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第90話 昇格、引越し、招集

続きです。

 ドロシーさんの件で、うちの女性陣は凹みっぱなしである。


「あれで男性なんて……」

「女って、なんなのかしらねぇ?」

「私の方がいっぱい食べられます……」

「目指すべき美が男の人って、どうすればいいの?」


 死んだ目をしながら通りを歩く様はさながらゾンビのようで、すれ違う人全員がこっちを見ていた。

 その状態のまま中央ギルドへ向かう。


 マチルダ母さんに報告するためである。


「あら、早かったのね。いい物件はあったのかしら?」


 珍しくメガネをかけて書類に向かっているマチルダ母さん。

 こういうのも可愛いね。


「はい、おかげさまで。色々と便宜を図っていただいてありがとうございました」

「いいのよ、あれ位。そっちの子達は、ドロシーかしら?」


 くすっと笑うマチルダ母さんの視線の先には、ハイライトを失った目でブツブツと何か呟く女性陣の姿が。


「はい。相当ショックだったみたいで。俺も危なかったです。ドロシーさんは本当に人間族なのかっていう疑問が浮かぶくらい桁違いの美貌でした」


「そうでしょう? あの子が男だってわかった時は凄かったわよ。新聞は1面、特急鑑定士の鑑定もあったし、皇帝陛下が直々に見にくることもあったわね。でも、それまでの実績は疑いようもなかったし、男に負けたくない! って奮起する子も多くてね。その年から受付嬢が綺麗になったと評判になったのよ。あの子のおかげで、受付嬢達の格は一段と上がったのは間違いないわ」


 当時を懐かしそうに語るマチルダ母さんは、とても楽しそうだった。


 しばし話していると、扉がノックされた。


「東地区上級受付、ジャンヌ・メイガードです」

「お入りなさい」


 ガチャ


「ジャンヌさん?」

「エーリ様。皆さんもご一緒ですか?」


 お互いにビックリし合いながら、挨拶を済ます。


「さ、役者も揃ったことだし、始めましょうか」


 ??


 ジャンヌさんと顔を見合わせる。

 何が始まるんだ?


 そう思っていると、部屋には次々と人が入ってきて、中を飾っていく。

 5分経たずにまるで卒業式のような感じの部屋が出来上がった。


「あの、これは?」

「ちょっと待って。⦅起きなさい⦆」


 !!


 放心状態の女性陣の意識が戻ってくる。

 キョロキョロと辺りを見回し、こちらに気づいた。


「起きたわね。さ、並んでちょうだい」


 何も起きなかったという感じでマチルダ母さんは準備を促す。

 何が起きたかわからない俺達だったが、言われるがまま並んだ。


「これより、ミルク帝国皇帝、ジョージ・M・ミルキスタに代わり、帝都中央ギルド特級受付、マチルダ・メイガードがランク昇格の儀を執り行う。一同、皇帝陛下並びに全能神ミルク様に感謝の祈りを捧げよ!」


 急に真剣な表情になったマチルダ母さんに気圧される形で、俺達は各々祈りを捧げた。


 なんかランク昇格するみたいです。

 ありがとう、ございます。



「よろしい。では『虹の絆』オードリー、ルイーズ、前へ」

「「はい」」


 2人が一歩前へ進みでると、マチルダ母さんの横に立っていた受付嬢さんが魔石を持って2人の前に立つ。


「東地区ギルド、および南地区ギルドの推挙により、Bランクへの昇格を許可する。より一層己を鍛えよ」

「「謹んでお受けいたします」」


 2人がそう言うと、受付嬢さんの魔石が光り、その光はギルドプレートへと吸い込まれていった。

 随分声が揃っていたな。


「続いて、エーリ、アンジェリーナ、前へ」

「「はい」」


 ?!


 不思議な感覚だ。

 勝手に何をしたらいいかが頭に入ってくる。

 何かの魔法か?

 それとも、この儀式を行うとそうなるようになっているのか。

 とりあえず身を任せてみよう。


「ミルク帝国皇帝、以下【雷帝】、【炎帝】【風姫】【地帝】、中央ギルド、東地区ギルド、および南地区ギルドの推挙により、Aランクへの昇格を許可する。これに驕らず、さらなる高みを目指せ」


「「謹んでお受けいたします。この期待に応え、唯一の存在となることを誓います」」


 同じ様にギルドプレートが光を吸収した。

 かなり多くの人が推薦してくれたんだな。

 本当かはわからないが、【地帝(ゴルドン)】も推薦してくれた様だ。


「最後にジャンヌ・メイガード、前へ」

「はい」


 少し緊張した面持ちで前へと出るジャンヌさん。

 特級になるんだろうか。


「担当した冒険者がAランクとなったため、今年度の特級受付昇格試験の受験を許可する。担当した冒険者に負けぬ様、準備を怠らず、試験に備えよ」

「全霊をかけて臨みます」


 ジャンヌさんには俺達と違い、胸にミルクの像を象ったブローチが付けられた。

 色はなく、透明である。ガラスか?


「これにてランク昇格の儀を終了とする。一同、今一度感謝の祈りを捧げよ!」


 皆さん、ありがとうございます。


 フワ……


 祈りを捧げ終わると、何かから解放された気持ちになった。

 やはり何かあったらしい。

 嫌な感じはなかったから、大丈夫だろうと思う。


「お疲れ様。突然悪かったわね」

「いえ、不思議な体験でした。あれは何だったんでしょう?」

「あの儀式と結びついた精霊の力よ。悪さをする存在ではないから安心なさい」


「ジャンヌ」

「お母さん、私」

「ついにこの時がやってきたわね。頑張るのよ?」

「……はい!」


 決意を秘めた目になるジャンヌさん。

 凛々しくてカッコいい。


「マチルダ母様、試験て何をするんですか?」


「魔力集めよ」

「魔力集め?」

「そう。ミルク様を象ったこのブローチに、自分以外の人から属性魔力を流してもらうの。なるべく上質な物をね。集める属性魔力は、ミルク様にちなんで全属性分。期間は今日から1ヶ月。集めるだけでは駄目で、魔力の質も審査対象となるの。突破率1%未満の超難関試験よ」


 ……知っている皆の視線が痛い。

 俺なら今すぐ出来ます、とは言いづらいな。

 もし調べられたりして同じ人間の魔力だと分かったら、バレる可能性が高いな。

 どうしよう。


 その時、ポン、とルイーズが肩を叩いてきた。


「私達の魔力を使えば、ほぼ集まるわねぇ?」

「多分、残りが3つになるはずです」


 ルイーズも便乗していく。


 そうか、ルイーズもオードリーも多属性持ちだからかなりのところまで行けるな。


「あの、本当に良いのですか?」


 ジャンヌさんが嬉しい様な、困った様な顔で聞いてくる。


「もちろんですよ。ジャンヌさんがいなかったら、こんなに早くランクが上がることも、沢山の人達と縁を結ぶこともなかったんですから。遠慮なく使ってください。それに、この試験はこういうものなんじゃないかと思いますし」

「ありがとうございます……! 確かに、この試験は今までの自分の行いが返ってくる試験です。使えるものは何でも使って、絶対に特級になってみせます!」


 自分の意思を確認する様に、胸に手を当て俺達の顔を見ていく。

 凛々しいいつものジャンヌさんが戻ってきた。


「では早速、お願いできますか?」

「「「もちろん!」」」


 俺から始まってオードリー、ルイーズの順で入れていく。

 全14属性のうち、光、竜、機以外の11属性が集まった。

 質に関しても、各々凝縮して最高のものを入れたつもりだ。

 ブローチの中で光る色合いが美しい。


「後はセシルや教会の関係者を当たって確保してみます」

「俺達も知り合いを当たってみるので、何かわかったらお知らせしますね」

「ありがとうございます」




「さて、一段落したわね。エーリ君の家も決まった様だけど、引っ越しはいつ行うつもりなのかしら?」


 見守っていてくれたマチルダ母さんから今後について聞かれる。


「まだエクレールの家も建っていないですし、ステフも後1ヶ月で入所ですから、それまではご厄介になろうかと。そうすればジャンヌさんも特級に上がっているでしょうし」

「まあ、優しいのね。でもそうなるとエクレールの居場所確保が大変そうね」


 そこなんだよなぁ。

 最悪アンジーに収納するしかないけど、それは最終手段として残しておく。

 ギリギリまで模索しないとな。


「エーリ様、それならエーリ様達が住んでいる建物の屋上に小屋を立ててみますか?」

「え?」

「この先ずっとは難しいので言わなかったんですが、あそこの屋根は平らになっているので、小屋くらいなら問題ありません。後1ヶ月程なら重さにも耐えられると思いますし、新居にも小屋を建てるのでしょう? そこで寝る練習にもなるのではないでしょうか」

「とても魅力的な申し出なのですが、良いのですか?」


 俺がそう聞くと、マチルダ母さんばりのイタズラっ子の顔でこう言った。


「もちろんですよ。エーリ様達がいなかったらこんなに早く特級試験を受けることは出来なかったですし、遠慮なく使ってください」


 先程俺が言った言葉を引用してみせた。

 お互いに笑い合う。


「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて使わせていただきますね」

「はい」


 和やかな雰囲気が室内に拡がった。



 コンコンコン


「入りなさい」

「失礼いたします」


 と、室内に受付嬢の方が入ってきて、マチルダ母さんに耳打ちして出て行く。

 心なしか俺の方を見たような?


「エーリ君」

「はい」

「皇帝陛下が『お話し』したいそうよ。今回はあなた1人ね」

「はい?」



 皇帝は突然がお好きな様だ。

 さて、どうなるものやら。

いつも見て下さってありがとうございます。


お気に召しましたらブクマ、最新話下の評価をよろしくお願いいたします。

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