ネロの一日
ネロの朝は早い。
まず日の出とともに起きて、前の日の皿や食器を片付ける。
エンツォを起こさないようにそっとベッドから出て、音を立てずに静かに部屋を出るのだ。
意外とコツがいる。
皿洗いが終わったら、今度は料理だ。
エンツォは意外と甘党なので、朝は蜂蜜たっぷりのホットケーキと決めている。
ネロは朝はそんなに食べないタイプなので、先に食べ終わってエンツォの食事を眺めていることが多い。
楽しい。
パーティの皆は意外と遅起きなので、軽くサンドイッチでも作っておく。
皆はネロはいないと困ると言ってくれるが、ネロに出来るのは基本的なシーフの技術だけだ。戦えない。
その恩を返すためにも、ネロは雑事はなるべく自分でやろうと決めていた。
ネロは基本的にパーティの料理も作っている。
エンツォは「ネロの料理は俺だけが食べたいのに!」と言っていたが、
パーティに入れてもらった恩だ。そのくらいは平気だとネロは思っている。
皆から毎日の食費を少しずつ預かって、買い物に出かける……
ぽつ、ぽつ、雨が降り始めた。雨脚は急激に強くなって、ネロは慌てて本屋の軒先に入った。
雨は嫌いだ。一番痛かった日のことを思い出すから。
雨は好きだ。エンツォに拾われた日を思い出すから。
エンツォの事を考えるだけで、心が温かくなる。
いつも正義正義と言っているけれど、正義だけじゃ勝てないこと、エンツォがちゃんと知っていること。
ネロは全部知っていた。
いつの間にか横に黒猫がいた。
本屋の主人に、「ネロ、お入り」と声をかけられて入っていく。
どうやらあの猫もネロという名前らしい。
――ネロは猫みたいだな。寂しがりなのに、距離を置く。
別にネロは自分が猫っぽいなんて思ってなかったけれど、エンツォの言うことだ。受け入れていた。
……雨脚が弱くなってきた。もうすぐ食料品店だ。ネロは少しの雨は気にせず駆け出した。
今日の昼ご飯はボロネーゼ。
一度ミアに食べさせたら、お気に入りになってよくリクエストされる。
そんなに手間のかかるものじゃないのにな。ネロは思いながらトマトを炒めていた。
あと好きだからなすも入れよう。
エルナには文句を言われそうだが、食べられるだけで幸せな人生だ。許してほしい。
いい匂い!ミアとジオがやって来た。まだできていないので首を横に振る。
そっかあ。ミアは残念そうだ。最近言葉がなくても通じることが増えてきたような気がする……。
昔はエンツォだけでよかったのに、それが嬉しいと感じている自分の変化に驚きながら、ネロはトマトを煮込んだ。
ネロの夜は早い。
というのも、パーティの皆は大概夜は好き勝手に食べるからだ。
宿の酒場が癒しだ、と言っている奴もいた。エンツォは違うが。
エンツォはいつだってネロの手料理を食べたがる。
困ってないし、面倒くさくもないが、なぜ?とは時々思う。
自分のように、エンツォも自分のことを思っていてくれるのかな。
そうだったら嬉しい。ネロは今日もエンツォと向かい合って夕飯を食べる。
そして風呂に入って歯を磨くと早々に寝てしまう。明日も早いのだ。さっさと寝るに限る。
そしてネロがうとうとと眠りに落ちかける頃、背中に温もりが触れるのだ。
今日もいい日だったな。
ネロの1日は、こうして終わる。




