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チョコレートの甘い罠

今日は年に一度のバレンタイン。私たち、女の子組は、朝から大騒ぎだった。


「湯煎ってお湯入れるんだっけ?」

「違いますしそれはお湯じゃないです!ミアさん!」

「溶けたしゼラチン入れれば固まるよね?」

「それは寒天です!あああ………」


……主に、私が大忙しだった。

ミアさんはジオさんに、私はほかの人に日々のお礼を伝えるために――

2人でチョコレートを作ろうと決めたのだ。

私のチョコマフィンは、すでにオーブンの中。でも振り返ったら――


「冷凍庫入れたら早く固まるかな!」

「落ち着いてください、ミアさーん!」


ミアさんが無茶苦茶をしていた。

なんかチョコがボコボコ言ってる……これ、大丈夫なのかしら……?

私は芋煮会の時のジオさんの様子を思い出していた。

頼むから芋煮に触れるなってこういうことかぁ……

私は――エルナは、遠い目になった。

結局ミアさんはチョコ(?)を冷凍庫に入れていた。

閉めるときに、微かにタスケテ……と聞こえたのは、気の所為だったと思いたい。


「あー!エルナちゃんのマフィンいい匂い!」

「マフィンは得意なんですよ。孤児院でよく先生と作ってましたから。」

「私にも少し分けて?」

「勿論です!そのために……あと失敗した時のために、少し多めに作っておきましたから!」

「やったー!エルナちゃん大好き!」


背中からぎゅうぎゅう抱きしめられて笑う。

ようやく焼けたマフィンを少し置いて、オーブンから取り出す。

どうやらなんとかうまく焼けたようだ!

2人で1つずつチョコマフィンを食べる。少しほろ苦くて甘い。

美味しいねって笑いあって、2人でお喋りをした。

……私は気づかなかった。今、恐ろしいものが育っていることに。

今が、今日で最も幸せな時間であったことに………



私たちパーティは今、同じ宿を借りている。

アルドさんの提案で、ギルドの酒場で集まるより早く連絡が取り合えるからだそう。

今日はそんな宿のキッチンを借りて、私たちはチョコレートを作っていた。

出来たてチョコマフィンを籠に盛って、みんなが待っている宿のラウンジへ行く。


「みんなー!エルナちゃんからのバレンタインチョコだよ〜!」


待ってましたとばかりにみんな手を伸ばす。ジオさんだけは、少し不安そうだった。


「これ……エルナが作ったんだよな?ミアは?」

「私の特製チョコレートは後で!もう、ジオったら……」

「良かった……このマフィンでは被害者は出ないんだな……良かった……」


……ミアさんのチョコ作りを見ていた身としては、ジオさんの安心がちょっとだけわかる気がした。


「おいしいですね、このチョコマフィン。ベリーのジャムが入っていて。」

「俺のはバナナだったな!チョコにバナナは正義!」

「俺のは砕いたクッキーか……色々はいってるんだな。」

「…………………」


好評そうで良かった。普段は無口なネロさんも、一生懸命食べている。嬉しい。

………そんな時だった。キッチンから、宿の娘さんの叫び声が聞こえてきた……


「どうしたんですか!?」


私たちは慌ててキッチンへ向かった。

そこには――腰を抜かして後ずさる宿の娘さんと――

………形容しがたいものがいた。

茶色の身体は膨れ上がり、不定形で、まるでスライムのように床を這いずっている……。


「……ロシテ……コロシテ………」


何か物騒な事を呟いている!?

ボコボコと顔が浮かび上がっては消えて、脇の方の小さな顔が、「いあ!いあ!」と叫んでいる。

……何か、まずいものを呼び出そうとしてない?これ……


「私のチョコレートが!」


ミアさんが叫んだ。……チョコレート?見ただけであれが何だか分かるの?


「ぶっ叩け!」


ジオさんが叫んだ。


「ミアの料理は大抵倒せば大人しくなる!全員で戦えば、なんとか……!」

「娘さん、下がっててください!あとは、私たちパーティの問題です!」


アルドさんが叫んだ。


「皆……敵はあのチョコレートです!行きましょう!」


まずはジオさんが突撃した……が、不定形の体は切られても平気そうだ。


「アルド!凍らせてくれ!」


ジオさんは叫ぶ!


「こいつスライムタイプだ!」

「分かりました!水よーー」


アルドさんの詠唱が始まる。あと3カウント!


「砕けば何とかならないか!?突撃!!!」

「エンツォ!脇の顔を狙え!」

「了解ネロ!」


エンツォさんは突撃して――僅かに脇の顔が砕けた!


「おとなしく食べられてよ!」


シールドバッシュでミアさんはチョコと競り合っていた。


「ジオに食べさせるために作ったん……だからっ!」


競り勝った!

……けどこんな時に私は何もできない。唇を噛んで、ケガをした人のサポートに回るだけ……


「水よ、わが力を用いて、目の前の敵を、氷塊に包め!」


……チョコレートは、パキパキと凍り、徐々に小さくなって……大人しくなった。


「ふう。これで(味はともかく)チョコレートに戻ったぜ!」


ジオさんはまるでいつものことのように笑った。……いつものこと、なんだろうなぁ………

そして、ミアさんはそのチョコレートを拾い上げた。ほんの少しだけ、赤くなっている。


「ジオ…。あのね、先に見られちゃったけど……これ、今年のバレンタインチョコなの。」


ミアさんは手に持ったチョコレートをすっとジオさんに差し出した。


「貰って……くれる?」

「当たり前だろ」


ジオさんはあれと最も戦っていたのに、何でもない様に受け入れた……すごい、カッコいい……!

バリバリ…むしゃむしゃ……ごくん。

ジオさん……男前……!


「うまかったぜ。ことしもありがとな。」

「やだ、ジオったら……!」


ミアさんは真っ赤になって、ジオさんを残して走り去った。そうして……

ギギ…、ギ……。

そんな音が出そうなくらい不自然に、ジオさんの体が傾いていき――

そのまま、ばったりと倒れた。青い顔で、白目をむいて口から泡を吹いている。


「み、ミアにはいうなよ、かっこ、わるいからな……」


泣きながらヘロヘロのヒールをかける私に、ジオさんが言った。


「こういう時、一番頼りになるのは、ヒーラーだよなあ……」


何だか自分のことを肯定されたみたいで、また少し泣きそうになった。



「と、いうわけで。ジオさんはしばらく絶対安静です!」

「ジオったら……どこで変なもの食べたの?」


お前だよ!……みんなの視線はミアさんに集まっていたが、ミアさんは気づいてないようだった。

………今日も、寄せ集めの6人組は平和である。

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