第94話 ステフの入所式
続きです。
皇帝との話し合いが終わって、中央ギルドへと戻った。
ギルドでは皆が俺の帰りを待っていた。
「エーリ!!」
「わぷ!」
オードリーに抱きしめられ、嬉しいような恥ずかしいような。
皆見てるんだけどな。
「お兄ちゃん、変なことされなかった?」
「ステフ……。大丈夫だったよ。皇帝陛下やミルク様とお話ししただけだ。詳しいことは後で話すよ」
「ならいいんだけど」
そう言いながら心配そうな顔をするステフ。
忘れそうになるが、この子はまだ5歳。
……とんでもねぇな。
ステフの入所式も後1ヶ月なんだよな。
後1ヶ月で色々と変わる。
引っ越しするし、ジャンヌさんが特級に上がる(確定ではないが、きっと上がるだろう)。
ステフが入所して、チームメンバーだけになる。
「クル?」
もちろんお前も一緒だ。
「どうしたのぉ? 考え事ぉ?」
「ん? この後の1ヶ月、結構大事だなって思ってさ」
「……あぁ、そうねぇ」
ルイーズもステフやジャンヌさんを見て気づいたようだな。
「エーリくん達と出会ってまだたった2ヶ月程度だけれど、これまでの人生の中でもとても濃い2ヶ月だったわぁ」
「ダメですよルイーズ。そんな言い方したら。」
「そうだぞ。俺達の生活はまだ始まったばかりなんだからな」
「美味しいものはまだまだあるんですから」
フラグは立てちゃだめ。
「そんなつもりはなかったけれどぉ、確かに何か起こりそうな話し方だったわぁ。気をつけるわねぇ」
クスッと笑ったルイーズ。
たまにあどけない感じになるのがいいよな。
「はいはい! はしゃぐのは良いけど後は家でやって頂戴。私この後も仕事なのよ?」
手を叩きながらマチルダ母さんが退室を促してくる。
ずっと執務室で待たせてもらってたんだもんな。
これ以上邪魔は出来ない。
「母様ありがとうございました!」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
一同で礼をする。
「はい、どういたしまして。気をつけて帰るのよ?」
マチルダ母さんと別れ、家路についた。
道中、待ってる間の皆の行動を聞いたり、これから1ヶ月の話をした。
不安がっていた皆の心を、マチルダ母さんが鎮めてくれていたそうだ。
『信じることは、誰でも簡単に出来る最強の応援よ』
微笑んでそう語る姿はなによりも安心できた、とオードリーは言っていたな。
ステフの方も今後1ヶ月で入所に係る準備について話した。
養成所内で着る制服は支給らしいが、その他の洋服や文房具、日用品が必要だ。
なお、お金に関しては帝国から授業料、お小遣いなども出るそうだ。
流石はエリート集団が入る養成所だな。
その代わり、外の世界とは隔絶される。
全寮制で、帰宅も卒業まで許可されない。
凡そ5年間、様々な知識を得、経験を積み、自らの血肉としていく。
そんな所に、御歳5歳の幼児が入るわけか。
「大丈夫か? 辛かったらいつでも戻ってこいよ?」
そう語りかけたが、
「お兄ちゃん、私を誰だと思ってるの? 【絶望】のミリア、その夫ルークの娘、【たらし】のエーリの妹、【天才】ステファニー様よ? 5年後、首席で卒業する頃には国中に私の名前を轟かせるわ!!」
頼もしい言葉を返された。
若干バカにされた気がしたが、大目に見てやろう。
「ふふふ。ステフは天才ですものね。お父さんも言っていたわよ。あの子の魔力に対する知識は日毎に増えていっている。この先がとても楽しみだってね」
「えへへへ。最近はアーノルドの所にも通ってるから、魔法素材や魔石なんかの知識も教えてもらって、とっても楽しいの!!」
週3で通うアーノルドのお手伝いは、いい方向に向いているらしい。
兄としては一安心といった所か。
メイガード家の前でジャンヌさんと別れ、俺達は家に帰った。
皆で風呂に入りながら、今日あったことを話していく。
皇帝に転生者であることを話したこと。
初代皇帝の正次兄ちゃんと、ミルクも交えて色々な話をしたこと。
今のゲム魔法に欠陥があること……。
当然風呂の時間だけでは足りなかったため、ベッドに横になりながらも話していった。
〜〜 1ヶ月後 〜〜
「本当にあっという間だったな」
この1ヶ月の出来事を振り返り、しみじみそう思った。
すっかり忘れていたステフとマルス伯爵との顔合わせや、買い物関係。
ジャンヌさんの特級試験にも少し関わった。
あ、ジャンヌさんはめでたく特級に昇格することが決定した。
全属性の収集と、その質が認められたのだ。
胸に光るブローチが、その証として美しい光を放っていた。
ステフの勉強も順調だったようで、アーノルド宅に泊まる頻度も増えていき、最後の方はほぼ毎日泊まりに行ってたな。
もはや通い妻レベルだった。
あっという間の1ヶ月が過ぎ、今日ステフは晴れて養成所入りを果たす。
指定の制服に身を包んだステフは、いつもと違ってとても大人びて見えた。
「どう?! 似合う?」
くるりと回ってポーズを決める。
「ああ、とてもよく似合うよ。髪形も可愛いな」
今朝早くから女性陣が寄ってたかってステフを魔改造した成果だ。
仄かに香油の匂いもしている。
これは、『カレン』だな。
アーノルドから香油一式も贈られたんだったか。
コンコン
「はい。どーぞ」
「エーリ様。そろそろ時間です。ステフ……とても綺麗ですよ。さあ、参りましょう」
「えへへ。ありがとう、ジャンヌさん」
ジャンヌさんが迎えに来てくれた。
皆で準備された馬車に乗り、養成所へ向かう。
今日見送りに行くのは、『虹の絆』の面々とジャンヌさんだけだ。
その他の皆さんとは、昨日の時点で挨拶をした。
全員来てしまうと大人数になってしまうし、入所式は本当に近しい者が行くのが慣例となっているそうだ。
エクレールも大分大きくなってしまったので、泣く泣く置いてきた。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「私、頑張るね」
そう言う小さくて頼もしい我が妹は、熱がこもった目で俺を見つめている。
やる気全開って感じだな。
「ああ。俺も頑張る。だけど、頑張りすぎないようにな」
「うん!」
兄妹で拳を合わせた。
5歳と10歳の小さい拳だったが、俺達を見る皆の顔は優しさに満ちていた。
養成所の前に着く。
馬車を降りると、門の前には既に他の子ども達が来ており、家族や友人達と別れの挨拶をしていた。
見るからに裕福な家の子どもや、逆に支給された制服以外は質素な感じの子ども。
昔のオードリーの様に表情が乏しい子もいれば、本当に子どもか疑いたくなるほど身体が大きな子まで、多種多様、癖が強そうな奴らばかりだった。
「……ステフ。どうやら退屈せずに済みそうだな」
「うん。とっても楽しみ」
兄妹で不敵に笑う。
きっとおんなじ黒い顔をしていたに違いない。
「それではこれより、生徒となる方は入所式へと向かいます! ご家族、友人の皆様は、ここでお引き取りください!!」
門にやってきた職員が、その時がやって来たことを告げる。
ここから5年、最愛の妹には会えなくなる。
近くで守ってやることは出来ない。
特異な[絶魔]体質とはいえ、魔法一切を使えないステフは、本当に自力でなんとかするしかないのだ。
そう考えると、途端に不安になってくる。
ギュッ
「お兄ちゃん?」
しばらく抱きしめた。
「『信じることは、誰でも簡単に出来る最強の応援よ』か。ステファニー、俺はお前を信じる。首席で卒業してこい!」
「うん……。私も信じてる。お兄ちゃんがSランクになったり、きっとまた女のひとが増えてることを」
「おいおい」
「ふふふ」
「ははは」
2人で笑った。
「ステフ。私にだって首席卒業出来ました。あなたなら楽勝ですよ!」
「ステフが居なくなると寂しい。でも、ステフはきっと頑張る。だから私も、次に会う時にはエーリ様の子を妊娠しているように頑張る」
「良い女になって帰ってらっしゃい」
「手紙、書きますね。エーリ様達には私と母が付いています。安心して勉強してきてください」
皆がそれぞれの言葉でステフを激励する。
ステフは1人1人の顔を見て、しっかりと頷いていた。
「皆ありがとう。じゃあ、行ってきます!!」
「「「「「行ってらっしゃい!」」」」」
俺達が見守る中、最愛の妹、【天才】ステファニーは、養成所へと走っていった。
門が閉まり見えなくなるまで、ステフは手を振っていた。
ここで一旦ステフとはお別れです。
5年後、彼女はどんな人間になって帰ってくるんでしょうね。
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