 ……そうかもしれないな。

 見た目が全然違えば『気持ち悪い』の一言で済むが、同じ見た目をしていれば話は別だ。


 後はあの、赤い目。

『ただいま』と言っていた。


 ただいま……ただいま……ただいま?


「まさか……!」


 急いで風呂を出て寝室に向かう。


「オードリー! オードリー起きてくれ!!」

「んぅ……? エーリぃ? まだ夜ですよぉ?」


 ゆさゆさと揺り起こすが、寝ぼけているようだ。

 仕方ない。


 バチ!

「きゃぁ! な、何するんですか?!」


 軽い雷撃を少々。


「ごめん! 事情は話すから、まずは俺を【鑑定】してくれ!」

「ほぇ?! え? あ……はい。あ、でも2人も起こしましょう。鑑定中は無防備になりますから」

「え? ああ、そうだな」


 どうやら随分と焦っていたらしい。

 少し冷静になって2人を起こす。


「んぅ〜〜? もう朝だったかしらぁ?」

「ほや?」


「ごめん。特にアンジー……一度起こしておいてもう一回なんて。ちょっとオードリーに鑑定してもらうから、その間頼む」


 鑑定という言葉に、2人の意識も覚醒する。


「どういうことぉ?」

「鑑定、ですか?」


「ああ、夢を見たんだけど、その中で『ただいま』って、言われた」


「ただいま……?」

「エーリくん、それって」

「【トラブルホイホイ】、ですか?」

「?! エーリ、本当、ですか?」


 皆の顔に緊張が走る。


「ん〜〜、多分な。だから鑑定して確認する。オードリー、頼む」

「はい」


 鑑定が始まる。




 〜〜 精神世界 〜〜


「ふう。久しぶりだな」

「あー、そういえば。でもミルク様もいないですから、2人きりなんて何気に始めてですね」

「お〜〜、確かに」

「……」

「……」


 ぽっ


 なぜか急に恥ずかしくなる。

 お互い顔を赤らめて視線を外してしまった。


「じゃ、じゃあ早速始めましょうか!」

「お、おう!」


 なぜ初夜を迎える夫婦みたいな感じになってるんだ?!

 ま、まあいい。

 おかげで緊張はなくなった。


「じゃあ出しますね」

「ああ、頼む」


 ブン、と俺達の目の前にステータス画面が出てくる。


「【トラブルホイホイ】……ありました!」

「!! これは……」


 そこに書いてあったのは、



 [トラブルホイホイ]:ただいま



「……やっぱりか」

「こんなに不吉な『ただいま』は初めてです」


 重い空気が流れる。

 予感はしていたが、いざ現実を突きつけられるとやはり嫌なものだ。


「とりあえず戻りましょう。2人やミルク様にも相談した方がいいでしょうから」

「ああ、そうだな。……?」


 オードリーの方を向いて話していると、目の端で何か動いたような気がした。


「どうしました?」

「今、何か……なっ?!!」


 ありえない。


「エーリ? どうし……えっ?!!」




 [トラブルホイホイ]:パーティが始まるよ



 [トラブルホイホイ]:私頑張ったから



 [トラブルホイホイ]:たくさん死ぬから



 [トラブルホイホイ]:楽しんで逝ってね



 [トラブルホイホイ]:愛してる



 [トラブルホイホイ]



 ステータス画面を呆然と眺める。

 しばらく2人とも動くことが出来なかった。



 〜〜 現実世界 〜〜


「ルイーズ! 様子がおかしいです!」

「これはっ?! ……何かあったようねぇ。生命の危険は感じないから、大丈夫だと思うけど……」


 ビクン! と震えた後、鑑定中の2人が明らかにおかしくなった。

 汗が吹き出し、目は大きく見開かれている。

 精神的に大きな揺らぎが見て取れた。


 だが鑑定中は何も出来ない。

 祈るように2人が帰ってくるのを待った。



 〜〜 精神世界 〜〜


 ピチャン……


「「!!」」


 滴り落ちた汗の音で気がつく。


「あ……今……え? 私達……」

「ああ、多分気絶してた」


 ステータス画面を見る。



 [トラブルホイホイ]



 先ほどのことが嘘のように、沈黙を保つステータス画面があるだけだ。


「オードリー、戻ろう。2人もきっと心配してる」

「は、はい……」


 心を大きく揺さぶられて、現実世界に戻った。



 〜〜 現実世界 〜〜


「「ん……」」

「エーリ様! オードリー!」

「大丈夫、じゃあなかったんでしょう?」


 戻ってくると、アンジーとルイーズが心配して待ってくれていた。


「心配かけたな。ごめん、少しだけ、休ませてくれ」

「すみません。ちょっと疲れました」


「アンジー、2人を見ててちょうだい。お茶を沸かすわ」

「はい。任せてください」


 ルイーズがハーブティを入れてくれる。

 皆でそれを飲んで落ち着く。


「はぁ……。ありがとうルイーズ。美味しいです」

「いいのよ。それにしても、何があったのぉ?」

「それは……」


 2人にも全てを話した。


「そんな……! 才能が、話したんですか?」

「しかも、明らかに意思を持っている様子よねぇ」

「そうなんだ。だからこそ、得体が知れない怖さがある」

「エーリ、ミルク様は?」


 ミルク、いるか?


 ……



「いないみたいだ。神の世界か、意識がこちらに向いていないんだろうな」

「そう、ですか」


 さて、これからどうしたものか。

 後から後から湧いてくる不安がどうにも拭えない。



「とりあえず」

「アンジー、何かいい考えでも?」


 グウウウウウウゥウウゥウゥゥゥゥ……。


「ご飯を食べてから考えましょう」


 少し顔を赤らめながらも、自信たっぷりに言い切るアンジー。


「ふふふ。そうですね」

「腹が減っては戦は出来ぬって言うからな」

「それあっちのことわざか何かぁ?」

「そ」

「いい言葉です。私が広めます」


 重苦しい空気が一気に明るくなる。

 そうだ。

 現時点で注意喚起しても信用してもらえない。


 案ずるより産むがやすしだ。

 とりあえずギルドへ行って情報収集すれば何か異変がわかるかもしれない。


「さあルイーズ、やりますよ」

「任せてぇ」

「エーリ様、テーブルをお願いします」

「あいよ」


 俺達は朝ご飯クエストをこなすのだった。




 〜〜 中央ギルド 〜〜


「調査、ですか?」

「はい。最近国境付近で村が壊滅するという被害が多発しています。辺境軍も警戒しているのですが、巡回の合間に襲われるということが度々あって、犯人もまだ捕まっていません。帝国軍としても人員を割きたい所ですが、急に人だけ増やしても軋轢が生まれやすいので二の足を踏んでいます。そこでギルドに相談が来たのです」


 皆で顔を見合わせる。

 頬をかくついでに右耳を触った。


 どう思う?


『タイミングが良すぎですね』

『これはかなりキナ臭いわねぇ』

『絶対何かありますね』


 だよなぁ。


「調査はどの辺りを?」

「ここから西へ300kmほど進んだ所で最近村が襲われました。それが1日前です。犯人は恐らくこの付近に潜んでいると思われます。皆さんにお願いしたいのは、この周辺の村の巡回と、犯人の特定です」

「特定、ですか?」

「はい。犯人がどんな能力を持っているかわかりませんし、規模も不明です。まずは情報収拾を最優先事項とします」


 正しい判断だ。


「期限は1日単位。報酬は応相談ですが、金貨100枚からスタートで、持ち帰った情報の重要性をギルドが判定してお支払いします。判定者はマチルダ特級受付ですのでご安心を」

「わかりました。引き受けます」


 そう言うとジャンヌさんの顔が笑顔になった。


「ありがとうございます。距離の問題と、相手の得体が知れないため引き受けてくれる冒険者が足りなかったんです」


 まあ、300km離れてりゃなぁ。


「じゃあ早速向かいます」

「お気をつけて」


 こうして俺達は国境付近に向かうことになった。




 〜〜 3時間後、国境付近上空 〜〜



 どうだ? 何か見つけたか?

『うーん、特に何も。というか森が深すぎてよくわかりません』

 だよなぁ。


 オードリーはエクレールに乗って上空から偵察。

 俺達は徒歩で森の中の道を歩いていた。


 エクレールもこの2ヶ月で大きくなった。

 体高も10mを超え、1人位なら背中に乗せて時速300km近く出せる。

 2人なら約100kmほどに落ち込むが、十分な速さと言えよう。


 ここまでエクレールにオードリーとルイーズが乗り、俺はアンジーを纏って【雷電改】で走ってきた。

 全速力を出せば500km位は出せる。

 走った方が速いって一体……。


 そういえば昔【雷帝】が帝都からミルク村まで数百kmの距離を数分で来ていたが、どうやったんだろうか?


『あ、エーリ。この先に村が見えます』


 おっといけない、今はそれどころではない。


 わかった、オードリーも降りて来てくれ。

 村の人が驚いちゃうから。


『はーい』


 エクレールが降りてくる。

 頭を下げて来たので、撫でてやった。


「クルルゥ」

「偉いぞエクレール。お前は上空で待機だ。何かあったら呼ぶから、それまでいい子で待ってられるか?」

「クルァ!」


 バサッと羽を広げてアピールしてくる。


「よしよし。頼んだぞ」


 エクレールは頷いて空へと戻っていく。


「オードリーもお疲れ様」

「いえ、エクレールの背中は気持ちいいですから」


 そう、エクレールの背中に乗ると、もれなく低周波マッサージが受けられる。

 まだ魔力制御が未熟なため、どうしても少し漏れてしまうのだが、それがちょうどいい刺激となって身体のコリをほぐしてくれるのだ。

 思いがけない副作用だった。


「それでぇ? 村はどの辺りなのぉ?」

「ここから1kmほど歩いた所です。煙も見えましたから、人は住んでいると思います」

「村に着いたら食事にしましょう」


 遠出するため、『へべれけ』でお弁当を頼んだからな。

 今から楽しみなんだろう。


 アンジーはスキップしながら、俺達はそれを見て微笑みながら村を目指した。

 30分しないくらいで村が見えてくる。


「あ、あれです」

「おっ昼、おっ昼〜〜」

「こらアンジー、はしゃぐな。転ぶぞ」

「エーリくん待って!」

「ルイーズ?」


 ルイーズの声に緊張を感じる。


「あの村、何か変だわ」

「何?」


 ジッと目を凝らす。

 村の中に、ドス黒い何かを感じる。


「アンジー」

「はい、ご主人様」


 一気に戦闘態勢へ移行する。


「行くぞ」

「「『はい』」」


 村の近くまで一気に走る。

 一見するとお昼時の準備をしている村に見えるが……。


『エーリ様、あ、あそこを』


 アンジーの意識が向いている方をよく見る。

 そこには、


 無造作に山と積まれた人の死体があった。


「?!!」


 本来は牧草を積んでおくための小屋なのだろうが、そこにあるのは原型をとどめている、いない(・・・)に関わらず全て人。

 大人も子どもも関係ないようだ。


「ふっふっ、はぁ、はぁ……」


 自分の心臓が飛び出るかと思うほどに、ドンドンと心音は激しさを増す。

 汗が伝い、喉が乾いていく。


 これをやったのは(・・・・・・・・)、誰だ?(・・・)



 ガチャ



 近くの家の扉が開く。

 ノシ、ノシ、と重たそうな足音をさせ、歩いてくるのがわかった。



 陰から現れたその音の正体は……

















 夢にまで見た『あれ』そのものだった。

連載開始から3ヶ月。

ついに本編100話を達成しました!


100いくつもりはなかったんですが……毎日投稿予定でもなかったんですが……。

それもこれも、読んでくださる方がいたからです。


誤字脱字やそもそもの文章力のなさが目立つ拙作ですが、読んでくださる方がいる限り、最後まで続けていこうと思いますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。


皆様のブクマ、評価は大きな原動力となっています。

初めてブクマがついた時、評価していただいた時、心臓が跳ねたことを今でも覚えています。

何度も更新を押して夢ではないことを確認しました。


ここまで見て下さった全ての方に感謝いたします。

ありがとうございました。


出来ましたらこれからも、どうぞよろしくお願いいたします。

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