7番ダブルホーン、出走
明日からついに始まる大レース、色とりどりの馬体たち、天下のサラブレッド、注目したいのはバイコーン。明日のダービーが楽しみですね……
いいのだろうか?怒られるのでは?私は思いました。
「というわけで、明日の競馬でバイコーンに乗れる人を探してるらしいですよ?」
「バイコーン……これはまた、クセのつよい……」
いつだったかエルナさんに懐いていたユニコーンを思い出す。
ユニコーンは純潔と神聖の証。バイコーンは……
「つまり……不誠実で純潔ではない、と乗れないってことですよね……」
「すごく速いんですけど、気難しくて、乗れる人が一昨日骨折しちゃったらしいんですよね……」
うちのパーティに、不誠実な人などいるだろうか……?
「向こうも焦ってるらしく、とりあえず会ってみるだけでも、とお願いされてるんですよ。アルドさん達も、会ってみるだけでも、ね?飴ちゃんももらえますよ!」
飴ちゃんか……それに釣られたわけではないけれど、みんなを連れてバイコーンに会いに行くことにしました。
バイコーンは……真っ黒な馬体、鋭い目付き……
如何にもと言った強そうな馬でした……
私達を睨みつけ、どう見ても威嚇されています……怖いなー……
「これでもかなりの名馬なんですよ……ただ、乗り手を選ぶのが面倒でして……」
そのとき……ふとバイコーンがネロさんに近づきました。
すりっと鼻を擦り寄せて……お気に召した!?
バイコーンは、純潔な者を嫌う。
……ネロさんは、少しだけ目を伏せた。
……理由は分からないけれど。
「おお、貴方なら体格も小さいし……いけるかもしれません!このダブルホーンは勝手に走ったほうが強いんですよ!しがみついてるだけでもいいので……明日のレース、出てもらえませんか!」
ちゃんとお金も出しますよ!
そう言う厩務員さんの言葉に、ネロさんは困ってしまったようでした……
ダブルホーンは相変わらずネロさんに甘えています……
「骨を折るようなスポーツにネロを参加させる気か!危険だ!」
やっぱり出てきたエンツォさん……ネロさんのことになると周りが見えないんですよねぇ。
「エンツォ……皆が困ってるなら、俺は出てもいい」
「ネロ!?どうして……!」
ネロさんはいい人だなあ……なんでバイコーンが懐くんだろう?
「よかった!明日のレースのために、少し練習をしましょう!それこそ本当に振り落とされて骨折なんてしてしまっては、申し訳ありませんし!」
厩務員の方に連れられて、ネロさんは外の練習場につれていかれてしまいました。
「ネロー………」
エンツォさんが泣いてるのはいつものことなので、放っておきました。
何度か馬を歩かせ、さらに走らせ……上級コースまで!?
ネロさんとダブルホーンは本当に相性がいいみたいです……
「俺が何もしなくても、勝手に動いてくれる………」
ネロさんは心底感心したようでした……
「馬を走らせるネロもいい……でも、馬に取られたみたいで嫌だな……」
「馬に嫉妬なんて見苦しいよ?」
エンツォさん、完全に撃沈。
「あの様子なら明日もかなり良さげに走るんじゃねぇのか?」
「応援で馬券買っちゃおうかな!」
「か、賭け事は……ううん……」
みんなそれぞれの明日の楽しみ方がありそうです。
今日はネロさんはもう少し練習するということで、ここに泊まることにしたようです。
……今日はネロさんのご飯はないのですね。なんとなく、寂しい気持ちになりました。
そして次の日……
競馬場は、思ったよりずっと綺麗でした。最近立て直されたばかりなんだとか。
「屋台出てるじゃねーか!買ってこうぜ!」
「ジオったら食べ物のことばっかり見ないの!」
「け、競馬なんて……一生見ること無いと思ってました……」
「ネロの勇姿をこの目に収めねば!」
全員、自分が出るわけでもないのにやる気満々です……
馬券……買ってみようかな?
「私は買っちゃうよー!ん……?このキングスレイプニルっての、倍率がすごい低いね!」
本当だ……名前も凄いけど倍率も凄いです……
とりあえず私たちは、応援としてダブルホーンの馬券をいくつか買いました……
そして飲み物を持って席へ向かいます……
ジオさんは食べ物をいっぱい持っていました。それ全部食べるんですね……
そして、パドックに馬が入ってきました……あっ、ネロさんもいる!
1番ウイングペガサス……本物のペガサスじゃないですか!?飛ばないですよね?
2番スカイリベリオン……よかった……普通の馬だ……
3番ケルピースイム!?ケルピーじゃないですか!?どうやって走るんです!?
4番デュラハンネック……頭がない……前、見えるんでしょうか……
5番、キングスレイプニル……これは……倍率が低いわけだ……誰が見ても優勝候補の顔をしている……というかスレイプニルって出していいんですか?
6番、ナゼカツヨイ……普通の馬……ですけど、謎の根性を感じます!
7番、ダブルホーン!ネロさんだ!バイコーンも機嫌が良さそうですね!
8番スライムスピード………あれ、スライムじゃないですか?馬の形してるけどスライムじゃないですか?
「飛び出しました!各馬揃って、スタートです!」
レースの中継も聞こうと思えば聞けるんだ……魔法の発達ってすごいなあ……
「真っ先に飛び出したのは、大本命、キングスレイプニル!それを追って次々と各馬が……おっと、ケルピースイム、スタート地点から動けていません!」
何しに来たんだろうあのケルピー……
「スライムスピード、名前の通り、スライムのようなスピードです!」
のったりのったり……いやパドックで回ってた時からわかってましたけど、何しに来たんだあのスライム……
「1コーナー目、キングスレイプニルが……おーっと、速すぎてコースアウト!観客席に突っ込んだ!?」
ほんとに何やってるんだこの……競馬?
「先頭を走るのはデュラハンネック!それを追ってスカイリベリオンが走ります!一馬体空いて、ダブルホーンが付きます、各馬第二コーナーを回りました……おっと、ここでナゼカツヨイ!ナゼカツヨイが大外から一気に回り込んできています!ダブルホーンもじわじわ間を詰め……並びました!スカイリベリオン、ダブルホーン、ナゼカツヨイが並んで居ます!ウイングペガサスは飛んだので失格となります!」
……正直そうなる気はしてましたよ。あのペガサス……
「第三コーナーで……先頭を走っていたデュラハンネックの勢いが落ちています!続くスカイリベリオン、ダブルホーン、ナゼカツヨイ………抜いた!3頭もつれ合って第四コーナーを抜けました!最後の直線……スカイリベリオンが、僅かに遅れる!ダブルホーン!ナゼカツヨイ!一騎打ちだ!」
私たちは手に汗を握ります。
もしかして……もしかすると、ネロさんが勝つかもしれない!?
「カッコいいぞネロー!!!」
エンツォさんは叫んで周りから怪訝な目で見られていました……
私たちは他人のふりをしました……
「ナゼカツヨイ、ダブルホーン……もつれ合って同時にゴール!……これは写真判定となりますね……しばらくお待ちください……」
そして……
「ダブルホーン!鼻先2センチの差でダブルホーンの勝利です!7-6!7-6で結果が出ました!」
「やったあ!私当たったよ!!」
ミアさんが無邪気にはしゃぎます……
馬券を破る者、勝利の雄叫びをあげるもの……
レース後の悲喜こもごもも、様々です……
そして、レースが終わったあと私たちは多少の賞金を手にし、ネロさんのもとへ向かいました。
ネロさんはぐったり疲れているようでしたが、
「………最後まで、走った………」
と満足そうです!
そうして私たちは、ギルドへ向かおう……としたのですが、ダブルホーンがネロさんと離れるのを嫌がって、服を離そうとしません。
ネロさんはダブルホーンをそっと優しく叩くと
「…………また来る」
となだめていました……
ゆっくりダブルホーンは口から布を放します。
……馬と人どうし、通じ合うものがあったのでしょうか……
そうしてギルドで報奨金と終了のハンコをもらい、私たちの競馬な2日間は終わったのでした……
「飯も美味かったしな!」
「また今度みんなで行こうか!」
「…………そしたら今度は、俺も賭ける。」
和やかに宿へ帰ります。
「あうう……本当に賭け事に手を出してしまいました……」
一人オロオロしてるエルナさんも連れて……




