MM48、海辺に現る
「人魚!?」
私はうっかり声を上げてしまいました。
ギルドで周りの人たちがなんだなんだと振り返ります……恥ずかしい……
「ええ。アルドさん達のパーティ、"寄せ集めの6人組"もレベルが上がってきたでしょう?そろそろ遠出する依頼を受けてみては?」
「で、ですが……人魚なんて、まだ私たちのパーティでは……」
「そのように自分を低く見ることはないですよ。失敗したらそれはそれ、生きてるだけで儲けもの。受けてみませんか?」
私は脳内で考える。パーティの安全……けれど、少し格上の相手―――
「……皆と話し合ってきても良いですか?」
「ええ。よい返事をお待ちしています。」
……やっぱり私は臆病者だ。
皆の命くらい自分が預かる、と言えない自分の弱さが恨めしかった。
「いいと思うぜ、腕が鳴る……エンツォにいいところ持っていかれて、少し悔しかったんだ!」
「人魚?耳栓持ってけばいいよね?」
「ふうむ……村の青年を惑わせている、と。それは正義ではないな!」
「………………」
あっ、意外と皆さん乗り気でした。
私の悩みとは、一体……
「人魚……不安だな……大丈夫かな……」
……エルナさんだけが心の癒しです……
そうして私たちはいくのに3日もかかる海辺の町へ向かう事にしました。
馬車の定期便に乗って、ガタガタ、ガタガタ……
「海辺は魚がうまいんだろうな……」
ジオさん、食べ尽くすのだけは止めてくださいね。
「お魚料理かあ……そうだ!」
ミアさん、作るのだけは止めてください。地獄が出来ます。
「町の若者を無理矢理惑わす人魚!正義ではないな!」
やたら張り切るエンツォさん。正義を暴走させないでくださいね。
「……………♪」
あっ、意外とネロさん楽しそう!魚料理の本を読んでいらっしゃる!
そして私とエルナさんは……
「不安ですね……」
「そうですね……」
2人で馬車に揺られながら不安を感じていました。
似た者同士なんでしょうね、私たち……
そうしてたどり着いた海辺の町は、潮の香りがしました。
爽やかだ……しかし、町は静かです。
「何があったのか……この町のギルドに確認してみましょう。」
全員、静かに頷きました。
やはり……私たちには、少し荷の重い依頼なのでは……?
「村の若者が、消えてゆく……?」
「そうなんです……けれど、昼になるとふらりと帰ってきて、夜になると姿を消す。この繰り返しで皆、不安がっています。最近、人魚がこの周辺に出ることを考えて、関連しているのではないかと。」
だんだん人数も増えていって漁の人手が足りないんです。
ギルドの職員さんはそう言ってため息をついています。
「まったく!うちの息子ときたら!夜に食料を持ち出して帰ってきたら寝てばっかりなんだよ!いったい夜に何してるのかね!」
……いろんな家を回ってみましたが、大体はこうでした。
昼にずっと眠っている。食料を持って夜に消える。そしてその数は日に日に増えている……
「人魚ってのは魅了の歌とか使えるんだろ?食べ物を貢がせてるとか?」
「にしては多くない?日に日に人が増えてるんだよね?」
「うーむ……正義にも、わからないことは、ある……」
「………………」
全員黙り込んでしまいました……
これはもう、夜に消える人たちの後をつけてみるしかないでしょう……
夜も更けた頃、一人、また一人と家から青年が出てきます……
年はまちまち、しかしほとんどが男性です……
ほんのたまーに女性も混じっています……なんなんでしょう?
「アルドさん、そろそろ……」
エルナさんに言われて、私たちはそっと後をつけました……
見つからないように、距離を置いて……
青年たちは、入り江の洞窟に入っていきます……
昼には見当たらなかった……そうか、満潮で見えなかったのか……
そのわかりにくい狭い洞窟を、6人で進んでいきます――、その先には……!
「みんなーっ!今日もありがとう!MM48のライブ、楽しんでいってねーー!!!」
うおおおおお!!!
「今日は何と、新メンバーが2人!ついにMM50となりました!それもこれも、MM5だった頃から応援してくれていたみんなのおかげだよーーっ!!!」
うおおおおお!!!
…………私たちは、ズッコケました……
「な、何なんだこの空間は!?」
エンツォさんが完全に戸惑っています……
「…………アイドルの、ライブ会……?」
いやそれはそうなんでしょうけども!
「あの子かわいい!推しになっちゃうかも!」
「ミア落ち着け!」
「でも……歌はかなり良いですよ……パフォーマンスも……」
もうパーティはめちゃくちゃだ!
そこへ、一人の青年がこちらに気づきました……!
「誰だ!お前たち!ここは伝手がないと入れないMM48ライブ会場だぞ!」
「まさか……冒険者!?」
「推しのマリンちゃんに手は出させない!」
うおおおお!!!
会場は一気にヒートアップ!しかし!
「まって!みんな!」
人魚の一人が、会場の青年たちを止めました。
「冒険者さん、私たちはここで夜にライブを開いているだけなの。私たちの歌で喜んでくれる人がいて、嬉しいのよ。……冒険者さんが来るっていうことは、駄目なこと、だったのかしら……?」
リーダーらしき人魚が話しかけてきます。うわあ美少女だ。
これはアイドル会場になるのも無理はない……
「む、村の人達が困ってるんです……昼に帰ってきては寝てばかりで、漁にも出ない、手伝わないと……食べ物を勝手に持っていくのも、困っているそうで……」
「そんな、私たちのせいで……!?」
「みんな!いつも無理して来てくれてたの!?」
「周りに迷惑かけちゃ、ダメだよー!」
人魚たちは困惑、人間たちはしょんぼり……これ、どうしたらいいのでしょう……
「あの、私に提案があるんですが……」
エルナさんがおずおずと手をあげました……
そして1週間後……
「みんなーー!!!1週間ぶり!今日もMM50の週末ライブ、始まるよーー!!!」
うおおおおお!!!
湧く人々。湧くミアさんとエンツォさん。
……ネロさんはエンツォさんをジト目で見ていますが……
「週末だけのライブか!それならみんな、無理して毎日くるこたねぇよな!」
「お手柄ですよ!エルナさん!」
「え、えへへ……」
人魚たちのライブは毎日から週末へと代わりました……
村の青年たちは、週末にご褒美があると余計に奮起して、また真面目に働くようになったそうです……。
「まあ、バトルは無かったが、平和に終わって良かったんじゃねぇか?」
「へ、平和が一番!です!」
私たちは胸をなで下ろし、湧くミアさんとエンツォさんを引きずりながら、海の街のギルドへ向かうのでした……




