エルナ、ゴリラと化した朝
ある朝、目が覚めるとーー
「う……ウホッ?」
私、エルナはゴリラになっていました……
「ほ、本当にこのゴリラ……さんがエルナさんなんですか?」
アルドさんは慌てふためいています。
私は慌てすぎて逆に冷静になってきました。
「あーん!可愛いエルナちゃんが!かわいそうだよー!でも強そう!」
ミアさん……悲しませちゃってすみません。……強そうってなんですか?
「つうか、なんでこのゴリラがエルナだってわかったんだ?どう見てもゴリラ………」
ジオさんはいつも通り常識人です。
「…………」
ネロさんがすっと紙を差し出しました。そこには私の文字で、
「なぜかゴリラになってしまったんです!助けてください!」
と書かれています。筆談は出来るみたいです。
「エルナをこんなふうにしたやつは誰だ!正義の名において退治してやる!」
ありがとうございますエンツォさん……
暴走気味の正義、今はちょっと頼もしいです。
ウッホウッホと呟きながら紙に文字を書き足します。
(昨日、魔女のお婆さんに不思議なことを言われたんです。明日、災難が起こると)
そこまで書いてペンが粉砕されました。
アルドさんは無言で新しいペンを渡してくれました。
やっぱりアルドさんは優しいなあ。
「それなら……その魔女のお婆さんを探すのが一番効率的でしょうか?」
アルドさんも不安げ。申し訳ないです私のために……
「ゴリラのエルナちゃんもカッコいいけど、それじゃあ困るもんね!」
怪力で粉々になったコップを見ながら言われました……
「どんな婆さんだったか分かるか?えっと……エル、ナ……」
ジオさんはまだ戸惑っていらっしゃいます。
(特徴的なお婆さんでしたよ。三角帽子に丸い水晶のブレスレットやネックレスをジャラジャラつけていらっしゃいました。)
「…………魔法屋で、見たことある。」
「なら最初は魔法屋だな!……エルナ、申し訳ないが少しの間この部屋で待っててくれないか?」
街に出ると目立つし……そう言われて、私はしょんぼりしました。
通訳として、というかゴリラに一番肯定的かつ強いミアさんが残されて、男性組は街へ情報を集めに散っていきました。
私達はじゃんけんをしたり、腕相撲をしたり、おとなしく暇つぶしです。
「さすがにゴリラのエルナちゃんには負けちゃうね〜」
腕相撲で机を叩き壊してしまってもこの温度のミアさんは、今の私にとって救いです。
その時。コンコン、ガチャ。
「エルナさん、今日の」
宿の娘さんが凍りつきました。
そりゃあいきなり部屋の中にゴリラがいたら驚きますよね……
「あっ、ごめんなさい!依頼で少しの間、預かることになってるゴリラです!迷惑はかけないから大丈夫だよ!」
ミアさんの必死のフォロー……
ありがとうミアさん、この場にいてくれて……
宿の娘さんは青くなってこくこくと頷き去っていきました……
用事は何だったんでしょうか……
「ウッホウッホ……」
「エルナちゃんだって乙女だもんね。バレたくないよねえ……」
宿の娘さんが去っていった後、私は落ち込みました。
やっぱりゴリラなんだ……どこからどう見てもゴリラなんだ……
その時、ふと違和感を感じました。
「ウホッ?」
鏡が……鏡のなかの私が、いつもの私なのです!
「えっ!?なんで!?不思議だね?」
「どうやら認識阻害と身体強化の重ねがけのようです……簡単に言うと……見た目だけゴリラです」
帰ってきたアルドさんが、片腕に昨日のお婆さんを抱えたまま入ってきました。
「逃げようとしていた所、何とか捕まえましたよ。私が一番乗りですね!」
誇らしげに笑っていました。
「昨日わざわざ教えてやったというに……無理やり連れてきおって!逃げりゃせんわい!」
お婆さんは怒っています。
「すみません、貴方しか手がかりがなかったので焦ってしまいました。」
焦るアルドさんなんて珍しいな……
「やっぱり何かおかしな魔法の気配がしたんじゃよ。しかしまさかゴリラになってしまうとはのう。」
「それで、解決策は……」
「キッス、じゃな。」
ききききききききキッス!?お婆さんは軽く言ってるけどキッス!?
「別に愛し合っとるもん同士であろうとなかろうと……女同士でもいけるようじゃな。なんちゅう魔法をかけとるんじゃ……」
お婆さんは怒っている。けど、私はそれどころではない。
キッス!?
ジオさんとミアさんはカップルだから論外……
ならアルドさんかエンツォさんかネロさん!?でも……ゴリラにキスさせるなんて……
「じゃあこういうのはどうですか?」
アルドさんがさっとゴリラな私の手を取り、手の甲にキスしました。
………ぼわんと煙が広がり、私はもとに戻ります。けど……いまのって、今のって……!
「手の甲ですから許してください」
「私だってエルナちゃんにキスしたかったよー!!!?」
どうした?と集まってくるジオさんとエンツォさんとネロさん。
「面白いもん見せてもろうたわい」
やれやれと帰っていくお婆さん。
けど、私はそんなことよりも、初めての異性との触れ合いに真っ赤になっていたのでした……




