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第88話 エクレールの成長

続きです。

「さて、これからどうしたものか」


 家に着いてお茶を飲み、人心地ついた時に出た言葉である。


 あの後皆で帝城を出て、それぞれの家路に着いた。

 俺の体調も気にかけてくれ、合格祝いのパーティーなどは後日と言うことで話をした。

 これからパーティーをしても盛り上がりに欠けるだろうということで。


 ミルクは帝城に残った。


「せっかく顕現出来たから、ジョージやジョージの家族と食事やお話がしたいの」


 だそうだ。

 俺の方は魔力をあげればすぐ会えるしな。

 なので今家にいるのはいつものメンバーとエクレールだけである。


 で、最初の言葉に戻る。



「エクレール君(・)は大人しいですね」

「ん? 雄なのか?」

「あ、そうか。言ってませんでしたね。はい、雄です」


 息子、か。


 自分の以外で息子は初めてだな。


「何を食べるのかしらぁ?」


 エクレールの顎をさすりながらルイーズが聞く。


「えーっと、今のところは孵化する時に与えた雷属性魔力があれば大丈夫なようです。大きくなったら普通に肉を食べて自分で魔力を補充するそうですよ」


 オードリーが見ているのは、帰り際に【炎帝】が渡してくれた『雷鳥の生態』という本だ。

 初代皇帝の時代に書かれたものの写しだそうで、これを見れば大抵のことには対処できるとのこと。

 わからなければ、オードリーやルイーズを通じて意思疎通を計ればいいだろう。


「これからよろしくね、エクレール!」

「クルァ!」


 ステフの言葉に反応するエクレール。

 こっちの言葉はある程度わかっているようだ。


「エーリ様、エクレールはお風呂に入れるのでしょうか?」

「え? オードリー?」

「……本には書いてませんね。エクレール君、いや他人行儀ですね、息子なのに。エクレールもわからないでしょうから、やってみないことには何とも」


 そうだよな。

 もし感電するようなことがあれば大変だし。


 ん? それってつまり、


「よろしくね、お兄ちゃん」


 女性陣が頷いている。

 そう、なるよね……。


「わかった。今日俺が入れてみて結果を教えるよ」




 結果、




 感電した!!


 正確には、感電させた状態じゃないとお風呂に入ってくれなかった。

 お湯に雷属性魔力を流し込まないと、エクレールの魔力が漏れ続けてしまうのだ。

 多分大人になればそこら辺も大丈夫になっていくと思うけど、今のところは俺がやるしかないことがわかった。


 そうなると……。


「俺の楽しみが……癒しがぁ!!」


 そう、皆とお風呂に入れないのである。

 これは噂に聞いた、育児に忙しくて夜の営みが減ってしまう現象?!


 クッ!


 エクレールが悪いわけじゃないから、怒りの矛先をどこに向けて良いか分からん!!


 ギュ!


「大丈夫よぉ? エーリくんは2回入ればいいだけじゃなぁい」


 俺を山脈に埋めながら、そう話すルイーズ。


「うん……2回入る」


 幸せいっぱい胸おっぱいである。


「お兄ちゃん……」


 妹が汚物を見る目になっているが、構うものか!

 俺にとっては死活問題なのだ!


 と言うわけで、女性陣が入ってる間にエクレールを俺が乾かし、ステフが先に出る。

 ステフを俺が乾かした後は、エクレールをステフに任せ、俺が女性陣の待つお風呂へ、というルールとなった。


 ステフには『ココア・ド・コ』の『ミルク』プリンで手を打ってもらった。


 いくらでも食べるがいい!

 それで俺の幸せが守られるのなら安いものだ!

 ハハハハハハハハ!!


「調子に乗ったらお母さんに全部話すからね」


 と、極太の釘(杭?)を打たれもしたが、関係ないね!


 ゾク……


 いや、関係あるな、自重は大事だ。


 というわけでその日のお風呂もとても楽しいものだった。


 寝るのはいつも通りの布陣……とはならず、エクレールは俺の胸の中でスヤスヤと寝ている。

 どうやら寝ている時も俺が一緒に寝てやらないとダメらしい。

 雛だから仕方ないか。


 ただ、雷属性魔法で包んであげる必要があったので、図らずも無意識下での魔法行使の修行となったのであった。



 翌朝。


『おはようエーリ』


 ん? おはようミルク。

 皇帝達とはもういいのか?


『うん。ほぼ夜通し話したり遊んだりして楽しかったわ。ありがとね」


 いんや。朝ごはんは?


『まだ。早朝に魔力切れになっちゃってね」


 そうか、じゃあ食べてくか? 魔力ならあげるから。

 大目に取ってっていいぞ。

 俺からでもアンジーにストックしてる分からでも。


『そう? じゃあエーリからもーらおっと。えい! あっ」


 ギュン!


「ガハッ!」

 バタン!


 魔力を一気にゼロ近くまで持っていかれた。

 そのせいか、目の前がぐるんぐるん回っている。

 吐き気も酷く、立っていられない。

 体温が低下していくのと、身体が震えているのがわかった。

 魔力が一気に枯渇するとこうなるのか……。


「ちょっ!? エーリ?!」

「敵ぃ?! どこからぁ?!」

「形態変化!」

「エクレールちゃんこっち!」

「クルァ!」


 いきなり俺が倒れたからか、皆が敵襲かと思って戦闘態勢に入る。

 日頃の訓練の賜物だな。


「ごめんなさい、私のせいよ。間違って魔力取り過ぎちゃった」

「ミルク様?!」

「アンジー、早くエーリくんにストックしてる魔力をあげて!」

「はい!」


 ギュン!


「っはぁ! はぁ、はぁ。た、助かった……」

「ご、ごめんね?」

「いや、大丈夫だ。皆も落ち着いて。魔力が一気になくなるとああ(・・)なるんだな。徐々になくなって枯渇することはあったけど、一気には初めてだった」

「死んじゃうかと思いましたよ?!」

「ご、ごめんなさい。エーリって思うと多く取っても大丈夫かなぁ、なんて」

「それはわかるけどぉ、危うく殺すところだったわよぉ?」

「ミルク様。……次からは私の中の魔力を使ってください」

「はぃ……」


 全能神様が怒られている。

 どんどんちっちゃくなるミルクも可愛いな。


「クルァ?」

「ん? 心配してくれているのか? 大丈夫だよ、ありがとな」


 エクレールの頭を撫でてやる。

 気持ちよさそうに喉を鳴らした。


「じゃあ魔力枯渇の勉強になったところで、朝ごはんにしよう! 皆もそれくらいにしてあげてくれ。いい機会だから、今度訓練に取り入れてみよう」

「お兄ちゃんもああ言ってることだし、はい! いつも通り、いつも通り!」


 ステフが努めて明るく振る舞う。

 こういう切り替えの早さは見習わないとな。


「そう、ですね。ミルク様がエーリに危害を加える理由もないですし」

「じゃあ準備してくるわぁ。オードリー、手伝ってくれるぅ?」

「あ、はい」

「じゃあ私はセッティングを」


 メンバーもいつもの朝の動きに戻っていった。


「はぁ。ちょっとはしゃいじゃってたのね。まだまだダメだなぁ、私」

「なんだよ、珍しく弱気だな」

「だって……あーー! もうやめやめ! 切り替えていくわ」


 頭をブンブン振って切り替えたのか、その表情は明るくなっていた。


「うん、それがいい。ほら、エクレール。この人が全能神様だぞ」

「クル?」

「あら、ちょっと大きくなった?」


 ん?

 ……確かに。


「雷鳥って成長早いのか?」

「早い方よ。大体1ヶ月もすれば飛べるようになるし、1年で成鳥になるわ」

「そうなると、もう家借りるしかないよなぁ」

「そうね。この子がどこまで大きくなるかわからないけど、大型の雷鳥は体高が10m、尾羽含めた全長が30mにはなるから」

「帝都内に住めなくない?」

「そうでもないわよ? 西区は戸建ての住宅が多いから、そっちで家借りればいいと思うし」


 ほう、西区は住宅街が広がって入るのか。

 でも高そうだなぁ。


「値段のこと気にしてるでしょ?」

「あ、わかる?」


 顔に出てたか。


「そりゃね。値段ならマチルダか皇帝に言えば、いい所見つけてくれると思うわよ」

「その手があったか。お金も依頼の達成報酬や魔石を売れば何とかなる、か」


 とりあえず限界まではこのままでいこう。


「ミルク様ー! お兄ちゃーん! ご飯できたよー!」

「はぁーい。さ、行きましょ」

「ああ」


 結論は先延ばしのまま、俺達は朝食を取りに向かった。




 〜〜 1週間後 〜〜


「……ここまでとはな」

「大きいわねぇ」

「予想よりも早い気がしますけど」

「エーリ様、そろそろ出ないと部屋が壊れるかも知れませんね」

「エクレールのお家どうするの?」

「クル?」


 エクレールが来て1週間が経ち、俺達はエクレールの成長速度に困惑していた。

 雛の時点では中型犬の子犬程度だったのが、今はもう1番背の高いルイーズ(170cm)位になっている。

 羽を広げれば2mは確実に越えるので、羽ばたくのを禁止したほどだ。


 これでは教育上よろしくない。

 早急に新居を探さなくては。




 〜〜 中央ギルド 〜〜


「事情はわかったわ。私に任せておきなさい。西には話を通しておくわ」

「ありがとうございます、マチルダ母様」


 という事でマチルダ母さんに連絡を取った。

 一応ジャンヌさんにも話してみたが、西には同期がいないので母を通した方が確実です、と言われた。

 そうだろうとは思っていたが、こういうのは話だけでも通しておかないと後々揉めたりするからな。


「いいのよ。この前プレゼントももらったしね。アレ(・・)、とっても良かったわよ」

「あ、ありがとうございます。選んだのはウチの女性陣でして……」

「お気に召したようで何よりです」

「お渡しした時のアルベルト様の表情を思い起こすと、差し上げて正解だったようですわねぇ?」

「ふふふ。ジャンヌの弟妹が出来るかも、ね?」


 妖しい微笑を浮かべるマチルダ母さん。

 エロい。


「あー……、じゃあこれは火に油を注ぐ、かな?」


 コト


「これは、アーノルドの香油?」


「はい、『エイミー』の若い方(・・・)のです。1滴あれば、その……」


 言い出しにくい!


「夜の獣になりますわぁ」

「あら、それは楽しみね」


 ふふ、と楽しそうに笑って受け取ってくれた。

 頑張れ、アルベルトさん!





いつも見て下さってありがとうございます。


お気に召しましたらブクマ、最新話下の評価をよろしくお願いいたします。

感想もお気軽にどうぞ。

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