正義のあり方と謎の箱
「依頼を受けてきたんだ!アルド!」
エンツォさんは笑顔でそう言った……
「どうしたんですか、一体。リーダーとしては少なくともどんな依頼か確認しなくては……」
「ごめんアルド!もう受けてきてしまった、困ってたみたいだったからな!」
私は一気に気が遠くなった。
「えーっ、依頼勝手に受けちゃったの!」
「この箱を隣町まで運べ……って。絶対怪しいですよ!」
「なんか変な匂いしないか?」
パーティメンバーから非難を受けて、エンツォさんはなぜかギルドの床で正座している。
ネロさんが隣でポンと肩をたたいた。慰めているのだろうか?
「だって……困ってるみたいだったんだ……隣町まで届けたら、依頼料もたっぷり!実入りの少ないパーティにはいいかと思って……」
うっ、と胸を突かれる。確かに最近は小銭しか稼げていない……
リーダーの私の力が不足しているゆえだ。
確かにみんな金欠だろう。提示された金額はかなり魅力的だった……ならば、それならば……
「怪しい……ですが、実入りがいいですね……エンツォさん。本当に箱を運ぶだけでいいんですね?」
エンツォさんはこくこくと頷いた。
私は大きくため息をついた。
「これも縁です。……やってみましょうか。」
「ごめんなアルド。勝手に受けてきてしまって。」
「やると決めたのは私ですよ。謝罪もさっき聞きました。つまり……これからは、私が責任を負う、って事です。」
ちゃんとできるかどうかは、甚だ不安だったけれど。
リーダーに選ばれたからにはやらなければ。
「とりあえずこの依頼書、ギルドに認定してもらってきますね。」
「ありがとうアルド!」
エンツォさんと、隣にいるネロさんはペコリと頭を下げた。
ギルドの人には、顔をしかめられたが、まあゆるい街のギルドだ。
最終的には認可の判子を貰って、私たちは馬車を借りた。
……さすがに私の懐から出した。寒い懐がまた寒く……。
御者台にはジオさんとミアさんが乗っていた。2人は田舎出身ということで馬の扱いが上手い。
「それにしても……本当に、この箱なんなんでしょう……」
エルナさんが不安げに言う。
ネロさんはナイフの先で箱をツンツン突いていた。
「ネロ!だめだ、依頼人に中は見ないでほしいって言われただろう!」
………やっぱり、怪しい。
ガタガタと揺れる荷台で、私は不安とともに揺られていた……
「おい、皆!敵が出たぞ!」
御者台のジオさんは、馬をミアさんに任せて飛び出した。
私たちも慌てて荷台から飛び出す。……ドット鳥だ!
あまり強くないとはいえ、今の私たちには強敵だ。
「囲め囲め!」「そっちに行きましたよ!」
ドット鳥にブンブンと切りかかっているジオさん、しかし相手が身軽で、うまく当たっていない……
そこへすかさずエンツォさんが突撃した!
剣は避けられたものの、体当たりに巻き込んでひとりと一羽はもつれ合って転がる。
「水よ、我が力に応え――」
私の詠唱が2カウントの当たりで、ジオさんがドット鳥にトドメを刺した。
「今日の晩飯は豪華になるぜ!」
……今回はジオさんの一人勝ちだった。
ドット鳥を簡単に解体して、再び荷台へ戻る。
ガタガタ……ガタガタ……。なんだかだんだんきつくなってきたな……
隣町へは2日かかる。
あと1日、この振動に耐えなくてはならないというのは、なかなか辛いものがある……
その晩はドット鳥もとれたことで、ずいぶん豪華な食事になった。
焚き火の周りに串焼きが並び、ジオさんはどこにそんなに入るのかパクパク食べていた。
まあ今日の戦闘はジオさんが一番活躍していたしな……
そう思いながら、私も一本ドット鳥の串焼きを手に取る。おいしい。
皆思い思いに串焼きを食べ、楽しそうに語り合っている……
ミアさんとエルナさんは、謎の箱の話とか、御者台から見える景色の話とかをしていた。ほほえましい。
今日の見張りは、まずミアさんとエルナさんだ。
彼女たちは女性なので、まとまった睡眠を取れるよう、なるべく最初か最後の夜番になるよう皆で話し合った結果だった。
……そして、相変わらず不気味な箱はそこにある……。
——誰も触れていないはずなのに、
わずかに、位置がずれている気がした。
そして、私とネロさんの夜番の順番になった。
……ネロさん、基本的に喋ってくれないので、何を考えているのか分からないんですよね……
………その時、不思議な音がした。
鳥のような。ガラスを引っかいたような。
少し前に読んでしまった怪談の本を思い出して一人ゾッとする。そんな私に、ネロさんは静かに言った。
「……その箱から、聞こえた。」
………本当にこの依頼、受けて良かったんだろうか?エンツォさんは一体なにを持ってきたのだろうか?
私はどんどん不安になっていった。
夜は、ただ静かで何も答えてはくれない――
ガタガタ……ガタガタ……
今日も朝から馬車で移動。今日はエンツォさんとネロさんが御者台に。
私?私は……馬と触れ合う生活をしてこなかったので……
そこで、ハプニングが起こった!
箱が……箱がなんか……動き始めたのだ!?
「やだー、何この箱!エルナちゃん、近づいちゃダメだからね!」
「エンツォさん!?いったいこれ、何を持ってきたんです!?」
「えっ何?」
エンツォさんが御者台から荷台に移って来た。
「箱が動いてるんだよ!なんだコレ!?」
「まさか爆弾とかじゃないですよね?」
皆荷台で大騒ぎだ。しかし、ネロさんがパァンと手を打ち合わせ、音を出した。皆そちらを見る。
「……敵だ。来る。」
………えっ!?こんな時に!?
現れたのは――オーガ。
私たちのレベルでは、まだまだ戦うのは無理な相手だ!
慌ててエンツォさんは馬車を引き返して全力で走り出す……が、着いてくる!?
「……あれは、完全にこちらに、目をつけましたね……」
私は杖をギュッと握りしめる。倒すのは無理でも、追い払わなければ隣町まで行くことはできない。
……追いつかれるのも時間の問題だろう……!決めなくてはならない!
「追い払いましょう!このままでは依頼を達成できません!」
次々と荷台から飛び降りる。エンツォさんも、馬をネロさんに任せて、御者台から飛び降りた!
「魔法で追い払います!サポートを!」
ジオさんがオーガに斬りかかる!斬り結ぼうとして……思いっきりふっ飛ばされた。
ミアさんが慌てて庇うも、あの怪力のミアさんと(盾と棍棒で)鍔迫り合っている……!?
「ミアに何すんだ!」
横から思い切り剣を突き立てようとして……ジオさんはまたもふっ飛ばされた。
そこへエンツォさんが突撃する!ぐらりと揺れるオーガ。
今までろくに見たことなかったけれど、エンツォさんの突撃、威力すごいんだな……
エルナさんは慌ててジオさんを回復していた。
私は――
「水よ、わが力を用いて、我が敵に…」
あと、あと1カウントなのに!
その時だった。
「エンツォ!」
ネロさんの声だった。みんなそちらを見る。
……その腕には、壊れた木箱とオーガの子供が抱えられていた。
「まさか……あのオーガの子供!?」
思わず叫んでいた。それならば……オーガが追ってくる理由も分かる!
エンツォさんは一瞬ぽかんとして……
「それは……それは正義じゃあないだろう!!!」
ネロさんに駆け寄り、その手からオーガの子供を受け取る。そして……オーガに投げた!
「子供は返す!済まなかった!」
オーガは慌てて子供を受け取ると、そのまま慌てて道の脇の森の中へ逃げ込んでいった……
「すまない、勝手な判断をして…」
エンツォさんはつらそうに言った。
「まさかあのなかにオーガの子供が入っていたなんて……」
「いやいや、あの箱怪しすぎたよ!」
「途中で怪しさに気づけ!」
「み、皆さん……エンツォさんも、よかれと思って依頼を受けたんですし」
わいわいとエンツォさんに詰め寄るみんな。
私は、誰も犠牲を出すことなくオーガの襲撃を乗り越えたことに、リーダーとして安堵していた……。
そしてギルド。
「では。今回の依頼は失敗ということで……」
「あっ……はい……」
結果的には私の懐が寒くなっただけで終わってしまった。なんてことだ。
「では皆さんのギルドカード、お返しします……ん?」
ギルドの事務員さんの態度がおかしい?
「ジオさん!あなた、レベル2になっていますよ!」
「な、なんだってー!!!」
ドット鳥、オーガとの戦い。それが彼の戦いの経験を積ませたのだろう。
「おめでとう!ジオ!」
「おめでとうございます!」
「一歩先を行かれたな、だが直ぐに追いつくぞ!」
「……………」
皆に祝われて、ジオさんは目を白黒させている。
私もリーダーとして、言った。
「おめでとうございます、ジオさん。今日はお祝いですね!」
……失敗に終わった依頼でしたが。
それでも。
少しだけ、前に進めた気がしました。




