注文の多すぎるレストラン 〜帰れない店〜
「どなたでもお好きにお入りください……?」
山の奥、配達依頼をこなしている最中に、私たちは変な建物を見つけた。
「レストランだって!おなかすいた!食べに……あっ、ジオはちょっと遠慮してもらって……」
「そんなに大食いできる金もないしなぁ。」
「帰りに寄ってみましょうか。少しだけなら……」
私、アルドは皆に提案した。
皆頷き、とりあえず一旦はそこを去りました。
帰り道、このレストランで事件が起こることになるとも知らずに……
そして依頼品を届けた帰り道。
「あー……腹減ったなぁ……」
「もうちょっと頑張ってうちでもやし炒め食べよ?ジオの胃袋は宇宙なんだから……」
今日も仲のいいジオさんとミアさん。
そのもやし炒めを作るのはネロさんなんですけどね……
そんな時、昨日も通りかかったレストランの前を通りました。
「今日は特別開店日……お好きな食べ物……全部タダ!?」
一気に目を輝かせるジオさんとミアさん。ですが、これは……
「怪しいですね……」
「どう見ても怪しいです……」
「……怪しいな……」
私たち三人の声が重なりました。
私たちは目配せし合って、ほかの三人をとめるために振り返り―――
「あ、あれ?」
もうほかの3人はそのレストランに入ってしまったようでした……
「えーっと、服を脱いで身を清めてください?」
「面倒くさいなぁ……格式高いやつかな?」
「だが、清潔さは正義!」
怪しげな看板に書かれていることを、素直に実行する3人。
素直にもほどがある!
謎の服だって落ちているし………
「絶対怪しいですよ!ここの店!」
「手だけならともかく体中洗うってなんなんですか?」
「………エンツォ……俺の飯は、飽きたのか……?」
「そんなわけないだろう!ネロの飯が一番だ!皆!帰ろう!!!」
あっ、ネロさん上手い!エンツォさんをこっちに引き戻しました!
「ねえ、ミアさん……戻っていつものご飯を食べましょう?そのほうがおいしいですよ?ね?」
「うーん、でも……ジオのエンゲル係数……」
いいぞエルナさん!ミアさんがぐらついている!
「ジオさん、食べ過ぎて結局後で料金を払うかもしれません。ですから帰りましょう」
「まあ、ありそうだよな……仕方ねぇ。」
全員なんとか納得させて、元来た道を戻ります。
しかし……入口の、鍵が、開かない!?
「もしかして……さっきの看板のこと……しないと開かない、とか……」
エルナさんが不安そうに言います。
正直私も完全に不安です。でも私はこのパーティのリーダー……
どうにかして進むも戻るも、どちらかでもやらなくては……!
「……扉、破壊は無理そうです。先に進むしか……無いようですね。」
「えっ、ネロの料理は?」
とりあえずエンツォさんの言うことは無視して、全員で身体を洗いました……
次の部屋の扉が開き、私たちは恐る恐る進みます。
明るい部屋の真ん中には……小麦…粉……?
(ぜひぜひこの小麦粉を体中にまぶしてお入りください)
こんなレストランがあるか!?どう考えても罠一択だろ!!!
「みなさん……絶対に武器だけは手放さないでくださいよ……」
小麦粉まみれに、タオル一丁。
なんとも妙な格好になった私たちは、さらに歩みを進めーー
ドバっと上から何か液体が降ってきた!?なんだ!?
「卵液だ!」
ネロさんが叫ぶ。
しかし、それが分かったところでどうなるというのか!?
「なんだか私たち、料理されてませんか!?」
エルナさんも叫ぶ……恐らくそうだろう。この順番的に……次は……
「「やっぱり……」」
私とネロさんの声が重なった。パン粉。
ここまで来たら隠してないな?この館、私たちをコロッケにする気だ!
「こ、コロッケ人間なんて正義ではないぞ!?」
「あーん、ごめんね〜!エンゲル係数に釣られて……」
「コロッケ……腹減ったなぁ」
ジオさんは空腹が過ぎてちょっとおかしくなっている!
そして……次の扉を開けると……
「「お待ちしておりましたお客様」」
2人の、まるきり同じ顔のコックが、グラグラと煮え立つ揚げ油の大鍋を背に待ち構えていた!
油の中に、何かの骨が見える。
……血の匂いが、する。
「「さあさあ鍋へ。私たちもおなかが空きました。……ちょっとくらいつまみ食いしても、いいよね?」」
2人――いや、二匹は姿を現した!ケットシーとカーシーだ!
勝てるのか?このパーティで……!
パン粉の衣をまとった、このほかには見せられない姿で……!?
「食い物の恨み、思い知れえええ!」
ジオさんが怒りのままケットシーに切りかかります!
ケットシーの剣と鍔迫り合いになり、2人はもつれ込むように部屋の端まで移動しました!
「私達はまとめてカーシーを叩きましょう!」
「オッケーいつものね!」
「正義は……負けないんだ!」
カーシーは私たちには手ごわい敵です!
……ケットシーも、そうなのですが……
ジオさんは怒りでどうやら力が底上げされているようでした。
……いつもそのくらい本気で戦ってくださいよ!
ミアさんのシールドバッシュとエンツォさんの突撃にカーシーは挟まれます……
が、それをすり抜けて私に突撃してきました!
「ぐっ……!」
(美味しい!美味しい!)
カーシーは大喜びですが……
残念でしたね、カウントはもう終わっているんですよ!
「水よ、わが力を持って、目の前の敵を、凍りつかせん!」
バキバキとカーシーは私の腕ごと凍りつきます!
まだ動いていますが、凍りついている間に……!
「あなたたちの用意した揚げ油です!喰らいなさい!」
ぎりぎり腕には浸からない位置で、カーシーを揚げ油に落とす。
熱い……!だが、止めるわけには!
カーシーはギャンギャンと泣きわめいて何度も私の腕に噛みついていたが、そのうち静かになった……
ああ、気分が悪い……!
生き物の煮立つ感触に、手が震える。
「アルドさん……!酷い、ヒールします!」
エルナさんにヒールされてほっと一息付きました。
さすがに噛み跡と凍傷と火傷、纏めて受けた腕は酷く痛んだ……
ケットシーは三人に囲まれていたが、ひょいひょいと避けて、こちらを嘲笑っているかのようだった。
しかし、カーシーが倒されたと知るなり、いきなり話しかけてきた。
(ごめんよ〜!あいつに唆されたのさ!俺は誰も食べたことなんてない!だから見逃してくれよ、な?)
「……一回やったやつは、何度だってやります。……私たちのやる事は、これ以上被害を広めないこと。」
もうやらないと、誓えますか?
そう聞くと、ケットシーはこくこくと頷いた。――しかし。
「でもあなた、口に血が付いていますよ。」
そういうとケットシーはハッとしたように口を押さえた。
「……嘘ですよ。あなた、誰かを食べたこと、あるんですね……」
逃げられないと分かったケットシーは、エンツォさんに狙いを定めた!
しかし、突撃の勢いと威力はエンツォさんのほうが上だ!
「腹減ってるのは俺だっつーの!!」
おまけにジオさんの剣技と、ネロさんのナイフで、うまくエンツォさんに斬りかかれず、ケットシーは苛ついている様子だった。
(なら、せめて、一口だけでも……!)
ケットシーはネロさんの肩口に思い切り噛みつきました!
そのまま押し倒されるネロさん!しかし……
「……ネロに、手を出したな……?お前だけは、許さない!!!」
エンツォさんの目にも止まらぬ突きで、吹き飛ばされるケットシー。
その先には煮立った揚げ油の部屋……
必死で踏みとどまろうとし、さらにジオさんの追撃!
悲鳴を上げて、骨が浮く油に落ちていくケットシー……
………私たちは、なんとか勝ったのだ……
そうしてなんとか真面目な戦闘をパン粉まみれで終えた私たちは、シャワーでドロドロの全身を流し、服を身に着けて、レストランを出た。
「ああ、ひどい目にあった……」
「本当ですね!」
「ごめんね〜!私のせいで!」
「いや主に俺のせいだったろ。ミアを責めるなら俺に……」
「ネロ〜、大丈夫かネロ〜!」
「…………回復は終わった。」
ぐだぐだ話していた私たちが、ふと振り返るとーー
もうそこには、レストランはなく、ただ深い山奥の開けた場所があるだけでした………
どことなく揚げ油の匂いを残して――
まだ、指先が油でぬるついている気がした………。




