引き離せない想い
「オークが……実家の豚さんに惚れた……?」
「そうなんだよアルド!なんとかならないか?」
私、アルドの目の前で、ジオさんが手を合わせています……
豚に惚れるオークってなんだ……?いや、確かに豚っぽい顔だけれども?
「えっと……オークを退治したいってこと……ですかね?」
「そうそう!花子はうちの豚の中でも美豚でな!ほかの豚にもモテモテなんだ!」
まあ……村の人が困ってるからオーク退治……
普通の依頼ですよね……?普通かな……これ……
「えっ!花子がオークに!?あんな美豚オークなんかにもったいないよ!」
ミアさんはすぐ反応しました……どんな豚なんだ、一体……
「相手の気持ちを無視して迫るなど正義ではないな!」
今日もエンツォさんは元気だなぁ。
「………………」
おや?ネロさんは何か考えている様子。
「皆さん、オークが毎日村に来るなんて怖いんじゃないんでしょうか。」
エルナさん……。確かに……なんか麻痺していましたが、村に毎日オークが来る。
厄介なことこの上ないですね……
「うちの花子は賢いうえにしっかり者!オークなんかに嫁に取られてたまるものか!」
……愛着があるのは構わないのですが……なんかズレてます……
とりあえず、私たちはジオさんとミアさんの故郷の村へ向かうことにしました……
ジオさんとミアさんの故郷はどんな魔窟かと思っていましたが、意外と普通の村でした……
こんなのどかな村で野菜が暴れたりマンドラゴラがそこら中に生えてたりするのかー…怖いなー…
そして……ジオさんの家……
一匹だけ、オーラの違う豚が居ました。
つやつやのピンクの肌。産毛はなびく金色。
目は常に憂鬱げにうるんでおり、しっぽの形まで整っています。
誰が見てもわかる……あれが……花子!
「親父とお袋に話を聞いてきたぜ。オークは昼過ぎにいつも現れるらしい。誰かに攻撃とかする様子はないけれど、やっぱり怖いんだってさ。」
魔物化野菜を粉砕する村人に怖いものなんてあるのでしょうか……
そして、私たちはオークが来る昼過ぎまで、ジオさんの家で、お昼をご馳走になり……
その後、花子の姿を見られる位置で待機しました……
そして、その時は訪れました。
がさりと草むらから現れたのは……小柄なオーク。
なんとなく雰囲気から真面目そうな感じが出ています。
食用可能な美しい花を持って、花子に近寄ります。
花子は……オークに近づいていく!?
憂鬱げに潤んでいた瞳がまるで、夢見る乙女のよう……
もしかして……あの2匹……
「もしかして花子もオークのこと……?」
ミアさんが言います。
「花子ーーーー!」
ジオさん。あなたは父親ですか?泣かないでください。
「うーむ……愛し合う二人を引き離すのは、正義ではないな……」
「………離されたく、ないのかもしれない」
珍しくネロさんが自分の意見を出しました。
「………花子は、迷っているんだと思う……けれど、本当に引き離すのは………良いことなのか?」
ネロさんは遠い目をしています……何か思い出しているのかな……
いや、豚とオークの恋で一体何を思い出しているんでしょう?
とりあえず、オークに話を聞いてみないことにはわかりません。
私たちはなるべく敵意なくオークに近づきました……
ジオさんは敵意丸出しでしたが。
「こんにちは、あの……」
オークはびくりと肩を震わせました。
「あ……オデ……」
「戦いに来たわけじゃないんです。話を聞かせてもらいたくて……」
「花子を泣かせたら承知しない!」
ジオさんはちょっと黙ってて!
「私たちは、毎日村にオークが来ると相談された冒険者です。理由があるなら……聞きたいんです。私たちは、むやみな殺戮者になりたいわけじゃない。」
オークは、戸惑ったように……
それでも言葉を信じてくれたのか、話し始めました。
「オデが……弱くて群れから追放された時、花子さんと出会っただよ。弱りきったオデに、水と餌を分けてくれた……」
花子さんもオークの隣でこちらをキッと見つめています。
覚悟を決めた眼でした。それにしても綺麗な豚だなぁ……
「その時の礼に、花子さんも食べられるきれいな花を持ってきただ……花子さんは喜んでくれて……オデ、通っているうちに花子さんに……恋を……」
オークはガバッと土下座をした。
「おねげえします!どうか、少しだけでもいい、花子さんを遠くから見るだけでもいい!」
「お前にうちの花子はやらん!」
「だからジオさんは黙っててくださいって!」
「いい話じゃん!一日一回会うの、どうしてダメなの?ジオ。」
「くっ………み、ミア………」
花子さんもジオさんを何か言いたげに見つめている……
「………本当に想いあってるのなら、離れない。離せないんだ。」
「………そうだな………」
珍しくエンツォさんが苦々しげ。どうしたのかな……?
花子さんはずっとオークに寄り添っています……
この2人、しっかり想い合っているようだ。
「けど、花子は、おれが育てて…、くっ!」
ジオさんはまだ迷っているよう。そこへ!
「話は聞いたよ!」
「お、お袋!?」
なんとジオさんのお母さんが現れました。
「うちの花子は別嬪だからねぇ。いつか大物捕まえると思ってたよ!まさかオーク捕まえるとは思ってなかったけどね!」
「育てたのは俺だって!」
……だから今回ジオさんは冷静になれないんだから少し静かにしてて下さいよ……
「オークさん!うちで豚番やらないかい?最近オオカミの被害だのなんだので困ってたんだ!息子は街で冒険者になっちまうし!」
ジオさん、沈黙。
どうやら無理を言ってミアさんについてきたので強く言い返せないようです。
「けど……オデ、群れから追い出されるほど弱っちくって……」
「うちの息子も弱かったから大丈夫大丈夫!」
あっ!ジオさんが被弾した!
ジオさんはなんだかんだで、最後まで抵抗していたが、村の話し合いで小柄なオークは豚番となることに決定したようです。
最後にはジオさんも、
「花子が幸せになるなら……」
と折れていました。愛の力って強いな。
「あんたたち!?ちゃんと食べてるんだろうね!」
と依頼金代わりの食べ物をどっさりもらって宿に戻ります。
ジオさんはまだ名残惜しげでしたが。
「想い合うものを、無理やり引き剥がすなんて正義じゃない!」
「……………」
今日はなぜかあの二人の距離も近いようです。
そうして私たちは宿に帰りました。
近い将来、青い目に金の巻き毛の美オークの赤ちゃんの写真が送られてくることも、今は知らずに―――




