一日無茶苦茶農家体験
「1日農家体験……」
初心者から熟練者まで!ぜひぜひ募集中!報酬は600ゼム!何人でもOK!
私――エルナは、依頼を探していた。
今日はなぜか依頼が少なく、遠出するものばかりです……そのなかで見つけたのがこれ。
1日農家体験。
どうやらお野菜ももらえるらしいですし、報酬も6人できっちり分けられそう。
なかなかいいのではないでしょうか?
私は依頼書を手に取って、アルドさんや皆さんに聞いてみることにしました。
「農家体験かー、懐かしいな。」
そういえばジオさんとミアさんは農村出身なのでしたっけ……
「1日だけならいいけどねー……私もう農家作業は飽きちゃったなぁ。」
「まあまあ、たまにはいいじゃないですか。私はやったことがないので、正直楽しみですよ。」
やっぱりアルドさんは優しい…!
初対面で、ちょっぴり悪い人かな?と思ってしまったのは永遠の黒歴史として心の中にしまっておこう……
「ネロが作るものは何でも美味いからな!新鮮野菜なら美味さも限界突破するかもしれない!」
「………………」
お二人も乗り気なようです。良かった。依頼を持ってきた身としては安心します。
「では、今回は街外れの農家でお手伝い、ということで。みなさん、作業しやすい服で集まってくださいね!」
アルドさんの一声で全ては決まり、私たちは解散したのだった……
「こ…こ、です……よね?依頼の場所」
アルドさんが震える声で私たちを振り返った。正直、なかったことにして帰りたかった。
野菜は魔物化し、
牛は野生に帰りかけ大暴れし、
豚さん……豚さん?猪の間違いでは……は、そこらじゅうを破壊し回っている……
特に古くなった野菜が魔物化しているのが致命的な感じがありますね……
私は頭のどこか冷静な部分でそんな事を考えていました。
冷静じゃない部分?呆然としていました。
「なんじゃこりゃ。よっぽど放置しないとこんなふうにはならないぜ。」
「野菜が魔物化すると面倒なのよねー……」
農家のお二人は平然としています。えっ!?よくあるの?これ……!?
正直農家の方の家の扉を叩くのも緊張します。帰りたい……
農家の方は、普通の若い人でした。
「いや、ごめんね?最近お嫁さんが産気づいて倒れちゃってさ。そっちが心配で付きっきりだったら、しばらく目を離しているうちに……ねっ?」
ねっ、じゃないです。普通の人というのは訂正します。この人も変な人だわ……。
「だからっていくらなんでも放置し過ぎだろう。野菜なんか魔物化してたぜ?」
「もうちょっと手を入れてあげないと……豚はすぐに暴れイノシシに先祖返りするんだから……」
……うちのパーティの2人もちょっと変な人でした……
ついて行けてるのがすごいなー……気が遠くなりそうです。
「本当にごめんね!でも、もうすぐ生まれるんだ……ついていてあげたくてさ……」
……訂正します。いい人だけど、変な人です。
「と、とりあえず……私たちは何をしたらいいんですか?」
アルドさんはこんな時でもきちんと確認できてすごいなぁ。私にはとてもできない。
「えっと……魔物化野菜の駆除だろ?あと豚が大人しくなるまで相手……戦闘してくれればいいし……あとは、牛に餌をやってブラッシングかな……」
まともなの、牛さんだけなんですけど……
結局今回も戦いなんだなー……私は一人、遠い目をしました。
いえ、間違いでした。
エンツォさんとネロさんと、3人で遠い目をしました。
「うおおお!クソっ、スイカめ!ミア、そっち行ったぞ!任せた!」
「任された!スイカめ!きれいに割ってやるんだから!」
走り回るスイカ。素早く転がるスイカ。端っこでじっとしているスイカ。
こう見るとスイカにも個性があるんですね……
私は、渡された棒を持って呆然としていました。
エンツォさんはついに思考を放り投げたのかスイカに向かって次々と突撃を繰り返しています。
つよーい……
アルドさんとネロさんと私は、そんなに力が強くないので何度も叩いてスイカを割ります。
ペチペチ……ペチペチ……
「私たち、何やってるんでしょうね……」
アルドさんの深いため息に、私とネロさんは思わず頷きました。
「もういっそ理性なんてすっ飛ばしたほうが……はは……」
「アルドさん!置いて行かないでください!」
「……………!」
私たちの必死の呼びかけでアルドさんは戻ってきました。
けれど、確かにこれは正気を捨てたほうが楽なのかもしれません……
次は暴れイノシシ……いえ、豚さんです。あれは誰が何と言おうと豚さんなんです。
広い牧場には、あちこち穴が空いていました。
暴れイノシシはほとんど逃げてしまったらしく、一匹だけが猛然と走り回っています……
なんかゴブリンより強そうなんですけど!?
「水よ、わが力を用いて――」
アルドさんが詠唱を始めました!?そんなにやばい相手なんですかあれ!?
「うおお行くぞ突撃ーーー!!!」
ジオさんとミアさんとエンツォさんは突撃しては弾き飛ばされ、突撃しては弾き飛ばされていました……私、どうしたらいいの……?
ぽん、と肩をたたかれて振り向くと、ネロさんは静かに首を横に振りました。
とりあえず……けが人が出たら癒せばいいですよね……
私は牧場の端っこで、ネロさんと一緒に4人の戦いぶりを見学しました。やっぱり魔法って強いなぁ。
そうして癒しタイム、牛さんとのふれあいです!
糞や汚れの片付けは、なかなか大変でしたが、牛さんを洗ってブラッシング、
餌をあげる頃には牛さんたちはすっかりおとなしくなって円らな瞳でコチラを見上げてくるようになりました。
これですよ!私が求めていたのは!
スイカとの戦いやイノシシ化した豚さんとの戦いじゃない……!
ネロさんも安心したように牛さんをポンポン叩いています。
アルドさんは……さっきの豚さんとの戦いで疲れ果てたのか、エンツォさんと今、休憩中です。
「なんだよ2人ともだらしないなー。」
「そんなんじゃ立派な農家にはなれないわよ!」
……ジオさんとミアさんは、平気で牛の世話をしています。
田舎ってカオスだったんだなぁ。私はしみじみとそう思いました。
「いやあ本当に助かったよ!豚はだいぶ逃げてしまったけど、魔物化野菜も牛も落ち着いてくれて本当に良かった!」
農家の人は爽やかに言いました。
……あのカオスを見たあとでは、素直に爽やかとは言いづらいんですが。
「もうすぐ子供も産まれるし、そうしたらまた頼むこともあるかもしれない。次もぜひ君たちにおねがいしたいな。」
嫌です。言いかけてのみ込んだ。最後に失礼があってはたまらない。
「600ゼムと……新鮮な野菜だ!好きなだけ持って帰ってくれ!」
……あの魔物化を見た後では素直に持ち帰りづらいのですが……
とりあえず、一人ずつ持ってきた袋に入れて持ち帰ることにする。
さっさと料理してしまえば魔物化はしないものね……しない、はずだよね……?
大きく手を振る依頼人の方に手を振り返しながら、私たちは宿へ帰っていった……。
世の中には普通に見えて危険な依頼があるんだなぁ……私は、しかと心に刻んで、その場を後にした……。
もう二度と、来たくないです。




