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第97話 敗北

続きです。

「……」


「……」


 闘技場を後にする俺達の足取りは重い。

 皆一様に沈痛な面持ちで通りを歩いている。


 お察しの通り、俺達は負けたのだ。

 それも両チーム惨敗で。


「俺、これでAランクとか恥ずかしくて名乗れないわ」

「もうお家に帰りたいですね」

「これは修行だから、ある意味正しい結果と捉えるしかないわねぇ」

「うぅ……」



 俺達の負け方は以下の通りだ。



〜〜 エーリ、アンジー組 〜〜


 タッグマッチ(ルーキー戦)種目:風船割り


 選手は各々5つの風船(魔力球)が付けられる。

 全ての風船を割られた選手はその時点で脱落。

 復帰することはできない。

 相手チーム全ての風船を割るか、制限時間終了時に多く風船が残っているチームが勝者となる。


 相手を死亡させる、もしくは大怪我させた場合はその時点で負け。

 大規模魔法も使用不可。

 中々制約が多いが、ルーキーに加減をさせるためと、制約があることで戦略を練らせるという目的があるようだ。


 風船割りなど昨今バラエティ番組でも見なくなったが、ここでは現役でルーキー戦のメイン種目となっているらしい。



 俺とアンジーは鯰? 鰻? タイプの獣人と、何かよくわからないがプニプニした印象の獣人のコンビとの対戦だった。

 俺はAランク冒険者として紹介され、注目を集めた。


 方々から『あんなちっこいのに』とか『スゲェ』とか聞こえてきて、天狗になったわけではないが、気分は良かった。


 ……いや、天狗になってたんだろうな。


 試合開始のゴングと共にアンジーを纏い【雷電改】を発動。

 因みにアンジー分の風船は俺の風船の横にある。


 そのまま先制攻撃を行おうと思ったのだが。


 プニプニの方が身体中から紫色の霧を噴霧して辺り一面真紫になった。

 それならばと魔法で雨を降らせたのだが、その霧は雨を吸ってさらに面積が増えた。


 どうやらこれはプニプニ獣人の特性だったらしく、魔法の類ではない。

 少々焦れったかったので雷撃を見舞うと、霧が晴れていき2人の影が見えた。


 今だ! と思って突っ込んで、





 ズル!





 そのままこけた。


 足を踏み外したとかじゃない。

 彼らの作戦だったのだ。


 後でわかったが、このヌルヌルは電鰻族の皮膚から分泌される粘液だった。

 彼らはプニプニ改め雨降(アメフラシ)族の分泌液で霧を作り視界を遮断。

 その間に電鰻族が粘液を撒き散らし準備完了。

 雷撃は電鰻族が吸収して無傷。


 そこへ霧が晴れて姿が見えたと勘違いした俺(バカ)が突っ込んで滑り、無防備な状態で彼らの前へ。


 ニコっと笑った後、瞬く間に風船が割られて勝負あり。



 一瞬の沈黙の後、



「「「「「だぁっはははははははははははははははははは!!」」」」」

「「「「「ぎゃははははははははははあははははははは!!」」」」」


 大爆笑に包まれる場内。


「ひっ! ひぃ!! 腹いてぇ!! あ、あれでAランク……ぶっ! ぎゃははははははは!!!」

「あはははははははは!! アレがAなら俺はSSだぜ?! 坊やはとっとと帰ってママのおっぱいでも吸ってな〜〜!!」

「あのコケ方!! 芸術的だったぜぇ?! もう一回やってくれよAランク!!」


「「「「「Aランクッ! Aランクッ! Aランクッ! Aランクッ! Aランクッ! Aランクッ!」」」」」


 会場内を満たすAランクコール。



 俺は無言で立ち上がろうとし、何度かコケた。

 その度に爆笑が生まれ、Aランクコールが熱を帯びる。

 昔のミルクフェス(本祭)を思い出したが、あっちは本気で崇めていたから違うものだ。


「作戦とは言え、すまんな」

「あいつら笑いすぎだぜ……なんか胸糞悪りぃ」


 電鰻族の獣人が引っ張り上げてくれ、雨降族の獣人も魔法でぬめりを取ってくれる。


「いえ、浅はかにも突っ込んだ俺が悪いんです。いい勉強になりました。お二人には感謝しています」


 起こしてくれた2人に礼を述べ、頭を下げる。

 この人達は何も悪くない。

 戦略を練り、勝っただけだ。


『エーリ様、申し訳ありません……うっうぅ……』


 アンジーは震えながら泣いていた。


 違うよアンジー。

 俺達2人の責任だ。

 この悔しさは忘れないぞ。


『はいっ……!』


「いや、俺達もいい経験になったよ。正直初見じゃないと君には勝てなさそうだったからね」

「まあ俺達もまだまだ強くなるからよ。お互い頑張ろうぜ」

「はい。また戦いましょう」


 2人と握手する。

 アンジーも人間の姿に戻って握手した。


「いずれまた」

「おう」

「頑張ろう」


 悔しさは魂に刻み、前へ進む。



 ……それにしても、喧(やかま)しい。



「おいおいおいおい! なんだよルーキー通しで友情ごっこかぁ?! おいこらそこのブニャブニャ! 気持ち悪い顔でこっち見てんじゃねぇよ!! たまたまAランク様がズッコケあそばして勝たせてもらったんだからよ! 少しはへーこらしろよこら!!」


「鰻だか鯰だか分かんねえマイナー種族のデカブツ! ヌメヌメしていいのはベッドの中だけだぜぇ! あ、そうか! お前のヌメヌメよく滑りそうだからちょっとくれよ! 今夜使ってみるわ! ギャハハハハハハハ!!」


 下品な顔に下衆な言葉。

 かっこ悪く負けた俺達だけならともかく、勝者すら讃えられないのか?


「クソッ! 黙って聞いてりゃいい気になりやがって!」

「おいマリク、抑えろ」

「イスト! ……だってよ」


 電鰻族はイスト、雨降族はマリクと言うのか。

 2人とも勝者とは思えない扱いに、傷ついている。


「イストさんと、マリクさん。少し、下がっていてください」

「エーリ、だったよな? どうするんだ?」


「ちょっと、黙らせます」

「うっ! ……あ、ああ。……わかった」


 ニコっと笑ったつもりだったが、俺の顔を見たイストさんとマリクさんは、びっくりした顔で下がっていく。



 そのまま観客席に視線を移す。


「ヒッ!」


 さっきからギャースカ喚いていた獣人達と目が合う。

 最初は恐怖の顔をしていたが、結界があるせいだろうか? 次第に元のふざけた顔に戻っていく。


「おー怖! お子ちゃまAランク様は怖いでちゅね〜〜! 睨まれておじちゃん怖くなっちゃったぁ〜!」

「お前がどんだけ凄くても、そこからじゃ攻撃は届きませぇ〜ん! 残念でしたぁ!」


 ケツを向け叩いて見せる馬鹿ども。


 そうか。

 いいんだな?



「アンジー、ストックも使う。練るぞ」

「仰せのままに、ご主人様」


 パチ


 パチ、パチチチ


 バチ!


 俺の身体の周りに雷属性魔力が溢れてくる。

 それを圧縮し、練り上げる。

 アンジーにストックしている雷属性魔力も使ってどんどんどんどん練っていく。


 バリバリ!


 バババババババヂヂヂバリリリリリリババババ!!


 やがて溢れた魔力が留まる雷(・・・・)となって俺を包む。

 闘技場内が紫の魔力光に照らされ、その異様さに誰も身動きが取れなくなった。



 一歩。


 二歩。


 少しずつ観客席に近づく。

 纏った雷はその度に結界を激しく叩く。


 バチン!

 バシン!


 その度に結界が阻むが、俺が近づくと少しずつたわみ始めた。


 バチチチチチチチ!

 ヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂ!


 結界と雷の間で火花が散りだし、やがて


 ピシッ!


 ヒビが、入り始めた。


 パキ! ピシシッ! バリバリ!


 そのヒビは少しずつ、結界の端へと向かって延びていく。

 それに伴って観客席の馬鹿どもはその顔を恐怖に染めていった。


「嘘だ……全属性の結界だぞ? なんで雷属性だけでヒビまで入るんだよ……なん、なんなんだよ、お前」


 半べそかきながら1人の獣人が聞いてくる。

 俺が誰か? 教えてやるよ。


「俺はな、【全能神】ミルク様と、【雷神】ガルドリウスに魔法を教わった、Aランクのただのお子ちゃまだ」


 最後に超圧縮した雷属性を右拳に込めて思いっきり殴る。


 バリィーーーーーーーン!!!


 その日、建国以来一度も破られたことのない、帝都グランドミルキスタの【神域】は、10歳のエーリという子どもの雷属性魔力によって、呆気なく破られたのだった。



 静寂の中、俺達を馬鹿にしていた獣人達は気絶。

 その他の観客達も、遠巻きに見るだけで動かない。


「はぁ……」


 一つため息をついて、闘技場内に降りる。


「すみません。お騒がせしました。イストさん、マリクさん、それではまた」

「「あ、ああ……」」


 引き気味の2人を残し、闘技場を後にした。




 〜〜 オードリー、ルイーズ組の場合 〜〜


「くぅ! は、速い」

「オードリー、そっち行ったわよぉ!!」


 オードリーとルイーズはチーム結成以来初めて、かなりの劣勢に立たされていた。

 控え室に入った直後に感じた嫌な予感。

 それは今現実となり2人を襲っている。



 タッグマッチ(ルーキー戦)種目:二人三脚



 二人三脚と言ってもただのそれではない。

 2人を繋ぐのは長さ3mの鎖。

 それも足と手、両方に付けている。

 右か左か、どちらかの腕と足が拘束されていると考えればわかりやすいだろうか。


 そんな状態で戦うフィールドは、森。

 木々が生い茂る中で相手を見つけ、拘束され動きづらい状態で相手を倒さねばならない。

 勝負は相手を気絶させるかまいったと言わせた方の勝ち。


 そしてその相手は、


「さぁ、どうした?」

「そんな物か?」


 超の付く手練れだった。


 人間族のコンビ、チーム『阿吽』。

 阿行、吽行という名の2人は、見た目こそ洋風だが、攻撃スタイルは和風である。

 日本人が見れば刀、と答える武器を手に、そのコンビネーションで数々の依頼をこなしてきた凄腕冒険者。

 チームランクはA。


 なぜそんな手練れがこんなルーキー戦に出ているかと言うと、どうやら俺の影響らしい。


「風の噂で君達のリーダーが闘技場にエントリーしたと聞いてね。将来有望な後輩と手合わせしたいと思ったんだが。どうやら人生そう上手くいかないらしい。今日の所は君達で我慢するとしよう」

「それはどうもぉ!」


 ルイーズが得意の木魔法を使い、生えている木を操って捕まえようとするが、どう動くかわかっているように全く捕まらない。


「これなら!」


 オードリーも氷魔法で相手の鎖や足元を凍らせようとしているが、相手は火魔法と風魔法を使い凍らせる側から溶かしてくる。


「埒が開きません。ルイーズ、使いましょう」

「しょうがないわねぇ。これじゃ何もさせてもらえないものぉ」


 2人は1戦目で使うと思っていなかったリンクを使用する。

 五感を共有し、情報のロスをなくすためだ。


 この時点で連携という意味では敗北している。

 悔しさがこみ上げるが、このまま何もさせてもらえずに負けるわけにはいかない。

 それは『虹の絆』の引いては愛するエーリの顔に泥を塗る行為だと考えたからだ。


「! そこっ!」

「ぬっ!」


 木の陰に隠れていた阿行にオードリーの攻撃が掠る。

 ルイーズは音魔法を使い敵を探知し、オードリーに知らせていた。


「むん!」

「えい!」

「はい、ドン」

「くっ!」


 ルイーズに対して陰から繰り出される吽行の攻撃を、オードリーが察知してとっさに引き寄せ、攻撃をかわした直後にルイーズ火柱をあげる。


 阿吽コンビは一旦下がり、いきなり良くなった連携を考察していた、


「吽行、これはどういうことだと思う?」

「阿行、思うにこれは、【以心伝心】というやつではないのか?」

「ふむ……。確かにそうだろうがなぜ最初から行わなかった?」

「さて……ある条件でないと発動できない類か、自らに課した枷であったか……。いずれにしても奴らが強くなったことには変わりない。これは、楽しめそうだぞ?」

「さて、どこまで付いてこれるか試すとしよう。」


 オードリーとルイーズを強者と認定した阿吽コンビは、遊び相手が見つかった子供のように朗らかな笑みを浮かべ、


「ひっ!」

「これは、また……とんでもないわねぇ」


 強者特有の濃密な殺気を飛ばして2人に迫るのだった。



 〜〜 10分後 〜〜


「勝者! チーム『阿吽』!」


 そこにはほぼ無傷の阿吽コンビと、ボロボロになって気絶する2人の姿があった。


「「ふっ!」」


「がはっ!」

「ぐっ!」


 阿吽コンビは2人に気つけを施す。


「ここは……ああ、負けたん、ですね」

「その……ようねぇ」


 周囲の歓声、武器をしまい、リラックスしている阿吽コンビを見て、自分達の敗北を悟る。

 2組の差はなんだったか。


 それは、圧倒的に少ない次の動作までの時間だ。


 リンクを使用して互いの五感ややりたいことを共有して連携の強化を図った2人だったが、『意思伝達』『思考』『行動』という工程には多少の時間がかかる。


 阿吽コンビにはこれらの工程間におけるロスがほぼなかった。

 相手が考えることを自分でも考え、ほぼ同時に行動に移すことによって、見た目は2人でもまるで1人の人間のような動きになる。


 少しの差だったが、この2組の戦いにおいては、圧倒される程の差になった。


「いやいや、お主達で我慢などと失礼な言を発してしまった。許せ」

「戦って見れば目を見張るほどの強者であった。我らも久しぶりに背筋が冷えたぞ」


 2人を引き起こしながら阿吽が話しかける。

 微笑みながら敗者を讃えるその姿は、まさしく勝者のそれであった。


「いえ、完敗でした」

「結局最後は後手後手だったものねぇ。お二人のコンビネーションには参りましたわぁ」


 敗北を噛み締めながら、阿吽と握手をする。


「お主達とはまた戦いたいものだ。なあ吽行?」

「おう。まだまだ強くなるぞ、この2人は」

「私達もコンビネーションのいい勉強になりました。次はこうなりませんよ」

「ええ、必ずやり返しますわぁ」

「「楽しみに待っておるぞ」」


 こうしてオードリー、ルイーズ組も完敗したのだった。




 〜〜 現在 〜〜


「皆、今日敗北したことは、今の俺達にとって絶対に必要なことだった」

「最近上手くいきすぎてましたから」

「いい薬になったわねぇ」

「絶対に強くなります」


 敗北を経験し、俺達の心はまた一段と結束したように思える。


「疲れているだろうが、この後図書館に行って知識を増やす。反省会はこのままリンクでやるぞ」

『『『了解』』』


 側から見れば無言で、その実侃侃諤諤の反省会を行いながら俺達は図書館へと向かうのだった。


強い人だって呆気なく負けることがあります。

理由は様々ですが、エーリ達は驕り、オードリー達は練度の差です。


いつも見て下さってありがとうございます。

お気に召しましたらブクマ、最新話下の評価をよろしくお願いいたします。

感想もお気軽にどうぞ。

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