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それでも、進むために。

推薦で塔にきたくせに!恥ずかしくないのか!?

才能ないやつが来る場所じゃない!

いつまで経っても貴方はレベルが上がらないわね……

はっ、と目を覚まし、息をつく。

寝汗をかいていた。


(昔のことなんて……もう忘れたと思っていたのに。)


レベルも上がって。信頼できる仲間に囲まれて。

それでもまだ、思い出す。

先生のため息。見下す周りの目線。

背もこんなに伸びたというのに、まだコンプレックスは残るのか……

私、アルドは、小さく深呼吸した。



その日は、朝からろくな依頼が無かった。

仕事をして気持ちを切り替えようにも、それができない。

宿の皆に、今日はオフになりそうだ……それだけ伝えて、私は外へ出た。

今は、誰もいないところへいきたかった。



静かな湖畔の木陰。誰もいない。さざ波が立つほどの風しか吹かない穏やかな日だった。

だから余計に、考える。


(……あなたが賊を?むしろあなたの方が賊では無いのですか?)

(うわあああん!お母さん、怖い人がいるよ!)


……昔の思い出は嫌なことばっかりだ。

思い出せばいいこともあるはずだったが、今は悪いことばかりが思い浮かぶ。

そんな時、ふと横に誰かが座った。


「…………どうしたんですか?ネロさん。今日はオフですよ?」

「…………顔に出てる。」


そんなに酷いのかな。思考は悪い方向にばかり沈んでゆく。


「………、私って、そんなに悪役みたいな顔してますかね………」

「してる」

「そこは否定して下さいよ!」


思わず突っ込む。少しだけ、笑いが漏れた。


「………そういう顔してるほうが、らしい。」


それだけ言うとネロさんは去っていってしまった……なんだったのだろう?



次の日は、ギルドの掲示板前は大賑わいだった。

なんでも、子供ばかり誘拐する盗賊団の根城が発見されたらしく、冒険者を大量に必要としているというのだ。


「子供ばかり攫って売り飛ばすなんて……許せません!」


エルナさんも怒りに震えている。

レベルは足りない依頼だ。けれど……少しでも、力になりたい。

私とエルナさんは、宿にこの依頼を持って帰って皆に相談することにした……



「良いんじゃねぇか?」


ジオさんは乗り気だった。


「子供に手ぇ出すやつなんて、俺がぶった切ってやる!」

「ジオったらまだ低レベルだよ、無理しないの!でも私も同意!」


ミアさんが賛成する。


「そんなものは正義ではない!」


エンツォさんの一刀両断。

隣で静かにネロさんが頷いた。


「では……"寄せ集めの6人組"、行きましょう!」

「もう寄せ集めなんかじゃないですけどね!」


エルナさんが笑った。

そうだ。私はここで受け入れられている……今更、今更過去のことなんてーー



冒険者たちは、集められた場所でひしめき合っていた。

私たちも、なるべく逸れないように手を繋いで進む。

……魔術の塔からきた魔術師も、ちらほらいるようだった。

見たことのあるような顔が何人かいる……

そして、衛士の隊長が少し高い場所から話し始めた。


「誇り高き冒険者諸君よ!今日は集まってもらって大変に有難い。我ら衛士は正面を、そうして冒険者諸君は二手に分かれて西と東から突撃して貰いたい!」


……私たちのパーティにも西のタグが配られた。皆、西へ向かおうとしたその時、


「おい、へなちょこアルドじゃないか?」


聞き覚えのある声が、した。


「レベルは1から上がったのか?推薦されて塔に来たくせに、全然上がらなかったヘナチョコ野郎!」


昔の同級生が今の仲間たちに説明するように、私を指差していった。


「なんだお前?アルドの知り合いか?」


ジオさんが少し不快感を示している。


「女の子2人もパーティに入れて、真面目にやる気あるのか?」

「あるから来てるに決まってるでしょー!!!」


ミアさんが言い返す。

私も何か言い返さなくては……けど……

その時、突撃の合図が響いた。

私達は、それ以上何も言えずに、子供達を救うため、盗賊の根城へ乗り込んだ……



中は乱戦でひどいものだった。

切り合う盗賊と冒険者、逃げ出そうとする盗賊を後ろから切りつける冒険者……

今まで人をほとんど相手にしたことのなかった私は、気分が悪くなる。

だが、ここで役立たずのままではいけない!


「水よーー」


エルナさんは倒れ伏した冒険者を必死で回復している……


「わが力を持ってーー」


ミアさんとジオさんは同時攻撃でなんとか盗賊一人とやり合っている。


「目の前の敵をーー」


エンツォさんはネロさんを後ろに突撃し、ネロさんはナイフで相手の動きを阻害する!


「凍てつかせん!」


バキバキと激しい音が鳴ると同時に、盗賊たちの足元が凍りつく。

体勢を崩した盗賊たちに、切りかかる冒険者たち……血の匂いが、鼻につく。

怖い……けれど…、逃げない。


「ありがとな、助かったよ!」


見知らぬ冒険者はそう笑って、奥へ踏み出す。

私たちも、その背を追って奥へ踏み込んだ。



冒険者たちをサポートし、戦い、回復し……

私たちは、別々のことをこなしているうちに、いつの間にかはぐれてしまったようだった。

それでも、魔法は止めない。

子供を攫う盗賊は、間違っていると思うから。

……そう思い続けないとやっていられなかった。

気分が、悪い。震えが止まらない。……それでも。

進み続けてーーふと、横から声が掛けられた。


「へなちょこ!?お前、弱いくせにこんな所まで迷い込んでるんじゃねぇよ!?危ないだろ!」

「お前……」


名前は思い出せなかった。

嫌な思い出は、早く忘れたかったから。でも、今名前が呼べないことが、妙に悔しかった。


「……あの頃の私だと、侮らないで下さい。」


その時ーー彼の後ろの闇が、ゆらりと動いた……盗賊だ!魔法を!いや唱える暇もない!


(違う。もう、あの頃の私じゃない!)


突き飛ばして、盗賊に掴みかかった!

あの頃の私なら、きっと動かなかった……でも、今は違う!


「何してる!早く!詠唱を!」

「お前!っ、……風よ!わが力を持って、刃となれ!」


3カウント、さすがに、塔でも秀才と呼ばれた彼だ、私とは違うーー

薄れゆく意識のなかで、私はそれだけ思った。



目を覚ましたら、そこは衛士の救護室だった。


「あのやな感じの奴が連れてきたらしいぜ。なんか心変わりでもあったのかね?」


ジオさんは不思議そうだった。


「衛士さんの話では、済まなかった、って言ってたらしいですけど……」


エルナさんから詳細を聞く。あまり実感がない。


「どうなんでしょうね……」


やはり彼の名前が思い出せないことが悔しかった。

けど。過去に縛られる理由は、もうないから。

ネロさんが隣で笑った。


「………変な顔」

「………そんなに、変でしょうか?」

「………昨日よりは、らしい顔。」


答えを聞いて、なんとなく肩から気が抜けた。

盗賊の根城が嘘みたいに穏やかな午後のことだった。


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