バンパイアの薔薇園
「バンパイアの館!?私たちでは確実にレベルが足りませんし、高レベルの方でよく晴れた日に火をつければいいって必勝法、聞きましたよ!?」
「いえ、今回は倒す方じゃなくて、説得してほしいんです。」
ギルドの人に言われて、私ーーアルドは、困惑しました。説得……?
「そのバンパイアの方、100年くらい寝てる間に、周りに住宅街とかできて土地が高騰しちゃったらしくって。その場所に大型施設を作りたいから、立ち退きしてほしいって言われても、頑固に譲らないんですよねぇ……」
どこかで聞いた展開だな……そう思いながらも、私は考える。
……かなり、実入りがいいですね……
「バンパイアの方とは戦わなくていいんですね?話し合いだけでいいんですね!?」
「おだやか〜なお爺さんですから大丈夫ですよ。ただ、長年住んだ家を手放すのが嫌だそうで……」
なんとなく気持ちは分かるな。私は思った。
「失敗しても次の人が行くだけですし、気軽〜に受けてみては?成功すれば実入りはいいですよ!」
その言葉に背を押され、私はついその依頼を受けてしまった……
「バンパイア〜!?危険じゃないの?」
「それが今は普通のお爺さんだそうで……」
「なんで立ち退きを嫌がってるんだ?」
「長年育てた薔薇園を壊されるのが嫌なんだそうです……」
「無理やり立ち退き……正義じゃない!追い出すなんて正義じゃないぞ!!!」
「………………」
みなさんの反応はそれぞれでした。
……エンツォさんの反応が少し変な気もしましたが、どうしたんでしょうか?
「ともかく……とりあえず、話を聞くだけ聞きに行ってみましょうよ。」
私は軽くその場をそうまとめた。
バンパイアは、正に好々爺という感じの穏やかなお爺さんだった。
「儂もな、立ち退かなくては迷惑なことくらいわかっておるんじゃ……だが、長年一緒だったこのバラ園だけはどうにも手放し難くての……」
「その気持ち、わかります。」
なぜか今日はエンツォさんが真面目だ。
「どうしても手放したくないもの、有りますよね……」
エンツォさんがバラを見回っているほかのメンバーを見た。
……たぶんネロさんだ。
ネロさんは、白いバラにそっと触れていた。
「俺も……故郷から逃げてきました。本当はずっとそこにいたかった。でも大事なもののために、そこを捨てる決意をした。」
けど。エンツォさんは言葉を区切る。
「大事なものだけを置いて逃げるなんてできない……アルド、どうにかならないか?」
私は困ってしまった。バラ園だけ残すなんてことはおそらく無理だろう……
ここは大型商業施設になるといっていた……だが、どうすれば……?
「ならいっそ移植しちまえば?」
農家本職、ジオさんがやってきた。
「先に軽くするために剪定が必要だし、根ごと……つまり土ごと運ぶから重いけど、荷台とか使えばできないことはないぜ?」
「アーチとかは無理だけど……ほかのバラは移動させられるんじゃないかな?」
同じく農家本職、ミアさんの言葉……!
これはもしかして、いけるのでは?
「で、でも……この規模のバラ園って、すっごく時間、かかりますよね?」
「それでも!」
エンツォさんが立ち上がった。
「それでも……大切なものはどうしたって手放せない。やるべきだ!正義の名にかけて!」
その後、お爺さんは静かな郊外に家を買い、私達はそこへバラを運ぶ準備をしました。
「この花……切っちゃって大丈夫なんですか?」
「いけるいける!なるべく軽くするんだよ!アルドさんなら器用だから平気!」
「重いですー………!」
「エルナ、丁寧に……だぜ!」
エンツォさんとネロさんは、2人で荷台を引き、離れた場所へ何往復も。毎日。毎日。
「すまんのう。わしにはこれくらいしかできんのじゃが……」
朝やってきて、昼はお爺さんの作った昼ごはんを食べ、昼も作業をし、
夕方には帰る……そんな毎日を続けて一ヶ月。
郊外の新しいお爺さんの家には、また薔薇園が作られていた。
「おお……ありがとう、ありがとう……もうこの子たちと離れなければならないのかと思っていたときもあったが……」
お爺さんは感涙していた。
「ですが、だいぶ剪定してしまいましたし、今年は咲かないかも……」
私は不安でついこぼしてしまいました。
けれど、お爺さんは笑いました。
「もう何年一緒に過ごしてると思っとるんじゃ、1年2年、あっという間じゃ。」
それよりこの子たちが、元気でいてくれることがうれしいよ。
お爺さんはそう言って微笑んだ。
薔薇を前に喜ぶ私たち。
その後ろで、エンツォさんがガッツポーズをし、ネロさんが優しげにお爺さんを見つめていた……
そして私達はギルドで報奨金をもらい、宿へ戻る。いつものように。
「一ヶ月かけたって思うとあんまり報奨金も高くはないけど、いい感じに終わって良かったよな!」
ジオさんが笑う。私もエルナさんも、ミアさんも笑った。
「やはり正義の勝利!」
エンツォさんはいつもどおりだ。でも、いつもより少しうれしそうに見える。
その後ろを歩くネロさんも、嬉しそうに微笑んでいる。
やって良かったな。そう思える依頼に久々に当たって、私は嬉しかった。
……いつの間にかこの6人が、少しだけ家族のように思えてきていたこと、私はまだ気づいていなかった。




