夕暮れとひとつのご褒美
「今日の依頼は、このキッチンカーの荷台を引いて、このクッキーとドーナツを売り切ってくることです!」
頑張りましょう!私、エルナはそう言いました。
依頼板の隅で見つけた可愛い依頼……
ミアさんもやる気満々です!
「こういうのって一回は憧れるよね!このクッキーとか可愛い〜!」
「こっちのドーナツもおいしそうですよ!余ったらお金払って買っちゃいましょう!」
「いいですね!甘さを控えたミルクティーを入れて明日のおやつにどうですか?」
いつの間にかアルドさんも話題に入ってきていました。甘い物、好きなのかな……?
「戦闘じゃねぇのか……」
ジオさんはちょっぴり肩透かしな顔をしていました。
「何かを頼まれて、達成する……それすなわち正義だぞ!頑張ろう!ジオ!」
「………………」
ネロさんはクッキーやドーナツを見つめています。
近々おやつにしようと考えているのかな?
「ところで誰が荷台を引いて、誰が売り込みの声を出します……?」
アルドさんが言いました。
「正直、私の顔って怖いので……呼び込みにも販売員にも向かないと思うんですよね……でも荷台を引くには貧弱で……」
「俺は正義の呼び込みをしよう!」
みんな無言でした。エンツォさんは静かに荷台引き係りに回されました……
「声の大きさには自信あるぜ?逆に……ネロは……」
みんな黙ってしまいました。
そういうわけで、荷台係はアルドさんとネロさんとエンツォさん。
呼び込みはジオさん。
そして売り子は私とミアさんに決まりました。
……正直荷台引き係りがエンツォさんしか頼りにならなそうです……
アルドさんとネロさんは大丈夫なのかな?
そしてその日の朝はやってきました!最初はみんなで荷台を引いて、街の東広場に到着です!時間はぴったり9時半!
そろそろおやつが欲しくなる時間帯でしょう?
「寄ってけ寄ってけ!クッキーだ!美味いぞ!」
「正義のドーナツもあるぞ!」
……いつの間にかエンツォさんも呼び込みに混じってるー!
なんとなく……道行く人々に遠巻きにされてる感じがしました……
子供は買いに来てくれるんですけど……
「正義のドーナツってなあに?」
………私には答えられませんでした。エンツォさん、適当な事言わないでください!
お昼を過ぎた頃……まだ結構売れ残っていました……
やっぱり呼び込みが悪いのかなあ……
「よし!お昼を食べながら作戦会議だよー!」
ミアさんはいつも前向き。見習いたいです。
「まず……荷台を引くのはアルドとジオとエンツォに交換!元気なのはいいけど、魚とか叩き売るんじゃないんだから!」
ジオさんはちょっとしゅんとしました。
エンツォさんは、正義が……と、ショックを受けているみたいです。
「私が呼び込み!ネロは看板とか……素早く作っちゃって!売り子は……エルナちゃんに任せることになっちゃうけど……」
「大丈夫です!頑張ります!」
そうして私たちはお昼休憩でお弁当を食べ、慌てて看板づくりに励みました……
そして勝負は2時半に開始されました……
ふふふ、またおやつが欲しくなる頃合いでしょう?
「美味しいクッキーですよ!みんな買っていってね!」
おお……ミアさんの集客、だいぶ強い……ネロさんの看板もイイ感じです!
昼休憩の間に軽く飾り付けしたのもいい感じですね!
こんどはゆっくりゆっくり西広場へと向かいます。
動く途中でもドーナツやクッキーは売れていきます。なかなかいい滑り出しでは?
「コーヒーや紅茶なんかにもピッタリ!」
ミアさん!カフェの多いこの大通りでの作戦!素晴らしいです!
途端にクッキーやドーナツを求める人が増えました!
西広場に着く頃には、なんとか半分以下に減っていました!
……アルドさんは荷台を引いてヘロヘロです……
アルドさんに会わない依頼取ってきちゃって、ごめんなさい……
そして西広場……ここは、みんなが寄ってく憩いの広場……
つまり、いろんな屋台がある、ということです……
いつでもお祭り騒ぎみたいな屋台が多い西広場は、お客さんも多いですがライバル店も多いです!
「……さっきのミアを見て、思いついた……」
ネロさんがカフェの屋台の隣のスペースを確保しました!
これはもう勝ったも同然では?
荷台を引く必要がなくなり、最後のお客さんの呼び込みをします。
……アルドさんには隠れてもらって、ネロさんは看板、エンツォさんはサンドイッチマンと化し、ジオさんは子どもたちに話しかけていました……アルドさん……本当にごめんなさい……
そして、夕暮れになって屋台がみんな帰る頃―――
大量にあったクッキーもドーナツも、ほとんど無くなっていました……
残ったのは6枚入りの、一袋だけ。
子供でも買えるその値段のクッキーにお金を出し合って、私たちは1枚ずつ食べました。
……優しい甘さが、身体に染みます。
そして空になった荷台をガラガラと全員で押して帰ります。
みんな足取りは軽やかでした。




