来たれ!乙女コンテスト!(男性も可)
「………お金が、尽きました。」
私ーーアルドは、重々しくそう宣言した。
5人はキョトンとした顔でこちらを見る。
「なんでだ?この一ヶ月、仕事はしょぼかったけど毎日イヌの散歩したぜ?」
「私も庭の雪かきしたわよ?」
「庭木の剪定……俺とネロでやったんだが。」
「花の水やりと雑草抜きだけじゃやっぱりお金は貰えなかったんですかね……?」
私は、静かに首を横に振った。
「破産して、逃げたそうです……ギルドに支払い未払いで。」
全員が凍り付いた。
「幸いにも諸経費や今月の宿代はありました……ですが今、私たちには食費すらない。」
「ど、どうするんだ?」
私は覚悟を決めて、一枚の紙をテーブルに置いた。
「……全員で……この依頼を受けましょう。」
来たれ美しい乙女。美しさを競うこの流れに乗れ!この街一番の美女を目指すのだ!
注意:男性も出場可能です。ぜひ皆様ご参加ください。
「今、一番、優勝賞金額が高いのが、この依頼です……気合入れて、行きましょう。」
私は腹をくくりました。あなたたちは?
……全員、青くなっていた。やたら楽しそうなミアさんだけを除いて。
宿の酒場は途端に大騒ぎになった。
「俺はやらねぇぞ……というか、前回やったんだからもういいだろ!」
「えー!絶対一緒に出ようよ!エルナちゃんも!」
「わ、私なんかが出ても……」
「ネロは駄目だぞ!もちろん俺もだ!正義的に格好良く無いからな!」
「……………嫌だ。」
1人以外見事に反対意見ばかりです。
「ですが……そうはいっても今日の食事代すらありませんよ。」
「えっ、俺、今から唐揚げ定食頼む予定だったんだが」
「キャンセルしてください。……本当に、お金がないということ……自覚してくださいね。」
勝負は2日後。
このコンテストで誰も優勝できなければーーーゲームオーバー、餓死だ。
「基準は乙女であれば何でもいいそうです。当日、衣装は貸し出しされるらしいですが……ミアさん、エルナさん。服と化粧を多少見繕ってください。どの系統が似合うか、確認しなくては。」
私の本気さに、皆がゴクリと息を呑んだ……
「唐揚げなんて豪華なもの食べてる暇はありませんよ。全員でーーそう、全員で、全力で向かわなければ、死です。」
女性陣は大変張り切っていた。なんせ、パーティのイケメンたちをいじり回せるチャンスだ!
「ジオには体のラインを隠すふわっとした服でしょー?アルドさんはいっそのことその細さを生かしてピッタリしたマーメイドラインの服が似合うかもね!」
ジオさんはまたか……と呟き、私はもはやすべてを受け入れていた。
「ネロさんは……普通に私の服をきせても違和感なさそうですよね。うーん、一番困るのはエンツォさんかなぁ。」
男らしくて、特に尖りがない。そう言われたエンツォさんは「正義じゃない……」としょんぼりしていた。
「ネタ枠で微妙に可愛い枠を狙うわよ!」
「そうですね……!その方向が一番正しいかと!」
ああでもないこうでもない。化粧はあれやこれや。
男性陣は、いま確実に疲労と、そして人権の損失を感じていた……
「よーし、ジオは肩幅と。筋肉を隠せるこのふわっとタイプのドレス系でいきましょう!お化粧は任せて!大丈夫!可愛くするよー!!!」
「だから俺は前やっただろ!もう許してくれよ!!!」
必死で抗うジオさん。
「ネロさんは清楚な感じのワンピースとかどうです?それともお嬢様系にしたほうがいいでしょうか……」
ネロさんは必死で首を横に振っています。汗をかいていますが……
逃げられないよう、椅子にくくりつけられて……可哀想に。
「ネロは駄目だって言ってるだろう!可愛いかもだけど……駄目だ!」
同じく椅子に括り付けられているエンツォさん……
私?私はすでにマーメイドラインの深い黒を合わせられた挙句にメイクまで施されています。
……どう見ても悪女か魔女なんですけどね……
「うーん……これは……」
「全体的に背が高いですよね。でも」
「アルドとネロはバッチリ!片方悪女〜って感じだけど!」
「ネロさんは……いい感じですけど、普通に美少女に混じっちゃいそうなんですよね……」
「……………」
大変不満げなネロさん。私はもう吹っ切りました。
というか、本気でお金がないので仕方がないのです。
みんな危機感が足りなくないですか?
「ジオとエンツォは………うん………」
「し、審査員特別賞を狙いましょう!審査の内容は、謎らしいですけど……」
2人はしょんぼりしている。ジオさんはワイルド系イケメンが、エンツォさんは人の良さそうな笑顔が台無しだ。
「また………これかよ……いい加減にしてくれ………」
「正義じゃない………格好良くない……」
そして2日後ーーー
私達は、街の催し物のコンテストの壇上にいました……
ズラッと並んだ美女、美少女。
……所々に男性やよく分からない生物も混じり込んでいましたが……
レベルの高さに、私は息を呑みました。この方向性なら、ミアさんかネロさんタイプが私たちの希望……!
と、いうかあれはなんだろう……
プヨプヨしたスライムのようなものがほんのり赤くなって綺麗な布を纏っている……
モンスターも登録可能なんだ……すごいなこの街。
意外とジオさんとエンツォさんも目立ってませんでした。
ムキムキの肉体美とか見せに来てる人たちもいたので……
乙女を競う大会なんですよね?そうなんですよね!?
そして審査が始まりました……一人一人、壇上で一言アピールするのです。
私?私は全力悪女風で行きましたよ。
「私に飼われたいものは言いなさい」
……今考えても恥ずかしい……死にたくなってきた……なぜか観客には高評価でしたが。
ジオさんはガッチガチでした……
「お、おれ……じゃない、私………は、優勝したいです!」
アピールろくにしてないじゃないですか。でも初々しさが良いそうです。
……この街の人が考えることは分かりません……
ネロさんは……アピールは期待してなかったのですが……さらに上をいきました。
「………帰る」「………ふざけているのか?」
無理やり出したのは私ですけど〜!
そんなに殺気をまき散らさないでください!
ほら、観客席も凍ってる!美人フェイスで怖いと威力倍増なんですよ!
エンツォさんは、なぜか壇上で正義を語り始めました。
「正義というのはな、皆が皆に優しくするところから……」
あまりに長く話しすぎて、強制的に壇上から排除されていきました。
それでも舞台袖から「正義ー!」と叫んでいました……
会場もざわざわしていました……「正義ってなんだ?」私もわかりません……
ミアさんは、大変可愛らしいアピール!
「田舎の村から来たミアで〜す!好きな食べ物はクレープ!乙女を目指して修行中です!」
……会場の雰囲気も「そうそうこれだよ」という感じに戻りました……良かった……
エルナさんは恥ずかしがって、
「あ、ええと、エルナです……」
これはこれで初々しい感じが出てますね…、
観客席からも「頑張れー!」と声が飛んでいます。
………スライムと謎生物のアピールがなぜか高評価だったのと、ボディビル大会が異様に盛り上がったのは、今でも納得いってませんが。
そして、全員の審査が終えられ………あとは、優勝を決める場です。
お願いします、もう食費もないんです。誰でもいいから3位までに入ってください……
そんな祈りも虚しく……1位は……あの布をまとったスライム!?
「ほんのり赤いのが乙女を感じた」
「絹のセンスが素晴らしい」
「プルプルしていて大変可愛い」
……評価されたスライムはさらに赤くなってプルプルしていました。……賞金、なにに使うんだろう……
ちなみに2位は、このコンテストで一番の美少女、3位はなぜかボディビルの人でした。
……2人?に挟まれた美少女は笑顔が引きつっていました。そりゃあそうでしょう。
はぁ……餓死かなぁ……私が諦めかけたその時。
「それでは審査員特別賞を発表します。私も飼われたいで賞、アルドさん!踏んで欲しいで賞!ネロさん!壇上へどうぞ!」
………なんですって?
私は悪女風を取り繕いなおし、ネロさんは普段のまま壇上に上がりました。
「お二人とも、ひとことどうぞ!」
「………私に飼われるべき者は、どうやらここにはいなかったようね……飼われたいなら跪きなさい?」
「……………なんだこの茶番………」
こうして、優勝賞金は逃したものの、なんとか食いつないでいけるだけの賞金を手に入れ、私達は生き延びました……
あのカオスなコンテストのことは、早く忘れようと心に誓って………




