第96話 修行開始
続きです。
朝、眼が覚める。
新居に越してきて初めての朝。
カーテンの隙間から差し込む優しい光。
両サイドにはいい女が2人。
オードリーとルイーズ。
それを見ると、早く大人になりたいと願わずにはいられない。
さてここで問題です。
アンジーはどこでしょう?
モゾ
「んっ」
ビクビク
「おはようございますエーリ様。……お元気そうで何よりです」
「おはようアンジー。起きたんなら離れてくれると助かる」
正解は、『纏ったまま寝てた』でした。
寝起きのアンジーは我が息子の方にまで迫っていて、おはよう状態がバレている。
何でこんなことになっているかというと、修行の一環だ。
寝込みを襲われた時に素早く対処が出来るように、昨夜から実践している。
侍が刀と一緒に寝るのと同じだな。
アンジーを纏っていると、寝る時も何というか、ウォーターベッドを着ている感じ? で、フワフワと気持ちいい。
当のアンジーもこっちの方が落ち着くと言って、嫌がるどころか積極的に纏わりついて来たので、一石二鳥だった。
密着形態を解除し、カーテンを開ける。
広い庭にはエクレール用の小屋が置いてあり、屋根付近に付いているガラス部分から就寝中のエクレールが見えている。
小屋、と言っても普通の一軒家以上の大きさで、飛行場のハンガーよろしく両開きの扉なのでエクレールが成鳥になっても大丈夫だ。
この1ヶ月でエクレールはだいぶ成長した。
食事は魔力と肉が1:1位になったし、寝る時も俺が一緒じゃなくても良くなった。
雷属性魔力さえ供給出来ていれば問題なくなってきたので、スレイン商会に頼んで作ってもらった特注の毛皮布団が敷いてある。
以前瞬殺したヴォルテックウルフの残りを加工したものだ。
ヴォルテックウルフの毛は、擦れると雷属性魔力を発生させる。
それを利用してエクレール用の布団にしたわけだ。
これならエクレールが少しでも動けば雷属性魔力が補充されるからな。
扱いに困っていたから、いい使い道だったと思っている。
「ん……」
「ん〜〜……はぁ…………」
「おはよう、起こしちゃったか?」
ネグリジェ姿の2人が起きた。
朝日を浴びたその姿は、朝から頑張ってしまいたくなるほど破壊力抜群だ。
うん、また買いに行こう。
「おはようございます。早いですね」
「もう一回、寝るぅ?」
クイクイっと指を曲げて誘ってくるルイーズ。
ゆっくりと組み直す足に自然と目がいってしまう。
「あー……、多分それやると昼まで起きなくなりそうだからやめとこう」
「ふふふ、はぁい」
血の涙を流しつつ、何とか我慢する。
正次兄ちゃんにも言われたことは実践してかないと、この幸せを守ることは出来ない。
「今日から色々試していくから、皆早く支度をしよう」
「「「はい」」」
朝ごはんを食べ、身支度を整える。
まず向かうのは南地区だ。
「エクレール、おはよう。今日からお前も一緒だ。行くぞ」
「クルルァ!」
バッと羽を広げたエクレールが返事をする。
体高は既に3m、羽を全部広げれば、既に6mほどの大きさだ。
流石にこの大きさの鳥を帝都内で飛ばすには色々と許可が必要になるので、それはジャンヌさん経由で申請中だ。
皇帝が押し付けたものだから早晩許可が下りるだろうとは思うが、それまでは移動中アンジーに収納されてもらう。今だけだから我慢してもらおう。
「おはようございます、『虹の絆』の皆様」
「「「「おはようございます」」」」
南地区ギルドでセシルに会う。
なぜ南地区ギルドへ来たかというと、
「ご依頼されました闘技場への選手登録は既に済んでおります。どの種目にエントリーされますか?」
闘技場の試合に出るためである。
以前観光した際はタッグマッチを観戦したが、闘技場で行われる試合は、種類も豊富なのだ。個人戦、団体戦はもとより、魔力使用禁止や属性縛り、格闘限定、砲撃限定、従魔限定、種族固定や、地形縛りなどなど、かなりの種類で試合が行われている。
別に獣人限定で試合が行われているわけではないので、俺達にも参加可能だ。
置かれている場所の関係上、そうなりがちなだけである。
「まずはタッグマッチでエントリーする。俺とアンジー、オードリーとルイーズのコンビで」
「はい、承りました。エクレール様はその間こちらでお預かりしますが、その内従魔戦にもエントリーされますか?」
従魔戦か。
この先もずっと暮らして行くことを考えると、その方がいいかな。
「アンジー、エクレールに聞いてみてくれるか?」
「はい……。やる気十分なようです」
「わかった。と、言うことだから、選手登録だけ頼む」
「承りました。ではこの後闘技場へ向かってください。選手受付へ行くと諸々説明してくださるのでよく聞いてくださいね。本日もルーキー戦含めて多数行われていますので、さほど待たずに試合ができるはずです」
セシルに別れを告げ、闘技場へと向かう。
今回は徒歩だ。
「ルイーズとのコンビ、初めてですよね?」
「そうねぇ。なんだかんだで皆と一緒だったし。即興になるけどそこそこ良いところまではいけると思うわぁ」
「そこら辺も含めて、力試しと修行にはもってこいだからな。あそこには多種多様の強者が沢山いる」
「強くなるには強い人とたくさん戦った方がいいですからね」
「ああ、そういうことだ」
俺達には経験が足りない。
戦闘面もその他も。
闘技場では戦闘面の技術やバリエーション、連携の強化を図る。
ルールがあることによって制約されることが多いから、その状況から打開するための作戦も考える必要があるからな。
脳みその鍛錬にもいいだろう。
闘技場へ到着する。
受付でタッグマッチに参加することを伝え、説明を受けた。
タッグマッチには人数以外の制約はほぼない。
ただ、魔法鞄は試合から終了までに収納したものに限り使用可能で、例えば相手の攻撃を収納した場合、試合終了後には全部放出しなければならない。
これは特殊な魔道具を使用して計測されるため、不正は不可能だと伝えられた。
また、収納量にも制約がかかる。
最大でも馬車5台分まで。
こちらも魔道具により、使用者、運営側に今どのくらい入っているかわかるようになっている。
そして最後に、一番重要だと告げられたのが、
「盛り上げてください」
だった。
闘技場の運営で1番のネックが、魔力の確保だそうだ。
照明、冷暖房、仕掛けの作動、そして結界の維持。
これらは観客の興奮によって放出された魔力を使用することで使用量の半分ほど補っているとのことで、これが少なくなることは、闘技場運営が成り立たなくなることを意味している。
「ですので、余りにも弱かったり、強いけど試合がつまらない選手は登録を抹消されます」
と、受付のお姉さんに言われた。
説明が終わった後は誓約書にサインをして、いよいよ試合となる。
「じゃあ一旦お別れですね」
「ああ、今日は1試合だけだそうだから、気楽に行こう」
そう言って別れた。
ルーキー戦はブロック毎の総当たり方式だ。
7チームがエントリーしていて、各ブロックで1位を決めたら、その1位同士のリーグ戦を行って、ルーキーの中でのチャンピオンを決める。
ルーキーに数多く経験を積ませるための運営側の配慮だ。
アンジーと一緒に控え室に向かう。
そこには人間族、獣人族が数多くいて、イメトレやストレッチなど、各々試合前の精神集中に入っていた。
「エーリ様、なんか、ぽくて良いですね」
「ああ、なんかワクワクするな」
俺達は試合前の控え室、その空気に当てられてワクワクしていた。
〜〜 一方オードリー、ルイーズ組 〜〜
「ここが私達の控え室ですね」
「そうみたいねぇ。とりあえず入りましょうかぁ」
「ええ」
2人は連れ立って控え室に入る。
ガチャ
「……ルイーズ」
「これは気合を入れないとダメみたいねぇ」
オードリーとルイーズは一気に戦闘モードに入る。
なぜなら、そこいたのは凡そ『ルーキー』とは呼べないオーラを纏ったチームばかりだったから。
一目で強者と見て取れる存在を前に、2人のテンションは否応なく上がっていくのだった。
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