魂の行方
「アルドさん……不思議な依頼があるんだけどね?受けてみない?」
ギルドの人から前置きがあるなんて初めてです……
それだけ、不可解な事件ということでしょうか……
隣でエルナさんも不思議そう。
「アルドさん……聞いてみましょうよ。皆さんには、副リーダーの私からも推薦した、ってちゃんと言いますから……」
きっとエルナさんは困ってる人のことを思うと、止まらないんでしょうね。
「わかりました……でも、まず聞くだけですよ?」
「それで構わないわ……この依頼はね、危険はないのにいろんなパーティが、失敗した依頼なの……」
「死体が死なない!?」
「なんだそれは!?」
ジオさんとエンツォさんがおののきます。
分かります、その気持ち。
私も聞いたときにはなんだそれ、って思いましたもん……
「おばあさんが、頭を打って……ヒールでも治しきれなかったんですって。それで……協会は、死亡認定を出したんですけど……脈や息はあるらしくって……」
「ぞ、ゾンビー!?」
「どうやら違うみたいです。」
聞いた限りでは……もっと……
「魂だけ、そこに無い。そんな感じらしいですね。」
これは厄介な依頼になりそうだ。
……私たちは、依頼の場所に駆けつけることにしました。
その協会には、花がたくさんあり、きれいに飾られた真ん中の棺におばあさんが眠っています。
……息をしているのに、すでに死んだ後の飾り付けをされている。
香の香りが、妙に強く感じられます。
少し、ゾッとしますね……
ご家族の方や教会の方に話を聞いてみました……
「確かに魂が無いんです……既に死んでいるとしか教会では言えないんですよ……」
「でも母は息をしています!ただ……昏睡してしまったのでは……?」
理由が本当にさっぱりわかりません。
「なあ、アルド……これ、俺たちにゃ無理なんじゃねぇか?」
「だが……困っている人を見捨てるのは正義ではない!」
やいのやいのと騒ぐ私たち。
それをこっそり覗き見ている子供がいるとは知らないままに……
夜。教会が閉められた後……
私たちは墓場で、リッチのジェイムズさんに相談をしていました。
「ほほう……魂がないのに生きているのか!?そりゃあ不思議じゃのう。」
どうやらジェイムズさんも何も知らない様子……しかし。
「魂のない状態というのはよくわからんが……最近、この辺をうろちょろしとる子供に聞けばいいのではないか?」
ほれ、今も後ろに。
そう言われて振り返った先には……
赤い頭巾の女の子!?ふわりと浮き、手には大鎌を持っています……
まさか、死神!
「ね、ねえ、あんたたち……昼間、教会から出てきてたわよね……」
少女はジェイムズさんに見破られておずおずと私たちの前に姿を現しました。
「私、間違えて……まだ死ぬはずじゃなかった人の魂を回収しちゃったの。あのお婆さんが目覚めないのは、そのせい……。べっ、別に私が悪いわけじゃないんだからね!紛らわしいのが悪いのよ!」
言葉は強いものの、なんだか泣きそうだ。
……この死神、ツンデレかな?
「それなら早く戻してあげてください!ご家族の方、心配していらして……!」
「それが……私、教会に入れないの……清めの結界で、弾かれちゃうみたい。」
「…………だから、昼間ずっと教会の周りをウロウロしてたのか……」
「うっ……!そうよ!カッコ悪くて言い出せなかったけど!」
「しかし……はよう戻してやらんと困るのじゃないかね?だんだん魂の輝きが薄れてきとるぞ。」
「そうなのよね……」
少女は抱えたバスケットの中を私たちに見せてくれた……
弱々しく輝く、ほんのり温かな光……
魂なんて初めてみた。
「どうにかしてお婆さんの体を教会の外に連れ出して!そうでないと、本当にあのお婆さん、死んじゃう!」
「き、期限はあとどのくらいなんですか!?」
「1週間くらい……どうにか身体に戻せれば、まだなんとかなるわ……」
次の日の朝、私たちはまず作戦会議から入りました。
「教会からは死亡認定食らってるんだろ?式だけでもあげてもらったらどうだ?それなら外に出るだろ。」
「ご家族の方が頑なに反対しているらしくて……」
「それじゃあ、夜になるまでこっそり忍び込んで、夜になったら連れ出すのは……」
「悪くはないですが、この大勢では隠れられませんね……」
うーん……と悩む、私たち。……そうだ!
「ネロさん一人なら、どうにか……!」
「駄目だ!ネロにそんな危険なことさせられるか!!!」
すかさず出てくるエンツォさん、しかし!
「今回は人の命がかかっているんですよ!?それは正義ではないのではないですか!?」
「……っ、ネロは駄目だ!」
しかし、そこに静かな声が割り込んだ。
「……やっても構わない。そのかわり、あの死神を教会前まで連れてきておいてくれ。」
「…………ネロ……」
ネロさん本人の言葉には強く言えないのか、私たちは作戦を立て始めました。
決行日は明日。
結局、ネロさんが先に潜入し、内側から扉を開ける作戦に決まりました。
夜中まで教会のなかに隠れたネロさんが窓を開けるので、全員で中に入り、中から鍵を空けて、お婆さんを運び出す。
そこであの子に魂を戻してもらい、お婆さんを元の棺に横たえ、扉の鍵を閉め、窓から出ていく……
うまく、行くだろうか……?
いや、行かせてみせる。
その夜、私たちはまだ墓場でウロウロしていた赤頭巾の少女に声をかけました。
「ほんとに!?やってくれるの?ありがとう!!!」
「あなたの協力も必要なんです。見つからずに、教会の前で待っていてくれますか……?」
「当たり前でしょ!私のポカミスだったんだから!」
少女に約束を取り付け、そして当日……
「冒険者さんたち……なんとかならないでしょうか……。最近では、だんだん母が弱っている感じがして……」
「もう少しだけ待っていてください。今、解決の糸口をつかめたところなんです。」
やることは不法侵入なのだけれど……
すっと、自然にネロさんが私たちから離れ、教会の人たちの私室の方へ向かう。
あとは、祈るしかない。
「では、私たちは調査がありますので……」
そう言って、教会を出て……教会が閉まった夜中頃、辺りに隠れる。
もちろん、赤頭巾の死神の少女も一緒に。
その時、キィ……と、扉が開いた!
少女を残し、私たちはそっと教会に入っていく……
ネロさんは、口の前に人差し指を立てて、棺を指さした。
……お婆さん、身体に触ってしまいました。申し訳ありません!
私たちはまるでお神輿のように6人でお婆さんをエッホエッホと担ぎ出しました!
少女がバスケットから、魂を取り出し、お婆さんの口から飲み込ませる……
ええ……そんな戻し方なんですか……?
なんか、もっとこう……神秘的なのを期待していたんですけど?
とにかく後は急いでお婆さんを棺に戻し……その時!
「誰だ!」
鋭い声が飛び、私たちは慌てて教会を飛び出しました……
もう鍵とか窓から出るとか考えていられませんでした……
そうして墓地に集合した私たち。
「ありがとう!これであのお婆さんも、明日には目を覚ますわ!」
死神の少女はふわりと浮かんで消えていきます……
「私はキリエ、覚えといてね!いつか、私ができることがあったら助けてあげる……」
墓地には、しんとした静寂だけが残されました。
「あの嬢ちゃん、ずいぶん急いどったのう。」
ジェイムズさんがつぶやきます。
「しばらくここにいたみたいですから……仕事が溜まってるんですよ、きっと……」
私たちは、少女の消えていった空を見つめました。
そうしてなんだかんだでお婆さんは目覚め、依頼は成功扱いとなり、私たちは今日も宿でぐだぐだしています。
いつものパーティ。いつものメンバー。
けど、一人だって欠けて欲しくない……
「どうしたんですか?アルドさん。憂鬱そうですね?」
「ああ、エルナさん……昨日の依頼で、少し、命について考えていたと言うか。私はパーティを守れているのかな、と。」
「当たり前だろ!アルド」
「そんな事を考えずとも、アルドは正義だ!」
後ろからジオさんが、エンツォさんが。
「私みたいに、"来いよ……全員抱いてやるぜ……"とか言わなきゃ!」
「…………聞いたこともない。」
左右からミアさんとネロさんが。
「副リーダーの私が言うんだから、間違いない!ですよ!」
正面からエルナさんが言います。
……人に頼りにされるって、良いものだな。
私は、笑いました。




