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第92話 初代様

続きです。

 正次と呼ばれた初代皇帝陛下は、テーブルの上にうんこ座りしてしまうやんちゃな方でした。


「は、はじめまして。エーリと申します」

「おう。転生者なんだってな。前はどんなだったんだ?」

「其ノ崎衛理というサラリーマンでした。過労死寸前のところで、ミルク様に転生させていただいたと言うか……」

「ふーん」


 聞いておきながらさして興味なさそう?!

 耳くそかっぽじってるし。


「まあ細かいことはいいや。お前、ミルクが好きか?」


 ずいっと鼻と鼻がくっつきそうなほどに近づいてくる。

 顔も若干斜めだ。


「はい。す、好きです」


 ……


「嘘はついてねぇな。ならよし!」

「はい?」

「ね? 面白いでしょう?」


 両肘ついて手に顎を乗せながら、ミルクが笑っている。


 面白い、けど。

 ある意味凄い。

 この人が皇帝……。


 似合わねー。


「あ? なんか今、こいつが皇帝とか似合わねーって思ったな?」


 ?!


「いえいえいえいえ! とんでもない!!」


 手をブンブンと振って否定する。


「……嘘だな。思ったろ?」


 再び鼻と鼻である。

 今回は斜め下か見られている。


「……すみません。思いました」

「おう。嘘つくんじゃねーよ。分かるし、傷つくんだぜ?」


 テーブルを降りながらそう言う。

 本当かよ。


「初代様は 「お前、あっち換算で何歳になった?」

「……えーと、43歳ですね」

「結構いい年してんじゃねぇか。じゃあもうタメ語でいいぜ。かしこまった話し方苦手なんだよ」


 椅子に浅く座って、ポケットに手を突っ込んでいる。

 足も投げっぱなしだ。

 異世界とか関係なく、この人と同じ種族だとは信じられない。


「正次はこう言う人だから、気にしなくていいわよ。そうね……親戚のちょっとやんちゃだけど面倒見がいいお兄ちゃんと思えばいいわ」

「その例えよく使うな」

「これが一番わかりやすいのよ」


 ミルクとのかけあいが滑らかで、長い時間一緒に過ごしていることを感じさせてくれる。


「えーと、じゃあ普通に。正次兄ちゃん」

「「ぶっ!!」」


 そう言ってくるとは思っても見なかったのか、吹き出す2人。


「誰が兄ちゃんだゴラ! 吹き出しちまったじゃねーか!!」

「そうよ! 普通に正次でいいじゃない!」


「いや、だって親戚のお兄ちゃんとか言うから……。初対面で呼び捨てできる程話してないし、なんかこの方が親近感わくからいいだろ?」


「お、おう。まあお前が呼びたいように呼べや」


 ポリポリと頰をかいて、ちょっと照れ臭そうにしている。

 あ、可愛い。


「それで、正次兄ちゃんは転移者なんで……なんだよな?」

「おう。川べりで喧嘩してたらよ、ポリ公がわんさかやってきたんだよ。そんで車のライトが眩しーなクソがって思ってて、目が慣れたらここに来てたな」

「転移した時、正次ったら返り血で真っ赤でね」

「しかも魔物と人間族がヤリ合ってるとこに出ちまってよ!」


 思い出話をするミルクと兄ちゃんはとても楽しそうなんだが、『ポリ公』とか『返り血』とか、聞き流せない類の言葉が耳を離れない。


「結局魔物も人間族も全員殴ったのよね?」

「ああ、なんか俺のこと無視しやがったからな」


 思考が完全にヤンキーだ。


 目が合ったら喧嘩。

 無視したら喧嘩。

 口答えしたら喧嘩。

 なんか楽しいから喧嘩。

 強そうだから喧嘩。


 これを面白いで済ますミルクの度量にビックリだわ。

 目の前では物騒な昔話に花を咲かす2人がいた。


『皆殺し』だの『殲滅』だのが聞こえてくるので、思考停止……。


「おい、エーリ! 無視すんなゴラ!」


 ズパン!


「痛い!」


 頭を突然叩かれた。


「お前は強いのかって聞いてんだよ!」

「え? え?」


 完全に聞いてなかったから、何がどうなってそんな話になったのかわからない。


「あー、歴代の転生者や転移者の話になってね。ところでエーリはどのくらいかって話になったのよ」


 よくあるやつか。

 時代背景やルール、主観が入るから、結局わからないで終わると思うんだが……。


「自分では何とも……。弱くはないと思いますが、最強ではないと思います。何度か死にかけてますし」


 赤ん坊の頃から何度かね。


「エーリは史上初の全属性持ちで、才能も歴代最高ね。それに固有の『ゲム魔法』って無属性魔法の使い手よ。最近あんまり出番ないけど」

「ゲロ魔法?」

「ゲ『ム』魔法だよ」

「どんなんだ? 見せろ!」


 目がキラキラしている。

 喧嘩しようとか言われたらどうしよう。


 とりあえずゲム魔法を展開してみる。


「これ」

「ふーん……」


「えーと、相手の魔法を取り込んで跳ね返したり、圧縮したりくっつけたり色々出来る。ゴムみたいに伸ばしたりも出来るよ」


 ツンツン、ぷにぷにと触ったり伸ばしたりする兄ちゃん。


「うーん……」


 腕を組み、上を見たりしたを見たりして何か考えているようだ。



「ど、どうだった?」


 恐る恐る聞いてみる。

 身体一つで帝国まで築き上げた男の評価はいかに?!










「今のままだとダメだな」


「え?」






 ダメな方でした……。


「あら厳しい。どこら辺がダメなのかしら?」


「まず、侵食系魔法に耐性がなさすぎる。ほれ」

「ガボ!」


 纏ったゲムが全て水になった。

 思いっきり水を吸って溺れる。


 バシャ!


「ゲホッ! ガハ! ッはあ…はぁ。な、何が?!」


「攻撃っつーのはよ、直接的なもんばっかじゃねぇ。相手の魔力を自分の魔力にしたり、魔力を反転させて魔法回路をぶっ壊したりするやつらもいる。お前の魔法はそれを想定してねーから、俺の侵食を防げなかったんだよ。今俺がやったのは、お前の纏った魔力を全部俺の水魔法に変えた。それだけだ」

「それだけで、あんな……?」


「転生者や転移者ってのは、この世界の奴らより基礎的な所が段違いだ。魔法の種類も、威力も、魔力量だってスゲー。だからこそ、搦め手に弱い。ミルク、何つったっけ? ほら、とりあえず広範囲高威力でばっか戦うの」

「えーと、ゴリ押し、とかパワープレイとか?」

「それそれ。お前のも高密度だったしな。威力も基本高いのばっかだろ? 相手の魔法をそのまま返したり、倍加して返すやつらとかもいるからな。その時仲間にケガさせちまったら、お前どうすんだ?」

「それは……」


 言い返せない。

 溢れる魔力があるのだから、とりあえずぶっ放しとけば何とかなる、といつも思っているわけではないが、アルベルトさんにも教わったことを、未だに実践出来ていないことがよくわかった。


「色んな属性持ってたりよ、威力があるのはいいことだ。それは間違いねぇ。だけどよ、そっちにばっか目を向けてると、いつのまにか死んでるってこともあるんだぜ? 色んな所を見ろ。聞け。考えろ。いいことも悪いことも経験しろ。覚えきれないほど戦え。でも絶対に生き残れ。そうすりゃお前は強くなれる」


 生き残ってきた男の発する言葉は、実感を伴い、俺の心に刻み込まれていく。


「いいことも言うじゃない。それで、他の弱点は?」


「悪意がない攻撃を防げねぇ」

「ああ……」

「?」


 ミルクは納得顔だ。


「それは、どういう……」

「例えばよ、お前の母ちゃんが作ってくれた手料理に毒が入ってたら、その魔法で防げるか? 俺がお前の母ちゃんが使う調味料によ、これ入れるともっと美味いっつってあらかじめ毒を入れとくとすんだろ? もし疑われずにそれが出来たら、お前も母ちゃんも死ぬぜ?」

「え……」

「関係性さえ作れりゃ、あとは言葉でどうにか出来んだろ? 洗脳だ洗脳。子どものためって言えば親は動くし、逆も同じだ。今流行りのって言やぁ若いのは右へ倣え、神のためなら信者が動くしな。今のお前の魔法で防げるのは、わかりやすい攻撃や直接的な不意打ちだけだ。それ以外を使えば、お前を殺すのはガキでも出来る」

「?!」


 Aランクに上がって最初の洗礼。

 ゾラやゴルドンとの戦いも、魔法や肉弾戦だったからこそ、転生者の強みが生きた。

 もし兄ちゃんが言うような搦め手使いだったら、俺や仲間が傷ついたり死んでしていたかもしれないのか。


「そんなの、どうしたら……」

「毒やら呪いやらすら検知して知らせる効果をつけるか、経験や勘で何とかするしかねぇな。どんなのがあるかって知らなきゃ防げねえけど。


一朝一夕には出来ないな。

戦闘面だけじゃなく、他のことももっと勉強しないと。


「お前の魔法は既に一流だろう。だったらそれ以外も一流にならねぇと、何十年か経った後で『エーリって魔法使いもいたなぁ』ぐらいにしかならねえってことだ。帝都にいる間、それを学べ」


 ぽん、と俺の頭に手を置く兄ちゃん。


「なあ、何で正次兄ちゃんはこんなに優しくしてくれるんだ? 今日初めて会ったのに」


 思っていたことをストレートに聞く。

 兄ちゃんは少し困ったような顔をした。


「まあ、贖罪ってやつだな」

「贖罪?」

「ああ。俺やお前みたいな転移者、転生者っつーのはそこそこ居てよ。それぞれ楽しい異世界生活を送ってたわけだ。会って話したやつや戦ったやつも沢山いた。だけどな、俺がさっきやったみたいなことで、沢山いた転移者、転生者はバッタバタ死んでいった。」


「そんな簡単に?」


 いくらなんでもそれはないんじゃないか?


「基本はほれ、安心安全な日本に暮らしてた奴らだからな。平和ボケした頭で魔物退治やって人助けして、ハーレム作ったりどっかの王様になったりしたんだけどよ。妬む奴はいっぱいいるよな。対して努力もしてねぇ、どこの誰かもわかんねぇやつや、子どものくせにやたら頭が回って魔法が強いやつらが、女侍らせたり偉そうにしてんだから。そんで絡め取られてどんどん死んでいったんだわ」


 俺と同じことを考えるやつ、そりゃあいるか。

 このままいったら、俺も同じことになってたんだろうか?


「戦場で油断して死ぬやつもいっぱいいたな。俺は昔から喧嘩ばっかで、人を疑いまくって生きてきたからよ、人の嘘はわかるし、こっち来てもらったチート能力っての? アレのおかげで身体は丈夫だったから死なずにすんでた」


 ふー、と一息ついて、レモネードを飲み干す正次兄ちゃん。

 その瞳には哀しみが見て取れた。


「もっと関わって注意するなり助けてやるなりすれば良かった、そう思ったんだけどよ。……それに気づくのがちょっとばかり遅すぎてな。その時には俺の寿命が足りなかった」

「だから魔法で一族に自分を刻み込んだのよね」

「まあな。転移者、転生者がいればこうやってアドバイスも出来るしよ。ただ結局この帝国も、狂信者の集まりみたいになっちまってるし、権力傘にきて馬鹿な事しやがる奴らはいっぱいいるんだろ? そこら辺どうなんだと思わなくもねぇが……。そこら辺はもう俺が手を出していい問題じゃねえんだよな」


 皇帝の手を見つめている。

 何を考えているのかはわからない。


 でも、ミルクの話し方や表情を考えると、少なくとも初代はまともな人間だったようだ。


 だからこそ聞きたいことがある。


「正次兄ちゃん」

「おう。なんだ」




「どうしてこの国には、才能を鑑定して不利益がありそうなら殺すって法律があるんだ?」

いつも見て下さってありがとうございます。


お気に召しましたらブクマ、最新話下の評価をよろしくお願いいたします。

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