↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱の俺だけが、英雄たちの涙を覚えている  作者: 黒子丸
1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/17

閑話 朝倉悠真の独白

もしも、何か一つだけ特別な力を手に入れられるとしたら、俺は一体どんな力を選ぶだろう。


空を飛べる能力や炎を自在に操る能力。

それとも、どんなに殴られても傷一つつかない、無敵の身体なんてのも悪くない。


……いや、待てよ。


どうせなら、勉強しなくてもテストで満点が取れる能力の方が便利じゃないか?

少なくとも、赤点の心配はなくなる。

そんなくだらないことを考えたところで、当然ながら能力が手に入るわけじゃない。


そもそも、この世界で異能力を持っている人間は、決して珍しい存在ではない。

常識では考えられない速度で走る者もいれば、何もない場所から炎を生み出す者もいる。

もちろん、全員がそんな派手な能力を持っているわけではないらしい。


それでも、普通の人間にはできないことができるというのは、やっぱり少し羨ましい。

テレビをつければ、異能力を使った事件が報道されることもある。


その一方で、事故や災害から大勢の人を救った能力者が、英雄として紹介されることもあった。

そういうニュースを見るたび、俺はつい考えてしまう。


もし、あの場所にいたのが俺だったら。

きっと、何もできなかっただろうな、と。


俺には、特別な力なんてない。

重たい荷物を持てば腕が疲れるし、全力で走ればすぐに息が上がる。

勉強も運動も、取り立てて得意というわけじゃない。

かといって、何か一つを極めるほど努力してきた覚えもなかった。

どこにでもいる、ごく普通の高校生。


それが俺、朝倉悠真だ。


別に、自分が無能力者だからといって、人生を悲観しているわけじゃない。

学校へ行って、授業を受けて、家に帰る。

腹が減れば飯を食うし、眠くなれば寝る。

休みの日には好きなことをして過ごす。

そんな当たり前の生活に、不満があるわけでもない。


むしろ、できることなら面倒な事件なんかとは無縁のまま、平穏に暮らしていたいと思っている。

痛いのは嫌だし、怖いのも嫌だ。

何より、せっかくの休日を誰かの揉め事で潰されるなんて、冗談じゃない。


ただ、それでも。


目の前で誰かが困っていたら、知らないふりをするのは、どうにも後味が悪い。

困っている理由がわかれば、何か手伝えることがあるかもしれない。


もちろん、いつだって上手くいくわけじゃない。

余計なお世話だったこともあるし、結局、何の役にも立てなかったことだってある。

そういうときは、さすがに落ち込む。


別に、誰かに褒められたいわけじゃない。

……いや、褒めてもらえたら普通に嬉しいけど。


それよりも、自分だけ何もできずに終わるのが、なんとなく悔しいのだ。


俺はこれまで、いろんな人に助けられてきた。


自分一人ではどうしようもなかったことも、誰かが手を貸してくれたおかげで乗り越えられた。


今だって、一人でちゃんと生活できているかと聞かれれば、少々返答に困る。


何せ、隣の部屋には、頼んでもいないのに俺の食生活を気にかけてくる女子高生がいるのだから。

朝飯を抜こうものなら小言が飛んでくるし、適当なもので夕飯を済ませようとすれば、呆れた顔をされる。

同い年のくせに、まったく遠慮というものを知らない。


……まあ、あいつの作る飯は美味いし、助かっているのは事実なんだけど。


本人にはあまり言いたくない。

調子に乗られるのが目に見えているからな。


そんなふうに、俺の周りには何かと世話を焼いてくれる人がいる。

ありがたいと思っている。


それなのに、ときどき素直に喜べない自分もいた。


たぶん、俺は負けず嫌いなんだろう。

人に頼るのが嫌いなわけじゃない。

助けてもらった相手に、何かお返しをしたいと思うのも自然なことだ。

けれど、相手が困っているときに何もできなければ、結局また助けてもらうだけで終わってしまう。

それが嫌だった。


大した理由じゃないと言われれば、それまでだ。

だけど、俺にとっては結構大きな問題なのである。


とはいえ、特別な力がないからといって、本当に何もできないと決まったわけでもない。


重たいものを運べなくても、誰かと一緒に持つことくらいはできる。

わからないことがあれば、詳しい人に聞けばいい。

困っている相手の話を聞くだけでも、何か変わることがあるかもしれない。

まあ、そんな都合よくいくなら苦労はしないだろうけど。


それでも、最初から諦めるよりはマシだと思う。


俺は別に、英雄になりたいわけじゃない。

大勢の人に名前を覚えてもらいたいとも、世界を救うような大仕事を成し遂げたいとも思わない。


ただ、もしも身近な誰かが困っていたら。

そのときくらいは、何か一つでも力になれたらいい。


いつも世話になっているあいつにだって、たまには胸を張って「任せろ」と言ってみたい。

もっとも、本当にそんなことを言ったら、何を頼まれるかわかったものじゃないが。


だから、これはあくまで俺の小さな目標だ。


誰かの助けを借りながらでも、自分にできることを少しずつ増やしていく。

そのうち、助けてもらうばかりじゃなく、誰かに頼ってもらえるようになれたら。

きっと、今より少しは自分のことを好きになれる気がする。

そんなことを、ぼんやりと考えていた。


このときの俺は、まだ知らなかった。

これから出会う人たちが、俺なんかとは比べものにならないほど強い力を持っていることも。


その力を使うたびに、本人たちにとって大切なものが少しずつ失われていくことも。


そして、何の力も持たない俺が、そんな連中と一緒に悩んだり、喧嘩したり、笑い合ったりするようになることも。


もし、あの頃の俺に教えてやれるなら、一つだけ言っておきたい。


これから先、面倒なことが山ほど起こるぞ、と。


できれば、今のうちにもっと平穏な毎日を満喫しておけ、とも。


……ただ、その面倒な連中と出会わなかった人生の方がよかったかと聞かれれば。


俺はきっと、迷わず首を横に振る。


あいつらと出会えたことだけは、何があっても後悔したくないから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。