白湯の夜
夜中に、ふと目が覚めました。
ゆっくりこっそり、宿の一階へ。
温かい白湯でも頂こうかな……
そう思って降りた、一階のリビング。
「……エルナ?何してるんだ?」
……エンツォさんに、会いました。
「こんな時間にどうしたんですか?」
「それはこっちの言葉だな!正義ではないぞ?」
ふたりで顔を見合わせて笑います。
私は予定通り白湯を入れて、エンツォさんの向かいに座りました。
「何かあったんですか……?悩んでるみたいでしたけど。」
「うーん。皆をな、こんな所まで連れてきてしまって、済まないと……」
「みんな、完全に納得して来てたみたいですけど……」
特にアルドさんとミアさんなんか楽しそうでしたよ?
エンツォさんは苦々しげに笑います。
「それでも……少し、感じるものはあるのさ……」
珍しい。
朝と夜の寒暖差が大きいこの街の夜。
私は体を温めるために白湯を飲みました。
「アルドとネロには、特に悪いことをした……」
あの二人、この街の太陽の強さに負け気味ですもんね……
私は、前から気になっていたことを、勇気を出して聞いてみることにしました。
「エンツォさんって……偉い方、なんですか……?」
途端にエンツォさんはビクリと硬直してしまいました。
やってしまった。私が慌てた時。
「……エルナになら、いいか。秘密にしてくれよ?ネロしか知らない、秘密なんだ。」
ネロさんしか知らない秘密!
私は胸がドキドキするのを感じました!
「俺はな、とある辺境伯の一人息子で……割とデカい交易都市に住んでたんだが。」
エンツォさんの語りが始まりました……
というか、辺境伯様の一人息子!?
それは……探されるわけです。
「わりとスラムの治安が悪い街でな……ある大雨の日、殺されかけて倒れていたネロを見つけたんだ……」
もしかして、これは。
エンツォさんとネロさんの出会いの話……?
「最初は同情心で。ネロは警戒して。でも、時間をかけるごとに、俺達の距離は縮まっていったんだ。」
今の2人からは、とても想像できない出会いです。
「けれど……俺とネロとが仲良くなるのを快く思わないやつも多くて……ネロはさんざんに言われたし、俺たちは引き離されそうになったんだ。」
だから。
……そう言ってエンツォさんは言葉を詰まらせました。
「だから……だから、逃げ出した。離れようとするネロを連れて。家も何もかも捨てて。……そのうえ、みんなに迷惑をかけている。なんだかそんな俺が、嫌になってしまってな……」
「迷惑なんかじゃありません!」
私は思わず口に出していました。
ただ、受け止めて聞こうと思ったのに。
でも、これは言わなくちゃ!
「絶対、絶対迷惑なんかじゃないです!エンツォさんもネロさんも!私たちにはもう、なくてはならない人なんですから!」
言い切った。だいたい、2人が一緒じゃないなんて変な感じです!
エンツォさんはぽかんとしました。
「大体、正義!って叫んでないエンツォさんが珍しすぎます!」
「……俺が、正義じゃなくてもか?」
「はい!」
「……本当は、正義を信じていなくても?」
「はい!」
「何よりも、ネロを選んでしまっても良いのかな……」
「そうじゃないエンツォさんは、変です!」
その答えを聞いて、ようやくエンツォさんは笑った。……心から、安心したような笑みだった。
「うん……心のつかえが取れたよ!ありがとな!エルナ!」
「どういたしまして!」
「今夜のことは……誰にも秘密だぞ?明日になったら、ちゃんといつもの俺に戻っているから。」
「はい!修道女は、秘密を守るものですよ!」
……そうして、エンツォさんはネロさんとの部屋に帰っていきました。
私も空になったカップを流しに置いて、伸びをしました。
今日はよく眠れそうだわ。そう思いながら……




