リッチのささやかな未練
ある日の、配達依頼の帰りのことだった。
あまりに遅くなってしまい……、
私、アルドは、近道で墓地を抜けようと提案したのです。
それが……あんな事件につながってしまうなんて、予想もしていませんでした……。
「暗くて怖くて最悪だよ〜!早く抜けよう!ねっ、エルナちゃん!」
「だ、大丈夫……大丈夫ですよ……ミアさん……。」
「エルナもミアも怖がりだなぁ……」
「ネロは俺が守るぞ!安心してくれ!」
「………………」
皆、思い思いに言葉を口にします。
けれど、今日は疲れた。とにかく早く帰りたい……。
そんな時、ふと声が、聞こえました。
「そこゆく者たちよ、少し待て。」
す、スケルトン……!?いや、あれは……
「儂はリッチのジェイムズじゃ。ちょっと話を聞いてくれんかのう?」
まさかのリッチ!?
しかし、敵意はないようです……
私は、さらなる面倒ごとの予感に頭を抱えました。
「実はな……儂、心残りがあるんじゃよ……」
リッチはもじもじと話し始めました。
「死んだのはついこないだなんじゃけどな、素質があったらしくてリッチになってしもうて……金はないのにリッチ!なーんてな!」
私たちは全員ぽかんとしてしまいました……
ギャグのセンスは、イマイチなようですが、本当に敵意はないようです。
「そ……それで?心残りってなーに?」
一足先に立ち直ったミアさんがリッチ……ジェイムズさんに聞きます。
「実は儂……婆さんの誕生日に手紙を渡そうと思っていてな……じゃが、書き終えて隠した後に、急に胸が痛くなって、そのまま……」
ジェイムズさんは、表情は分からないものの落ち込んでいることはわかります。
「もうすぐ婆さんの誕生日なんじゃ……儂のかわりに、隠した手紙を見つけて届けてくれんかの?」
誰にも見られたくなくて面倒な所に隠してしまってのう!
ジェイムズさんはカラカラと笑いました。
「なるほど……死後も募る思い、か……正義だな!」
エンツォさんのガバガバ正義の範囲に入ったようです。
「なんか報酬とかあったりするのか?」
ジオさんはいつも通りしっかりしてますね……
「そうじゃなあ……一緒に隠してある儂のヘソクリと、婆さんに見つからんようにこっそり隠した春本をな……」
「不潔です!」
エルナさんが叫びました。
「え、エッチなのはいけないんですよ!」
「すまんすまん若い女の子もおったのう。……しかし、他に渡せるものもなし……。どうかこの依頼、受けてくれんかの?冒険者さんや。」
「まあ……手紙を探して届けるだけなら……」
ここで断ってもしも戦闘になったりでもしたら、確実に勝てない。
「それじゃあうちの詳しい住所と、隠したあたりを言うからな。よく覚えていておくれ。儂はここから動けないんじゃ。」
まだリッチ歴短いからかのう!ジェイムズさんはまたカラカラと笑った。
たぶん生前も、よく笑う人だったのだろう。
「しかし中央公園のどこかの木の洞って……あの爺さん、適当すぎるだろ……」
「鉄の箱に入れてある、と入っていたな!名前も書いてあると!」
私たちは中央公園で木登りをしていた……
木の洞なんていくつあると思っているのだろう……ジェイムズさん……
「おわーーー!?」
ミアさんがバランスを崩して落ちた!?……と思ったら、下にネロさんが。
「…………大丈夫か?」
「やだ、素敵……トゥンク……」
「ミアー!?」
一瞬だけでも、お姫様抱っこはやはり全女性の夢なのだろうか?
私にはわからないですが。
「ヒール、大丈夫ですか?ミアさん」
「大丈夫大丈夫、エルナちゃん!ありがとね!ネロ!」
ミアさんはネロさんの頭をぐしゃぐしゃしている……
ネロさんはネロさんで受け入れているみたいだ。
……うらやましそうに見ているエンツォさんは見ないことにした。
「よっこいせ、と……これで5本目……うん?」
ジオさんが何かを見つけたようだ……
「箱ってこれか?ずいぶん重いが……」
「まさか……エッチな本がいっぱい……?」
エルナさんは真っ赤になっている。
「とりあえずジェイムズさんに聞いた番号で開けてみましょう。」
「0618、と……明日の日付とおんなじですね……」
私は一瞬ためらって……そうして、ゆっくり箱を開いた。中にはーー
「うおっ!?結構沢山へそくり入ってんぞ!?」
「春本ってこれかな〜?なになに?金髪熟女特集……」
「ミアさん!読み上げないでください!」
そして一番奥に……
「ステラへ……?」
私たちは一通の手紙を手に取った。
恐らくこれが、届けて欲しいと言われた手紙だろう……
……中を見るのは、やめた。
人の手紙を見るなんて、失礼にもほどがある……
「そうだな。それはジェイムズさんと、その奥さんの手紙だ!俺たちが勝手に見ていいものでもないよな!」
私たちはお金をまとめ、一応春本を袋に入れて、
手紙を大事にしまってから、昨日ジェイムズさんに教わった住所へ向かった。
言われた住所の家は、郊外にある小さいけれど花が咲き乱れた、綺麗に手入れされている家だった。
呼び鈴を引く。高い音が鳴り、中からパタパタと音が聞こえ……
「あら……どちら様かしら?」
金髪の優しげな御婦人が現れた。
「急にすみません。今日、公園の掃除をしていたら木の洞からこんなものを発見しまして……」
お金と手紙の入った箱を渡す。
……春本はさすがに抜いてほかの袋にしまってある。
「まあ……これ、あの人の……!?」
初老の奥さんは、手紙を読んで涙ぐみ、ハンカチで拭った。
「あの人ったら……私の誕生日の前の日に……こんな偶然、あってもいいのかしら。」
そうか、0618……奥さんの誕生日の日付、だったのか。
「ありがとうございます。手紙と箱は頂きますわ。でも、そのお金は貴方たちが見つけたのですもの、どうぞお受け取りになって。」
奥さんは、涙の残る目で微笑んだ。
そうして私たちは、それをジェイムズさんに報告した。
ジェイムズさんは、ステラさんの誕生日に間に合ったこと、
そしてステラさんの反応を聞いて、しばらく感慨深そうに黙っていた。
「悲しませてしまったが……幸せなら、いいんじゃ。息子たちもきっと支えてくれる。」
「それで?ジェイムズの爺さんは成仏できそうなのかよ?」
「それがな……全然じゃ!心残りをなくせば成仏できるかと思ったが、どうにも死人の才能がありすぎたみたいじゃのー!」
私たちは全員ずっこけた。一体……何のために……?
「まあ、一体くらいリッチの知り合いがおってもええじゃろ。」
こうして、私たちの知り合いに、やたらと軽いリッチのおじいさんが一人増えました……
それなりに実入りはよかったし、後味もよかったし、こんな依頼も悪くない……
私はそう思いながら、皆といつものように宿へ帰っていきました……。




