指輪は、今さらでも
「私はもう老い先短い。ベッドからも動けないのです。ですから……おねがいします。昔死に別れた彼女の墓に、この指輪を……」
お爺さんの指には、同じ銀の指輪がはまっていました。
「……それだけで、いいのですか?」
「ええ……。守れなかった約束を、今さら守りたい。そんな老いぼれの願いです。」
「というわけで、郊外の墓地まで行ってきますね。」
私、アルドはそう言いました。
「けど……最近は結構郊外にも盗賊が現れたりして、危険だって……」
「墓荒らしなんかもあるらしいよ〜、怖いね!」
「それならアルド!俺と行こう!危険だからな!墓守に頼んで、墓の前にこの指輪を収めさせてもらおう!」
エンツォさんの提案……
正直、一人は少し心細かったので、ありがたいです。
「ネロは帰りを待っててくれ!特別美味い飯を作ってな!」
ネロさんはこくりと頷きました。
「気をつけていってこいよ!」
ジオさんの声を背に、私たちは街の中心地から約1時間半、郊外へ向かいました……
「正義!正義!」
エンツォさんは掛け声をかけながら歩いています……
むしろジョギングでは?置いて行かないでくださいよ!
「ああ、済まない悪かった!いつもの正義見回りの癖がな!」
「正義見回り……」
ちょっと聞こうかと思ったけれど、止めました。絶対長くなるやつですよね。
「むっ!?泣いている子ども発見!正義ー!」
一直線にエンツォさんは子供のもとへ走っていってしまいました……
あの……私たち、依頼中なんですが……
子供が解決すれば次は困っている青年、青年が解決すれば次はひったくり……
エンツォさんいつもこんなことしてるんですか……?
そうして2時間半かけてようやく郊外のお墓に着きました。
そうして……私たちは頼まれていた女性のお墓につきました。
……もう60年も前に亡くなっているのか……
ですが、びっくりするのはそのお墓の立派さです。
貴族……だったのでしょうか。
あのお爺さんの住んでいた小屋との違いを思い出します。
きっと……死別以外にも、引き離されたのでしょうね。
銀の指輪は寂しそうに光を弾いています……
そこへ後ろから突然
「その墓になんの用だ?」
いきなり声をかけられて私たちは飛び上がりました。
「何だ!びっくりしたじゃないか!」
「し、し、心臓が……」
そこに居たのは……いかにもムキムキマッチョマンな墓守でした……
墓守のローブがパツパツで今にも破れそうです……
私たちは、お爺さんからの依頼で、この墓に銀の指輪を納めさせてほしいと墓守に頼みました……
「ノアルドのじいさんか……まだお嬢様の事、忘れてなかったんだな……いいぜ、当時反対した奴らも今はみんな墓の下だ。この位は許してくれるだろ。」
そういえばあのお爺さんの名前はノアルドと言うのでしたね……
私に少し似た名前だったから、覚えています。
墓守さんは一人でズズ……と墓をずらしました。
……私、目がおかしくなったのかな?
墓守さんはその後も一人で墓を開き、
「指輪を貸しな」
と、銀の指輪を墓に納め、全部一人で埋め直して墓の位置も戻していました……
わー墓守って凄いなぁー……
その後、墓守さんから少し聞いた話によると、このお墓はこの街の先々代領主様の娘さんのお墓だったそうです。
身分違いで引き離された後、嫁入りに入る前に儚くなられたのだとか……
帰り道は、すっかり夕暮れでした。
「アルド……身分違いの恋を、どう思う?」
突然、エンツォさんが話し出しました。
「婚約も家も身分も投げ出して……迷惑だって分かっているのに、それでも捨てられない思いを、どう思う……?」
エンツォさんの目は真剣でした……
けど、恋をしたこともない私にはわかりません。
愛の神殿で買ったお守りが、鞄で揺れました。
「……変なことを聞いて悪かったな。今回の依頼で、少し考えることがあっただけさ。」
エンツォさんと共に、依頼人の家に行くと、依頼人は涙を流して喜んでくれました。
ギルドでもらった報奨金が、なんとなく重いです。
そして宿に帰る頃、とっぷりと暗くなった夜に、ふんわりといい匂いが漂います。
「ネロの飯だ!」
エンツォさんは元気に駆け出していきました。
私も宿の戸を開け、いつものようにただいまと言いました。
「遅いぞアルド!今日の飯はラタトゥイユのチーズ焼きだぜ!」
「食べるの待ってたんだから、早く早く!」
いつもの皆に、ホッとします。
「おかえりなさい、アルドさん、早くごはん、食べましょう!」
「………………」
「俺はネロの隣の席だ!」
「ええ……遅くなって申し訳ありません。ご飯にしましょうか。」




