第93話 ジレンマ
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「この国は平和だ。それは、正次兄ちゃんや歴代の皇帝、そして国民皆が頑張ったからだよね。」
「ああ、皆頑張った成果だ」
「だからこそわからない。なんでこの国には選民思想があるんだ? なぜ持って生まれた才能のせいで死ななければならないんだ?」
皇帝や正次兄ちゃん、帝都で会った人達。
皆いい人に思えた。
もしこれが搦め手だったとしたら、俺は今まで何度殺されていただろうか。
そんないい人達も、帝国にとって不利益な才能があるとわかったら……他の人にはわからないように殺されるのか?
どう考えても、おかしい。
この国に長く関わってきた2人がいるのだ。今聞かなければいつ聞くというのか。
「あの法律、か。まだあんのか?」
「あるわよ。遺言で『絶対』を念押されてるから」
「そうか……」
正次兄ちゃんは頭をガシガシとかき、大きくため息をついた。
ミルクもテーブルの上をどこを見るでもなく見続けている。
「あの法律はね、今から約1,000年前に出来たものなの」
「確か、ケンの時代だったな」
「ええ、『温厚帝』と送り名をされた」
そこからミルクと正次兄ちゃんの昔話が始まった。
約1,000年前。
ケンという皇帝の時代。
当時の皇帝は、とても穏やかで優しい性格で、医療福祉の充実を図り、生活基盤の拡充にも手を出すなど、国民を第一に考える人だったようだ。
犯罪者もなるべく殺さずに罪を償わせたり、獣人も区別なく受け入れるなど、他国にもファンが出来るほど人間としても皇帝としても魅力的だった。
長く穏やかな治政が続いたある日、皇帝の元に鑑定士からの報告が上がってきた。
[下克上]という名の才能を持つこどもがいる
報告書にはそう書いてあったそうだ。
それまでの鑑定では、その子の才能に合わせて教育を行ったり、大人になれば職の斡旋を行うなどのために使われており、それは人間族の地力底上げに大いに役立っていた。
[下克上]は誰も知らない才能で、見た鑑定士も言葉がよくわからなかったため、とりあえず報告をという形で上がってきたのだった。
それを見たケン皇帝は、特級鑑定士派遣を指示。
より詳細な鑑定が行われた。
それによりわかった[下克上]の内容。
下克上:自分より圧倒的強者に勝つことが出来る才能。相手の強さ(立場なども含む)に比例して因果律が操作される。
一歩間違えれば国にとって一大事となる。
重臣達が国外追放や秘密裏に死罪とすべきと言う中、皇帝は他国への切り札として寧ろ育てよと命令を下す。
ミルクが聞いたところによれば、才能のせいで辛い思いはさせたくないと言っていたようだ。
……俺と同じか。
[下克上]持ちの男の子はすくすくと育ち、養成所にも入った。
元々他の才能も上のものが多く、養成所でも頭角を表すようになっていった。
そんなある日、男の子は外の世界が見たいと、帝都を出ていった。
五年が経つころ、男の子の名は色々な国で聞かれるようになる。
次々と強力な魔物を倒し、連戦連勝。
ついにはSランクにまで登りつめた。
昇格祝いを行うため、帝城にて直接会うことになった皇帝。
思い入れもあったのだろう。
自分のことのように喜び、当時排除を謳った重臣達も皇帝が正しかったと考えを改めた。
当日、皇帝の剣となり盾となる将軍達は、さまざまな理由により誰一人居なかった。
国を守るべき国軍も、他国との合同演習に行っていた。
国防の観点からすれば異常とも取れる事態。
だが、誰も疑問に思わなかったのだと言う。
式典当日。
そこにあったのは、血まみれで倒れる皇帝の姿と、薄ら笑い、玉座に座るあの男の子の姿だった。
皇帝が殺されたとの報が国中に知れ渡った後、霧が晴れるが如くこの異常事態に国を挙げて対応。
皇太子が陣頭指揮を取り、男の子とその一派を掃討。
ミルク帝国の歴史上初の皇帝暗殺事件。
皇太子はこの件を詳細に調査。
[下克上]という才能が関わっていることを突き止めた。
皇帝を深く愛していた皇太子は、皇帝譲りの温厚な性格が一変する。
才能鑑定時に不利益を及ぼすと見なされた子どもは、貴賤の区別なく処刑するという法律を秘密裏に作成し、実行していった。
皇太子が皇帝に即位し、その生を全うするまでこの苛烈な法律は選民を続けた。
最期の日。
皇太子だった皇帝はこう言ったという。
『あの法律は絶対になくすな。あの哀しみを忘れるな。実行し続けよ。さすれば帝国の繁栄は永劫続くであろう』
「……そして今もなお、それが続いているの」
「皇帝っつーのはよ。死んだり退位する時に、自分の想いを後の奴らに託すんだ。そうすることで同じ過ちを繰り返さないようにな」
「繰り返さない……。でも、今も殺される人はいるんだろう?」
「そうね。何年かに1人は」
俺は聖人君子じゃない。
どんなに頑張っても犠牲が出る時があるってことくらいは知っている。
でも、皆を知った今となっては、どうにかならないのかと思ってしまう。
「エーリ、勘違いしないで欲しいんだけど、今までの皇帝達だって何もしてこなかったわけじゃないのよ?」
ミルクが縋るような目で見つめてくる。
「才能を剥がしたり出来ないか、相殺するような才能を付けられないか、研究は続いてるわ」
「まあ、それが出来たら出来たで別問題が発生するけどな」
別の問題?
「わかんねぇか? 才能を自由に付けたり外したり出来るなら、人為的に強くも弱くも出来ちまう。悪いこと考える奴らがその手段を知ったら、俺らみてぇな規格外が大量に溢れることになるぜ?」
「確かに……。それに、余り努力もしなくなるかもしれないな。大抵のことはちょっとやればすぐ出来るようになってしまうから。……? まてよ? 才能が選べないって言うけど、ミルクは俺の才能を選んだよな?」
転生時に沢山入れといたって……。
「あれは転移、転生者限定よ。この世界の子達の才能には、全能神と言えど関われないの」
「そう、か」
それが出来るならとっくにやってる筈だしな。
「こういう議論を延々とやってきたんだよ、俺らはな」
国を治める者が持つジレンマか……。
いや、規模が変わるだけで、こういう問題は誰でも持っているのか。
「考えていくしか、ないんだな」
「ああ、考え続けていくことが大事だ」
正次兄ちゃんと目を合わせ、互いに頷き合う。
「重い話はこれくらいにしましょ。こうなると、いくら考えてもいいアイディアなんて生まれないわ」
「そうだな。じゃあ……」
「……」
3人の話は尽きることはなかったが、
「お、そろそろ戻らねえと」
「え? ああ、もうこんなに……」
ミルクが残念そうな声を上げる。
「どうしたの?」
「ん? ジョージの魔力が少なくなってきててな。これ以上俺が出てるとこいつが危なくなるから、そろそろ戻るわ」
「そっか。皇帝陛下には無理をさせちゃったかな?」
「大丈夫だと思うわよ。ここで寝泊まりも出来るから、明日になれば元気になってるし」
ならよかった。
話してたら皇帝の魔力が尽きて死んでました、じゃ暗殺と変わらん。
「そんじゃな。エーリ、絶対に死ぬなよ」
「ああ、天寿を全うするまではね」
拳を突き出し、別れの挨拶をする。
正次兄ちゃんは椅子に座ると、ゆっくりと目を閉じていった。
「ん……」
「ジョージ、起きた?」
「え……、あ、はい」
皇帝が目を覚ます。
ボーッとしてるのか、目の焦点も合っていない。
「今、何時ですか?」
「この部屋では夜8時、外はまだ昼の3時よ」
「え?」
何それ?
「え? ああ、言ってなかったかしら? この部屋、時間経過が少し早いのよ。元々忙しい皇帝のために作られた部屋だからね」
某漫画の神殿にある部屋と同じ感じか。
「エーリよ、初代様はどうだった?」
「面白い方でした。確かに、乱暴だけど面倒見がいいお兄ちゃん、て感じでしたね」
「ははは。私もあの方を兄のように慕っている。私は長兄だから、兄がいればこんな感じなのだろうといつも思う」
朗らかに笑う皇帝の顔は、職務中の張り詰めた感じがなくとてもリラックスしていた。
「ジョージ、今日はもういいのかしら?」
「ええ。聞きたいことは聞きましたし、私も職務に戻らないと」
「長い時間とってしまって、申し訳ありませんでした」
この部屋じゃなかったら、半日近く時間を奪ってるとこだ。
「良い。急に呼び出したのは私だ。今度は私とも話をしてくれ。この仕事は、腹を割って話せる相手が少ない」
「私でよければ喜んで」
こうして皇帝からの呼び出しは終わった。
思っていたよりも身になることが多かったな。
才能の問題は、俺にもある。
考え続けて、打開策を見つけないと。
それに、ゲム魔法の欠陥や魔法以外の鍛錬もしないとな。
伝手は出来てるから、相談してみよう。
さあ、忙しくなるぞ!




