忘れてしまう、ひとつの願い
「えっ……?食べると知能が異様に下がっちゃうキノコ……?本当にネロさんが食べちゃったんですか?」
「……………」
私、エルナは疑問に思いました。だってネロさん、どう見ても普通……
「無口だから目立たないんですよ……」
アルドさんはため息をつきました。
「さっき会話したら……確かにおかしくなっていました。」
「つまりアホになるキノコか。」
ジオさんが一言でまとめました。
「ネロー!どんなネロでも俺は大事だぞ!」
ネロさんはエンツォさんのその言葉にトコトコと近づいていき……
……コアラのようにしがみつきました。
……確かに行動が変になってる!?
そしてネロさんはエンツォさんから離れません……
なぜかエンツォさんは幸せそうでした。重くないのかしら……
幸せならそれでいいのかな……?
「ところで……ネロがこんなになっちゃったら、昼ごはんどうするの?」
「ネロさんからはすでにこれを渡されましたよ……」
バナナ。バナナバナナバナナ。
「なんだよこの大量のバナナ。」
「ネロさんからは、お昼、だそうです……」
「バナナだけじゃ飽きちゃうよー!」
「そうだ……クレープにするのはどうです?みんな自分の分は自分で焼くんですよ!」
これでミアさんの被害からも逃げられます……!
エンツォさんはネロさんから差し出されたバナナをひたすら食べていました……
もう10本目……苦しくないのかな?
私たちは珍しく全員で宿のキッチンを借りてクレープ作りに励みました!
私はちょっと皮の柔らかいバナナクレープ。
アルドさんは皮までパリッとしたしっかりしたクレープ。
ジオさんはおかず系でツナとマヨネーズとコーンとウインナーとハムを入れて崩壊していました。
入れる量を考えましょうね。
ミアさんのクレープは……なんか……なぜか、外も中身も真っ黒なのですが……
いつものことですね!
そしてキッチンから戻ってくると、なぜかエンツォさんとネロさんは組体操のサボテンをしていました……
私たちのいない間に何がどうなったのかしら……?
美味しくクレープをいただきます。ミアさんは、
「やっぱり微妙〜」
といっていましたが、それを微妙だと思えるのはミアさんだけなので大人しく全部食べてくださいね。
ネロさんはなぜか両手にバナナを構えています……
何と戦う気なんでしょう……
とにもかくにも簡単な昼ごはんを終え、謎の行動をするネロさんをエンツォさんが背負って私たちは魔法屋に向かいます……
「アホきのこ!?本当にそんなもの食べる奴がいたのかい!?」
見た目もどう見ても毒だろうに……魔法屋のお婆さんはブツブツ言いながら薬を調合してくれています。
ネロさんはエンツォさんの短い髪を三つ編みにして遊んでいました……
その後もネロさんは魔法屋にやってきた幼児と張り合ったり犬と縄張り争いをしたり猫を追いかけ回したりフリーダムでした……
食べ物を与えるとおとなしくなることに気づいた私たちは、ネロさんにおやつを与えます。
こうやって考えるとなんだか子どもみたいですね……ネロさん……
そうしてなんとかお婆さんの作った薬を嫌がるネロさんに……
飲ませ……飲まない!逃げ出した!
早い!さすがシーフ!いえ褒めている場合ではないのですが……!
しかし今日の私たちには、秘策があります!
「エンツォさん、おねがいします!」
「ネロ!これを飲んだら甘いお菓子食べ放題だぞ!!!」
……戻ってきました。チョロい……チョロすぎませんか……?
ようやく薬を飲んだネロさんは、朝からのことをすっかり忘れているようでした。
なぜか残念そうなネロさんに、私たちは詰め寄ります……
なぜ完全に見た目が毒な知能の下がるきのこなんて食べてしまったのか……!
「……………」
ネロさんは、言い淀んでいるようでしたが、私たちの圧に負けてぽつりとこぼしました。
「幸せな……子供になってみたかった……」
覚えてなくちゃ意味もないが。
ネロさんはそう言って照れたように微笑みました。
沈黙が、その場に落ちました。
……私たちは、何も言えなくなってしまいました。
ネロさんの過去に何があったかはわかりませんが、掘り返すべきではないと感じたからです……
そして、その夜はネロさんは大忙しでした。
昼にできなかったご飯づくり……
明日でいいってみんなで言ったのに、ネロさんは迷惑をかけたからとちょっと豪華なご飯になりました……
夜ご飯を全員揃って食べます。
私たち、もう結構長い間一緒にいるのに知らないことも多いのね……
でもきっとそれでいいんだ。知らないままでも、一緒にいられるなら。
そんなふうに思えた1日でした。




