第86話 再会
続きです。
「ん……」
気が付くと、そこは知らない部屋だった。
ゆっくりと起き上がり、辺りを見回す。
帝城、だろうな。
壁にはデカい絵がかけられているし、家具も装飾が施されていて豪華だ。
誰も居ないってのが不気味だが。
ふと横を見ると、サイドチェストにベルと書き置きがあった。
「……起きたらこれを鳴らしてね、ミルク」
とりあえず鳴らしてみるか。
チリリン!
「おはよう」
「おわ!!」
「何よ! そんなにビックリしなくてもいいじゃない!」
「横向いて顔を戻したらゼロ距離で人の顔があれば驚きもするわ!」
心臓がバクバクいっている。
ホラーかよ!!
「ご、ごめんなさい……」
「あー、いや。俺も怒鳴って悪かった。……久しぶりだな、ミルク」
ゆっくりと頭を撫でる。
たった2ヶ月なのに、もう何年も会ってないような感覚だ。
ミルクは目を閉じて心地好さそうな顔をしている。
「うん、久しぶり。この2ヶ月で随分冒険者らしくなったじゃない」
「ああ。村を出てから本当に色々あったんだよ。聞いてくれるか?」
「うん!」
これまでのことをミルクに話した。
途中途中で驚きの顔をしていたが、黙って最後まで聴いてくれた。
「で、今に至る、と。」
「たった2ヶ月でも色々とあるのね。気になることはたくさんあるけれど、【トラブルホイホイ】が放浪中というのと、その黒い何かの夢が問題ね」
「俺もそう思う。あの夢を見てから、嫌な予感がどんどん大きくなっているんだ。今は嵐の前の静けさって感じで。気にし過ぎてもしょうがないんだけどさ」
そう、何もわからない状況で不安だけを感じ取っていると、いざ何か起きた時に最善手が打てなくなる。
ここは楽観的に行動しなければ。
「ミルクの方はどうだったんだよ? 2ヶ月で何かわかった?」
「私の方はあんまり。えっとね……」
話をまとめるとこうなる。
世界中で魔物達の凶暴化と、異種交配が進んでいる。
各国対応に追われているが、これは何とか対処ができている。
また、世界の聖域と呼ばれる場所の力が少しずつだが弱まり、代わりに瘴気と呼ばれる負の存在が増えている。
この世界の生命に危険が及ぶほどの大きなものはミルクや他の神が散らしたが、細かいものは無数にあり、
対応が間に合っていないという。
「なんかまったり生活に危険信号が灯ってきてる気がする……」
「ごめんね? こんな世界で……」
「いや、ミルクがどうにか出来るんならしてるだろ? 制約もあるんだろうし、そこは気にしないでくれ。ハーレムの夢には大分近づいてるしな!」
じーーーーーーーー
「え、と。ミルクさん?」
全能神様はジト目を継続中である。
先程から背中を伝う汗が止まらない!
「それよ。なんでエーリに好意を持っている女が1,000単位で増えてるのよ」
「は? そんなに多くないだろ?」
「受付嬢」
「あっ、あ〜〜〜〜」
あれで。
「メンバーもいつのまにか2人増えてるし。魔法鞄は良いとしても、よりにもよってルイーズ・アンドレイクなんて」
「んん? アンドレイク? ……ああ、2つ名にあったな。皆に会ったのか?」
「エーリが寝てる間にね。そんなことよりルイーズよ。今はキングリッジと名乗っているみたいけど、年齢、知ってるの?」
ミルクがこんな言い方するんだから、俺の想像のかなり上なんだろうな。
「いんや? 相当なお年だとは思うけどさ、正直関係ない。今の姿が大事だ」
キリ!
そう、今欲情出来ている。それが大事だ。
「はぁ……。エーリが良ければいいわよ。このままいくと、エーリの子孫は万じゃ足りなくなってくるかもね」
「ミルクとも作るんだろ?」
「ブッ!! けほっ、なな、何言ってるによ?!」
噛んだな。
「ミルク言ってたじゃないか。俺のことが好きだって。俺もミルクのことが好きだぞ? 大きくなったらそうなるもんだと思ってたんだけど……?! まさか神様って子ども出来ないのか?!」
なんたる事だ!
こ、これは由々しき事態だ!
俺のハーレムにミルクがいないなんて……!
いや、子どもが出来なくてもハーレムは作れるか。
ふう。早とちりするとこだったぜ!
「でで…」
でで?
「ででで、出来るわよそそそそれくらい! た、ただそれにはい、色々と準備が必要であって、その……すぐどうにかなるものでもごにょごにょ」
真っ赤な顔でミルクがゴニョっている。
久しぶりだなぁ、こういうの。
いちごミルク状態もなかなかよろしいではないか。
「とにかく出来るし、ミルクにもその意思はあるんだな?」
「え、と。その…………はぃ」
自分で言ってて頭おかしいんじゃないかと思ったが、言質も取れたし良しとしよう。
「俺はミルクが誘ってくれたからこの世界に来たんだ。だから、ミルクには傍にいてほしいんだよ」
手を取り、目を見て話す。
ミルクは赤い顔を更に赤くし、顔を背けた。
「ちょっと、いきなりそういうのなし……(久しぶりでドキドキしてるのに)」
「ミルク……」
「あっ」
指で顎を持ち上げる。
ジッと見つめると、ミルクは蕩けた顔になり、目を瞑った。
唇と唇が近づいていく。
そして………
ッバァーーーーーーーーーン!!
ビクゥッ!
「エーリ?!! 大丈夫なんですか?!」
勢いよく扉を開け(蹴破り?)、オードリーが入ってきた。
続いてルイーズ、アンジー、ステフと続き、メイガード家とアーノルド、セシル、最後にココアが入ってくる。
「あらあらぁ? 随分雄と雌の匂いがするわねぇ? エーリくんまだ魔法が抜けてないのねぇ? ちょ〜〜っと待っててぇ」
「?!」
【賢者時間】がかけられた。
そっち方面しか考えていなかった頭が急速に晴れていく。
なるほど。
ミルクにあんなに迫ったのは、【今夜は頑張っちゃうぞ】の性の部分だけが消化されていなかったからか。
本心でもあるから嘘ではないんだけどな。
「ルイーズ、ありがとう。おかげで落ち着きましたよ」
「どういたしましてぇ」
「(あとちょっとだったのに)」
ミルクはなぜかむくれている。
「それで、もう大丈夫なの? お兄ちゃん」
「ああ。元々怪我してなかったしな。【魔封環】と実戦の緊張感、最後の攻撃の時に感じた死の恐怖で疲労が蓄積した結果だから、休んだ今となってはもう大丈夫だ」
「……もうお兄ちゃんが人間とは思えなくなってきたよ」
おいおい、お前と同じ所から出てきたんですよー。
周りの皆もなぜか納得顔だ。
おかしい、こんなに可愛い子どもそう居ないであろうに。
解せぬ。
「エーリ様」
「アンジー」
つい、と前に出てきたアンジーを撫でる。
今回はお腹が空いたと言うこともなく、目を瞑って黙って撫でられていた。
「心配、しました」
「うん、俺もまだまだだな」
「強くなってください。もっと、もっと」
「ああ、頑張る。アンジーとももっと連携の練習をしないとな」
「はい」
微笑むアンジーはいつものほっこり顔ではなく、大人の女の顔をしていた。
「グスッ……」
「ほらぁ、もう泣かないのぉ」
「オードリー、心配かけt「エ゛ーリ゛ィィィィィ」」お、おう」
俺に抱きついてオイオイ泣いている。
よっぽど心配をかけてしまったんだろう。
反省。
「この子ったら、エーリが倒れた時におかしくなったんじゃないかってくらい叫んでね。まあ五月蝿いから黙らせたんだけど」
苦笑しながらパイプを燻らせそう言うのは、マチルダ母さんだ。
「マチルダ母様……ご面倒とご心配をおかけしました」
「まだまだね」
ふう、と煙を吐きながら微笑む。
「はい。驕りがあったんだと思います。いい勉強になりました」
「もっと精進しなさい。でないとジャンヌはあげないわよ」
肩をすくめ、眉根が上がる。
悪戯好きな顔が可愛らしい。
「ちょっ! お母さん!!」
「それまでに私がエーリ様の妻に……」
「セシル!! 抜け駆けは許さな、あっ!」
思いっきりしまったという顔をして、慌てて口に手を当てる。
ここまでテンプレな展開だと、見てるこっちが恥ずかしくなってくる。
ステフが言っていたことは正しかったようだ。
「エーリ様、あーん」
今度は横からココアが口元にスプーンを出してくる。
チヨコプリンのようだ。
お、ちょうど甘いものが食べたかったんだ。
「あぁーー、ん? うまい!!」
口に入れてすぐわかる滑らかな口当たりと、口の中で広がるチヨコの風味。
喉ごしも最高で、胃に入った後は優しさを飲んだように気持ちが落ち着いていく。
一線を画す美味しさだ。
「ココア、これは?」
「うふふ、試しに作ってみた新作プリンです」
「「「「「「「プリン?!」」」」」」」
「あ、私も食べたい」
女性陣が獣になる。
あれだけ泣いていたオードリーも、俺から飛びのいてプリンをもらいに走る。
オードリー……残念な子!
ミルクはプリンを知っていたのだろう。
1人だけ普通である。
「皆さんの分も用意しましたから仲良く食べましょう?」
ここでちょっと休憩してティータイムだ。
「この前のよりさらに美味しい……。ねぇ、なんでなんで?」
ステフはこのプリンの美味しさに興味津々である。
他の女性陣は幸せそうな顔で堪能中だ。
アンジーはの前にだけ10個置かれているのは許してやってくれ。
「これは、『ミルク』を使用したチヨコなんですよ」
「なーるほど。これ凄いよね、お兄ちゃん」
「ああ、通りで美味いわけだ」
「バランスも良いですね。流石です」
食通アンジーもお気に召したようだ。
「なんか、私が入ってるみたいで恥ずかしいわね」
「お気に、召しませんでしたか?」
ミルクがそう言うと、ココアが心配そうに尋ねた。
「ううん。とっても美味しいわ。ありがとう」
「勿体ないお言葉です。ショコラティエ達にも必ず伝えます」
『ミルク』をただぶち込んだだけじゃこうはならないからな。
あの後も随分と研鑽を重ねたらしい。
「エーリ君。君はあの戦いで何を得た?」
プリンを食べ終わり、お茶を飲んでいたアルベルトさんが俺を見て言った。
「自分の驕りがわかりましたし、【地帝】には覚悟を教わりました。それに、自分が背負って……違うな。自分と共にある人達のことを再確認しました」
「そこまでわかっているのなら、私からは何もないよ。戦闘に関しては帰ってから振り返りをしようか」
「お願いします」
元Sランクの感想は貴重だ。
今後に生かさせてもらおう。
「アーノルドも忙しいのにごめんな?」
「いいや。戦闘は門外漢だから、どこがどうと言うのは言えないんだけど、おかげでインスピレーションは湧き続けているよ。早速帰ったら試作に入るんだ。」
目がギラつくアーノルド。
悪い癖が出てるぞ。
「ステフ、アンジー。この仕事狂の制御をお願いね?」
「任せて! マチルダ母様!」
「お任せください」
「う……マチルダ。わかってるよ。無理はしない。ちゃんと寝て、ちゃんと食べるさ」
「よろしい」
釘を刺してくれる存在は貴重だ。
そして、刺された釘に素直になれるのもまた貴重である。
楽しい時間が過ぎていく。
と、そこへ扉をノックする音が響いた。
「入っていいわ」
この中で1番偉いミルクが答える。
「ご歓談中失礼いたします」
入ってきたのは、俺を謁見の間に案内してくれた老紳士だ。
「エーリ様。体調はいかがでしょうか?」
「おかげさまでもう大丈夫です。お手間を取らせて申し訳ありません」
「いえいえ。お身体が大丈夫なようでしたら、皇帝陛下がお呼びですので、ご同行願えますか?」
「構いません」
「では、着替え終わりましたらお声がけください」
パタンと扉が閉まり、老紳士は居なくなる。
「何かしら?」
「わからないけど、行けばわかるさ」
「今回は私達も付いて行きます」
頷く一同。
何があるんだろう?
あーー、ミルク成分が補充されていく……。
いつも見て下さってありがとうございます。
お気に召しましたらブクマ、最新話下にある評価をお願いいたします。
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