あの森のために
その依頼は、変な依頼でした。
「森が……怒っている?原因調査?」
私、アルドは多少ためらってその依頼を取りました。
なぜならよく薬草摘みに行く森だったからです。
異常があるなら早く回復しないと………
「森が怒ってるの?」
「なんか抽象的だなぁ……」
ジオさんとミアさんは不審げ。
でもよく行く森のことだと納得してくれたみたいです。
「皆の生活を脅かすなど正義ではない!俺は行くぞ!」
「……………エンツォだけだと心配」
「わ、私ももちろん行きます、犬の散歩コースなんです、あの森!」
……エルナさん、まだ犬の散歩のバイト、続けてたんですね……
森は、何となくいつもと違い、ざわついていました。
侵入者を拒むような。何かに怒っているような……。
「なーるほど。確かに森が怒ってるな。」
「なんか変な感じ……アルドさん!魔力酔いはどう?」
私は神経を研ぎ澄ませます。
「前の妖精の森のような魔力酔いは感じません……が、森の中心に、何か、大きな魔力があるような……?」
「あ、あの……高レベルの人たちに任せたほうが良いんじゃ……」
エルナさんはどうにも不安そうです。
「俺は悪など恐れない!行くぞ!うおおおおお!!」
………エンツォさんが突撃していってしまいました。
この森、魔物なんかはほとんどいないとはいえ……1人では危険です。
慌てて追いかけることにしました。
だいぶ森の奥まで入ってきたのに、エンツォさんは見つかりません……
一体どこに行ってしまったのか……
そろそろ森の中心部、魔力の濃い位置です。
こんな魔力、前まではなかったのに……!その時、
「うおわああ!?」
エンツォさんの叫び声が聞こえました!慌ててそちらへ向かいます!
そして、そこで見たものは、足をつかまれて宙づりにされているエンツォさんと……
「と、トレントだって!?」
どうしましょう。どう考えても勝てません。というか、勝ち目がありません。
ですがエンツォさんを見捨てることは出来ない……!
私たちは武器を抜きかけて……
「まったく人間は喧嘩っ早いのう……」
目の前にぽいと投げられたエンツォさんに目を白黒させました。
このトレント……怒っている森の原因だろうに、なぜ敵意がない!?
「最近の、この辺によくマタンゴが来るんじゃ。」
トレントは聞いてもいないのに話し始めました。
「わしの足元にポコポコポコポコとキノコを植え付けおって。不快で仕方ない。」
………なんか、話が、見えてきたぞ?
「というわけで人間よ。マタンゴの大量に植え付けていったキノコ、全部駆除してもらえんかのう?まだマタンゴになってないやつは高く売れるぞ?」
それにマタンゴがこの森にいっぱい出るようになったら困るじゃろ?うぃんうぃんと言うやつじゃ。
トレントはニヤリと笑ってそういった。
キノコ駆除……やっぱりか……
「でも……確かに臨時収入にはなりますね……あと、確か食べられる……」
「キノコだけは勘弁だぜ……」
普段何でも食べるジオさんが拒否します。なんて珍しい……!
ミアさんの料理すらいつも責任取って全部食べている男前が……!
しょうがなく、私たちはマタンゴの幼生体駆除を始めました……
まだ歩き出していないとはいえ、これがマタンゴになるのだと思うとなんとなく嫌です。
「ジオさんはどうしてそんなにキノコがお嫌いなんですか………?」
あっ、エルナさんが気になっていたことを聞いている!
「昔キノコに当たってな……3日寝込む羽目になったぜ」
……似たようなミアさんの料理はいいんですね……?
「もっと根本からむしってくれ。また生えてきてしまう。」
このトレントはトレントで注文が多い………
戦ったら絶対勝てないので、一生懸命むしりますけど……
そして夕方……
トレントの根元はすっかり綺麗になりました。
風通しを良くするためにも周りの木を剪定したのも良かったのか、よく日があたり、風が爽やかに吹き抜けます。
「良かった良かった。これでマタンゴが来ることもしばらくないじゃろう……儂も静かに眠れるってものじゃ……」
そう言うと……トレントは静かに光って……ただの一本の大木に戻ってしまいました。
「なんか色々……大変だったな?」
「……………臨時収入。」
「まあ、ラッキーでもあったよね!」
「困っている相手を助けるのは正義!たとえそれがトレントでも!」
森はすっかり静まり帰り、朝のざわめきが嘘のようです。
エルナさんが、こっそりと私に言いました。
「良かったですね?アルドさん。」
「ええ……あの森、嫌いじゃないんです。」
そうして私達は何でもない依頼を終えて街に帰ります……
背中にたっぷりのマタンゴの幼生体を背負って……
いつものように、いつものごとく。




