悪役顔とやさしい一日
「子どもを預かる、ですか……?」
「今日1日、どうしても出かけなくてはいけなくて……!」
母親は必死に頭を下げてくる。
私ーーアルドは、困ってしまった。
「私、よく子供に泣かれるのですがーー」
「お願いします!ぜひ!!!」
………押し切られて、しまった。
残されたのは、5歳程度の男の子ーー
私の顔を見て……、瞳がウルリ、と滲みます。
あ、これ、まずいやつ。
「うあああああん!悪役!!!!」
………やっぱり泣かれたー!
というわけで誘拐犯と間違われながらも、なんとか宿に帰ります。
「まーまー泣くなよ!ちびっこ!」
「かーわいい!お名前は?私はミア!」
「フェル……」
「フェルくん大丈夫ですからね!怖い人なんていませんからね!」
「そうだぞ!ここにいるのは正義に燃える6人だ!君も正義にならないか!?」
ネロさんはそっとフェルくんの前にマドレーヌを置きました。
お菓子作戦……子どもにはよく効くでしょう。
フェルくんは、マドレーヌをモグモグしながらも、でも……と、私を見つめます。
……見た目は冷酷非情参謀系。昔から言われ慣れてます。今更……傷ついたりなんてしません。
「アルドさんは見た目はあれですけど優しいんですよ!」
エルナさん……見た目はあれ、ってなんですか……いやわかってますが。
「そうだぞ!見た目はあれだがアルドも正義を目指すひとり!怯えることはない!」
だから見た目はあれ、って……もういいです。
フェルくんは不安そうでした。知らない人に囲まれていたら、そうもなりますよね……
私は少し離れた所から見つめます。
こちらをちらりと見たフェルくんに、笑顔で手を振って……
また泣かれそうになりました。そんなに……怖いかな……
その後は順番にフェルくんを見ることになりました……
ネロさんはお昼の準備、ジオさんとミアさんは必要なものの買い物に。
今は私とエルナさんとエンツォさんが交代でみているのです……が……
私が少し近づこうとした瞬間、フェルくんはびくっとして、
そのまま窓の方へ駆けていってしまいました!
「フェルくん!」
そのままフェルくんは窓から飛び出し、私たちも慌てて宿から飛び出して、3手に分かれました……
私は街で聞き込みながらもフェルくんを追います。
どうやら裏路地に入ってしまったようで、慌てて探しに向かいましたが、なかなか見つかりません!
「フェルくん!」
私が呼んでも逆効果かも……そんなふうに思いながらも、私は走りながらフェルくんを探します!
「いた!フェルくん!」
フェルくんは私を見ると慌てて逃げ出しました……
よっぽど怖がられているようで、傷つきます。
フェルくんが逃げ込んだのは袋小路の、箱が高く積まれた場所でした。
「わ、悪いやつには……着いてかない!」
フェルくんは敵意満々です。
こんな時、下手に言葉をかけると逆効果だって、私はよく知っていました。
私たちはしばらく見つめ合って……
フェルくんは、さらに逃げようとしました!
足場の悪い箱を登り始めたのです!
「あ、危ない!!!」
頂上まで登ったあたりで、ぐらりと箱が揺れました。
ガラガラと崩れてーー
間に合わない、そう思った。
それでも……足は止まらない!
「フェルくん!」
箱がぶつかるのにも構わず、飛び込みました。
なんとかフェルくんが落ちる前に抱え込み、背中で箱から庇います。
「な、なんで……」
「大丈夫でしたか?」
笑うと何か企んでいそう……散々そう言われてきたので、笑うのはやめておきます。
「お母さんに任されましたからね。私たちは今日1日、フェルくんを守りますよ!」
フェルくんは泣きそうになりながらも、ぎゅっと私の胸元を掴みました……
その後、おとなしくなってくれたフェルくんと手をつないで帰りました。
「にーちゃんの名前は?」
「私?アルドですよ?」
まだ言ってなかったっけ……
そんな事を思いながらくだらないことなどを話しつつ、宿に戻ります。
宿では全員が待っていました。
「無事だったんだな!ちびっこ!」
「心配したんだよ〜!」
ジオさんとエルナさんは後から聞いたのでしょうね。
「俺の言った方向には目撃証言が一つもなくてな……アルドが見つけてくれたのか!やはり正義!」
「いきなり大人6人に囲まれたら怖かったですよね……ごめんね。」
皆それぞれフェルくんに謝ります。
ネロさんは、私たちとフェルくんの分の昼ごはんを配膳していました。
「もう怖くないよ!」
フェルくんは元気に言いました。
「アルドのにーちゃんがいるから!」
………なんとなく、目尻が熱くなってしまったのは、気の所為だと思うことにします。
その後ご飯を食べ、夕方まで待って、お母さんが迎えに来た後も、
「もっとアルドのにーちゃんといる!」
とわがままを言いつつもフェルくんは帰っていきました。
小さくなる影に、私たちは何度も、見えなくなるまで手を振ります。
少し寂しさを残しながらも、この依頼受けて良かったな……
そんなふうに思いました。




