第99話 リベンジマッチ
続きです。
あの敗北から2ヶ月が経つ。
その間俺達は文字通り文武両道を貫き、修行に修行を重ねた。
週3で闘技場の試合を行い、週2で図書館やアルベルトさん、アーノルドに教わって知識を増やした。
残りの2日は冒険者としての依頼をこなす。
この2ヶ月間で休んだのは、ジャンヌさんの特級昇格祝いの日だけだ。
それほどにあの敗北が俺達に与えた影響は大きかった。
そして今俺達2組は、リベンジのチャンスを掴んでいた。
【B級1組月間優勝決定戦】
エーリ&アンジー組:チーム名『一心同体』
VS
イスト&マリク組:チーム名『電電降雨』
【B級2組月間優勝決定戦】
オードリー&ルイーズ組:チーム名『真鑑』
VS
阿行&吽行組:チーム名『阿吽』
「皆、俺達に戦いの厳しさを教えてくれた人達に、恩返しをしよう」
「エーリ、相手も更に強くなっています。完全勝利とはいかないと思いますよ?」
「それはわかってる。でも、絶対に勝つ。自分とパートナーを信じよう。俺達だって強い」
「そうねぇ。修行の成果、見てもらいましょうかぁ」
「お礼参りですね」
「アンジー……それはちょっと、意味合いが違うかな?」
「?」
アンジーははよくわかっていないようだが、まあいいか。
「じゃあ、いつものやりましょうか」
「ああ」
俺達はここ1ヶ月で始めていた試合前の儀式を行う。
右手を握り拳を作る。
親指、小指を隣の人のそれと絡める。
そこにこっそりと、俺が虹色の魔力を流し込むのだ。
全属性魔力を体感するために始めたものだったが、気持ちが落ち着くという理由から、試合前には欠かさず行うようになった。
皆と繋がっているという実感があって、俺も好きだ。
「気合い、入りました」
ふんす、と鼻息荒くアンジーが言う。
「やりますよルイーズ」
「リベンジマッチねぇ。鑑定士コンビの怖さ、思い知らせるわよぉ」
拳を合わせる2人。
すっかりいいコンビになった。
「よし、今日は笑顔で帰ろう。……じゃあ、行こうか」
「「「はい」」」
俺達はそれぞれの戦いに向かった。
〜〜 30分後 〜〜
「「勝者!」」
「「チーム……」」
「『一心同体』!!」「『真鑑』!!」
審判が俺達の名を呼び、勝者が決まる。
俺達は、勝った。
〜〜 エーリ、アンジー組の場合 〜〜
イスト、マリクと対峙する。
2人とも、すっかり逞しい顔つきになっている。
「……」
「……」
言葉は交わさない。
戦いで語ろう。
「試合、開始ぃ!!」
審判の声で一斉に動き出す4人。
電鰻族のイストは粘液を纏い出し、雨降族のマリクは紫の霧と雲を出し始める。
この2人は、本当に強くなった。
もう彼らを笑う者などいない。
イストは粘膜を纏うことで物理、魔法ダメージを軽減、もしくは無効化できるようになった。
粘液も出し方を工夫したのか、網目状にして相手を捕獲したり粘度を高めて鞭のように使ったりもしている。
自分で地面を滑り、粘度を変えることで、曲がったりブレーキをかけたりも出来るのだ。
「まるでエーリ様みたいですね」
とアンジーが言うように、やり方は違えどゲム魔法に近いことをしてくる。
マリクの方も、特性を生かした戦術を展開してくる。
水分を含むと肥大化する霧を展開し、魔法で雲を作って種族の名に恥じぬ雨を降らし、急速にその範囲を広げる。
この霧の厄介な所、それは体につくと落ちないという特性にある。
普通の霧なら、歩いていれば少し湿る程度で済むが、マリクの霧はとても重く、しかも着ている服や肌に付いた水滴がくっついたまま落ちていかない。
そこに更に霧がついてどんどん重くなり、最終的に相手はその重みで身動きが取れなくなるのだ。
イストもその霧に紛れて見えない所から攻撃を仕掛けてきたりもする。
霧は放っておくと闘技場を覆い尽くすため、どのみち攻撃していくしかない。
大規模魔法なら蹴散らすことも出来るかもしれないが、このB級においてはルール上使用不可だ。
今更ながら厄介極まりない。
だが俺達だって強い。
対処法もある。
「いくぞアンジー」
『仰せのままに、ご主人様』
俺は水魔法を2つ展開。
【水溜】と【雨合羽】だ。
【水溜】は水を薄く広げて、入ってきた侵入者を振動により探知する魔法だ。
大体他の魔法とセットで使うことが多い。
【雨合羽】は言うなれば水の盾なのだが、基本的に自分に密着させてゲム魔法っぽく使うため、その姿を見たアンジーの一言で命名された。
その2つを融合させる。
イメージ的には生卵だろうか。黄身の位置に俺達がいる感じだ。
「よーい……」
『ドン!』
マリクの霧に突っ込む。
先行した【水溜】がイストの粘液とマリクの霧を探知。
そのまま下に潜っていく。
水流を操作して粘液と霧をどかしていき、完全に霧の下に入った。
そのまま領土を拡げていく。
薄く、薄く。
……いた。
霧の異常に気づいて、イストの方に向かおうとしているのか、慌てている印象を受ける。
滑るようにマリク場所まで向かう。
走っているマリクに追いつき、背中から殴りかかろうとした瞬間、
霧が晴れた。
ぽっかりと空いた空間に、俺の体が晒される。
見ればニヤリと笑うマリクの姿。
「残念でした」
マリクの瞳に、影が映る。
俺の後ろに電撃を纏ったイストが迫っていた。
上手い。
完全に攻撃モーションに入ってからの奇襲。
2人に挟まれて、防御もままならない。
だが、俺はマリクに向かって微笑む。
「残念でした」
そう言った瞬間、俺の後ろに大岩が出現した。
霧を飛び出す時に地面をごっそりアンジーに収納してもらっていたのだ。
その岩を殴るイスト。
衝撃で岩が俺に向かって飛んでくるが、俺はその岩を蹴って更に加速した。
「いぃっ?!」
驚くマリクを思いっきりぶん殴る。
「ガハッ!」
かなりの手応えがあり、マリクが吹き飛んでいく。
地面を何度か跳ねた後、動かなくなった。
「『まず1人』」
俺達は残ったイストと対峙する。
相棒を失ってもなお、イストの戦意は落ちていなかった。
「まだまだこれからだ!」
粘液がとめどなく溢れてくる。
半径10m程がイストの粘液で見たされていった。
「いくぞ、【滑滑曲芸弾】!」
粘液を纏いながら突進跳躍を繰り返す。
イストの後ろからは粘液の糸が細く引き延ばされ、俺達の周りを囲っていく。
あっという間に粘液の檻が出来た。
『ご主人様』
「ああ、わかってる。全周警戒」
『はい』
檻の床面、天井部からは粘液で出来たイストが現れ、同時に攻撃を仕掛けてくる。
【雨合羽】のお陰でくっついたりすることはないが、殴られるたびに水が奪われていく。
更にイストの突撃で檻はどんどん縮小されていく。
恐らくはこれとマリクの霧を組み合わせるんだろう。
早めにマリクを倒しておいて良かった。
「勝たせてもらうぞイスト。【廻転石独楽】」
俺を囲うように石の輪っかが出来ていく。
ジャイロを思い起こすそのフォルム。
輪っかは俺を中心にクルクルと回り始める。
粘液を巻き取りながら。
微細な土を粘液に付着させ、絡め取っているのだ。
粘液を巻いた独楽はどんどん大きくなっていく。
「ぐっ! 舐めるなぁ!」
イストは自身から更に粘液を分泌させ、檻の維持を図る。
ギュンギュンと巻き取って巨大化していく独楽は、その直径を1m、2m……と増やしていき、
「ガハッ!」
イストから粘液が出なくなる頃には、直径10mを超えていた。
独楽を解除し、イストの元へ向かう。
「まだやるか?」
粘液の出し過ぎか、カラカラに乾いたイストに話しかける。
「当たり前だろ? 俺はダメージを負っちゃいない」
戦意は少しも落ちていない。
気絶させて終わりだ、と思ったその時、
『ご主人様!』
アンジーから警告。
そして後ろから紫の霧が立ち込めてくる。
「今だイストォオオ!」
振り返れば、倒れていたはずのマリクがボロボロになりながら霧を発生させていた。
視線を戻せば、粘液を纏ったイストが眼前に迫っている。
本当にこの2人は……
「アンジー、飲め」
『はい』
イストの粘膜に手を伸ばし、その全てを収納した。
「?!」
残るのは、粘液を失った男が1人。
「俺達の勝ちだ」
石で固めた拳を振り抜いた。
イストは壁まで吹っ飛び、激突。
見る限り気絶している。
後ろを振り向くと、マリクも倒れていた。
念のため警戒は怠らない。
少しして、審判が勝者の名前を呼んだ。
〜〜 オードリー、ルイーズ組の場合 〜〜
試合開始の合図とともに、両者とも相手に突っ込んでいく。
『阿吽』の方は鏡かと思うほどに息の合った動きで、オードリー達に攻撃を仕掛ける。
この2人、凄いのはコンビネーションだけではない。
個人で見ても達人なのだ。
光を反射する切っ先が描く剣筋は、まるで舞を見ているかと錯覚するほどに美しい。
刀が振り下ろされるその音すら、高級レストランで奏でられる音楽に匹敵した。
それが2人分。
更にコンビネーションを上乗せして襲ってくるのだ。
一振りの刀として、時に炎や水を纏いながら舞い踊る。
オードリーとルイーズはその全てを
避けていた。
無表情で、しかし踊るように。
右に左に上に下に。
攻撃もせずただただ避ける。
ジッと相手を見つめたまま。
そして少しずつ近づいていく。
「此奴ら……!」
「まさか、【鑑定】しておるのか?!」
攻撃は続けたまま、驚愕の表情を浮かべる阿行、吽行。
対する2人は涼しい顔のままだ。
そう、オードリーとルイーズは、【鑑定】しながら戦っていた。
それも相手と、相棒を。
空間鑑定で相手の動きを先読みし、相棒は思考、感情、魔力、身体の動き、バランス、五感に至るまでその全てを共有した。
エーリとアンジーが身体を1つにして戦うスタイルであるなら、オードリーとルイーズは心を完全に一致させて戦っている。
異体同心とでも言えるだろうか。
ここまでに至るまで、2人は毎日長時間互いの精神世界を行き来し合った。
全てさらけ出し、意見や感情をぶつけ合う。
エーリにすら見せていない部分でさえ、2人は共有している。
それによって、この短期間ではありえないほどに相棒の全てを把握していた。
「……」
「……」
2人は無言で避け続ける。
『阿吽』は焦っていた。
自分達のコンビネーションが、こうも簡単に避けられ続けることなど経験がない。
この速度での攻撃なら何日でも続けていけるが、目の前にいるのは特級鑑定士と、恐らく同じくらいの実力を持つ魔女。
既に20分以上が経過している。
一旦距離を開けるか相棒と視線を交わすが、互いに迷いが見えた。
ジリジリと嫌な予感が込み上げてくる。
そして、それは的中する。
「「?!」」
ガクッ!
足が急に重たくなり、視界がボヤけてグルグルと回ってくる。
身体も小刻みに震え始めた。
「う、吽行!!」
「あ…?」
阿行が呼びかけるが、吽行は既に意識が途切れかかっている。
震える手で今出せる渾身の一撃を放ち、その場を離脱した。
グッタリとした吽行を連れて離れたはいいが、身体の震えは止まらない。
ガシャン!
遂には愛刀も取り落としてしまう。
「お主ら、何をした?!」
焦点の定らない目でそこにいるであろう2人に向かって叫ぶ。
今まで沈黙を保ってきた対戦相手が、漸く口を開く。
「何って、大したことはしていませんよ? ただ、ゆっくり、ゆっくり……貴方の体内から冷やしていっただけです」
冷やす……?
阿行は自分の手を見る。
愛刀すら握れなくなったのは、冷えたから?
確かに、今この手は悴んでいるように見える。
だが、
「(だがここまで冷えるのを検知できなかっただと?!)」
互いの体調ぐらいは朝飯前でわかるのに?
おかしい、そう思った。
「おかしい、って思ったわよねぇ? 周り、見てみたらぁ?」
「?」
ルイーズに言われ、震える顔を何とか回して辺りを見回す。
地面を靄か何かがうっすらと覆い、更に何かが生えている?
「氷結魔法【深霜世界】」
「木魔法【召喚:死路詰草】」
その言葉を耳にした後、阿行の意識も落ちていった。
【深霜世界】
辺り一面に絶対零度の霜を満たし、指定した存在以外の全てを徐々に凍らせていく魔法である。
この魔法が恐ろしさは、凍らせる順番にある。
普通、体温が下がっていくのは身体の末端部分からだ。
それは生きていく上で重要な器官を守るための反応だが、この魔法はその法則を無視する。
細胞程の小ささの氷が体内に侵入、身体の芯から冷やしていく。
テリトリー内にいる限り、少しずつ内側から体温が下がっていくのだ。
末端の手に症状が現れる頃には、生命の危機が訪れていることになる。
【召喚:死路詰草】
人間界において危険植物に指定されている『死路詰草』を召喚する魔法。
『死路詰草』は広範囲に生える多年草の植物だ。
自分のテリトリーに獲物が入ると、思考、五感を鈍化させる無色透明、無味無臭の液体を噴霧する。
それを吸って鈍くなった獲物に巻きついて、消化液を出して少しずつ溶かし、栄養分を吸収するのだ。
「結構かかりましたね」
「そうねぇ。試合で使うのは初めてだったから効くかどうか半信半疑だったけれど、テキメンだったみたぁい」
2人は静かに、そして冷酷に、リベンジマッチを制したのだった。
予告ですが、本編100話目からブラックなお話が続きます。
前書きに注意を喚起しますので、苦手な方は読み飛ばしてください。
いつも見て下さってありがとうございます。
お気に召しましたらブクマ、最新話下の評価をよろしくお願いいたします。
感想もお気軽にどうぞ。




