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盗まれた聖剣と狂った盗賊団

「村の聖剣が盗まれた!?」

「はい、そうなのです。」


人の良さそうな村長さんは、どうやら私――アルドの、顔の胡散臭さに多少引いているようだった。

それでもこの村に来た冒険者が私たちしかいなかったせいか、少しずつ話し出す。


「1週間ほど前……盗賊がやってきて、村の聖剣を盗んでしまったのです。しかもそれだけではなく、聖剣を返してほしくば、美しい乙女を嫁によこせと。」


村長の娘さんは、結構な美人だった。不安そうに、こちらを伺っている。


「盗賊の居場所は分かりますか?」

「はい……村から少し離れた、天然の洞窟を根城にしているようで。どうやら聖剣もそこに運び込まれたと……」


村長さんは、汗を拭き拭き深く深くお辞儀をした。


「あれは村の守り、村の宝。どうか取り返していただけませんか……」



「と、言うわけなんですが……どうも洞窟は深く入り組んでいて、正面突破じゃとてもとても、レベルの低い私たちには無理そうなんですよね……」

「正義の風上にも置けない奴らめ!今すぐ退治しに行こう!」

「今の話聞いてました?エンツォさん」


私たちは全員、困ってしまった。

……全員で顔を見合わせる。

正面突破は無理。

けれど、他に方法も思いつかない。

——どうする?


「ならこういうのはどうかな?」


ミアさんが突然叫んだ。


「私が美しい乙女として潜入するの!それで聖剣を見つけたらそーっと持って帰って……」

「駄目に決まってるだろう!お前に危ないことさせるなんて、絶対駄目だ!」

「ジオったら……」


……あっという間に二人の世界に入ってしまった。本当にこのカップルは……

しかし、今の作戦……良いのではないか?


「誰か一人が花嫁として潜入し、もう一人が付き人としてついて行く……それなら怪しさも抑えられるのでは?」

「それなら……」


……、全員の目線がエルナさんに集まった。


「わ、私がやらなくちゃいけないなら……」

「こんな健気なエルナさんに花嫁役をやらせる気ですか?第一彼女はヒーラーですよ?危機にどう対応しろと?」


さすがに彼女には頼めない。


「おいちょっと待て」


ジオさんが何かに気づいたように言った。


「ミアは当然駄目。エルナもだめとなると……」


ぐるりと、メンバーを見渡す。


「………男しかいなくないか?」


……私たちの間に、緊張が走った。


「まず俺は無理」


ジオさんが1抜け宣言をした。


「この背の高さと筋肉だぜ?一発でバレちまう。この中なら……ネロが一番違和感ねぇな。」


話を振られたネロさんは、無言を貫いているが……額にダラダラと汗が滲んでいる。


「ネロは駄目だ!」


すかさずエンツォさんが入ってくる……何故?


「駄目ったら駄目だ!正義……とかじゃなくても……とにかく嫌だ!」


ネロさんはすすっとエンツォさんの後ろに隠れてしまった。そんなに嫌か…


「そんなに言うならアルドはどうなんだ?イケメンだしいけるんじゃないか?」

「魔女か悪女にしかなりませんけど!?というか一番背が高いの私なんですけど!!エンツォさんならギリギリ背の高い、少し厳つい女の人で通るのでは!?」

「正義的になしだな!理由は格好良くないからだ!俺が行けるならジオだってギリギリ行ける!」

「いや無理だろ!?」


いきなりまた話を戻されて、ジオさんが慌てた。

……これではいつまでたっても決まらない………


「仕方ない。それなら、くじ引きにしましょう。」


女性陣に作ってもらえば安心安全不正も無効。恨みっこなしです。



そして……くじ引きの結果は……


「白だ!」

「………白。」

「私が黄色。と、いうことは………」

「俺が乙女役!?無理に決まってるだろ!?」


無事に私が付き人役、ジオさんが乙女役と決まった。……決まってしまった。


「大丈夫!ジオはカッコいいもの!私が可愛くしてあげるから!」

「ふ、服選びは任せてください!」


女性陣に両脇から抱えられずるずると連れて行かれるジオさん……

その背中に、そっと十字を切っておいた。

さて……あとはこの3人で作戦を詰めましょう!……、この、3人で……?


「さあ!正義の力で悪党どもをやっつける作戦を練るぞ!!」

「…………………」


たぶん一人で考えることになるのでは……?私は訝しんだ。



そして……決行日当日………

私たちは洞窟の前まで来ていた。

見張りには………やたらめったらムキムキなモヒカン二人!?

あれと並べば、ジオさんでも……ギリギリ乙女に見えるのではないだろうか?


「ヒャッハー!なんの用だぁ!?」

「汚物は消毒だー!!!」


……なんだか世紀末みたいな空気が漂っています……。


「む、村から来ました、村長の娘です。」


……ジオさん……頑張ってる!必死で裏声作ってる!いいぞ!

ジオさんは頭から深くベールをかぶり、長いスカートの中で少しでも足を折りたたんで背を低く見せていた。

……ギリギリ行ける気がするのは、女性陣の苦労の賜物だろう。


「ヒャッハー!ボスの言ってた花嫁かあー!」

「汚物は消毒だー!!!」


………話、通じてるのかな、これ……

私たちは、特に疑問にも思われずに洞窟のなかに招かれた。

……ここからが勝負だ。道順を覚えなくては……

なのに、やたらとムキムキなモヒカンばかりで気が散る……。

なんなんですか、この盗賊団……

そして、ついにボスと対面するときが来ました。


「ウヌが余の花嫁か。」


でかあああい!説明不要!

ジオさんの1.5倍くらい背丈のあるムキムキ!

本当に世界は広い……まだ私の知らないことだらけです。

そして、ふと玉座を見ると……その真上に、銀に輝く美しい剣が飾られている!

村長さんの言っていた通りの特徴だ。あれが聖剣ですね!


「む、村から来ました、村長の娘です。」


ジオさんは同じことしか言っていません。

混乱しているのでしょうか……いや、私もこの世界観に呑まれて混乱していますが。



………そして酒宴が、始まった。

私は付き人として来ているので、モヒカンの人たちにお酒をついで回り……

この人たちの中なら、多分誰が来てても成功してたのでは……?

……注ぎ終わった後、ジオさんの隣で座り込みました。なるべく無害に見えるように……

なるべく目立たないように……そっと窓の外に手を出します。

持ち込んできた灯り石を、3回、2回、2回、3回……

ジオさんは食べ物を勧められても、


「緊張して……胸がいっぱいなのです……」


と断っていた。上手い。

そして、時間がたっぷり経った頃……

モヒカンたちが、次々と眠り始めました。

さっきついで回った時に眠り薬をたっぷりと入れた甲斐がありました。

さすがにボスは倒れなかったけれど、それでも異常には気づいたらしく、


「貴様ら……何物だ!」


こちらを睨みつけてきました……勝てるのか?このなんか狂った世界観のボスに!?

ボスは大きく振り被り、思い切り振り下ろした!…、なんとか避けたものの、床が凹んでいる!?

当たっていたらどうなっていたのか……ゾッとしながら、私たちは変装を解いた。


「あー……肩凝って仕方なかったぜ……」

「ですが、変装うまかったですよ、ジオさん」


ボスにも多少眠り薬は効いているのだろう、ふらふらだ……

というか、あの速さと威力のパンチをふらふらでない状態で受けたらそれこそ死んでしまう!

ボスは暴れ回り、前衛もジオさんしかいない状態では魔法を使うまもなく、

避けるばかりの私たちのもとに、ついに待っていた声が届きました。


「済まないな!遅れてしまった!」


エンツォさんに、ネロさん……ミアさんにエルナさんまで……!

6人を相手に、それでもボスは引きもしなかった。


「ふん……小バエどもがわらわらと……物の数でもないわ!」


ボスの拳でガリガリと壁が削られる。怪力なミアさんでも受けるとタダではすまないだろう……

そのとき、ジオさんがはっと気づいたように走った。

玉座に登り、聖剣を取る……聖剣は、美しい光を放ち、すっぽりとジオさんの手に収まった!


「……っ!すげぇ、疲れる……けど、負ける気が、しねぇぜ!!」


ボスに斬りかかる、振り払われる――しかし、ボスの拳が止まった。


「な……に?」


ジオさんは、浅くボスに切りかかった。

それだけで、ボスは動けなくなっていった。

じわりじわり。足元から、ボスの身体が石化してゆく。


「石化の聖剣!?」


思わず叫んだ。あの村、なんて珍しいものを……

ボスはそれでも暴れようとしたが、程なくその全身を石に覆われ、ピクリとも動かなくなった……

……私たちは、勝ったのだ!

喜びはあるものの、はっと思い至り、モヒカンの人々を縛り上げる。

……さすがにこのムキムキのモヒカンの人たちでも魔法の縄は切れませんよね?そうですよね?

そして私たちは、すべてのモヒカンの人を縛り終えた後、村に向かって洞窟を出た。

――朝日が、昇り始めていた。



そうして私たちは、村長にすべてを報告した。

村長には、まさか盗賊全員とボスを無力化した上で聖剣を取り返してもらえるとは思わなかったと大変感謝され、随分な金額を頂いてしまった……

6人で分けても、しばらく暮らせるだろう。


「それにしても……今回は本当に大変だったぜ」


ジオさんはぐったりしながら言った。


「まああの茶番がなけりゃ、倒すのは無理だっただろうけどさ。」

「ジオ、可愛かったわ!」

「服は私が選んだんですよ!」


女性陣2人は楽しそうで良かった。

青空を見つめながら帰路につく。

……こうやって、無茶をして、笑って。

気づけば、もう他人とは思えなくなっていた。

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